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-Epilogue-
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……そして、数百年後。
近代化の波が押し寄せ、かつて世界を揺るがした王家や貴族の名はもはや歴史の教科書の数ページに残るのみとなった現代。
かつて鉄の規律と圧倒的な軍事力を誇った一族が、ある日を境に一輪の白い花を旗印に掲げ、数百年続く平和と繁栄の礎を築いた―――そんなお伽噺のような記録は、現代の歴史家によって前期を『黒鉄のレルプス』、後期を『白詰のレルプス』と名付けられていた。
そして、その『白詰のレルプス』の始まり、ただ一人のために世界を跪かせ、あらゆる外敵を排除し、法すらも書き換え、それが結果的に民の幸福にも繋がったという『史上最も甘やかな独裁』とも呼ばれた白き黄金時代を記した資料には、一人の天才的な当主と、その傍らで常に微笑んでいた最愛の伴侶の名が記されていた。
都の喧騒から遠く離れた、古い森の奥。そこには今も、レルプス一族の末裔たちが守り続ける巨大な霊廟があった。
威厳に満ちた父祖ギルバートの墓。 そして、その隣には、剣を棄てて花を掲げた中興の祖、ノエルとレオンの間に養子として迎えられ、後に賢鼠公と呼ばれたテオとその妻アリスの大きな墓が並んでいる。それらを筆頭に建ち並ぶいくつもの墓は、まるで城壁のように、霊廟の『ある場所』を大切に囲うように配置されていた。
歴代当主たちの墓を通り抜け、最も奥まった陽だまりへ辿り着くと、そこには不思議な光景が広がっていた。
周囲の厳格な石造りとは対照的に、そこだけが柔らかな芝生に覆われ、季節を問わず純白の白詰草が絨毯のように咲き乱れている。その中央には、寄り添うようにして置かれた二つの小さな石碑があった。
そこには仰々しい称号も、偉大な功績を称える言葉も刻まれていない。ただ、年月を経て丸みを帯びた石に、仲睦まじく寄り添う二人の名だけが刻まれていた。
「……ここが、始まりの場所だよ」
現代の服を着た若い家族が、幼い子供の手を引いて石碑の前に跪いた。
ここを訪れた人々は周辺に自生している白詰草を摘み、小さな花冠を編む。それがこの一族に伝わる習わしとなっていた。
子供が一生懸命に編んだ少し不恰好な花冠を二つの石碑それぞれに供えると、どこからか柔らかな風が吹く。その風は石碑に刻まれた白詰草の紋章を撫で、辺りの花々を優しく揺らした。
「ねえ、パパ。なんでここは、こんなに暖かいの?」
「それはね。ここで眠っているお二人が、今もみんなを見守ってくれているからだよ」
……数百年という時が流れ、国も、法も、人々の生き方も変わってしまった。
けれど、この場所だけは変わらない。
今となってははるか昔の、一輪の花冠から始まった小さく深い愛。それが一族の呪いを解き、黄金の時代を築き、そして今もなお、訪れる人々の心に愛することの尊さを語りかけていた。
白詰草に守られた二人の石碑は、今も静かに、けれど幸福に満ちた沈黙の中で、永遠の眠りにつき続けていた。
近代化の波が押し寄せ、かつて世界を揺るがした王家や貴族の名はもはや歴史の教科書の数ページに残るのみとなった現代。
かつて鉄の規律と圧倒的な軍事力を誇った一族が、ある日を境に一輪の白い花を旗印に掲げ、数百年続く平和と繁栄の礎を築いた―――そんなお伽噺のような記録は、現代の歴史家によって前期を『黒鉄のレルプス』、後期を『白詰のレルプス』と名付けられていた。
そして、その『白詰のレルプス』の始まり、ただ一人のために世界を跪かせ、あらゆる外敵を排除し、法すらも書き換え、それが結果的に民の幸福にも繋がったという『史上最も甘やかな独裁』とも呼ばれた白き黄金時代を記した資料には、一人の天才的な当主と、その傍らで常に微笑んでいた最愛の伴侶の名が記されていた。
都の喧騒から遠く離れた、古い森の奥。そこには今も、レルプス一族の末裔たちが守り続ける巨大な霊廟があった。
威厳に満ちた父祖ギルバートの墓。 そして、その隣には、剣を棄てて花を掲げた中興の祖、ノエルとレオンの間に養子として迎えられ、後に賢鼠公と呼ばれたテオとその妻アリスの大きな墓が並んでいる。それらを筆頭に建ち並ぶいくつもの墓は、まるで城壁のように、霊廟の『ある場所』を大切に囲うように配置されていた。
歴代当主たちの墓を通り抜け、最も奥まった陽だまりへ辿り着くと、そこには不思議な光景が広がっていた。
周囲の厳格な石造りとは対照的に、そこだけが柔らかな芝生に覆われ、季節を問わず純白の白詰草が絨毯のように咲き乱れている。その中央には、寄り添うようにして置かれた二つの小さな石碑があった。
そこには仰々しい称号も、偉大な功績を称える言葉も刻まれていない。ただ、年月を経て丸みを帯びた石に、仲睦まじく寄り添う二人の名だけが刻まれていた。
「……ここが、始まりの場所だよ」
現代の服を着た若い家族が、幼い子供の手を引いて石碑の前に跪いた。
ここを訪れた人々は周辺に自生している白詰草を摘み、小さな花冠を編む。それがこの一族に伝わる習わしとなっていた。
子供が一生懸命に編んだ少し不恰好な花冠を二つの石碑それぞれに供えると、どこからか柔らかな風が吹く。その風は石碑に刻まれた白詰草の紋章を撫で、辺りの花々を優しく揺らした。
「ねえ、パパ。なんでここは、こんなに暖かいの?」
「それはね。ここで眠っているお二人が、今もみんなを見守ってくれているからだよ」
……数百年という時が流れ、国も、法も、人々の生き方も変わってしまった。
けれど、この場所だけは変わらない。
今となってははるか昔の、一輪の花冠から始まった小さく深い愛。それが一族の呪いを解き、黄金の時代を築き、そして今もなお、訪れる人々の心に愛することの尊さを語りかけていた。
白詰草に守られた二人の石碑は、今も静かに、けれど幸福に満ちた沈黙の中で、永遠の眠りにつき続けていた。
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