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本編
第一話(1)バックハグと頭なでなで
1.
「じゃあ、わたしとエッチできるんですかぁ!?」
これに対し、日下はこう思った。
(あ……この子、本当に限界なんだな……)
社会経験がない中で、厳しいブラック企業。
親元を離れた少女には厳しすぎる現実だった。
一人暮らしの男性の部屋へ簡単に訪れたのも、色々と麻痺した結果。
誰かを頼りたくなった気持ちだってあっただろう。
(なんて答えようか……)
どうすれば彼女がこれ以上傷つかずにすむか。日下は真剣に考えた。
「うん……本心から夜代さんのこと、かわいい女の子だって思ってるよ」
彼が選んだのは真心。
けれど、質問から逸れた誤魔化しがあった。
「じゃ、じゃあ……! わたしとエッチしてくださいよぉ……」
う、う、と膝を抱えて夜代が泣き出した。
どうするべきか、と日下は心の中で頭を抱える。
常識的な対応としては、
『飲み過ぎだよ、夜代さん……今日は家に帰りなよ』
だろう。
……しかしそれは問題から逃げているだけだ。
彼女は家に帰り、一人で泣いてしまうだろう。……想像だけでズキリと彼の胸は傷んだ。
だから彼は、
「うん……いいよ。夜代さん」
責任を負うと決めた。
「え……?」
驚いて顔をあげる夜代。
化粧が少し落ち、深い隈が目立っていた……。
「でも本番はなし、キスもなし……そういうのは、ちゃんとした関係じゃないとだからね」
一線は引く。
それが彼なりに考えた、彼女の傷を一番和らげる方法だった。
2.
「えっと、じゃあどうしよっか……? ちゃんと常識の範囲だからね?」
夜代の涙を拭き、落ち着いた頃に尋ねてみる。
彼女はそろそろとテレビ画面を指差した。
「さっきの……後ろからのハグ、されてみたいです……」
「ああ、それなら……」
ほっとする。やっぱり一線は引くとはいえ、負い目があった。弱みにつけ込んだようで……。
「じゃ、膝の上おいで」
軽く足を開き、手招きする。
「い、今更ですけど……ごめんなさい……」
夜代が頭を下げる。ちょっとだけ酔いとハイテンションが下がったようだ。
「いいってこれくらい。大事な隣人だから」
「…………」
夜代はきょどきょどと視線を泳がし、しかし焦がれるように腰を上げ、ちょこちょこと移動した。
体格差により、誂えたように日下へと収まる。
……小さな背中だ。
頑張ってきたんだなぁ、という想いがまざまざと込み上げてきた。
そっと包み込むようにその小さな身体を抱きしめる。
「ひゃん!」
びくっと、小さく跳び上がる夜代。
「……やっぱり嫌だった?」
「ぜ、全然……! む、むしろ、こんなにいいものだったなんて……!」
ちらりと様子を窺うと、彼女の頬は本当に嬉しそうに上がっていた。
「……映画だと、この後は頭を撫でたんだっけ」
彼女は観る余裕がなかっただろうが(今も何となく気まずくならないよう、音量を下げて流している)。
「え、えっと……じゃあ、それも……」
夜代が遠慮がちに頷いてくる。
うん、と頷き、頭をゆっくりと撫でていく。
「は、はぅぅ……!」
お気に召したようだ。
そのまま何度も撫でると、ようやく緊張を解いてこちらへ身体を預けてきた。
「……やっぱり、仕事大変だった?」
「…………はい。大変でした」
はぁ、と溜まっていたストレスが吐き出されていく。
「頼っていいんだからね?」
「い、いえ……! 日下さんには、心配かけっぱなしで……!」
「……でも夜代さん、一回も連絡くれなかったから……。風邪とか引いてたんじゃないの?」
「う……で、でも、市販薬とレトルトのおかゆ、用意してたんで……」
「やっぱり……」
無理をしていたし、遠慮もされていた。
両腕で抱擁し、彼女の小さな頭にそっと頬を寄せる。
「っ!?」
「もっと、頼ってくれていいんだからね……」
「は、はい……」
夜代の頬に、酒ではない赤みがさしたような気がした。
もう一度ゆっくりと頭を撫でていく。
「ぁぁ……」
身も心も預けてくるような感覚があった。
「じゃ、じゃあもっと、わがまま言っていいですか……?」
「うん、いいよ」
気軽な気持ちで彼は頷いた。
「じゃ、じゃあ……つ、次は、お……おっぱいを、触っていただけると……」
「それは映画にない!」
あれは全年齢が対象だ。
3.
