44 / 46
最終章3 名は響けど、姿は遠く
しおりを挟む
俺たちは、ついに貿易都市〈アルバトロッサ〉へと到着した。
アルバトロッサ――
西方でもっとも国際色豊かで、冒険者・商人・魔術師が渦巻く大都市。
高い城壁に囲まれ、巨大な城門をくぐった瞬間、
まるで潮のように人と音と匂いが押し寄せてくる。
露店の呼び声、馬車の車輪、異国語の喧騒、多種多様な魔道具の光。
大陸都市〈グラン=メナス〉に匹敵する規模でありながら、
その雰囲気はまるで別世界のようだった。
俺たちは、巨大な建物と人の波に圧倒され、
思わずキョロキョロと周囲を見回してしまう。
まずはギルドへ向かうことにした。
ギルドもまた巨大で、外観も内装も洗練されている。
どこか〈グラン=メナス〉の冒険者ギルドを思い出させる構造だ。
受付カウンターへ進み、俺たちは探し人の名を告げた。
「レンジャーのリオ。
それから、聖騎士フィーナ、聖女リアナ、大魔導士ヴァレンティナを探している」
受付嬢は少し目を瞬かせたあと、意外な言葉を返してきた。
「……レンジャーのリオ様?
その三名の方を従えておられるのは、おそらく――大賢者リオ様のことでしょう」
「大賢者……? レンジャーでも、従者でもなく?」
俺たちは思わず顔を見合わせた。
これまでの街では、リオは彼女たちの陰にひっそりと隠れるようにしていた。
名前すら知られていないことも珍しくなかった。
それがここに来て――
突如、リオの名が前面に出てきた。
しかも、“大賢者”などという、とんでもない称号つきで。
「詳しい話をお聞きしたいのだが」
「承知いたしました。しばらくお待ちください」
受付嬢が奥へ下がるとほどなくして、
案内役を名乗る男が姿を現した。
名は、ドラゴ。
俺たちは彼に案内され、ギルドの応接室へと通された。
椅子に腰を下ろすと、ドラゴは丁寧に頭を下げ、語り始めた。
「大賢者リオ様について、お知りになりたいとのことですね。
そうですね……
リオ様がこのギルドに登録されたのは、もう一年近く前になります」
俺たちは思わず息を呑む。
「リオ様のパーティは、困難なクエストを次々とこなされ、
その名は瞬く間に街中へ広まりました。
やがて王族、有力貴族、軍にも噂が届き――
国家レベルの依頼が舞い込むようになりましてな」
ドラゴは感慨深げに続ける。
「それらの依頼も、次々と、鮮やかに成功へ導かれました。
美貌の三名の女傑を従え、中心に立つリオ様は、
いつしか“大賢者リオ”と呼ばれるようになったのです」
言葉が頭に入ってこないほど衝撃だった。
「今では、この街の西の丘にある古城を買い取り、そこで暮らされております。
リオ様へのクエスト依頼は殺到しておりますが……
よほどの案件でなければ、最近はお受けになりません」
「城を訪れる者も多いものの、
余程の地位ある御仁でも、容易には会えぬとか」
そこまで聞き、俺は椅子に沈み込んだ。
(……あのリオが?)
俺の知るリオは、控えめで、 飄々としていて、
とても英雄然とした人物ではなかった。
「それは……本当に、あのリオなのだろうか。
あいつ、そんな派手に振る舞うやつじゃなかったはずだが」
オルフィナも困惑を隠せない。
「人が変わった、って感じだね……」
エリオットが小声でつぶやく。
不安を察したのか、アヤメは黙ったまま、
ぎゅっと手を握りしめていた。
俺は、胸の奥にわだかまる疑問を抑えきれず、口を開いた。
「リオに会うことは……そんなに難しいのか?」
ドラゴは、気まずそうに眉を下げ、静かに答えた。
「そうですね。
大賢者リオ様にお会いするのは、なかなか……困難かと」
「なぜだ?」
俺は身を乗り出した。
「なぜ、そんなにも会おうとしない?」
ドラゴは、言葉を選ぶように一度息を整え、それから続けた。
「……あくまで噂話の域を出ませんが。
国家級の依頼も含め、かなりの数のクエストを受けておられたようでして」
彼は曖昧に肩をすくめる。
「その中には、報酬や名目ばかりが先に立つ依頼も多かった、と耳にします。
詳しい事情までは、我々にも分かりませんが……
最近は、あまり人と会おうとされない、という話は聞いております」
静かな部屋に、その言葉だけが重く落ちた。
そんなリオは俺の知るリオではなかった。
けれど、あいつの性格を知っているからこそ――
妙に納得もできてしまう。
すると、隣でエリオットがぽつりと言った。
「まあ……有名人ならではの悩み、ってやつかもね。
ぼくたちみたいな一般人とは、背負ってるものが違いすぎるよ」
軽く言ったつもりなのだろうが、
その声音には、どこかしらの寂しさが滲んでいた。
(リオ……本当に、どうしてしまったんだ)
胸の奥に、不安とも焦燥ともつかないざわめきが生まれた。
俺はドラゴに向き直り、静かに頼んだ。
「だめもとでいい。
リオに面会の依頼を出してもらうことはできるだろうか?」
ドラゴは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに真面目な表情で頷いた。
「……わかりました。試してみましょう。
また、明日にでもお越しください。返事が来ているやもしれません」
丁寧に礼を告げ、俺たちはギルドを後にした。
まずは宿へと向かうことにする。
◇
夕食の席。
香草の蒸し肉が湯気を立てる中、俺たちは自然と話し合いを始めていた。
「ようやくリオにたどり着いた。
……が、もっと気楽に顔を見られると思っていたのだが、だいぶ想像と違ったな」
思わず弱音が漏れる。
異国の大都市に来たせいだけではない。
胸の奥にざらつく不安が広がっていた。
「会うのにも一苦労とはな」
オルフィナが腕を組んで唸る。
「それでも……昔の仲間であるアレクス様たちには、お会いになるのでは?」
アヤメが、小さな声で、けれど明るい希望を込めて言った。
その期待に応えたいのに――
なぜか俺の心は重く沈んでいた。
「……いや。あいつは、俺たちに恨みもあるだろう。
余計に会いたくないと考える可能性のほうが高い気がする」
口にした瞬間、自分でも驚くほど弱気な声だった。
仲間なのに。
もう一度会いたいと思っているのに。
それでも、不安が拭えなかった。
アルバトロッサ――
西方でもっとも国際色豊かで、冒険者・商人・魔術師が渦巻く大都市。
高い城壁に囲まれ、巨大な城門をくぐった瞬間、
まるで潮のように人と音と匂いが押し寄せてくる。
露店の呼び声、馬車の車輪、異国語の喧騒、多種多様な魔道具の光。
大陸都市〈グラン=メナス〉に匹敵する規模でありながら、
その雰囲気はまるで別世界のようだった。
俺たちは、巨大な建物と人の波に圧倒され、
思わずキョロキョロと周囲を見回してしまう。
まずはギルドへ向かうことにした。
ギルドもまた巨大で、外観も内装も洗練されている。
どこか〈グラン=メナス〉の冒険者ギルドを思い出させる構造だ。
受付カウンターへ進み、俺たちは探し人の名を告げた。
「レンジャーのリオ。
それから、聖騎士フィーナ、聖女リアナ、大魔導士ヴァレンティナを探している」
受付嬢は少し目を瞬かせたあと、意外な言葉を返してきた。
「……レンジャーのリオ様?
その三名の方を従えておられるのは、おそらく――大賢者リオ様のことでしょう」
「大賢者……? レンジャーでも、従者でもなく?」
俺たちは思わず顔を見合わせた。
これまでの街では、リオは彼女たちの陰にひっそりと隠れるようにしていた。
名前すら知られていないことも珍しくなかった。
それがここに来て――
突如、リオの名が前面に出てきた。
しかも、“大賢者”などという、とんでもない称号つきで。
「詳しい話をお聞きしたいのだが」
「承知いたしました。しばらくお待ちください」
受付嬢が奥へ下がるとほどなくして、
案内役を名乗る男が姿を現した。
名は、ドラゴ。
俺たちは彼に案内され、ギルドの応接室へと通された。
椅子に腰を下ろすと、ドラゴは丁寧に頭を下げ、語り始めた。
「大賢者リオ様について、お知りになりたいとのことですね。
そうですね……
リオ様がこのギルドに登録されたのは、もう一年近く前になります」
俺たちは思わず息を呑む。
「リオ様のパーティは、困難なクエストを次々とこなされ、
その名は瞬く間に街中へ広まりました。
やがて王族、有力貴族、軍にも噂が届き――
国家レベルの依頼が舞い込むようになりましてな」
ドラゴは感慨深げに続ける。
「それらの依頼も、次々と、鮮やかに成功へ導かれました。
美貌の三名の女傑を従え、中心に立つリオ様は、
いつしか“大賢者リオ”と呼ばれるようになったのです」
言葉が頭に入ってこないほど衝撃だった。
「今では、この街の西の丘にある古城を買い取り、そこで暮らされております。
リオ様へのクエスト依頼は殺到しておりますが……
よほどの案件でなければ、最近はお受けになりません」
「城を訪れる者も多いものの、
余程の地位ある御仁でも、容易には会えぬとか」
そこまで聞き、俺は椅子に沈み込んだ。
(……あのリオが?)
俺の知るリオは、控えめで、 飄々としていて、
とても英雄然とした人物ではなかった。
「それは……本当に、あのリオなのだろうか。
あいつ、そんな派手に振る舞うやつじゃなかったはずだが」
オルフィナも困惑を隠せない。
「人が変わった、って感じだね……」
エリオットが小声でつぶやく。
不安を察したのか、アヤメは黙ったまま、
ぎゅっと手を握りしめていた。
俺は、胸の奥にわだかまる疑問を抑えきれず、口を開いた。
「リオに会うことは……そんなに難しいのか?」
ドラゴは、気まずそうに眉を下げ、静かに答えた。
「そうですね。
大賢者リオ様にお会いするのは、なかなか……困難かと」
「なぜだ?」
俺は身を乗り出した。
「なぜ、そんなにも会おうとしない?」
ドラゴは、言葉を選ぶように一度息を整え、それから続けた。
「……あくまで噂話の域を出ませんが。
国家級の依頼も含め、かなりの数のクエストを受けておられたようでして」
彼は曖昧に肩をすくめる。
「その中には、報酬や名目ばかりが先に立つ依頼も多かった、と耳にします。
詳しい事情までは、我々にも分かりませんが……
最近は、あまり人と会おうとされない、という話は聞いております」
静かな部屋に、その言葉だけが重く落ちた。
そんなリオは俺の知るリオではなかった。
けれど、あいつの性格を知っているからこそ――
妙に納得もできてしまう。
すると、隣でエリオットがぽつりと言った。
「まあ……有名人ならではの悩み、ってやつかもね。
ぼくたちみたいな一般人とは、背負ってるものが違いすぎるよ」
軽く言ったつもりなのだろうが、
その声音には、どこかしらの寂しさが滲んでいた。
(リオ……本当に、どうしてしまったんだ)
胸の奥に、不安とも焦燥ともつかないざわめきが生まれた。
俺はドラゴに向き直り、静かに頼んだ。
「だめもとでいい。
リオに面会の依頼を出してもらうことはできるだろうか?」
ドラゴは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに真面目な表情で頷いた。
「……わかりました。試してみましょう。
また、明日にでもお越しください。返事が来ているやもしれません」
丁寧に礼を告げ、俺たちはギルドを後にした。
まずは宿へと向かうことにする。
◇
夕食の席。
香草の蒸し肉が湯気を立てる中、俺たちは自然と話し合いを始めていた。
「ようやくリオにたどり着いた。
……が、もっと気楽に顔を見られると思っていたのだが、だいぶ想像と違ったな」
思わず弱音が漏れる。
異国の大都市に来たせいだけではない。
胸の奥にざらつく不安が広がっていた。
「会うのにも一苦労とはな」
オルフィナが腕を組んで唸る。
「それでも……昔の仲間であるアレクス様たちには、お会いになるのでは?」
アヤメが、小さな声で、けれど明るい希望を込めて言った。
その期待に応えたいのに――
なぜか俺の心は重く沈んでいた。
「……いや。あいつは、俺たちに恨みもあるだろう。
余計に会いたくないと考える可能性のほうが高い気がする」
口にした瞬間、自分でも驚くほど弱気な声だった。
仲間なのに。
もう一度会いたいと思っているのに。
それでも、不安が拭えなかった。
2
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
二度目の勇者は救わない
銀猫
ファンタジー
異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。
しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。
それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。
復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?
昔なろうで投稿していたものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる