魔界戦記譚-Demi's Saga-

九傷

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第一章 レイフの森

第2話 ライ

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 挨拶を済ませ、再び二人で倒木に腰かける。
 俺は早速だが、ライに質問をしてみることにした。


「ライ…、君。早速で悪いんだが、まずは状況を把握したい。教えてくれ…、ここはどこなんだ?」


「ライで良いよ。そうだね…、ここは地名で言うとレイフの森。亜人領の端っこに位置する広大な森林地帯だよ」


「ごめん、その亜人領って場所自体に聞き覚えがないんだが…、そもそもここは地球なのか?」


「ああ、そこからなのか…。僕は逆に地球? って地名を聞いたことが無いけど…。えーっとね、この世界全体の呼称は、一般的には魔界と呼ばれているよ」


 魔界…、魔界!?
 地球じゃない可能性は予想していたが、そもそも世界が違うって事か?


「そう呼ばれるようになった発端は、君達人族がそう称したかららしいけどね。それがそのまま定着して、今もそう呼ばれている」


 人族が…、って事は昔の人達はここを見て、主観的にそう感じたという事なのだろう。
 となると、俺の想像した魔界像と、ある程度一致している可能性が高いな。


「ライ、この魔界について詳しく教えてくれ」


 ライの説明によると、やはり俺の予想はある程度当たっていたことがわかる。
 この世界には魔獣もいれば、複数の亜人種もいるらしい。
 アンデット的なものも存在しているようであった。
 説明を続けながら、ライは手近な枝で地面に絵を描いていく。
 どうやら、地図を描いてくれるようだ。


「これがさっき言った亜人領。で、その端の方にあるのがココが、今僕たちのいるレイフの森だ」


 ライが指し示したのは確かに端の方なのだが、随分と広大な広大な森だな…
 何故俺はこんな所に倒れていたのだろうか…
 記憶がないとはいえ、俺の知識にこの場所の情報が無い以上、少なくともこの魔界に住んでいたことは無い筈だ。
 であれば、転移だとか神隠しに巻き込まれた、とか…?


「ちなみに、急に凄い雷が落ちた! とか、謎の光が! とかは無かった?」


「無いね。朝起きて、罠の様子を見に行く途中で君を見つけたんだ。前の日も夕方くらいに通ってるから、君がここに辿り着いたのは、恐らく夜から早朝にかけてだと思うよ。まあ、誰かに運ばれてきた可能性も有ると思うけど」


 自分で辿り着いた、というのは恐らく無いと思われる。
 俺の知識にこの森の情報が無い以上、一人でこんな場所にたどり着けるとも思えない。


「…他に何か気になる点とかは?」


「ん~、気になる点かぁ…」


 ライは顎に指を当てて悩むようなポーズを取る。
 こんなポーズを取る人を実際に見る機会は中々無いと思われるが、ライのような美形がやると、妙に様になる。


「あ! そういえば、こんな布切れが落ちてたよ。精巧な作りだったんで、高く売れないかと思って拾ったんだけど…。って、君の服も凄い精巧に出来ているねぇ…」


「っ!? い、言っておくがやらないからな!」


「はは…、わかってるよ!」


 本当に引っぺがしたりしないだろうな…?
 こちとら一張羅なんだ…
 身包みはぐのだけは、勘弁してほしい。

 それは兎も角として、手渡された布を見てみる。
 刺繍の入った白の布地…、これはハンカチだろうか。


「18…」


 ハンカチには入った刺繍、それは数字であった。
 18…、一体何の数字だろうか。
 年齢とかかな?
 …まさか、試験体番号とかだったりして?
 この状況が状況だけに、あり得るのが嫌過ぎる…
 年齢だ。そうに違いない。そういう事にしておこう。


「18? それって数字なの?」


「そうだけど…、ってああ、これは人族の文字だからわからないのか…」


 あれ、でも言葉は伝わっているよな?
 良く分からなくなってきたぞ…


「ど、どうしたの?」


「…いや、なんでもない。とりあえず、俺の事はトーヤと呼んでくれ」


「いいけど、何か急に爽やかにならなかった…? まあ、いいか。よろしく、トーヤ」


 再び差し出された手を、今度は迷わず握り返す。


「あと、さっきの数字は多分、年齢なんだと思う。ライの方は年齢的にいくつなんだ?


「僕は18歳だよ。なんだ、同い年だったんだね! もう少し年上かなって思ってたよ」


 実は俺もライの事は年下かな、と思っていた。
 小柄だし、美形なのでなんとなく幼く見えるのだ。


「それで、トーヤ。君はこれからどうするつもりなんだい?」


 どうする…、ね…
 どうすると言われても、どうしようか?
 正直、何もするとか、したいとかは頭に浮かんでこなかった。
 記憶も無いんだし、自分探しの旅でもしてみる、とか?
 でもなぁ…、なんでかわからないけど、探したいと思う程、不安な気持ちとかは無いんだよなぁ…。
 まあ強いて言うなら、この状況を作り出した犯人? を突き止めて何が目的だったかくらい聞いてみたい気もするが…
 でも、正直…


「…めんど」


「ん? なに?」


 ぼそっと呟いた俺の言葉を聞き取れなかったのか、ライが尋ねてくる。
 しかし、こんな独り言を説明する必要は無いだろう。

 少し悪とは思うが、俺はライを放置しつつ、頭の中で情報を整理し始める。
 まず、犯人捜しについて、これは当然の事だが却下だ。
 情報や証拠は一切無いし、この状況では何を探していいかもわからない。
 第一、いくら作為的な状況と言えども、本当に犯人というものが存在しているかさえ怪しいからな。

 そして、それ以前の問題として、現状の俺にそんな余裕があるとは思えない。
 何せ、この魔界には魔獣やら他の害獣もたくさん居るようだしな…
 正直、このままでは生き残れるかすら怪しい気がする…
 いや、気がするってレベルじゃないな…
 間違いなく生き残れないと思う。

 実際、ライの話によると、人族は魔界の過酷さに耐えきれず、絶滅したらしい。
 このままでは、俺も同じ結末を辿ることになりかねない…


「トーヤ?」


「ああ、ごめんごめん、ちょっと考え事をしててね…。ところで相談なんだけど…、俺もここに住んじゃダメかな?」


「え? …あ、うん、それは全然構わないけど…、トーヤはいいの? 記憶は無くなっちゃったみたいだけど、探せば自分の家とか、他の人族の集落とかみつかるかもしれないよ?」


「いや、いいんだ。正直、あるかどうかもわからないものを探すより、今は生きるすべを学びたいし」


「…まあ、トーヤがそう言うのなら構わないけど。…でも、基本的に自給自足だし、狩りとかもするから危険だよ?」


「ああ、わかっているさ」


 ライはそう言うが、実際は俺一人で生活する方が間違いなく危険だ。
 俺がこの世界で生き残るには、可能な限りこのライという青年を利用しなければならないだろう。
 見たところ、ライは親切な上にお人好しだし、俺を食い物にするような事はしない筈だ。


「…足手まといになるかもしれないが、どうか俺にここで生き残るすべを授けて欲しい。…よろしく頼むよ、ライ」


「…うん。さっきも言ったけど、僕でよければ協力させてもらうよ。よろしく、トーヤ」




 ――――こうして、俺とライの共同生活が始まった。



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