闇の王と菫青石の宝珠〜侯爵令嬢ですが、失踪した兄を捜すついでにイケメンだらけの騎士団に潜入して、魔物討伐も行って参りますっ！〜

第8章 嵐の前

第137話 影の精霊②（side お父様）

　どのくらい経ったか。精霊王がゆっくりと瞳を開き、その視線を真っ直ぐに私に向けた。

『この森に……ある物、については、知らぬ筈だ。東の魔女は……フェリズ山脈にある物を……ヒューバートの言うように……その為に、魔眼を欲しているのだろう』

　話せるギリギリの範囲での回答であったのだろう。時々言葉を詰まらせ、選び語った精霊王を見上げ思う。何かを訴えかける様な瞳に、私は一つ頷く。

　何としても、魔女の企みを阻止しなくては。

「この森にある物と、フェリズ山脈にある物は、同じ物でありますか？」

　その問いに、精霊王は首を横に振った。
　違う物という事か……。

「どちらかが消滅すれば、復活は阻止出来ると思われますか？」
『この森にある……対になる物を探せ』
「対に、なるもの、でございますか？」

　精霊王が首を縦に振る。

『思い出せ。知恵の女神が伝えた事を。知識の湖で見た、我々の会話を』

　知識の湖で見た、会話……。

　あの時、精霊王が言った。

【ルーラの森に、×××の××××を隠せと言うのか？】

　私はハッと気付き、精霊王を見つめる。

　精霊王は、小さく頷いた。

「それが、フェリズ山脈にある可能性は？」
『分からぬ……。だが、この状況だ。北の魔女が何かしら知っているやも知れぬ』
「き、北の魔女殿は、まだ健在であられるのか？！」

　八百年前の姿は、少女の様であったが……。
　私の問いに、精霊王は一つ頷く。

『ナリシアに報せを届けよう。フェリズ山脈へ行くが良い。ガブレリア王国側のフェリズ山脈へ』
「し、シルフィード殿！　万が一、フェリズ山脈にあったとして……！　で、ですが！　魔眼であった我が先祖でさえ破壊出来なかった物を、魔眼でない私が破壊する事は……」
『破壊出来ないと知っていて、私に聴きに来たのは何故だ？　それでも、企てを阻止することは出来るのでは無いのかと、思ったからであろう？』

　私は眼を大きく見開き、ごくりと生唾を飲み込むと「はい……」と、ゆっくりと頷いた。