「や、やっぱり……! エッチ、できないんじゃあ……!」
う、う、と折角引っ込んでいた涙がまた出てきてしまった。
やはり彼女は限界。ハグして頭を撫でたくらいじゃ全然足りなかった。
「……夜代さんは嫌じゃないの? 胸触るって、結構なことだと思うんだけど……」
「く、日下さんなら……! べ、別に嫌じゃなくて……! むしろ、触ってほしいというか……あ!」
失言に気づいたか、誤魔化すようにお酒へ手を伸ばす夜代。
「あ! もう呑みすぎない方が!」
「だ、だってぇ……」
くぴりと一口だけ呑む夜代。
どうしようか、と再び悩む。
……それなりに好意は持ってくれているようだ。
だったらもう少し応えてあげてもいいのだろうか。
「じゃあ、わたしとエッチできるんですかぁ!?」
これに対し、日下はこう思った。
(あ……この子、本当に限界なんだな……)
社会経験がない中で、厳しいブラック企業。
親元を離れた少女には厳しすぎる現実だった。
一人暮らしの男性の部屋へ簡単に訪れたのも、色々と麻痺した結果。
誰かを頼りたくなった気持ちだってあっただろう。
(なんて答えようか……)
どうすれば彼女がこれ以上傷つかずにすむか。日下は真剣に考えた。
「うん……本心から夜代さんのこと、かわいい女の子だって思ってるよ」
彼が選んだのは真心。
けれど、質問から逸れた誤魔化しがあった。
「じゃ、じゃあ……! わたしとエッチしてくださいよぉ……」
う、う、と膝を抱えて夜代が泣き出した。
どうするべきか、と日下は心の中で頭を抱える。
常識的な対応としては、
『飲み過ぎだよ、夜代さん……今日は家に帰りなよ』
だろう。
……しかしそれは問題から逃げているだけだ。
彼女は家に帰り、一人で泣いてしまうだろう。……想像だけでズキリと彼の胸は傷んだ。
だから彼は、
「うん……いいよ。夜代さん」
責任を負うと決めた。
「え……?」
驚いて顔をあげる夜代。
化粧が少し落ち、深い隈が目立っていた……。
「でも本番はなし、キスもなし……そういうのは、ちゃんとした関係じゃないとだからね」
一線は引く。
それが彼なりに考えた、彼女の傷を一番和らげる方法だった。
2.
「えっと、じゃあどうしよっか……? ちゃんと常識の範囲だからね?」
夜代の涙を拭き、落ち着いた頃に尋ねてみる。
彼女はそろそろとテレビ画面を指差した。
「さっきの……後ろからのハグ、されてみたいです……」
「ああ、それなら……」
ほっとする。やっぱり一線は引くとはいえ、負い目があった。弱みにつけ込んだようで……。
「じゃ、膝の上おいで」
軽く足を開き、手招きする。
「い、今更ですけど……ごめんなさい……」
夜代が頭を下げる。ちょっとだけ酔いとハイテンションが下がったようだ。
「いいってこれくらい。大事な隣人だから」
「…………」
夜代はきょどきょどと視線を泳がし、しかし焦がれるように腰を上げ、ちょこちょこと移動した。
体格差により、誂えたように日下へと収まる。
……小さな背中だ。
頑張ってきたんだなぁ、という想いがまざまざと込み上げてきた。
そっと包み込むようにその小さな身体を抱きしめる。
「ひゃん!」
びくっと、小さく跳び上がる夜代。
「……やっぱり嫌だった?」
「ぜ、全然……! む、むしろ、こんなにいいものだったなんて……!」
ちらりと様子を窺うと、彼女の頬は本当に嬉しそうに上がっていた。
「……映画だと、この後は頭を撫でたんだっけ」
彼女は観る余裕がなかっただろうが(今も何となく気まずくならないよう、音量を下げて流している)。
「え、えっと……じゃあ、それも……」
夜代が遠慮がちに頷いてくる。
うん、と頷き、頭をゆっくりと撫でていく。
「は、はぅぅ……!」
お気に召したようだ。
そのまま何度も撫でると、ようやく緊張を解いてこちらへ身体を預けてきた。
「……やっぱり、仕事大変だった?」
「…………はい。大変でした」
はぁ、と溜まっていたストレスが吐き出されていく。
「頼っていいんだからね?」
「い、いえ……! 日下さんには、心配かけっぱなしで……!」
「……でも夜代さん、一回も連絡くれなかったから……。風邪とか引いてたんじゃないの?」
「う……で、でも、市販薬とレトルトのおかゆ、用意してたんで……」
「やっぱり……」
無理をしていたし、遠慮もされていた。
両腕で抱擁し、彼女の小さな頭にそっと頬を寄せる。
「っ!?」
「もっと、頼ってくれていいんだからね……」
「は、はい……」
夜代の頬に、酒ではない赤みがさしたような気がした。
もう一度ゆっくりと頭を撫でていく。
「ぁぁ……」
身も心も預けてくるような感覚があった。
「じゃ、じゃあもっと、わがまま言っていいですか……?」
「うん、いいよ」
気軽な気持ちで彼は頷いた。
「じゃ、じゃあ……つ、次は、お……おっぱいを、触っていただけると……」
「それは映画にない!」
あれは全年齢が対象だ。
3.
「や、やっぱり……! エッチ、できないんじゃあ……!」
う、う、と折角引っ込んでいた涙がまた出てきてしまった。
やはり彼女は限界。ハグして頭を撫でたくらいじゃ全然足りなかった。
「……夜代さんは嫌じゃないの? 胸触るって、結構なことだと思うんだけど……」
「く、日下さんなら……! べ、別に嫌じゃなくて……! むしろ、触ってほしいというか……あ!」
失言に気づいたか、誤魔化すようにお酒へ手を伸ばす夜代。
「あ! もう呑みすぎない方が!」
「だ、だってぇ……」
くぴりと一口だけ呑む夜代。
どうしようか、と再び悩む。
……それなりに好意は持ってくれているようだ。
だったらもう少し応えてあげてもいいのだろうか。
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