独身女性の物語 短編集

薄明の夜に、独り

第一章: 仕事の優先

結衣は30代後半、広告代理店でバリバリ働くキャリアウーマン。都会の喧騒の中、彼女の生活は仕事一色だった。毎朝コーヒーを片手に出勤し、クライアントとの打ち合わせに追われ、夜遅くまで残業する日々が続く。仕事に没頭することで得られる充実感はあったが、心のどこかにぽっかりと空いた穴があることに彼女は気づいていた。

ある日のこと、結衣のデスクに後輩の香織がやってきた。

「結衣さん、私、婚約しました！」

香織の声に振り向くと、彼女の目は輝いていた。心の底から祝福したい気持ちがある一方で、結衣は自分の胸に冷たいものが広がるのを感じた。彼女は微笑みを浮かべながら言った。

「おめでとう、香織！　幸せになってね。」

その日、仕事を終えて帰宅する道すがら、結衣は一人ぼっちの夜が待っていることを思い出し、ため息をついた。

第二章: 過去の影

結衣の頭には、数年前の恋が思い出された。彼女には一度だけ結婚を考えた相手がいた。名は慎也。彼は優しく、仕事もできる男だった。だが、仕事が忙しすぎて、結衣は彼との関係をおろそかにしてしまった。そして、彼は他の女性と結婚することになった。

「自分の道を進むことが一番だ」と思い込んでいたはずだったが、今になってその決断が本当に正しかったのか、心の中で疑問が渦巻く。心のどこかで、「もしも、あの時彼を選んでいたら…」と考えてしまう自分がいた。

第三章: 受け継がれる孤独

ある冬の帰省の際、結衣は母親から「まだ独身なの？」という何気ない一言を受けて、胸が苦しくなった。実家の温かい雰囲気とは裏腹に、心の中の寒さが増していく。母は気遣いながらも、自分の結婚や家族について語り続ける。

「友達も皆結婚して、幸せな家庭を築いてるのよ。結衣も早くそうなればいいのに。」

その言葉が結衣の心に突き刺さる。外に出て久々に会った同級生たちも、幸せそうな家庭を築いている様子。結衣は心の奥で「羨ましい」と思いながらも、素直にそれを認めることができず、笑顔でごまかすことしかできなかった。

第四章: 短い希望の光

仕事に戻ると、結衣は同僚の紹介で合コンに参加することになった。そこで出会ったのは、同じく独身の田中という男性。彼も仕事に忙しくしているが、会話を重ねるうちに互いに共通の価値観を見つけていく。久しぶりに心が踊る瞬間が訪れた。

しかし、ある晩の食事中、田中が「将来的には子どもが欲しい」と話すと、結衣の心が冷えていくのを感じた。年齢を重ねる中で、子どもを持つことに対する自信がない彼女は、彼との未来に自分がいないことを確信する。

「それじゃあ、私は…」

結衣は言葉を飲み込み、笑顔を作ったが、心の中は冷ややかな現実に打ちひしがれていた。結局、彼とは距離を置くことになった。

第五章: 永遠の夜

冬の寒空の下、仕事帰りの結衣はいつものように一人で家路につく。マンションの薄暗い部屋に灯るのは、彼女一人分の明かりだけ。帰宅した彼女は、無意識のうちに携帯を手に取り、久しぶりに覗いたメールアプリには後輩からの結婚式の招待状が表示されていた。

それを見つめながら、結衣は自分の人生が本当にこれで良かったのかと自問する。しかし、答えは出ない。孤独感が彼女を包み込み、夜の静寂の中でその感覚はより強くなる。

深夜、窓の外に広がる街の明かりは眩しいほどに輝いている。しかし、結衣の胸の内は凍りついたように静まり返っていた。彼女は携帯を握りしめたまま、深くため息をつく。薄明かりの中、彼女はただ無音の夜に溶けていく。

エピローグ: 影と共に

結衣はその後も変わらぬ日常を送っていく。友人の幸せな姿を見ながら、自分だけが取り残されている感覚が深まる。夜空に星が瞬くたび、彼女は一人、薄明の中で影と共に生きていく。