40 / 125
第二章 若き冒険者たち
タンネッタ池
しおりを挟む
翌朝、オンテミオンと訓練生三人に、暇だから行くと言って付いてきたバラルを加え、五人となったパーティーは、ドゴールを出て、ドゴル砂地を抜けている街道沿いに南東へ向かった。
「砂地が終わるまでは、街道沿いに行くぞ」
オンテミオンは先頭を歩きながら、振り向きつつ言った。
「オンテミオンさんに、バラルさんもいるなんて、なんて豪華なパーティーなんだろう!」
ジャシードは、尊敬する二人を見上げながら、嬉しい気分に浸っていた。この日の天気は曇り、気温は少し肌寒いが、彼の足取りは軽やかだ。
「早く使いたい」
スネイルは、貫通力が強化されたダガーを撫でながら呟いた。『ワスプダガー』とスネイルが名づけたダガーは、名前こそ安っぽいが造形として安っぽいところはなく、とても良い仕上がりだと言える。
「僕らのは、何なんだろうね?」
ガンドは頭に被った艶々の兜を撫でながら言った。
「ハゲみたい」
「何だとスネイル!」
「サンドワームの時も、頭光ってた。ぴかぴかりん」
「今度はもっと、うまく照らせるようにするさ!」
「だといいね、ぴっかりん」
「変な呼び方しないでよ」
ガンドとスネイルは、何だかんだで仲良くなっていた。スネイルの悪口みたいな冗談を、怒らずに対応できるのがその証拠だ。
ジャシードは、そんな二人のやり取りも楽しくて好きだった。
「んん。無駄口を叩いてないで、索敵の練習でもしたらどうだ、スネイル」
「んんん、わかった」
スネイルは、オンテミオンの口癖を真似して言いつつ、オンテミオンの隣に並んだ。
「似てないね」
「うん、似てない」
ガンドはスネイルの背中に、いつかの仕返しにと言ってみたが、彼には通用しなかったようだ。
「アリンコがいる気がする」
スネイルがボソッと言った。
「んん、どこかな?」
オンテミオンは周囲を眺めたが、特に見当たらなかった。
「気のせいかも」
「んん。まだ練習が必要だな。徐々に上手くなればいい」
オンテミオンは、スネイルの肩を軽く叩きながら言った。
街道が途切れ、少しの間草原が広がった。タンネッタ池の周辺を取り囲む砂地によって、またすぐに砂地になるが、風景の色が変わると言うのは、気分を変えてくれる。
「さて、ここからは南に進むぞ」
オンテミオンは、先導しながら進行方向を変えた。目の前に広がる風景は、再び砂地になった。
少し進むと、右前方から例の巨大アリがやってきた。
「あの大きなアリはなんていう名前なの?」
「んん? あれは、サンドビガントと呼ばれている。ビガントは色々な場所に、色々な大きさのものが棲んでいるな」
オンテミオンは、長剣を抜きながら言った。
「オンテミオンさんは、何もしなくていいよ」
ジャシードは、ガンドとスネイルに目配せして、いつものように動き出した。
「ほう……」
オンテミオンは、訓練生三人が視線で会話しているのを見て感心した。
「奴らはずっと、ああやって怪物どもに相対してきた。余り声がけしている様子はなかったな。ガキンチョのくせに、大したもんだ」
バラルはオンテミオンの隣に来て、小さな声で言った。
ジャシードたちは、何度もやっているように動いた。まずは、サンドビガントの顎にジャシードが一撃入れると、顎に弾かれ……と思ったその時だった。
ジャシードが振るった長剣は、見事にサンドビガントの顎を切り落とした。それだけでなく、サンドビガントの頭部に裂傷を作った。
「わわ……」
これにはジャシード本人が驚いた。剣が弾き返される想定で次の動きの準備をしていたため、次の攻撃を繰り出せなかった。
それでも、スネイルはしっかりと動いていた。サンドビガントの背後に回り込んで、敢えて脚の一本を刺し貫いた。
ワスプダガーは、気持ちいいほどに易々とサンドビガントの脚を貫いて穴を空けた。
