モブってなんだ

くしみたま

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モブってなんだ

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 俺には地球で生きていた前世の記憶がある。
 ってか、俺の住んでる国の人間の二人に一人は前世の記憶持ちだ。一番多い前世は同じ大陸内の人。地球の記憶持ちも多い。
 地球の記憶持ちで一番多いのは英語圏の人。ただ、英語喋っててもどうやらインドの人が多いらしい。続いて中国語圏。日本語圏の人は地球の記憶持ちの中で三番目に多い。単純に人口数で言えば他の国の人の方が多いはずなのだが、日本語の人が多い。謎。あれか。転生って概念に馴染みが深いからか。
 ただ、地球と言っても全く同じ世界じゃないらしく、フランスが共和国ではなく王国だったり、日本が邪馬台国だったりするので、似たような別の世界らしい。
 俺はそんな前世持ち過多の王国のオーカ公爵家の三男二女の三男として生まれた。ちな、長兄が俺と同じ日本人、次女妹が邪馬台国人、母がパラオ人だ。全員日本語。バンザイ。
 あと、王国の名前はキングダム王国。名前つけたヤツ出て来い。

 そんな平和なキングダムで生まれ育った俺だが、今、暴走中の第五王子(従兄弟)に辟易している。

「うるさいっ!レオンはヒロインのマリアたんと結婚するんだっ!モブなんかと婚約してたまるか!せめて悪役令嬢連れてこい!」

 もう一度言おう。第五王子に辟易している。
 時々居るんだよ、この国が何かの創作の世界で、自分がその世界の重要人物だと思い込むヤツが。何処の世界に七人居る王子の五番目をメインキャラにする作品があるって言うんだ。目を覚ませ。
 レオンの言うことには、この国は「なんとかの華はなんとかに輝く」とか言う(なんとかが何だったかは忘れた)スマホアプリの舞台で、希少な光魔法の素質を持ったヒロインのマリアが魔法学校に入学して、イケメンと恋愛をしていく女性向けゲーム、らしい。レオン王太子はその中でメイン攻略対象なんだと。
 いや、王太子って、お前五男だろが。しかも一人称が自分の名前な七歳児って、普通より幼いよな?半年前に前世話した時、享年四十二って言ってなかったか?前世十八で死んだ俺よりも、明らかに幼児化してないか?

「あらあら、お子ちゃまねぇ」

 モブと呼ばれた、レオンと同じ七歳の妹ミアがニコニコしている。確かに地味顔だが、享年九十六歳の大往生。人生の酸いも甘いも吸い尽くした貫禄の前には、お子ちゃま王子の言葉も立て板に水だ。

「まだ魔法も信じているのねぇ。可愛らしいわぁ」

 おばあちゃん目線である。
 見合いの顔合わせに王城へ行くと聞いて、「お兄ちゃま、怖いので手を繋いで来てください」と、俺に縋り付いて来たのだが、従兄弟のレオンの言動により、年相応の幼さは一瞬で失せ、幼子を見守る視線になった。
 去年の年末のパーティで、王城にマジシャンがやって来て、巨大な象が一瞬で消えたり、炎に包まれ縛られたた箱の中から脱出するイリュージョンマジックを披露した。それを見てレオンは「ここは魔法のある世界だ」と思い込んだらしい。前世で見たこと無かったのかな、〇〇イリュージョン。
 前世も男なのに女性向けゲームやってたのか?とか、色々ツッコミどころが多いが、可愛い従兄弟の発言の中で気になるところがひとつ。

「なぁ、ミアがモブってことは、俺もモブ?」

 俺は公爵家の三男だし、公爵家で余ってる爵位は次兄と長姉に与えられることになっている。官僚になるか騎士になるか、若しくは何処か爵位のある所へ婿入りしないと平民だ。モブだと平民になるんかなぁ。

「アキ兄ちゃんは正規ルートだとモブだけど、全クリ特典開放ルートの隠しキャラ」

 ほうほう。なになに、「キングダムシャドウ」っていう王国暗部組織が有って、闇魔法を得意とするが為に常に陰に徹することを強いられた根暗キャラで、ヒロインの優しさに絆されて明るさを取り戻していく、と。陰キャかよ、俺! 

「よし!レオンに重大な真実を教えてやろう!」

 俺は大見得を張った。まぁ、読者の方はだいたい気付いているだろう真実だ。

「まず、この国は『なんとかの山はなんとかにざわめく』ってゲームの世界じゃないし、魔法もないし魔法学校もない、ヒロインも居ない!」

「えっ」

 そう、この国には普通にスマホもパソコンも有るし、なんなら技術的には俺の前世の日本よりも若干進んでいるハズだ。
 何しろ、人口の半数が二千年代地球からの転生者。当然専門知識を持ったヤツもわんさか居るわけで、そんなヤツらが知識や技術チートしようと犇きあった結果が現在のキングダムだ。世界最先端の知識を持った連中がそのまま転生してんだぞ。発展しないわけが無い。でも、リクビダートルの前世持ちの猛反対により、原発は無い。風力水力太陽光がこの国の三大発電だ。
 ちな、スマホは年齢一桁のお子ちゃまには与えられないし、『ネット環境は子供の教育に悪い』云々の世論もあるので、レオンが見たこと無くても仕方ない。勿論、俺も持っていない。
 けど、自分の部屋に普通にテレビも録画機もあるじゃん。疑問に思わなかったのか?「魔道具だと思った」あ、そう。

「魔法なんてないから魔法学校なんて無いし、王家の陰はただの暗部な。名前なんてねーよ」

 暗部に態々それっぽい名前付けるとか、どこの嬉しがりだよ。

「最後に一番大事なことだ!ミアはモブじゃなくてヒロインだ!婚約者に粗雑に扱われる転生ヒロインだ!」

 この言葉を聞いた時のレオンの表情は凄かった。人間ってあんなに目を見開けられるのな。マジで目玉が落ちるんじゃないかと思った。目も口も正しく真ん丸だった。しばらく固まった後、「転生ヒロイン、溺愛?スピンオフの小説?」と、ブツブツ呟きだした。

「おう!それそれ!大事にしないとざまぁされるぞ!」

 素直なレオンはコクコクと頷いた。

 この国は前世の記憶持ち過多だが、持って生まれるのはあくまでも記憶のみ。赤ん坊からやり直しなんだから、まあ、初めから技術なんて持ってる訳がない。
 それに、精神は肉体に引きずられるっていうのは身を持って体験してる。前世大往生のミアは俺がいないと怖くて自宅から出られないし、俺も参考書読まなきゃと思いつつチャンバラごっこに勤しむのだ。前世玄孫まで居ようが、アラフォーだろうが、DKだろうが、七~八歳児に大きな違いはない。
 つまり、何が言いたいかと言うと。

「よし。分かったら、遊ぶぞ!あと、今度ミアのことモブとか言ったら、本気で泣かすかんな!」

「あらあら。うふふ」

 自分に甘える一つ違いの妹は普通に可愛いし、見合いなんてそっちのけで仲良し従兄弟と遊ぶ方が大事なのだ。

 人間誰しも、自分が主役の物語を生きている。誰かにモブと言われようと、俺たちはみんな、ヒロインでヒーローだ!

 レオンとミアがラブコメの主人公になれるかどうかは、まだまだ先の話。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


数年後「私ヒロインなのに、魔法要素無いってどういう事!?なんでこんなに転生者だらけなの!?」という叫び声が、王国の片隅で鳴り響いたとかいないとか。




主人公は元のアプリゲームに欠片も興味がないので「なんとかのなんとかはなんとか」としか覚えていません。

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