偶像は神に祈る夢をみる

なめこ玉子

文字の大きさ
6 / 30

一年後の結末 1

しおりを挟む
深いところ、海の底、土の中、洞窟の奥。
そういう場所でそれは見つかる。
半透明の鉱石、その中で彼らは永遠に眠っている。
あどけない少年、あるいは少女の姿形は僕たちによく似ていて、

僕たちはそれを神様と呼ぶことにした。

***

眼の前に祭られる半透明の鉱石、その中で眠る少年の姿を
ユウキはぼーっと見つめていた。
僕とそう違わなく見えるこの少年たちは、
僕らが生まれるずっとずっと前の時代を、生きていたらしい。

自然を操り、病を退け、死を克服したその超越種たちは僕ら人類の創造主でもある。
しかし彼らはやがて星から姿を消した。

長らく神話の中にしか存在しなかった神々が、
再び地上の光を浴びた考古学上の大発見からまだ数百年しかたっていない。

今や文明は、眠る彼らの夢を覗き見ることで栄華を極めようとしている。

「なにをしてるの?もう今日は帰っていいって言わなかったけ?」
祭壇の前に立つ僕の背に声がかかった。振り返る僕の視界に女性の姿が映る。

「もういいって、今日も結局何もしてないじゃないですか」
不満げな視線を返した。

「いいんだよ。私のやる気がでないんだ」
背は僕より頭2つ小さい。
いつものようにボサボサの波打つ髪と、ずり落ちそうな黒縁のメガネ
サイズの合ってない白衣を着た彼女はその容姿にぴったりな
やる気のない声をしている。

「何も気にすることはないよ。教会も三桁の番号をあてた神様から新しい発見なんてきたいしちゃいないしね。私も君も、ここの人間は出世街道から外れてるんだ。気楽にのんびりやるのが一番だよ」

「それはそうですけど、何もやることがないのはそれはそれで暇なんですよ。
せめて潜るぐらいはさせてくださいよ」

この人には呆れたものだ。
ここまで割り切れると逆に尊敬できるかもしれない。

「ダメ元だろうと、君を夢に送り込む労力は変わらないの。
エンジニアの苦労もわかってほしい。最低限本部に報告できる回数潜れば十分。
そんなに暇ならあっちを手伝ってやればいいでしょ」

そうやって彼女が指さした方向では、
法衣をまとった小太りの男が何かをいそいそと運んでいる。
彼はこちらの視線に気づくと笑顔を見せた。

「やあ、ユウキにリサこんなところにいたのか。
ちょうどいい、暇なら手伝ってくれ」

「ほら、出番」
白衣の彼女、リサは温度なくユウキを顎で指すが
自分は手伝う素振りすら見せない。

「明後日のミサの準備ですか、神父様?」
ユウキは男の持っていた荷物を半分貰い受ける。

「どうせこんな小さな神様を拝みにくる人なんて
いないと思うけどね」
白衣からやる気のない声が飛んでくる。

「うむ。小さいが立派な教会。一月に一度神様を拝むことのできる
この日を待ちわびてる信徒のために準備はかかせないよな」
神父様の快活な声はリサと微妙に噛み合わない。

「毎度そう言ってるけど、
私はこの三年で尋ねてきた人なんてみたことないんだけど」
リサの小言も神父様にはどこ吹く風だ。

「まあまあ、三人っぽっちの小さな教会
助け合っていきましょうよ」
いたずらっぽく笑いながら、僕は持っていた荷物をもう半分に分けて
彼女の小さな腕に押し込んだ。

「私の仕事は調査で、教会の運営じゃないんだよ」
そう言いながらも彼女は荷物を受け取る。

「僕だってそうですよ」
夢見である僕もまた彼女同様本部から派遣される身だ。
実質ここは神父様一人で切り盛りしてると言える。

「ここの運営は私の仕事だな」
神父様はそういうと快活に笑った。
僕たち三人は荷物を抱えたまま聖堂に向かって歩く。

街の外れにある小さな支部、142番の神様を祀る小さな神殿。
誰もがその存在を忘れてるのではないかと思うぐらい寂れたこの協会が、
僕の今の居場所だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...