39 / 61
第39章 SE、海を見る。
しおりを挟む
馬車は再び走り出した。
満月の光が消え、東の空がうっすらと白み始める。
レイナさんは、戦いの後すぐに深い眠りに落ちた。
あの呪文――すべての精神力を使い果たしたのだろう。
馬車の中で、彼女は穏やかな寝息を立てていた。
その姿を見ながら、誰もが言葉を失っていた。
夜風が頬をなで、馬の足音だけが静かに響く。
太陽が昇るころ、ようやく森を抜けた。
そこから先は、緩やかな丘陵と街道が続く。
港町オルビアまでの道のりは、もう安全圏だ。
朝の光を受けて、レイナさんがゆっくりと目を覚ます。
まだ少し疲れの残る顔で、それでも微笑を浮かべながら言った。
「魔法使いの修業時代、師匠に言われたの。
『一つのことしかできないなら、それを極め抜け』って。
だから……この魔法ばかり練習してたの。」
彼女の言葉に、馬車の中が一瞬静まる。
ルナが少しだけ目を細め、静かに言った。
「……こればかり練習してたからって、
普通、あそこまでできないですよ? レイナさん。」
レイナさんは小さく肩をすくめた。
「そうかしら?」
その笑顔に、馬車の空気がふっと柔らぐ。
緊張と恐怖の夜を越え、ようやく皆の心に朝が戻ってきた。
幾日かの旅の末、俺たちは無事、港町オルビアに到着した。
潮の香りが風に乗って流れ、カモメの鳴き声が遠くに響く。
港の向こうには、青い海と白い帆船の列。
そして――この海のどこかに、英雄アレクスが眠っている。
俺たちの次の目的地が、静かに見えてきた。
港町オルビア――。
その名のとおり、青い海と白い帆船に囲まれた、陽光まぶしい港の街だ。
潮の香りが鼻をくすぐり、遠くでは魚市場の威勢のいい掛け声が響いている。
街に足を踏み入れた瞬間、俺たちは思わず顔を見合わせた。
ここまで来るのに十日あまり。
旅の疲れはあるが、達成感の方が勝っていた。
「うわぁ……海だぁ!」
ルナが子どものような声をあげる。
マルコも目を輝かせながら、防波堤の方を指差した。
「すごい……本当に、あの水平線の向こうまで広がってるんですね!」
その隣で、レイナさんは静かに海を見つめていた。
目を細め、潮風に髪をなびかせながら、何かを探すように。
「アレクスも、この風を感じたのかもしれない……」
その呟きは、波音に溶けていった。
俺たちは、まず街の中央区にあるギルドへ向かった。
オルビアのギルドは、海沿いの街らしく、
石造りの外壁に大きな舵輪の紋章が掲げられている。
中に入ると、潮風が混じった独特の匂いがした。
荷物を背負った冒険者たち、海図を広げる船乗り、
そして忙しなく歩き回るスタッフたち──
港町ならではのざわめきが広がっていた。
レイナさんは、バッグから丁寧に折り畳まれた封書を取り出す。
アレクスの故郷のギルド長が書いてくれた招待状だ。
ギルド間の正式な紹介状ともなれば、話は通りやすい。
「人を探しています。アレクスという名の戦士です。」
レイナさんが受付に紹介状を差し出すと、
若いスタッフは一瞬だけ驚いたように目を瞬かせた。
「……戦士アレクス、ですか?」
その問いに、レイナさんは小さくうなずく。
スタッフは紹介状を確認したあと、
すぐに表情を引き締めて奥へ引っ込んだ。
――しばらくして。
「お待たせいたしました。
うちのギルド長がお話を伺うとのことです。
どうぞこちらへ。
……お付きの方もご一緒に。」
ていねいな会釈とともに、奥の通路を指し示す。
海の街のギルドらしく、通路には古びた錨や帆の切れ端が飾られていた。
その中を抜け、案内された部屋の前でスタッフが軽くドアをノックする。
「ギルド長、冒険者の皆さまをお連れしました。」
「入ってくれ。」
低く落ち着いた声が答える。
ドアが開き、俺たちは一歩足を踏み入れた。
部屋の中には、年配の男がデスクに座っていた。
海で焼けたような浅黒い肌、深い皺、鋭い眼光。
ただ者ではない存在感。
彼が──オルビアのギルド長。
「遠いところ、ご苦労だったな。
紹介状は確かに受け取った。
……戦士アレクスについて、話を聞きたいそうだな?」
その言葉に、レイナさんは静かに息を吸い込んだ。
「……どうしても、彼の居場所を知りたいのです。」
ギルド長はしばらく彼女を見つめ、
眉をわずかに動かすと、手元の書類を閉じた。
ギルド長は、しばらく俺たちの顔を見回したあと、重々しく口を開いた。
「……戦士アレクスは、この街にいる。」
満月の光が消え、東の空がうっすらと白み始める。
レイナさんは、戦いの後すぐに深い眠りに落ちた。
あの呪文――すべての精神力を使い果たしたのだろう。
馬車の中で、彼女は穏やかな寝息を立てていた。
その姿を見ながら、誰もが言葉を失っていた。
夜風が頬をなで、馬の足音だけが静かに響く。
太陽が昇るころ、ようやく森を抜けた。
そこから先は、緩やかな丘陵と街道が続く。
港町オルビアまでの道のりは、もう安全圏だ。
朝の光を受けて、レイナさんがゆっくりと目を覚ます。
まだ少し疲れの残る顔で、それでも微笑を浮かべながら言った。
「魔法使いの修業時代、師匠に言われたの。
『一つのことしかできないなら、それを極め抜け』って。
だから……この魔法ばかり練習してたの。」
彼女の言葉に、馬車の中が一瞬静まる。
ルナが少しだけ目を細め、静かに言った。
「……こればかり練習してたからって、
普通、あそこまでできないですよ? レイナさん。」
レイナさんは小さく肩をすくめた。
「そうかしら?」
その笑顔に、馬車の空気がふっと柔らぐ。
緊張と恐怖の夜を越え、ようやく皆の心に朝が戻ってきた。
幾日かの旅の末、俺たちは無事、港町オルビアに到着した。
潮の香りが風に乗って流れ、カモメの鳴き声が遠くに響く。
港の向こうには、青い海と白い帆船の列。
そして――この海のどこかに、英雄アレクスが眠っている。
俺たちの次の目的地が、静かに見えてきた。
港町オルビア――。
その名のとおり、青い海と白い帆船に囲まれた、陽光まぶしい港の街だ。
潮の香りが鼻をくすぐり、遠くでは魚市場の威勢のいい掛け声が響いている。
街に足を踏み入れた瞬間、俺たちは思わず顔を見合わせた。
ここまで来るのに十日あまり。
旅の疲れはあるが、達成感の方が勝っていた。
「うわぁ……海だぁ!」
ルナが子どものような声をあげる。
マルコも目を輝かせながら、防波堤の方を指差した。
「すごい……本当に、あの水平線の向こうまで広がってるんですね!」
その隣で、レイナさんは静かに海を見つめていた。
目を細め、潮風に髪をなびかせながら、何かを探すように。
「アレクスも、この風を感じたのかもしれない……」
その呟きは、波音に溶けていった。
俺たちは、まず街の中央区にあるギルドへ向かった。
オルビアのギルドは、海沿いの街らしく、
石造りの外壁に大きな舵輪の紋章が掲げられている。
中に入ると、潮風が混じった独特の匂いがした。
荷物を背負った冒険者たち、海図を広げる船乗り、
そして忙しなく歩き回るスタッフたち──
港町ならではのざわめきが広がっていた。
レイナさんは、バッグから丁寧に折り畳まれた封書を取り出す。
アレクスの故郷のギルド長が書いてくれた招待状だ。
ギルド間の正式な紹介状ともなれば、話は通りやすい。
「人を探しています。アレクスという名の戦士です。」
レイナさんが受付に紹介状を差し出すと、
若いスタッフは一瞬だけ驚いたように目を瞬かせた。
「……戦士アレクス、ですか?」
その問いに、レイナさんは小さくうなずく。
スタッフは紹介状を確認したあと、
すぐに表情を引き締めて奥へ引っ込んだ。
――しばらくして。
「お待たせいたしました。
うちのギルド長がお話を伺うとのことです。
どうぞこちらへ。
……お付きの方もご一緒に。」
ていねいな会釈とともに、奥の通路を指し示す。
海の街のギルドらしく、通路には古びた錨や帆の切れ端が飾られていた。
その中を抜け、案内された部屋の前でスタッフが軽くドアをノックする。
「ギルド長、冒険者の皆さまをお連れしました。」
「入ってくれ。」
低く落ち着いた声が答える。
ドアが開き、俺たちは一歩足を踏み入れた。
部屋の中には、年配の男がデスクに座っていた。
海で焼けたような浅黒い肌、深い皺、鋭い眼光。
ただ者ではない存在感。
彼が──オルビアのギルド長。
「遠いところ、ご苦労だったな。
紹介状は確かに受け取った。
……戦士アレクスについて、話を聞きたいそうだな?」
その言葉に、レイナさんは静かに息を吸い込んだ。
「……どうしても、彼の居場所を知りたいのです。」
ギルド長はしばらく彼女を見つめ、
眉をわずかに動かすと、手元の書類を閉じた。
ギルド長は、しばらく俺たちの顔を見回したあと、重々しく口を開いた。
「……戦士アレクスは、この街にいる。」
34
あなたにおすすめの小説
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい
広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」
「え?」
「は?」
「いせかい……?」
異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。
ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。
そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!?
異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。
時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。
目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』
半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。
そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。
伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。
信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。
少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。
====
※お気に入り、感想がありましたら励みになります
※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。
※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります
※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる