魔界戦記譚-Demi's Saga-

九傷

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第二章 森の平定

第103話 軍事強化

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「う~む、どうしたもんかなぁ……」


 集会から三日が経ち、再び集まった人数は約120名程までに減った。
 元々、強制的に戦闘に参加させられたいた者も多かったみたいだから、予想通りといったところだ。

 北の住人も、戦闘に駆り出されない限りは農業や狩りをして生活をしている。
 戦いたくない者達はこれまで通り生活して貰った方が良い。
 逆に集まった者達は、戦闘しか取り柄がない者だったり、家を持たぬ者、農奴などといった事情がある者が多い。
 彼らを使っていた臥毘がび、グラが俺の下につくことになった為、何をすればいいのか判断できないという声も多かった。

 実質彼らの上司になってしまった俺は、彼らの特性を見極め、方針を決めていく必要がある。
 そこで俺はまず、彼らに対し集団面接を実施した。
 面接官は俺、ライ、ゾノ、ザルア、ソク、ガウ、リンカ。それとは別に俺の補佐役としてスイセン、アンナが付いて行われた。
 補佐役に彼女たちが付いたのは、俺の弱い知識面を補う為と、もう1つ理由がある。




 ――――1時間ほど前。


「トーヤ様」


「……ああ、わかっている。1番から5番のオークは、残念だがこの森から出て行ってもらう」


「なっ!? 何故だ! ちゃんとルールは守ると……」


「確かに、今の俺の問いに対し、あんた達はもちろん守ると答えた。けど、嘘だよな? それもとりあえず肯いておけってレベルじゃなく、破る気満々だろ。悪いけど、そんな奴は仲間だと認められない」


「言いがかりだ! 大体に何を根拠に……」


「気配だよ。あんた達から立ち上る気配は真っ黒だ。言っておくが、何を言われても取り下げる気はないぞ?」


「お、横暴だ! 気配? そんなワケのわからんもので疑われて納得できるか!」


 叫ぶと共に飛び出したオーク達を、後ろに控えていたリンカ達が瞬時に取り押さえる。


「……疑いじゃなくて、確信だよ。こちらも穏便に済ませたいんだ。もう出て行ってくれ。さもなければ、余計なこと・・・・・をしなければならなくなる」


「クッ……」


 そこまで言われてようやく引き下がる彼ら。
 しかしその表情から察するに、残念ながら穏便な対応では済まないことが容易に想像できる。


「リンカ、済まないが……」


「……わかっている。尾行を手配する」




 ――といったやり取りが何度かあった。
 危険思想の持ち主や、何か企んでいる者の検閲。要は膿み出しを行ったのだ。
 実現するにはアンナの協力が不可欠であったのだが、彼女は一瞬も迷わずこれを了承してくれた。

 そんな胃の痛くなりそうな面接を経て、残ったのは約100名。
 この中にはジグル一族や、グラ、ルーベルトの直属の配下は含まれていない。
 その上での100名なので、結構残ったと言えるだろう。
 元々農奴だった者達については、立場や家を与え、正式に農業に携わってもらう。
 初めのうちはこちらで支援を行うが、農業が軌道に乗れば自活もできるようになるだろうし、ウチの食料事情の向上にも繋がる。


 今回の戦は特に物資を得られたわけでもなく、土地を略奪したわけでもないので、純粋な利益は人材だけである。
 軍備的に見れば完全な赤字なのだが、特に被害も出ていない為、トータルでは黒字……と思いたいところだ。

 収益がないため論功行賞についても見送り……と言いたい所だが、そういう訳にもいかない。
 しかし、ない袖は振れないのも事実だ。
 となると、唯一得られた人材という資源での、各部隊の強化を行うというのが落としどころになる。

 ということで、俺は今その振り分けについて頭を悩ませていた。


(トロールにコボルド、オークにゴブリン……、みんな意外と種族もバラバラなんだよなぁ……)


 住み分けは行われていたが、北の住人も同じレイフの森に流れ着いた者達であるということは変わらない。
 そのためか、種族ごとに人数がバラバラで、均一に戦力を割り振るのが難しかった。


「お茶をお持ちしました」


「ん? ヒナゲシか……。ありがとう」


 うんうんと唸っていると、気を利かせたヒナゲシがお茶を持ってきてくれる。
 ……美味い。
 茶の淹れ方など一切教えてないのだが、何も教えずともこの少女は大体のことを完璧にこなしてみせる。
 その背景を思うと少し複雑だが、これだけ優秀なら安心して色々な仕事を任せることができる。


 ヒナゲシを代表とする4人の元奴隷は、共通して優れた容姿、優れた頭脳を持っている。
 しかし、その中でも彼女の能力は明らかに突出していた。
 普通、どんなに優れた者でも短所は必ず有るものだが、この少女に限っては長所しかないのではと思わされる。

 ……いや、唯一欠点を挙げるとすれば、個性が希薄なことか。
 彼女は主人至上主義というか、それ以外に対する感情が完全に欠落している。
 普通、話していればある程度の性格などが読み取れるものだが、彼女の場合は全くと言っていい程読み取ることができない。

 恐らくこの状態は、以前の主であるドグマにより仕込まれたもの。
 表情には常に笑顔を浮かべ、常に主を立てるように立ち回る。
 明るい性格を装い、命令には絶対服従。そう設定・・されている。
 もし俺が、笑うなとか、喋るななどと命じれば、彼女はそれに従うだろうし、望めば性格まで変えてしまうだろう。
 ここまで個性がないと、正直怖くなってくる。

 実際、他の3人やアンナは、彼女に対して恐怖感を抱いている。
 特にアンナは、彼女のことを化け物と称する程の嫌悪感を示しているくらいだ。

 取り扱いの難しい彼女だが、今のところは俺専属の秘書となってもらっている。
 俺の言うこと以外は聞こうとしないため、そうせざるを得なかったのだ。
 他の3人については、城内で従業員、家政婦のような仕事を担当してもらっている。


「お悩みのようですね?」


「ああ……、正直悩んでいる……」


 現在の各部隊の状況は、


 ・ガウ隊:トロール10 + オーク2の計12名(ジュラが産休中の為、現在11名)
 ・リンカ隊:獣人10 + オーク2の計12名(サンジがもうすぐ復帰予定)
 ・ゾノ隊:レッサーゴブリン12 + オーク3 計15名
 ・シュウ隊:獣人5 + ゴブリン3 + オーク2名 計10名
 ・ガラ隊:小人族(コボルドと獣人族のハーフ?)1 + 獣人5 + オーク(ゴブリンとのハーフ)2 + オーク2 計10名
 ・ザルア隊:レッサーゴブリン(術士)8 + オーク(術士)3 計11名
 ・ソク隊:オーク16

 さらに部隊長として臥毘がび、グラが加わる。

 ・臥毘隊:竜人族(リザードマン)30
 ・グラ隊:トロール5 + トロール(オークとのハーフ)2 + コボルド2 計9名


 俺の近衛を除けば、現在9部隊あるわけだ。
 ここに今回加わった人材を割り振っていくのだが、種族的な問題もあるため、配分には非常に悩まされている。
 各隊の戦力バランスもあるし、調整が中々に難しい。
 それに加え、先日のイオの件もある。
 彼女はガウ隊の一員だが、彼女たっての願いで俺の近衛兵になることが、暫定だが決まっている。
 トロールで構成されたガウ隊は、今でも突出した戦力を持っていると言えるが、イオが欠ければ戦力低下は否めない。
 後ほど、ガウとイオを呼んで話をつける予定だが、ガウの性格上、恐らく何も問題ないとか言いそうだ……


「ヒナゲシならどう割り振る?」


「……追加の人材は、この紙に書かれている方々ですか?」


「そうだ」


 俺が机の上に広げている紙には、残った100名が種族ごとに分けられて記載されている。
 内訳は、

 オーク:40名
 ゴブリン(レッサーゴブリン含む):20名
 トロール(ハーフ):5名
 コボルド:11名
 オーク(ハーフ):14名

 といった所だ。
 混血種(ハーフ)に関してはどう分けるか迷ったが、とりあえずトロール寄りかどうかを判断基準とした。
 混血種である彼らのほとんどは、無理やり産み出され、ほとんど奴隷のように扱われてきた者達だ。
 精神的に不安定な彼らは、できれば新参者の多い部隊より、付き合いの長い部下達に任せたいが……


「……私であれば、トロールはソク隊、ゾノ隊に割り振ります。両部隊とも連携には問題ありませんが、突出した戦力がおりません。同じく、混血種のオークも両名の部隊が宜しいかと存じ上げます。ゾノ様もソク様も、部下からの信頼が厚いようですし、精神面でも支えとなるでしょう」


「……よく見ているな」


 俺以外のことにはまるで興味なさそうな彼女だが、思いのほか様々な事情を理解していて驚く。


「普段からトーヤ様のお仕事を拝見しておりますので」


「ふむ。他の部隊についてはどうだ?」


「……コボルド達はリンカ様や、ガラ様の部隊が宜しいかと」


「リンカは兎も角、ガラは何故だ?」


 リンカは元々、荒神で大将軍をやっていたこともあり、統率力に優れている。
 多少知能の低いコボルドでも、十全に統率してくれるだろう。
 だが、ガラについては正直未知数だ。


「ガラ様の部隊にはサンガ様がいます。サンガ様であれば、他の方々よりもコボルドとの意思疎通が容易となると思われます。残ったゴブリンとオークは、人数的に薄い部隊に均等に割り振れば問題無いかと」


「まあ、それが妥当だよな。でも、臥毘がび隊やグラ隊はどうする?」


「両名には今回は割り当てる必要はないと存じ上げます。報酬という意味ではお二人には当然発生しませんし、彼らに簡単に戦力を与えるのは今の段階ではまだ早いかと」


「それもそうなんだが、戦力比的にな……」


「問題ありません。いざとなれば捨て駒として利用すれば良いのです」


「……それは却下だ」


 状況次第では、そんな非情な選択を取らなければならない瞬間もあるかもしれない。
 しかし、可能な限りそんな状況は避けたいと思っている。
 それは俺の信条的にも嫌だし、戦略面で見ても悪手と言えるからだ。


「ただ、まあ現状は早急に戦力が必要ってわけでもないし、それが無難だろうな……」


 ウチの連中にはあまり気にする奴はいないだろうが、新参者を優遇すると不満が出ることも多い。
 部隊長として迎えている時点で、既に優遇はしてると言えなくもないが、ウチは零細企業(?)なのでそこは仕方ない。
 一応、シオウ辺りが気にするかもと思い、それとなく確認してみたのだが、そんなことよりイオと同じ部隊にしてくれと言われてしまった。
 ……近衛になることを知ったら、俺もなると言い出しそうで怖い。


 結局、俺の意見ともそれ程食い違いがなかった為、ヒナゲシの案を全面採用し、以下のように配属させることにした。


 ・ガウ隊:10名+ ゴブリン6 + オーク10 【計26名】
 ・リンカ隊:12名 + ゴブリン6 + オーク8 + コボルド4 【計30名】
 ・ゾノ隊:15名 + トロール(ハーフ)3 + オーク(ハーフ)6 【計24名】
 ・シュウ隊:10名 + ゴブリン8 + オーク10 【計28名】
 ・ガラ隊:10名 + コボルド7 + オーク5 【計22名】
 ・ザルア隊:11名 + オーク(術士)2【計13名】
 ・ソク隊:16名 + トロール(ハーフ)2 + オーク(ハーフ)8 +  オーク6 【計32名】


 各隊の人数に多少ばらつきが有るが、戦力面や配置の関係からすると妥当だろう。
 これに加えて、俺の近衛が3名、臥毘隊が30名、グラ隊が9名か……
 全部で217名かな? 非戦闘員も含めればもっと多い。随分と大所帯になったもんだな……

 どんどん人数を増やしていこうなんて気は更々ないんだが、魔王配下としての戦力はそれなりに整えなければならない。
 ……というのは建前で、本音では自衛力の強化という意味合いが強い。

 国として動き始めて数年程度の荒神が、まず力を入れなければならないのが自衛力である。
 いつ攻めてきてもおかしくない魔族、蟲族、不死族辺りにはしっかりと対策をしておきたい所だ。

 ……まあ、そんな状況でもお構いなしに、キバ様は遠征になど出ているようだがな! 
 蟲族対策の為には西の平定が必須とはいえ、何もキバ様が直接行くことないだろ…… 
 色々と相談事や報告事項もあるので、早く戻って来て貰いたいものである。

 一応、キバ様の出してきた実績を積む条件である「レイフ森の平定」については概ね完了したと言える。
 残すは国境付近のエルフの里のみであるが、ここについては扱いが難しいらしく、条件には含まれていない。
 状況についてはソウガに伝令を送っているが、できればタイガ殿やキバ様も交えて、今後の方針について固めたいところだ。


(まあ、いないもんは仕方ないし、こっちはこっちで色々と軍の整備を進めますかね……)




 ――この時の俺は、西の平定に、まさか魔王と右大将が二人係で苦戦しているなど、想像してもいなかった。


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