「アニキ! 楽しい!」
スネイルは調子に乗って、サンドビガントの脚に腹にと穴を空けまくっている。
「僕の出番はないみたい」
ガンドはその言葉とは裏腹に嬉しそうだ。
「んん……。ガンドの出番は余り多くない方がいいが、少しは戦ったらどうだ」
「む、虫は勘弁して……」
オンテミオンに言われても、ガンドはやはり虫は嫌いなようだ。
ほどなく、ジャシードとスネイルの手によって、サンドビガントは倒された。
これまでの結果とは大きく異なり、サンドビガントはボロボロだった。脚には多数の穴が開き、また何本かはジャシードの斬撃によって、関節ではないところで切断されていた。
「んん。宝石誘導の武器は効果覿面だな」
「本当に凄いよ!」
ジャシードは興奮気味に言った。
「刺して気持ちいい」
スネイルは、すっかりワスプダガーの切れ味に魅了されている様子だった。大人たちは、この発言に幾ばくかの不安を抱えたが、そのまま放っておいた。
「わしも、何か作ってもらわねばな」
「んん……。何故付いてきたのかと思えば、宝石誘導目当てか? ハンフォードはいけ好かないのではなかったのか?」
「ハンフォードは正直嫌いだが、わし自身のためだと思えば我慢できる。虫と見れば怯えているそこの小太りと違ってな」
「おぬし、子供と張り合うつもりか」
「何を言っている。わしはお手本を見せようと言っているのだ」
「んん……屁理屈ばかり並べおって」
「わしは実利主義なんでな」
オンテミオンとバラルは、全くいつものように言い合いをしていた。この二人は本物の親友なのだ。ガンドは一人、二人の会話を聞いて渋い顔をしていた。
サンドビガントを倒した一行は、さらに南下していった。砂地というのは、退屈なところだ。徐々に日が傾いて夕方になろうとしていた。
時折、サボテンが立っていたりするものの、基本的に景観の変化があまりない。ただひたすら、目指す方向へと進んでいくだけだ。
「なんかいる」
スネイルはまた、気のせいかも知れないつぶやきを発した。
「んん。どんなのだ?」
「きた」
「んん!?」
オンテミオンが言葉を発した瞬間、ガンドの目の前の砂が弾け、三つ叉のサボテンが飛び出てきた。普通のサボテンと違うところは、目玉が付いているところだ。黄色い目玉はぎょろりと周囲をひと舐めした。
「ええ!?」
ガンドがビックリしている間に、サボテンは腕らしきものを振りかぶって、ガンドに命中させた。ガンドは砂地をゴロゴロと三回転してようやく止まった。
「いてて……、これ、カクタラス?」
ガンドは起き上がると、顔に刺さった棘を抜いて治療しだした。
オンテミオンとジャシードは即座に反応し、カクタラスが次の行動を取る前に、三つ叉の腕と思しき部分を切断した。
ごろりと砂地に落ちた腕のようなものは、大量の水分を放出しながら萎れていった。
更にスネイルがカクタラスの胴体へ、これでもかと言うほどワスプダガーの一撃を食らわしてやった。たくさん開いた穴の全てから水分が放出され、カクタラスは萎れて動かなくなった。
「弱い」
スネイルはぼそっと言った。
「ぼ、僕の立場は……受け流しからの反撃が得意だったはずなのになあ」
ガンドは涙目になりながら、何本も刺さっている棘を抜いては治療を繰り返した。
「今のは不意打ちだったからね……」
ジャシードは励ましてみたが、あまり効果の無い励ましだと思った。
仮に不意打ちだったとしても、きちんと対応しなければ、強敵だった場合は死んでしまうかも知れないのだ。
「ガンド、お主は、わしらが一緒だからと言って、油断しているのではないか?」
「う……ご、ごめんなさい。油断してた……」
バラルの言葉が、カクタラスの棘よりも胸に刺さったガンドは、シュンとして小さくなった。
砂地を進んでいくと、タンネッタ池が見えてきた。砂地の中に突如現れるオアシスのような佇まい。そこには何故か魔力の奔流があるらしい。
