荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう

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17果てて帰途につく

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「さて、この後のことだが――」

 俺たちは、
 宿の前にある足湯に並んで腰を下ろし、湯に足を浸しながら話していた。

 隣では、

「もぐもぐもぐ……」

 アヤメが、今日も温泉まんじゅうと真剣勝負中である。

「仲間を見つける――今回の旅の目的は果たせた。
 一度、バンジ殿のもとへ戻ろうと思う」

 俺がそう言うと、
 アヤメがまんじゅうを頬いっぱいに詰めたままこちらを振り向いた。

 目がきらり、と光る。

「もごもごもご」

「アヤメ、食べてから話しなさい」
 オルフィナが諭す。

「バンジ殿とは?」
 エリオットが首を傾げる。

「アヤメの父君だよ」
「なるほど……!」

 ようやく飲み込んだアヤメが、小さく頷いた。

「よろしいのでしょうか……? 本当に戻っても」
「ああ。父君の様子も気になるだろ?」
「……ありがとうございます」

 アヤメは胸の前で手をぎゅっと握りしめていた。

 こうして、俺たちはバンジの村を目指し、森へ入っていった。

 ◇
 
 その夜。
 俺たちは森の中で野営し、焚火を囲んでいた。

 アヤメは毛布にくるまって、すでにすやすやと寝息を立てている。
 焚火の橙色の光が揺れ、森の闇をささやかに押し返している。

 ふと、オルフィナがぽつりと口を開いた。
「……リオがいなくなって、な」

 静かな、けれど芯のある声だった。

「自分の“本当の実力”を思い知らされて……
 私は、自信をすっかり失っていた。
 最初は、村に戻って、静かに暮らすつもりだった」

 エリオットが、場違いなくらい明るい声で言う。

「スランプは誰にでもあるよ?」

 オルフィナは苦笑しつつ、ゆっくりと続けた。

「だが……アレクスとアヤメに旅へ連れ出されて、
 アレクスの奮闘や、アヤメの成長を間近で見て……
 思い出したのだ。
 昔、大学に入学した頃に抱いていた“冒険者へのあこがれ”を」
 
 焚火の光が、彼女の横顔をやさしく照らす。
 その瞳は、迷いの影を振り払ったように澄んでいた。

「だから……撤回する。
 私は――冒険者を続けたい」

 その言葉はまっすぐで、飾り気がなくて。
 胸にぐっとくるものがあった。

「……ああ。俺たちは、これからもパーティメンバーだ」

 それ以上言うと、涙が出そうだったので黙った。

「初心に返る──ってやつだね!!」

 エリオットが、よく分からないまとめ方をして、
 オルフィナが「ああ……まあ、そうだな」と苦笑する。

 ぱち、ぱち、と薪がはぜる音が、
 夜の森の静けさへ吸い込まれていった。
 


 俺たちは、森の中を進んだ。

 村が近づいてきたころ、獣道へと抜けた。

 アヤメが地面を見て目を細める。

「アレクス様。これは……出ますね。イノシシ」

「ああ、出るな。イノシシ」

 俺たちのやりとりを聞いて、エリオットがびっくりした顔をした。

「なんで分かるの!?」

 と言っている間に――

 がさごそっ。

 藪から、案の定、大イノシシが姿を現した。
 丸太のような足、岩みたいに盛り上がった背中。
 鼻息は白く荒く、地面を踏むたびに土が震える。
 目が合った瞬間、低く「ブモッ」と唸った。

(……でかいし、機嫌悪そうだな)

「すごい……本当に出た……!」
 エリオットは完全に呆然だ。

 俺は振り返り、アヤメに問う。

「アヤメ、一人でやれるか?」

「はい!」

 エリオットが慌てて割り込んできた。

「ちょっと待って!?
 大イノシシ相手に、
 レンジャー見習いの女の子を一人で戦わせるってどういう判断!?」

(見習いって……アヤメは“霧獣王”を倒してるんだぞ……)

 エリオットは未だにアヤメの実力を理解していないらしい。

 わちゃわちゃとうるさくなってきたので、俺は仕切り直した。

「分かった。なら、アヤメ。今回は“僧侶がいる場合の戦い方”だ。
 最初の頃みたいに、エリオットが隙を作る。お前がとどめを刺す」

「はい!」

「アレクスとオルフィナは……?」
「見てる」
「……見てるだけ?」
「見てるだけ」
「……」
「……」

 エリオットは天を仰いだ。

「アヤメちゃん……ほんと、君はひどい師匠を持ったもんだよ……」

 そうぼやきながら、エリオットはイノシシの正面へ立った。
 アヤメは射線を確保した位置にすっと移動する。

 イノシシが地面を蹴った。

 突進。

「来い……!」
 エリオットは集中し、障壁呪文を展開した。

 バンッ!

 透明な壁にイノシシが激突――

 そのほぼ同時。

 スパッ。

 アヤメの矢が、イノシシの脳天を正確に射抜いていた。

「は、はやっ!!」
 エリオットは目をひんむく。

 アヤメに駆け寄るエリオット。

「アヤメちゃん!すご――っととっ!」

 小石につまずき、派手に前のめりになって地面に顔面を強打した。

「油断と慢心には注意しろ、アヤメ」
「はい。本日もご指導ありがとうございました」

 偉そうに師匠ぶってはいるが――あの矢の速度は俺も正直驚いた。

 隣のオルフィナは、目をウルウルさせながらアヤメを見つめている。
 同じく、成長ぶりに胸を打たれているのだろう。

 その後、アヤメは素早く大イノシシの血抜きを行った。
 俺も手伝う。

 横で見ていたエリオットは、ぽかんと口を開けたままだった。

「なんか……アレクス。
 イノシシの出現を言い当てたり、イノシシを手際よく処理したり……
 しばらく見ない間に、完全に“狩人”みたいになってない?」

「ちまたでは、『イノシシスレイヤー』って呼ばれているぞ。」
 オルフィナが真顔で言う。

「ええ!? すごい!」
「すごくない!呼ばれてない!!」
 俺は全力で否定した。
 


 先を進みながら、オルフィナはアヤメの頭をなでなでしていた。
 俺とエリオットは、
 縄でぐるぐる巻きにした大イノシシを引きずりながら後に続く。
 
 そんな穏やかな一行の影が、森の奥へとゆっくり伸びていった。
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