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偽装
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「どうですか! いい感じでしょうっ!!」
満面の笑みで、ルキシエンスはツェリに訊いてきた。
「なんだか、変な感じがするな」
対するツェリは、心もとなそうに腕を動かしたり手のひらを開いたち閉じたりしている。
ルキシエンスがツェリを人間に偽装させるためにしたことは、至極単純なものだった。
彼のあふるるばかりの魔力を、ルキシエンスの渾身の結界で封じ込めてしまったのである。
ツェリは外に逃せない膨大な魔力を持て余しているようだった。
「これでいいのか?」
「はい。これでしばらくは大丈夫かと思います」
結界をはるくらいなら、ルキシエンスには屁でもない事だった。
普段使っているものと比べれば天と地の差があるほど強力な結界だったが、転移魔術を使って逃げ回るよりよほど効率が良くて負担も少ない。
上出来だ。
これなら魔力に敏感な竜人たちの目も欺けるのではなかろうか。
ルキシエンスは結界の出来に満足した。
「魔力が自然に出ていかない分、意識して発散させなければいけませんが、それは魔石での吸収で補いましょう。下手に外で魔術を使うと、痕跡がどうしても残りますから」
「わかった。そうしよう」
「明日からのことは、おいおい考えましょう。今日はもう疲れました」
一仕事終えて、ルキシエンスは安堵から強烈な眠気を覚えた。今日はもう眠ってしまったほうがいいだろう。安全が確認されている時は休息を取るべきなのだ。
「この街は公益が盛んですから、防犯や魔獣対策の考えからほかの都市より結界が頑丈なんです。竜が来ても、一瞬で破壊されることはないでしょう。ですから――――」
今日はもう休みませんか。そう言い切る前に、ルキシエンスはソファーの上でことりを意識を手放した。
ルキシエンスにとっては気絶するように眠ることなど日常茶飯事なのだが、今回始めて遭遇したツェリはぎょっとしてルキシエンスに駆け寄った。
手のひらでルキシエンスの呼吸を確かめると、彼はホッと息を吐いた。
「寝台の方に運んだほうがいいだろうか」
せっかくふかふかに整えられた寝台があるのだ。疲れた体をわざわざソファーにあずけることはないだろう。
ツェリはソファーとルキシエンスの体の間に腕を差し込むと、小さなな掛け声とともに彼の体を持ち上げる。
貧弱そうにも見える細腕に抱えられているとは思えない安定感で、ルキシエンスは寝室に運ばれた。
ツェリはルキシエンスを寝台に横たえると、器用に彼の上着やらブーツやらを剥ぎ取り、その上にキルトをかけてやる。見事な手際だった。
寝室は、青銀色の月明かりに包まれていた。
ルキシエンスのクセのある黒髪は、月明かりに照らされて更に深みを増した色味になっていた。
その色が、シツェーリオンは昔から好きだった。
「変わらないな、君は」
その吐息のような寂寥を含んだ囁きは、ルキシエンスの耳には届かなかった。
ツェリはそっとルキシエンスの顔にかかった髪を後ろに流してやり、自身も静かに寝台に滑り込んだ。
翌朝、ルキシエンスは顔を真っ赤にしてツェリに謝った。
「すみませんっ。寝落ちした挙げ句、寝台にまで運んでもらってしまって」
あまりの慌てように、ツェリはなんだかおかしくなった。堪えきれなくてくすくす笑ってしまうと、ルキシエンスはますます顔を赤くした。
「気にしないで。昨日君が無理をしたのは、私のためなのだろうから」
そう言うと、彼は今度は照れくさそうにはにかんだ。それがちょっとかわいいと思ったツェリだった。
「下に食事処があるみたいだよ。朝食、食べるだろう?」
満面の笑みで、ルキシエンスはツェリに訊いてきた。
「なんだか、変な感じがするな」
対するツェリは、心もとなそうに腕を動かしたり手のひらを開いたち閉じたりしている。
ルキシエンスがツェリを人間に偽装させるためにしたことは、至極単純なものだった。
彼のあふるるばかりの魔力を、ルキシエンスの渾身の結界で封じ込めてしまったのである。
ツェリは外に逃せない膨大な魔力を持て余しているようだった。
「これでいいのか?」
「はい。これでしばらくは大丈夫かと思います」
結界をはるくらいなら、ルキシエンスには屁でもない事だった。
普段使っているものと比べれば天と地の差があるほど強力な結界だったが、転移魔術を使って逃げ回るよりよほど効率が良くて負担も少ない。
上出来だ。
これなら魔力に敏感な竜人たちの目も欺けるのではなかろうか。
ルキシエンスは結界の出来に満足した。
「魔力が自然に出ていかない分、意識して発散させなければいけませんが、それは魔石での吸収で補いましょう。下手に外で魔術を使うと、痕跡がどうしても残りますから」
「わかった。そうしよう」
「明日からのことは、おいおい考えましょう。今日はもう疲れました」
一仕事終えて、ルキシエンスは安堵から強烈な眠気を覚えた。今日はもう眠ってしまったほうがいいだろう。安全が確認されている時は休息を取るべきなのだ。
「この街は公益が盛んですから、防犯や魔獣対策の考えからほかの都市より結界が頑丈なんです。竜が来ても、一瞬で破壊されることはないでしょう。ですから――――」
今日はもう休みませんか。そう言い切る前に、ルキシエンスはソファーの上でことりを意識を手放した。
ルキシエンスにとっては気絶するように眠ることなど日常茶飯事なのだが、今回始めて遭遇したツェリはぎょっとしてルキシエンスに駆け寄った。
手のひらでルキシエンスの呼吸を確かめると、彼はホッと息を吐いた。
「寝台の方に運んだほうがいいだろうか」
せっかくふかふかに整えられた寝台があるのだ。疲れた体をわざわざソファーにあずけることはないだろう。
ツェリはソファーとルキシエンスの体の間に腕を差し込むと、小さなな掛け声とともに彼の体を持ち上げる。
貧弱そうにも見える細腕に抱えられているとは思えない安定感で、ルキシエンスは寝室に運ばれた。
ツェリはルキシエンスを寝台に横たえると、器用に彼の上着やらブーツやらを剥ぎ取り、その上にキルトをかけてやる。見事な手際だった。
寝室は、青銀色の月明かりに包まれていた。
ルキシエンスのクセのある黒髪は、月明かりに照らされて更に深みを増した色味になっていた。
その色が、シツェーリオンは昔から好きだった。
「変わらないな、君は」
その吐息のような寂寥を含んだ囁きは、ルキシエンスの耳には届かなかった。
ツェリはそっとルキシエンスの顔にかかった髪を後ろに流してやり、自身も静かに寝台に滑り込んだ。
翌朝、ルキシエンスは顔を真っ赤にしてツェリに謝った。
「すみませんっ。寝落ちした挙げ句、寝台にまで運んでもらってしまって」
あまりの慌てように、ツェリはなんだかおかしくなった。堪えきれなくてくすくす笑ってしまうと、ルキシエンスはますます顔を赤くした。
「気にしないで。昨日君が無理をしたのは、私のためなのだろうから」
そう言うと、彼は今度は照れくさそうにはにかんだ。それがちょっとかわいいと思ったツェリだった。
「下に食事処があるみたいだよ。朝食、食べるだろう?」
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