タンネッタ池の周囲には、その魔力で仮初めの命を吹き込まれた複数のサンドゴーレムが闊歩し、まるで池を守るかのように巡回している。
一行は、遠くからゴーレムを観察しながら昼食を摂った。
「ここのゴーレムは、まあ見れば分かると思うが、全てサンドゴーレムだ。ゴーレムの中では動きが速い方だが、全般的に遅いことに変わりはない。出る前に伝えていたことだが、サンドゴーレムは、砂地の地面を殴って、任意の場所から拳を出現させることができる曲者だ。奴らが地面を殴ったら、地面にも気を配ること。必ず手が出現する前に少し揺れて止まるから、その兆候を見逃すな。止まったときにその真上にいる者が攻撃される。当たるとかなり痛いし、骨折やそれ以上もあり得る。十分気をつけろよ」
オンテミオンが説明すると、訓練生三人は揃って返事をした。
食事を終えた一行は、いよいよタンネッタ池へと進み始めた。早速サンドゴーレムが一体、一行に気づいて走り込んできた。
走り込んで、と言うと速そうだし、瞬間瞬間を切り取ってみればかなり一所懸命に走っている様子だが、その速度はそれほど速くはない。サンドゴーレムの走る速度は、スネイルの早歩きと同じぐらいだ。
だが、サンドゴーレムの恐ろしさはそのチカラと、砂との一体化だ。
サンドゴーレムは、奴なりに走りながら、片手を地面に押しつけた。
「んん! 来るぞ!」
オンテミオンが警告の声を発すると、全員がその場に止まり周囲の様子に気を配った。
スネイルは揺れを感じ、止まるのを確認して身構えた。
砂地の砂を巻き上げ、凄い勢いで拳が上がってきた。スネイルは砂を被りながら際どくその拳を躱し、ワスプダガーを突き立てた。すると砂でできた拳はその場に砂となって崩れ去った。
「ほう、前提知識があったとは言え、アレを初見で躱すだけでなく一撃入れるとはな」
バラルはスネイルの動きを賞賛した。
スネイルに攻撃が行っている間に、戦士の二人がサンドゴーレムに肉薄した。右からオンテミオン、左からジャシードだ。
オンテミオンは、上段からの切り下ろしを放ち、身長三メートルはあるサンドゴーレムの胸の辺りから下方に命中した。命中した部分は、激しく砂が吹き飛んでいく。
しかし砂を斬る感覚は、何とも実感が薄い。斬った場所は一旦砂が散らばり、一部が魔法のチカラで戻ってくる。
ゴーレムとの戦いは、その身体を纏めている魔法力との勝負になる。攻撃し続ければいずれ、身体の維持で魔法力が薄れていくのだ。
ジャシードは、右下段からの切り上げだ。それはサンドゴーレムの右足に命中した。
長剣がサンドゴーレムの脚をスッパリと切断すると、切断面から足先は砂の山が崩れるように砂に還り、サンドゴーレムはぐらりと右に傾いた。
15:34サンドゴーレムの魔法力が、身体の他の場所から砂を集めて脚を復旧させようとして、その身体は一回り小さくなった。
「おっと、スネイルの方ばかり見ておったわ。少しは役に立たんとな」
バラルは杖を回して水の球を作り出すと、サンドゴーレムの方へちょいと杖を振った。
杖から解放された水の球は、弧を描いてサンドゴーレムに命中し、サンドゴーレムと、近くに居た二人も纏めて水浸しにした。
「んん! おのれバラルめ。いっとき遅い!」
「バラルさん! ちょうど暑かったところだよ!」
二人の戦士は水に濡らされ、それぞれ異なる対応を取ったが、最も重要なのはサンドゴーレムが水浸しになったと言うことだ。
サンドゴーレムは水浸しになったことで、鈍い動きがより一層鈍くなっり、更に剣撃を受けた部分が再生しなくなった。
オンテミオンとジャシードは、殆ど棒立ちになったサンドゴーレムを好き放題に切り刻み、遂にサンドゴーレムは濡れた砂の山を残し、『存在しなくなった』。
元々魔法力で構成された物質の集合体であるゴーレムには、死という概念や状態は存在しない。
こうして五人は、サンドゴーレムを次々と『消滅』させていった。
その日は、ゴーレムを倒したところで切り上げ、タンネッタ池を見下ろす砂丘で野営の準備をする事になった。
ジャシードは、オンテミオンがテントを張る作業を当たり前のように手伝った。久々の野営準備だったが、意外に覚えているものだ。
「さすが、経験者だね」
ガンドは、ジャシードがやっていることを記憶に留めようとしつつ、感心していた。
バラルが作り出す最小限の炎で食事をし、オンテミオンとバラルが交代で、見張りをしながら休んだ。
夜中の襲撃もなく、気温は低く寒かったが、それぞれ英気を養うことができた。
◆◆
タンネッタ池――そこは、魔法力の集まる場所。何故かは誰にも分からない。水の中には、知ってか知らずか、延々と魔法力を受け続ける存在がいた。
それは、二つの赤い目を持つ怪物、フグード。バラルの爆裂魔法を喰らい、左腕を失い、もはや弓を撃つことはできなくなってしまった。穴が開いた身体もようやく塞がってきた。
「ぐぎぎ……ニンゲンめ……我を追って来た……む、迎えうづ! うつ!」
フグードは、視界の中に居た怪物に、その赤い目のチカラを使った。
魔法力が集まっているこの場所でも、ぐいぐい持っていかれる魔法力。意識をギリギリに保って、赤い目を見た怪物に命令する。
「外にいる、ニンゲンを、コロセ……コロセ!」
フグードの赤い目が光った。
「砂地が終わるまでは、街道沿いに行くぞ」
オンテミオンは先頭を歩きながら、振り向きつつ言った。
「オンテミオンさんに、バラルさんもいるなんて、なんて豪華なパーティーなんだろう!」
ジャシードは、尊敬する二人を見上げながら、嬉しい気分に浸っていた。この日の天気は曇り、気温は少し肌寒いが、彼の足取りは軽やかだ。
「早く使いたい」
スネイルは、貫通力が強化されたダガーを撫でながら呟いた。『ワスプダガー』とスネイルが名づけたダガーは、名前こそ安っぽいが造形として安っぽいところはなく、とても良い仕上がりだと言える。
「僕らのは、何なんだろうね?」
ガンドは頭に被った艶々の兜を撫でながら言った。
「ハゲみたい」
「何だとスネイル!」
「サンドワームの時も、頭光ってた。ぴかぴかりん」
「今度はもっと、うまく照らせるようにするさ!」
「だといいね、ぴっかりん」
「変な呼び方しないでよ」
ガンドとスネイルは、何だかんだで仲良くなっていた。スネイルの悪口みたいな冗談を、怒らずに対応できるのがその証拠だ。
ジャシードは、そんな二人のやり取りも楽しくて好きだった。
「んん。無駄口を叩いてないで、索敵の練習でもしたらどうだ、スネイル」
「んんん、わかった」
スネイルは、オンテミオンの口癖を真似して言いつつ、オンテミオンの隣に並んだ。
「似てないね」
「うん、似てない」
ガンドはスネイルの背中に、いつかの仕返しにと言ってみたが、彼には通用しなかったようだ。
「アリンコがいる気がする」
スネイルがボソッと言った。
「んん、どこかな?」
オンテミオンは周囲を眺めたが、特に見当たらなかった。
「気のせいかも」
「んん。まだ練習が必要だな。徐々に上手くなればいい」
オンテミオンは、スネイルの肩を軽く叩きながら言った。
街道が途切れ、少しの間草原が広がった。タンネッタ池の周辺を取り囲む砂地によって、またすぐに砂地になるが、風景の色が変わると言うのは、気分を変えてくれる。
「さて、ここからは南に進むぞ」
オンテミオンは、先導しながら進行方向を変えた。目の前に広がる風景は、再び砂地になった。
少し進むと、右前方から例の巨大アリがやってきた。
「あの大きなアリはなんていう名前なの?」
「んん? あれは、サンドビガントと呼ばれている。ビガントは色々な場所に、色々な大きさのものが棲んでいるな」
オンテミオンは、長剣を抜きながら言った。
「オンテミオンさんは、何もしなくていいよ」
ジャシードは、ガンドとスネイルに目配せして、いつものように動き出した。
「ほう……」
オンテミオンは、訓練生三人が視線で会話しているのを見て感心した。
「奴らはずっと、ああやって怪物どもに相対してきた。余り声がけしている様子はなかったな。ガキンチョのくせに、大したもんだ」
バラルはオンテミオンの隣に来て、小さな声で言った。
ジャシードたちは、何度もやっているように動いた。まずは、サンドビガントの顎にジャシードが一撃入れると、顎に弾かれ……と思ったその時だった。
ジャシードが振るった長剣は、見事にサンドビガントの顎を切り落とした。それだけでなく、サンドビガントの頭部に裂傷を作った。
「わわ……」
これにはジャシード本人が驚いた。剣が弾き返される想定で次の動きの準備をしていたため、次の攻撃を繰り出せなかった。
それでも、スネイルはしっかりと動いていた。サンドビガントの背後に回り込んで、敢えて脚の一本を刺し貫いた。
ワスプダガーは、気持ちいいほどに易々とサンドビガントの脚を貫いて穴を空けた。
「アニキ! 楽しい!」
スネイルは調子に乗って、サンドビガントの脚に腹にと穴を空けまくっている。
「僕の出番はないみたい」
ガンドはその言葉とは裏腹に嬉しそうだ。
「んん……。ガンドの出番は余り多くない方がいいが、少しは戦ったらどうだ」
「む、虫は勘弁して……」
オンテミオンに言われても、ガンドはやはり虫は嫌いなようだ。
ほどなく、ジャシードとスネイルの手によって、サンドビガントは倒された。
これまでの結果とは大きく異なり、サンドビガントはボロボロだった。脚には多数の穴が開き、また何本かはジャシードの斬撃によって、関節ではないところで切断されていた。
「んん。宝石誘導の武器は効果覿面だな」
「本当に凄いよ!」
ジャシードは興奮気味に言った。
「刺して気持ちいい」
スネイルは、すっかりワスプダガーの切れ味に魅了されている様子だった。大人たちは、この発言に幾ばくかの不安を抱えたが、そのまま放っておいた。
「わしも、何か作ってもらわねばな」
「んん……。何故付いてきたのかと思えば、宝石誘導目当てか? ハンフォードはいけ好かないのではなかったのか?」
「ハンフォードは正直嫌いだが、わし自身のためだと思えば我慢できる。虫と見れば怯えているそこの小太りと違ってな」
「おぬし、子供と張り合うつもりか」
「何を言っている。わしはお手本を見せようと言っているのだ」
「んん……屁理屈ばかり並べおって」
「わしは実利主義なんでな」
オンテミオンとバラルは、全くいつものように言い合いをしていた。この二人は本物の親友なのだ。ガンドは一人、二人の会話を聞いて渋い顔をしていた。
サンドビガントを倒した一行は、さらに南下していった。砂地というのは、退屈なところだ。徐々に日が傾いて夕方になろうとしていた。
時折、サボテンが立っていたりするものの、基本的に景観の変化があまりない。ただひたすら、目指す方向へと進んでいくだけだ。
「なんかいる」
スネイルはまた、気のせいかも知れないつぶやきを発した。
「んん。どんなのだ?」
「きた」
「んん!?」
オンテミオンが言葉を発した瞬間、ガンドの目の前の砂が弾け、三つ叉のサボテンが飛び出てきた。普通のサボテンと違うところは、目玉が付いているところだ。黄色い目玉はぎょろりと周囲をひと舐めした。
「ええ!?」
ガンドがビックリしている間に、サボテンは腕らしきものを振りかぶって、ガンドに命中させた。ガンドは砂地をゴロゴロと三回転してようやく止まった。
「いてて……、これ、カクタラス?」
ガンドは起き上がると、顔に刺さった棘を抜いて治療しだした。
オンテミオンとジャシードは即座に反応し、カクタラスが次の行動を取る前に、三つ叉の腕と思しき部分を切断した。
ごろりと砂地に落ちた腕のようなものは、大量の水分を放出しながら萎れていった。
更にスネイルがカクタラスの胴体へ、これでもかと言うほどワスプダガーの一撃を食らわしてやった。たくさん開いた穴の全てから水分が放出され、カクタラスは萎れて動かなくなった。
「弱い」
スネイルはぼそっと言った。
「ぼ、僕の立場は……受け流しからの反撃が得意だったはずなのになあ」
ガンドは涙目になりながら、何本も刺さっている棘を抜いては治療を繰り返した。
「今のは不意打ちだったからね……」
ジャシードは励ましてみたが、あまり効果の無い励ましだと思った。
仮に不意打ちだったとしても、きちんと対応しなければ、強敵だった場合は死んでしまうかも知れないのだ。
「ガンド、お主は、わしらが一緒だからと言って、油断しているのではないか?」
「う……ご、ごめんなさい。油断してた……」
バラルの言葉が、カクタラスの棘よりも胸に刺さったガンドは、シュンとして小さくなった。
砂地を進んでいくと、タンネッタ池が見えてきた。砂地の中に突如現れるオアシスのような佇まい。そこには何故か魔力の奔流があるらしい。
タンネッタ池の周囲には、その魔力で仮初めの命を吹き込まれた複数のサンドゴーレムが闊歩し、まるで池を守るかのように巡回している。
一行は、遠くからゴーレムを観察しながら昼食を摂った。
「ここのゴーレムは、まあ見れば分かると思うが、全てサンドゴーレムだ。ゴーレムの中では動きが速い方だが、全般的に遅いことに変わりはない。出る前に伝えていたことだが、サンドゴーレムは、砂地の地面を殴って、任意の場所から拳を出現させることができる曲者だ。奴らが地面を殴ったら、地面にも気を配ること。必ず手が出現する前に少し揺れて止まるから、その兆候を見逃すな。止まったときにその真上にいる者が攻撃される。当たるとかなり痛いし、骨折やそれ以上もあり得る。十分気をつけろよ」
オンテミオンが説明すると、訓練生三人は揃って返事をした。
食事を終えた一行は、いよいよタンネッタ池へと進み始めた。早速サンドゴーレムが一体、一行に気づいて走り込んできた。
走り込んで、と言うと速そうだし、瞬間瞬間を切り取ってみればかなり一所懸命に走っている様子だが、その速度はそれほど速くはない。サンドゴーレムの走る速度は、スネイルの早歩きと同じぐらいだ。
だが、サンドゴーレムの恐ろしさはそのチカラと、砂との一体化だ。
サンドゴーレムは、奴なりに走りながら、片手を地面に押しつけた。
「んん! 来るぞ!」
オンテミオンが警告の声を発すると、全員がその場に止まり周囲の様子に気を配った。
スネイルは揺れを感じ、止まるのを確認して身構えた。
砂地の砂を巻き上げ、凄い勢いで拳が上がってきた。スネイルは砂を被りながら際どくその拳を躱し、ワスプダガーを突き立てた。すると砂でできた拳はその場に砂となって崩れ去った。
「ほう、前提知識があったとは言え、アレを初見で躱すだけでなく一撃入れるとはな」
バラルはスネイルの動きを賞賛した。
スネイルに攻撃が行っている間に、戦士の二人がサンドゴーレムに肉薄した。右からオンテミオン、左からジャシードだ。
オンテミオンは、上段からの切り下ろしを放ち、身長三メートルはあるサンドゴーレムの胸の辺りから下方に命中した。命中した部分は、激しく砂が吹き飛んでいく。
しかし砂を斬る感覚は、何とも実感が薄い。斬った場所は一旦砂が散らばり、一部が魔法のチカラで戻ってくる。
ゴーレムとの戦いは、その身体を纏めている魔法力との勝負になる。攻撃し続ければいずれ、身体の維持で魔法力が薄れていくのだ。
ジャシードは、右下段からの切り上げだ。それはサンドゴーレムの右足に命中した。
長剣がサンドゴーレムの脚をスッパリと切断すると、切断面から足先は砂の山が崩れるように砂に還り、サンドゴーレムはぐらりと右に傾いた。
15:34サンドゴーレムの魔法力が、身体の他の場所から砂を集めて脚を復旧させようとして、その身体は一回り小さくなった。
「おっと、スネイルの方ばかり見ておったわ。少しは役に立たんとな」
バラルは杖を回して水の球を作り出すと、サンドゴーレムの方へちょいと杖を振った。
杖から解放された水の球は、弧を描いてサンドゴーレムに命中し、サンドゴーレムと、近くに居た二人も纏めて水浸しにした。
「んん! おのれバラルめ。いっとき遅い!」
「バラルさん! ちょうど暑かったところだよ!」
二人の戦士は水に濡らされ、それぞれ異なる対応を取ったが、最も重要なのはサンドゴーレムが水浸しになったと言うことだ。
サンドゴーレムは水浸しになったことで、鈍い動きがより一層鈍くなっり、更に剣撃を受けた部分が再生しなくなった。
オンテミオンとジャシードは、殆ど棒立ちになったサンドゴーレムを好き放題に切り刻み、遂にサンドゴーレムは濡れた砂の山を残し、『存在しなくなった』。
元々魔法力で構成された物質の集合体であるゴーレムには、死という概念や状態は存在しない。
こうして五人は、サンドゴーレムを次々と『消滅』させていった。
その日は、ゴーレムを倒したところで切り上げ、タンネッタ池を見下ろす砂丘で野営の準備をする事になった。
ジャシードは、オンテミオンがテントを張る作業を当たり前のように手伝った。久々の野営準備だったが、意外に覚えているものだ。
「さすが、経験者だね」
ガンドは、ジャシードがやっていることを記憶に留めようとしつつ、感心していた。
バラルが作り出す最小限の炎で食事をし、オンテミオンとバラルが交代で、見張りをしながら休んだ。
夜中の襲撃もなく、気温は低く寒かったが、それぞれ英気を養うことができた。
◆◆
タンネッタ池――そこは、魔法力の集まる場所。何故かは誰にも分からない。水の中には、知ってか知らずか、延々と魔法力を受け続ける存在がいた。
それは、二つの赤い目を持つ怪物、フグード。バラルの爆裂魔法を喰らい、左腕を失い、もはや弓を撃つことはできなくなってしまった。穴が開いた身体もようやく塞がってきた。
「ぐぎぎ……ニンゲンめ……我を追って来た……む、迎えうづ! うつ!」
フグードは、視界の中に居た怪物に、その赤い目のチカラを使った。
魔法力が集まっているこの場所でも、ぐいぐい持っていかれる魔法力。意識をギリギリに保って、赤い目を見た怪物に命令する。
「外にいる、ニンゲンを、コロセ……コロセ!」
フグードの赤い目が光った。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました
小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」
二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。
第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。
それから二十年。
第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。
なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。
不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。
これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。
※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる