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第1章 PLAYER1
あの日見たもの ①
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「いよいよだな」
焚き火を囲う仲間に対してベンはイキイキとした声で言った。ベースキャンプを出てから二日、アリスターのチームは順調に日程を消化していた。
「ええ、今日進んだ側幹も僕の予想通り、途中から曲がって、南に続いているようですし、もしかすると明日には五層を拝めるかも知れませんよ」
マドックはさっきまで、トンネルの地図と方位磁針を片手に一人でブツブツと何かを計算し直していた。彼は探窟家には珍しく学もあり育ちもいい。考古学の専門家でいつも悲観的なマドックも今日ばかりは興奮を隠せないでいるようだ。
「しかし、四層ってのはめんどくさいねー。三層みたいに、幹線をピューと抜けれたらいいのに」
ビニーはこのチームの紅一点だ。サバサバとした性格とは裏腹に彼女も医学の知識をしっかりともったスペシャリストだ。唯一の違いは、マドックがきちんとした学校で知識を蓄えたのに対して、彼女は闇医者としてキャリアを積んできたと言うことか。
「まあ、おかげで僕の学んで来た考古学の知識や予測が大きな武器になるとも言えますし」
四層には三層までのようなカレーに一直線に伸びる幹線が存在しない。人が四層に踏み入るまでは、新しいルートの探索とは次の幹線につながる側幹を見つけることであった。当然、三層の終わりに行き着いた時、探窟家達はこぞって四層の幹線の発見に力を注いだ。一度、見つけてしまえば、カレーにまっすぐと伸びる幹線は彼らを四層の終わりまで導いてくれるはずだからだ。
だが、その試みは全て失敗に終わった。今では、四層の幹線が全て水没によって道を閉ざしていると考えられている。この考えから、複雑に入り組む側幹を乗り継いで五層を目指すのが今の踏破組の主流になっていた。またその難しさが踏破組たちを長く四層に留め続けている理由でもある。
「感謝してますぜ、学者先生。あんたとアリスターの立てた推論は完璧だった」
筋骨隆々の男、ブルックリンがご機嫌に褒めた。彼らは今日のために、三層までの側幹の構造を一つずつ歩いて調べ地図を作り、それを元に四層の側幹の構造を予測し実際に潜って、予測とのギャップを埋めると言う地道な作業を繰り返してきた。その努力が報われる日が目の前に迫っている。皆が浮かれるのも無理はない。
「おっ、帰ってきたみたいさね」
ビニーの声につられて視線をあげると、先の様子を見に言っていたアリスター達3人の姿が見えた。
「どうでしたか?」
いの一番に、マドックが声をあげる。いい結果だったことは3人の表情から読み取れた。
「きちんとお前の予測通り南の方に伸びてる。今日はここで休んで。明日がいよいよ本番だな」
皆が目を見合わせて喜んだ。
「あまり、浮かれすぎるのは良くない。こう言う時が一番危ないんだ。どんなに順調に行っていようが、アレに出くわせば終わりなんだから」
釘を刺したのは副リーダーのチャドだ。常に現実的な男でアリスターとの付き合いも一番長く信頼もあつい。
「まあ、確かにそうだけど大丈夫しょ。アレの目撃情報や進路から考えて、今日という日を選んだんだし、何事も絶対ってのはないけどさ」
ニックスは最年少のベンと比べても二つしか歳が違わない。軽薄でチャラい感じのする男だが、金策ではその才能を遺憾なく発揮した。
「チャドの言うことは最もだが、俺の『幸運』だってついてる。明日には、五層へのルートに俺たちの名前がついてるさ」
アリスターが『幸運』なのは決して本当に運がいいからじゃない。彼がいかに周到に準備をし、慎重にことを進めているか、ベンは彼のそばでずっと見てきた。死人を出さないのは、実力であって幸運なんかじゃ決してない。その慎重なアリスターさえも今日ばかりは浮かれている気がした。自分たちの目標にしてきたものが目の前にぶら下がっているのだ、無理もない。
踏破組達の見つけたルートには、その発見者やグループの名前がつけられる。一層から二層へ続くルートが8つ、二層から三層へのルートが12個、そして三層から四層へと続くルートが4つありそれぞれにその発見者の名前がついていた。五層、そしてカレーへと続く完全踏破ルートに自分たちの名前をつけること。それはアリスター達が長年抱き続けてきた夢だった。
その日の夜は、いつもより遅くまで話をした。初めてあった日のこと、これまでのこと、これからのこと。明日の冒険が終わったら、彼らはまたそれぞれの道を生きることになるだろう。今日話しておかなければならない事はたくさんあった。天井を洞窟ホタルの群れが横切った。ベン達はそれを彼らへの祝福だと思っていた。
******
その日の朝は、軽い緊張と期待感とともに幕を開けた。手短に朝食をすませた一行は、いつものように黙々と準備を整え野営地を後にした。昨日、アリスターたちが確認してきた側幹をつきあたった先に、これまた予想通りの道があわれた事で期待はいっそうに高まる。比較的狭い路を抜けた後、眼前に広がったのは切り立った崖のような場所だった。
「うげ、底が見えないぜ。落ちたら終わり」
下を覗き込みながらニックスが危機感を感じさせない声で言う。
「あそこに、道が見えるでしょ。ここを抜けて、あの道に入れば後は大きな道に沿ってに行けば5層までいけるはずです」
マドックが説明する。この切り立った崖の、あちらとこちらを結ぶように天然の橋がかかっている。正しく言えば、あの橋のように見える部分を残して周りが崩落したようである。
「最後の難所だな」
ベンは明るく言った。確かに道幅は狭く危険だが、この程度の道は慣れていた。
「気を引き締めていけよ」
心配性なチャドが場を引き締める。
「その前に少しここで休もう」
アリスターが、提案した。
そして7人は、その場に腰を下ろし昼食をとった。最初の犠牲者はマドックだった。
「マドックのやつは?」
姿の見えないマドックのことを聞いたのはニックスだ。
「トイレに行ってくるとよ。さっき、報告を受けた」
チームから離れる時は報告を入れるのが決まりだ。この辺は大した危険はない。さして離れなければ大丈夫だろう。
「わざわざ遠くに行かなくとも、ここにこんなに大きな穴が空いてるんだからそこに向かって放尿してやれば良いのに。ブルックリンをみろよ堂々としたもんだ」
「お前達とは育ちが違うんだよベン。学者先生がそんなことできるかよ。あいつはおしとやかなのさ」
チャドが軽口をいった。
「おい、お前らマドックが戻ったら出発するぞ、荷物をまとめとけ」
アリスターが支持を飛ばす。
「あいあいさー」
ビニーの威勢のいい返事とともに、皆が荷物をまとめ出した。出発の準備が整ってもマドックは戻ってこなかった。
「おい、何かあったんじゃないか」
トイレに行った割にはあまりにも長い、チームに緊張感が走る。マドックは食後に洞窟を散歩するようなやつじゃない。何かあったと考えるのが自然だ。
「いつでも、出発できる準備をしておけ。ニックス頼めるか」
アリスターの表情は固かった。
「オッケー、ボス。ちょっと様子を見てくるぜ」
ニックスの口調は軽いが、そこには隠しきれない緊張がこもっている。ニックスがベン達の来た道を引き返してから戻ってくるまで3分もかからなかった。大慌てで戻ってくる彼の背後に何かがうごめいていた。
「逃げろ、走れ、走れ」
闇が迫ってくるようだった。彼らが通って来た穴の側面にそう様に、黒い毛束の様な触手が這い出てくる。コップに満たされたスポンジの様に、通路中に満ちたそれは、通路を黒に染めながら這い出してくる。闇だ、闇がやってくる。それは、言い表し用のない恐怖だった。
「畜生、畜生!」
ニックスの口調がマドックの辿った結末を物語った。ベン達に考えている暇はなかった。通って来た一本道からは、あれが迫っている。ならば、先に進むしかない。
「・・・あっ、しまっ・・・」
駆け出したメンバーの耳に飛び込んで来たのは、ニックスの声だ。振り返ると彼はあの暗闇が先行させる毛束の様な補足黒い職種によって無数に絡め取られていた。
「ボ、ボス・・・」
ニックスはすがる様な顔でアリスターを見た。皆が一瞬硬直する。
「止まるな、行け」
叫んだのはアリスターだ。
「で、でもニックスが」
ベンは戸惑った。ベンは加入して以来、アリスターが仲間を見捨てるところを一度も見たことがない。アリスターは今までどんな困難に陥っても、いつも皆が驚く様な解決策を見つけて仲間を救って見せるのだ。そんなアリスターの行けという指示は、ベンに限らず皆を驚かせた。
「そ、そんな、ボス」
ニックスの表情が恐怖に固まった。怪物に絡め取られた恐怖だけではない、皆において行かれるという恐怖。絶望がそこにはあった。
「行くぞ」
その場に釘付けにされた皆を追い立てる様に口に出したのは副リーダーのチャドは、彼その言葉通りニックスに背を向けると殿を務めながら走り出した。アリスターは決して仲間を見捨てない男だった。そんな彼が走れと行ったのだ。それが一番正しい、選択なのだと一番付き合いの長い彼は瞬時に判断した。
皆がニックスに背を向けて走り出す。それは彼にとってどれだけの絶望であろうか。
「待ってくれ、みんな、助けてくれ・・・、助けて・・・ボス。死にたくない、死にた・・く・・ない、ボス・・・・」
背後でニックスが闇に飲まれて行くのがわかった。ベン達は後ろ髪を引かれる思いで走り出した。決して振り返りはしなかった。いや、振り返ってニックスが闇に飲まれる様を見る勇気がなかったのかもしれない。走りに走って、なんとかそいつを振り切った時、殿を務めていたはずのチャドの姿が消えていた。
焚き火を囲う仲間に対してベンはイキイキとした声で言った。ベースキャンプを出てから二日、アリスターのチームは順調に日程を消化していた。
「ええ、今日進んだ側幹も僕の予想通り、途中から曲がって、南に続いているようですし、もしかすると明日には五層を拝めるかも知れませんよ」
マドックはさっきまで、トンネルの地図と方位磁針を片手に一人でブツブツと何かを計算し直していた。彼は探窟家には珍しく学もあり育ちもいい。考古学の専門家でいつも悲観的なマドックも今日ばかりは興奮を隠せないでいるようだ。
「しかし、四層ってのはめんどくさいねー。三層みたいに、幹線をピューと抜けれたらいいのに」
ビニーはこのチームの紅一点だ。サバサバとした性格とは裏腹に彼女も医学の知識をしっかりともったスペシャリストだ。唯一の違いは、マドックがきちんとした学校で知識を蓄えたのに対して、彼女は闇医者としてキャリアを積んできたと言うことか。
「まあ、おかげで僕の学んで来た考古学の知識や予測が大きな武器になるとも言えますし」
四層には三層までのようなカレーに一直線に伸びる幹線が存在しない。人が四層に踏み入るまでは、新しいルートの探索とは次の幹線につながる側幹を見つけることであった。当然、三層の終わりに行き着いた時、探窟家達はこぞって四層の幹線の発見に力を注いだ。一度、見つけてしまえば、カレーにまっすぐと伸びる幹線は彼らを四層の終わりまで導いてくれるはずだからだ。
だが、その試みは全て失敗に終わった。今では、四層の幹線が全て水没によって道を閉ざしていると考えられている。この考えから、複雑に入り組む側幹を乗り継いで五層を目指すのが今の踏破組の主流になっていた。またその難しさが踏破組たちを長く四層に留め続けている理由でもある。
「感謝してますぜ、学者先生。あんたとアリスターの立てた推論は完璧だった」
筋骨隆々の男、ブルックリンがご機嫌に褒めた。彼らは今日のために、三層までの側幹の構造を一つずつ歩いて調べ地図を作り、それを元に四層の側幹の構造を予測し実際に潜って、予測とのギャップを埋めると言う地道な作業を繰り返してきた。その努力が報われる日が目の前に迫っている。皆が浮かれるのも無理はない。
「おっ、帰ってきたみたいさね」
ビニーの声につられて視線をあげると、先の様子を見に言っていたアリスター達3人の姿が見えた。
「どうでしたか?」
いの一番に、マドックが声をあげる。いい結果だったことは3人の表情から読み取れた。
「きちんとお前の予測通り南の方に伸びてる。今日はここで休んで。明日がいよいよ本番だな」
皆が目を見合わせて喜んだ。
「あまり、浮かれすぎるのは良くない。こう言う時が一番危ないんだ。どんなに順調に行っていようが、アレに出くわせば終わりなんだから」
釘を刺したのは副リーダーのチャドだ。常に現実的な男でアリスターとの付き合いも一番長く信頼もあつい。
「まあ、確かにそうだけど大丈夫しょ。アレの目撃情報や進路から考えて、今日という日を選んだんだし、何事も絶対ってのはないけどさ」
ニックスは最年少のベンと比べても二つしか歳が違わない。軽薄でチャラい感じのする男だが、金策ではその才能を遺憾なく発揮した。
「チャドの言うことは最もだが、俺の『幸運』だってついてる。明日には、五層へのルートに俺たちの名前がついてるさ」
アリスターが『幸運』なのは決して本当に運がいいからじゃない。彼がいかに周到に準備をし、慎重にことを進めているか、ベンは彼のそばでずっと見てきた。死人を出さないのは、実力であって幸運なんかじゃ決してない。その慎重なアリスターさえも今日ばかりは浮かれている気がした。自分たちの目標にしてきたものが目の前にぶら下がっているのだ、無理もない。
踏破組達の見つけたルートには、その発見者やグループの名前がつけられる。一層から二層へ続くルートが8つ、二層から三層へのルートが12個、そして三層から四層へと続くルートが4つありそれぞれにその発見者の名前がついていた。五層、そしてカレーへと続く完全踏破ルートに自分たちの名前をつけること。それはアリスター達が長年抱き続けてきた夢だった。
その日の夜は、いつもより遅くまで話をした。初めてあった日のこと、これまでのこと、これからのこと。明日の冒険が終わったら、彼らはまたそれぞれの道を生きることになるだろう。今日話しておかなければならない事はたくさんあった。天井を洞窟ホタルの群れが横切った。ベン達はそれを彼らへの祝福だと思っていた。
******
その日の朝は、軽い緊張と期待感とともに幕を開けた。手短に朝食をすませた一行は、いつものように黙々と準備を整え野営地を後にした。昨日、アリスターたちが確認してきた側幹をつきあたった先に、これまた予想通りの道があわれた事で期待はいっそうに高まる。比較的狭い路を抜けた後、眼前に広がったのは切り立った崖のような場所だった。
「うげ、底が見えないぜ。落ちたら終わり」
下を覗き込みながらニックスが危機感を感じさせない声で言う。
「あそこに、道が見えるでしょ。ここを抜けて、あの道に入れば後は大きな道に沿ってに行けば5層までいけるはずです」
マドックが説明する。この切り立った崖の、あちらとこちらを結ぶように天然の橋がかかっている。正しく言えば、あの橋のように見える部分を残して周りが崩落したようである。
「最後の難所だな」
ベンは明るく言った。確かに道幅は狭く危険だが、この程度の道は慣れていた。
「気を引き締めていけよ」
心配性なチャドが場を引き締める。
「その前に少しここで休もう」
アリスターが、提案した。
そして7人は、その場に腰を下ろし昼食をとった。最初の犠牲者はマドックだった。
「マドックのやつは?」
姿の見えないマドックのことを聞いたのはニックスだ。
「トイレに行ってくるとよ。さっき、報告を受けた」
チームから離れる時は報告を入れるのが決まりだ。この辺は大した危険はない。さして離れなければ大丈夫だろう。
「わざわざ遠くに行かなくとも、ここにこんなに大きな穴が空いてるんだからそこに向かって放尿してやれば良いのに。ブルックリンをみろよ堂々としたもんだ」
「お前達とは育ちが違うんだよベン。学者先生がそんなことできるかよ。あいつはおしとやかなのさ」
チャドが軽口をいった。
「おい、お前らマドックが戻ったら出発するぞ、荷物をまとめとけ」
アリスターが支持を飛ばす。
「あいあいさー」
ビニーの威勢のいい返事とともに、皆が荷物をまとめ出した。出発の準備が整ってもマドックは戻ってこなかった。
「おい、何かあったんじゃないか」
トイレに行った割にはあまりにも長い、チームに緊張感が走る。マドックは食後に洞窟を散歩するようなやつじゃない。何かあったと考えるのが自然だ。
「いつでも、出発できる準備をしておけ。ニックス頼めるか」
アリスターの表情は固かった。
「オッケー、ボス。ちょっと様子を見てくるぜ」
ニックスの口調は軽いが、そこには隠しきれない緊張がこもっている。ニックスがベン達の来た道を引き返してから戻ってくるまで3分もかからなかった。大慌てで戻ってくる彼の背後に何かがうごめいていた。
「逃げろ、走れ、走れ」
闇が迫ってくるようだった。彼らが通って来た穴の側面にそう様に、黒い毛束の様な触手が這い出てくる。コップに満たされたスポンジの様に、通路中に満ちたそれは、通路を黒に染めながら這い出してくる。闇だ、闇がやってくる。それは、言い表し用のない恐怖だった。
「畜生、畜生!」
ニックスの口調がマドックの辿った結末を物語った。ベン達に考えている暇はなかった。通って来た一本道からは、あれが迫っている。ならば、先に進むしかない。
「・・・あっ、しまっ・・・」
駆け出したメンバーの耳に飛び込んで来たのは、ニックスの声だ。振り返ると彼はあの暗闇が先行させる毛束の様な補足黒い職種によって無数に絡め取られていた。
「ボ、ボス・・・」
ニックスはすがる様な顔でアリスターを見た。皆が一瞬硬直する。
「止まるな、行け」
叫んだのはアリスターだ。
「で、でもニックスが」
ベンは戸惑った。ベンは加入して以来、アリスターが仲間を見捨てるところを一度も見たことがない。アリスターは今までどんな困難に陥っても、いつも皆が驚く様な解決策を見つけて仲間を救って見せるのだ。そんなアリスターの行けという指示は、ベンに限らず皆を驚かせた。
「そ、そんな、ボス」
ニックスの表情が恐怖に固まった。怪物に絡め取られた恐怖だけではない、皆において行かれるという恐怖。絶望がそこにはあった。
「行くぞ」
その場に釘付けにされた皆を追い立てる様に口に出したのは副リーダーのチャドは、彼その言葉通りニックスに背を向けると殿を務めながら走り出した。アリスターは決して仲間を見捨てない男だった。そんな彼が走れと行ったのだ。それが一番正しい、選択なのだと一番付き合いの長い彼は瞬時に判断した。
皆がニックスに背を向けて走り出す。それは彼にとってどれだけの絶望であろうか。
「待ってくれ、みんな、助けてくれ・・・、助けて・・・ボス。死にたくない、死にた・・く・・ない、ボス・・・・」
背後でニックスが闇に飲まれて行くのがわかった。ベン達は後ろ髪を引かれる思いで走り出した。決して振り返りはしなかった。いや、振り返ってニックスが闇に飲まれる様を見る勇気がなかったのかもしれない。走りに走って、なんとかそいつを振り切った時、殿を務めていたはずのチャドの姿が消えていた。
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