偶像は神に祈る夢をみる

なめこ玉子

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日常 3

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暗い部屋。月明かりだけが照らす部屋。
男の息遣いが消えたただの部屋。

少年が見える。男の額に手をあてる少年。
少年が男の額から手を離す。同時に男の体が崩れた。

「終わったよ」
少年は囁く。
「ところでさ…」
少年の声色と、視線が別の虚空に向かって飛ぶ。

「さっきから僕達をみてるのは誰?」

冷たい視線に時間と空間の先で僕は恐怖する。
平静を保てなくなった僕の意識とともに周囲の景色が歪み。
冷や汗とともに目が覚めた。




「……はっ、はっ、」
呼吸は乱れていた。
眼の前は透明なガラスで覆われていて
体の下では柔らかく清潔なシーツの感触を感じる。

ガラスの蓋が開いて誰かが僕をのそ着込む。
「大丈夫?」

今しがた感じた恐怖と今僕の置かれている状況のギャップに
脳はしばらく混乱する。

「……ああ、夢か…」
僕の思考はゆっくりと戻ってきてなんとか落ち着きを取り戻した。
「で、大丈夫?」
眼の前にいたのは白衣の女性で彼女はもう一度尋ねた。
今回三番に潜る僕のバイタル担当をしてくれていた女性だった。

「はい。大丈夫です。ちょっと混乱しただけで…」
とりあえずそう返す。
「何をみたか思い出せる?」
彼女は義務的に僕に尋ねる。

「なに…、えっと…」
途端に言葉につまる。
ついさっき目にしたものがまさに夢のように
ぼんやりと遠ざかっていくようだ。
「なにか…怖いものをみました…」

それが今伝えられるすべてだ。
白衣の彼女はじっと僕の表情を覗き込みそしてうなずく。
「うん、ちゃんと記憶補正が働いてるみたいね。
しばらくすればその怖かった感覚も薄れていくから安心して」

「……」
「なにか気になる?」

「こんな、悪い目覚めははじめてで」
まだ研修中の身とはいえそれなりには潜ってきた。
それでも今日の目覚めは最悪だ。

「まあ、三番に潜る子はけっこうみんなそういうよね。
だから悪い噂も立っちゃったし、
でもみんな普通にピンピンしてるから安心していいわよ。
ほらあなたのお姉さんとか」

そういえば姉さんも今日ここに来ているはずだ。
職員の彼女とも顔見知りなのかもしれない。

「姉さんもきてるんですか?」
話のついでに聞いてみる。

「ええ。午後から潜ってるはずよ。
もうすぐ終わるんじゃない?待ってる?」

「いえ。今日はこのあと予定があるので」
言葉とともに約束があったのを思い出した。
現実と夢がまだ少しごっちゃになっているようだ。
時計に目を向ける。午後六時半過ぎ
別に急ぐわけなじゃないが、そろそろここを出たほうが良い。

僕は話を切り上げて、いそいそと帰り支度をした。
その間彼女は計器のチェックなどをしていたようだ。

「じゃあ、今日はお世話になりました」
一言声をかける。
「うん、気をつけて」
そう言って視線をこちらに向ける。それからいつも職員はこう付け加える。

「あっ、一応しばらくしても恐怖のイメージが消えなかったり
逆に夢が鮮明になった来たりしたら教えてね。記憶修正カウセリングを受けれるから」
潜ったあとにはいつも同じことを言われる。

「えっと、はい。わかりました」
カウンセリング室にあまりいいイメージのない僕は
多分行かないだろうなと思いながらもとりあえずそう返事を返した。

外に出ると、夕暮れが寒さを連れてきているようだ。
暖かい部屋でふやけた皮膚がひきしまる。
ショウの待つファミレスチェーンへその冷気を縫って歩みはじめた。
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