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第二章 若き冒険者たち
願いを込めて
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翌日、オンテミオンは訓練生たちを従えて、ハンフォードのぼろ家へと出発した。バラルは杖だけをオンテミオンに預け、結局自分は行きたくないと言って、どこかへ行ってしまった。
オンテミオンは、武器や防具を幾つか持ってきていた。長剣に、ダガー、杖、そして、長く幅の太い剣もあった。そして一人一人に鋲付きの革鎧を着せてきていた。
「この太い剣は何?」
ジャシードは気になって聞いてみた。
「んん、これは大剣《ロングブロードソード》という。重量があるから扱うのにチカラが要るが、守るにもよし、当たればその破壊力は見た目から分かるとおりだ」
「カッコいいなあ」
オンテミオンの言葉を聞いて、ジャシードはそんな剣が欲しくなった。しかし、今のジャシードには、その剣は大きすぎた。いつか、こんな剣を持とうとジャシードは決めた。
「何でこんなに持ってんの?」
オンテミオンが持ってきている武器を指さしつつ、スネイルが聞いた。
「んん……。宝石誘導というのは、一つの武具に一つだけなのだ。つまり君のダガーにもう一つ分使ってしまうと、最初の効果が消えてしまうと言うことが分かっている。だから、新しい物を持ってきたのだ」
「え、じゃあそれくれるの?」
「うむ。ワイバーンの利益だから気にするでない」
「やったあ!」
スネイルは飛び上がって喜んだ。彼はつい最近まで、誰かに物を貰うなんて事はなかったのだ。心の底から嬉しいことだろう。
そんな事を話している間に、ハンフォードのぼろ家に着いた。もはや慣れた四人は、ずかずかとぼろ家に入っていく。
その部屋は相変わらず、乱雑で汚れていた。差し込む光が、四人が部屋へ入ってきたために舞い上がった、空気中に漂う埃を映し出す。
「んん、ハンフォ……おい、どこに寝ておるんだおぬしは……」
オンテミオンは、ハンフォードが本棚の上で寝ているのを見て本棚を揺らした。しかし、ハンフォードは起きる気配が無い。
「どうやって上がったんだろう……」
ジャシードは呟いた。本棚の側には、梯子や足場などは見当たらない。
オンテミオンは、何度もハンフォードを揺すったり、引っ張ったり、つねったり、叩いたり、くすぐったりを繰り返し、やっとの事で起こすことに成功した。
「フォォゥォォ……。おはよう」
ハンフォードは、大口を開けて変な欠伸をした、と思ったら、本棚の上から見事なまでに落下し、床に叩き付けられた。落ち着いてきていた床の埃が、再度派手に舞い上がった。
「んん。おはよう。依頼をこなしてきたから、約束通り宝石誘導をやってくれ」
「フォ? そんな約束したかの?」
ハンフォードは床から立ち上がりながら、上ずった声で首を傾げた。
「んん……。まあブドウでも食え」
オンテミオンは面倒になって、とりあえずのブドウを差し出した。
「フォ!」
ハンフォードは、ブドウを見ると即座に口へと運んだ。大型の籠に山盛りあったブドウは、次々とハンフォードの口に吸い込まれていく。
――五分後、残りのブドウが三分の一になったところで、ハンフォードは食べるのをやめ、大人しくなった……目に光が宿ったような気がした。
「フォッ。やあオンテミオン。依頼は終わったかね?」
ハンフォードは、急に渋い声で言った。
「ど、どう言う仕組みなの……」
ジャシードは苦笑いしている。
「じいさんから、おっさん」
「ちょっとスネイル、ダメだよそんな事を言っちゃ」
ジャシードはスネイルを注意したが、ハンフォードはやはり、意に介さない様子だった。
「んん。依頼は完全に終わらせた。部品の状態も、かなりいい」
オンテミオンは、袋から部品になりそうな物を幾つも取り出した。
「フォッ……これはなかなか、状態がいい。それで、どれに浸透させるのかね?」
「まずは彼らの鎧に頼む。三人とも鎧を外して」
オンテミオンは、彼らに着せてきた鋲付きの革鎧を脱がせ、素材を幾つも並べた。
ハンフォードは、青く輝く鱗を多数と、ワイバーンの皮を選択し、次々と浸透させていった。それぞれ鎧の色がほんのりと青に染まり、艶が増したように思われた。
「フォッ。では、これで依頼は完遂されたな」
「待て、まだある」
「ここからは有料だぞ」
「んん……。もちろんマナの欠片なら出す」
「有料と言った」
「ブドウは誰の金だ? 誰が買いに行った? 買い物もできない程の普段に、色を添えているのは誰かな?」
「フフォッ!」
ハンフォードは、渋い声で謎の返事をして、手を差し出した。次は何だ、と言うことらしい。
オンテミオンは、持ってきた武器を次々と渡し、部品と融合させていった。
ジャシードには、微かに青黒く光る長剣が渡された。その黒い色は、二年前に倒した漆黒のワーウルフの爪、そしてあのワニの爪、更にワイバーンの爪まで、とにかく爪をふんだんに入れてある。もちろん効果は不明だ。
ガンドには、青く輝くガラス玉が着いた小型の杖が渡された。この杖は腰に下げても邪魔にならない大きさで、棒とともに持ち歩ける。場合によっては使い分けができるかも知れない。
スネイルには、ほのかに青紫色に光るダガーが渡された。ワニの爪と牙が使われている。スネイルはダガーを両手に持って、とても満足げにしていた。
バラルの杖は、先端に埋め込まれた宝石が、角度によって赤と青が入り混じるようになった。この仕上がりだけを見たら、バラルはなんと言うだろうか。とりあえず文句を付けてきそうだが……。
オンテミオンは、例の大剣に牙やら爪やらを融合させていた。しかし現段階では、とにかく効果が分からないため、数をこなすことが重要だそうだ。
「フォッ……。疲れた。疲れたぞ、オンテミオン。人使いの荒いヤツめ。こんなに魔法力を使わせるとは……」
ハンフォードは、渋い声でそう言うと、テーブルに突っ伏してしまった。
「人使いの荒いのはどっちだ。こちらはワイバーンに襲われ、見えない怪物に襲われ、大変だったのだぞ。これぐらい当然だ。だが、後でブドウを追加してやるのは、やぶさかでもない」
「フォッ……頼むぞ」
ハンフォードは、渋い声でオンテミオンに短く答えると、即座に寝てしまった。
「僕を運んできたときのバラルさんみたい。あの時も、魔法力を使いすぎたって言って、すぐ寝ちゃったんだ」
ジャシードは、ついこの間のことなのに、懐かしくなった。
「年寄りは、早寝」
「スネイル、そう言うのやめな、ね?」
「アニキが言うなら、やめる」
「頼むよ」
「うん。頑張る」
「……頑張らないと、やめられないの……?」
ジャシードは苦笑いした。世話の焼ける弟ができたものだ。
◆
訓練生たちは一旦部屋に戻り、急に増えてきた武具を並べた。何だか不揃いな色の武具が並んでいる。
「宝石誘導の色々な効果が分かってきたら、部品を集めてお揃いを作ってもらいたいな……なんか今のままじゃ、かっこ悪いし」
ガンドは革鎧と革の兜を並べて見比べた。ほんのり青と、艶々の兜、普通の籠手……なんとも一体感に欠ける。
「材料集めも楽しそうだね」
「ジャッシュもそう思う?」
ガンドは、色々見比べつつ言った。
「うん。色んな怪物を倒せば、色んな部品が取れそうだしね。それに、もっと冒険もしてみたいし」
「アニキ、冒険しよう! したい!」
スネイルが、冒険の言葉だけに反応して前のめりになった。
「まだ早いよ。僕は十五歳になるまでは、しっかりここで訓練したいんだ」
「ジャッシュが十五だと、あと四年くらいかな」
「そうだね。レムリスでは、レムランド開拓記念日にみんなの年齢が上がるから、その時はレムリスに帰るよ」
「ええ、アニキ……帰るの……」
スネイルは、一瞬にしてシュンとしてしまった。
「スネイルも行こうよ。ガンドも一緒だったら嬉しいな」
「もちろんさ!」
「アニキ! やった!」
「ガンドは、お父さんとお母さんの許可が要るんじゃない?」
「五年後なら、僕は十八だよ。許可なんて要らないさ」
「そっか。じゃあ、記念日の前日に着くように、みんなで行こう!」
「楽しみだね、アニキのふるさと!」
「それまでしっかり、ここで訓練しないとね」
ジャシードは、スネイルの頭に手を置いた。
「頑張るよ!」
「スネイルは素直でいいね」
「そ、そうかな!」
「スネイルが照れてるよ」
ガンドはそう指摘しながら、スネイルを指差した。
「う、るさい、つるつるのぷよぷよ!」
「なあにい!」
「ちょっと二人ともやめて」
三人は子供らしく、とても楽しそうにしていた。
◆◆
「実験の進捗はどうだ?」
全身を甲冑で覆っている男が、灰色のローブを纏っている者に言った。
「幾つかの成果は出せました。フグードと言う名の者を使役し、一つは半死半生からも復帰できる、自己再生能力を付与できました。完全切断にはまだ対応できませんが、現段階では十分な結果と考えます。
もう一つですが、多数の同士に知性を与え、街を襲撃させました。このどちらも、『赤の目』に付与した魔法で達成しております。魔法力を集めるのが大変な事ではありますが、赤の目を複数作り出す事ができれば、良い部下を組織することもできましょう」
灰色のローブに、蝋燭の炎が作り出す光が差し込み、鱗で覆われている顔の一部が露わになった。
「なかなかの成果だ。続けて励め」
「はっ……必ずや、しぶとい人間共を根絶やしに……」
◆◆
スネイルは、ジャシードとガンドが買い出しに行っている間、机に向かっていた。八歳の儀式をするためだ。
少し前までは、こんなことをする気にもならなかった。
ずっと、ずっと一人だった。
孤児院でも、その性格のおかげで孤立した。一度孤立すると、なかなかそこからの挽回は難しい。特に子供はそうだ。スネイルは、まさにその流れに乗ってしまった。もう挽回できなかった。
だから、スネイルは、ずっと一人でいた。一人で、オモチャの短剣を振り回した。
「んん……少年、一人なのかね?」
スネイルが驚いて見上げると、オンテミオンが見下ろしていた。
「んん……。すまん、脅かしたな」
オンテミオンはしゃがみ込んで視線を合わせた。
「なかなかの腕前だな……その短剣だ」
スネイルは、急な出来事に対処できずにいた。とりあえず首を振る。
「んん……。いつも一人でやっているのか?」
「うん」
「お父さんにお母さんはどうしている?」
「いない」
「親はいないのか。今は……孤児院か」
「そう」
「君は強くなりたいか?」
「うん」
「ならば、わしの所に来るつもりはないか? 強くなれるかも知れんぞ」
「行く」
スネイルは、今の状態を抜け出したかった。逃げないとおかしくなりそうだった。そんな時に声をかけてきたオンテミオンは、救いの神のように見えた。
「んん。よし、孤児院には、わしが話を付けてやる。二週間後、迎えを寄越すから、その指示に従うんだ。いいね」
「わかった」
二週間後、バラルが迎えに来て、その後はジャシードと同じだ。スネイルにとって違ったのは、ジャシードやスネイルが、幸せな家庭で育ったのが滲み出ていたところだ。
スネイルのような境遇の子供がいる場所では無かった。スネイルは羨ましさの余り、ツンケンした態度を取ってしまった。また、同じ流れになろうとしていた。
それでも、ジャシードはスネイルを見捨てなかった。彼はずっとスネイルの良いところを探していたし、ずっと気に掛けてくれていた。それどころか、命を張って助けにも来てくれた。
スネイルは、本当に、心の底から嬉しかった。今それを思い出しても、何だか涙ぐんでしまうほど、スネイルには嬉しい出来事だった。
「アニキは、すごいや……いいのかな、こんなのが弟で……いいのかな……」
スネイルは独り言ちて、紙に文字を書き始めた。
◆
「ただいま!」
しばらくして、ジャシードとガンドが元気よく帰ってきた。
「おかえり、アニキ!」
「ただいま、スネイル」
「僕には?」
「おかえり、ぴっかりん!」
「この、また!」
「あはは! おかえり、ガンド!」
「おう! ただいま!」
三人は、とっても、仲良しだ。
「んん、騒がしいぞ。買い物はちゃんと済ませたのか? 随分長く掛かったじゃあないか」
「僕たち、ほら、ちょっと有名になったじゃない? 街の買い物にも、呼び止められたりして、時間が掛かるって言うか」
ガンドは言い訳した。
「んん……。ならば、その頬に付いている食べかすをどう説明するんだ、ガンドよ」
「え!? あ……あー……。えーと……」
「ガンド、バレてるよ。もう無理。ごめんなさい寄り道してオヤツ食べました!」
ジャシードは素直に白状した。ガンドも観念してペコリと頭を下げた。
「遅れたのは良い。だが、スネイルを差し置いて二人だけでオヤツを食って来るとは、けしからん奴等だ!」
「けしからんやつらだ!」
オンテミオンとスネイルは、おかんむりだ。
「オンテミオンさん、そこは、大丈夫なんだ。……はい、スネイル。おみやげだよ」
ジャシードは、クッキーが入っている袋をスネイルに差し出した。
「わあ! アニキはやっぱりすごいや!」
「やっぱりって何?」
「いいの! ありがとうアニキ!」
スネイルは階段を駆け上っていった。
スネイルは、彼らが帰ってくる前に、紙を土に埋めていた。その紙にはこう書いてあった。
『アニキみたいに、だれかを、しあわせにできる人になりたい』
少年は、憧れの背中を追いかけていく。
その背を見てまた、憧れる少年を従えて。
第二章「若き冒険者たち」 完
オンテミオンは、武器や防具を幾つか持ってきていた。長剣に、ダガー、杖、そして、長く幅の太い剣もあった。そして一人一人に鋲付きの革鎧を着せてきていた。
「この太い剣は何?」
ジャシードは気になって聞いてみた。
「んん、これは大剣《ロングブロードソード》という。重量があるから扱うのにチカラが要るが、守るにもよし、当たればその破壊力は見た目から分かるとおりだ」
「カッコいいなあ」
オンテミオンの言葉を聞いて、ジャシードはそんな剣が欲しくなった。しかし、今のジャシードには、その剣は大きすぎた。いつか、こんな剣を持とうとジャシードは決めた。
「何でこんなに持ってんの?」
オンテミオンが持ってきている武器を指さしつつ、スネイルが聞いた。
「んん……。宝石誘導というのは、一つの武具に一つだけなのだ。つまり君のダガーにもう一つ分使ってしまうと、最初の効果が消えてしまうと言うことが分かっている。だから、新しい物を持ってきたのだ」
「え、じゃあそれくれるの?」
「うむ。ワイバーンの利益だから気にするでない」
「やったあ!」
スネイルは飛び上がって喜んだ。彼はつい最近まで、誰かに物を貰うなんて事はなかったのだ。心の底から嬉しいことだろう。
そんな事を話している間に、ハンフォードのぼろ家に着いた。もはや慣れた四人は、ずかずかとぼろ家に入っていく。
その部屋は相変わらず、乱雑で汚れていた。差し込む光が、四人が部屋へ入ってきたために舞い上がった、空気中に漂う埃を映し出す。
「んん、ハンフォ……おい、どこに寝ておるんだおぬしは……」
オンテミオンは、ハンフォードが本棚の上で寝ているのを見て本棚を揺らした。しかし、ハンフォードは起きる気配が無い。
「どうやって上がったんだろう……」
ジャシードは呟いた。本棚の側には、梯子や足場などは見当たらない。
オンテミオンは、何度もハンフォードを揺すったり、引っ張ったり、つねったり、叩いたり、くすぐったりを繰り返し、やっとの事で起こすことに成功した。
「フォォゥォォ……。おはよう」
ハンフォードは、大口を開けて変な欠伸をした、と思ったら、本棚の上から見事なまでに落下し、床に叩き付けられた。落ち着いてきていた床の埃が、再度派手に舞い上がった。
「んん。おはよう。依頼をこなしてきたから、約束通り宝石誘導をやってくれ」
「フォ? そんな約束したかの?」
ハンフォードは床から立ち上がりながら、上ずった声で首を傾げた。
「んん……。まあブドウでも食え」
オンテミオンは面倒になって、とりあえずのブドウを差し出した。
「フォ!」
ハンフォードは、ブドウを見ると即座に口へと運んだ。大型の籠に山盛りあったブドウは、次々とハンフォードの口に吸い込まれていく。
――五分後、残りのブドウが三分の一になったところで、ハンフォードは食べるのをやめ、大人しくなった……目に光が宿ったような気がした。
「フォッ。やあオンテミオン。依頼は終わったかね?」
ハンフォードは、急に渋い声で言った。
「ど、どう言う仕組みなの……」
ジャシードは苦笑いしている。
「じいさんから、おっさん」
「ちょっとスネイル、ダメだよそんな事を言っちゃ」
ジャシードはスネイルを注意したが、ハンフォードはやはり、意に介さない様子だった。
「んん。依頼は完全に終わらせた。部品の状態も、かなりいい」
オンテミオンは、袋から部品になりそうな物を幾つも取り出した。
「フォッ……これはなかなか、状態がいい。それで、どれに浸透させるのかね?」
「まずは彼らの鎧に頼む。三人とも鎧を外して」
オンテミオンは、彼らに着せてきた鋲付きの革鎧を脱がせ、素材を幾つも並べた。
ハンフォードは、青く輝く鱗を多数と、ワイバーンの皮を選択し、次々と浸透させていった。それぞれ鎧の色がほんのりと青に染まり、艶が増したように思われた。
「フォッ。では、これで依頼は完遂されたな」
「待て、まだある」
「ここからは有料だぞ」
「んん……。もちろんマナの欠片なら出す」
「有料と言った」
「ブドウは誰の金だ? 誰が買いに行った? 買い物もできない程の普段に、色を添えているのは誰かな?」
「フフォッ!」
ハンフォードは、渋い声で謎の返事をして、手を差し出した。次は何だ、と言うことらしい。
オンテミオンは、持ってきた武器を次々と渡し、部品と融合させていった。
ジャシードには、微かに青黒く光る長剣が渡された。その黒い色は、二年前に倒した漆黒のワーウルフの爪、そしてあのワニの爪、更にワイバーンの爪まで、とにかく爪をふんだんに入れてある。もちろん効果は不明だ。
ガンドには、青く輝くガラス玉が着いた小型の杖が渡された。この杖は腰に下げても邪魔にならない大きさで、棒とともに持ち歩ける。場合によっては使い分けができるかも知れない。
スネイルには、ほのかに青紫色に光るダガーが渡された。ワニの爪と牙が使われている。スネイルはダガーを両手に持って、とても満足げにしていた。
バラルの杖は、先端に埋め込まれた宝石が、角度によって赤と青が入り混じるようになった。この仕上がりだけを見たら、バラルはなんと言うだろうか。とりあえず文句を付けてきそうだが……。
オンテミオンは、例の大剣に牙やら爪やらを融合させていた。しかし現段階では、とにかく効果が分からないため、数をこなすことが重要だそうだ。
「フォッ……。疲れた。疲れたぞ、オンテミオン。人使いの荒いヤツめ。こんなに魔法力を使わせるとは……」
ハンフォードは、渋い声でそう言うと、テーブルに突っ伏してしまった。
「人使いの荒いのはどっちだ。こちらはワイバーンに襲われ、見えない怪物に襲われ、大変だったのだぞ。これぐらい当然だ。だが、後でブドウを追加してやるのは、やぶさかでもない」
「フォッ……頼むぞ」
ハンフォードは、渋い声でオンテミオンに短く答えると、即座に寝てしまった。
「僕を運んできたときのバラルさんみたい。あの時も、魔法力を使いすぎたって言って、すぐ寝ちゃったんだ」
ジャシードは、ついこの間のことなのに、懐かしくなった。
「年寄りは、早寝」
「スネイル、そう言うのやめな、ね?」
「アニキが言うなら、やめる」
「頼むよ」
「うん。頑張る」
「……頑張らないと、やめられないの……?」
ジャシードは苦笑いした。世話の焼ける弟ができたものだ。
◆
訓練生たちは一旦部屋に戻り、急に増えてきた武具を並べた。何だか不揃いな色の武具が並んでいる。
「宝石誘導の色々な効果が分かってきたら、部品を集めてお揃いを作ってもらいたいな……なんか今のままじゃ、かっこ悪いし」
ガンドは革鎧と革の兜を並べて見比べた。ほんのり青と、艶々の兜、普通の籠手……なんとも一体感に欠ける。
「材料集めも楽しそうだね」
「ジャッシュもそう思う?」
ガンドは、色々見比べつつ言った。
「うん。色んな怪物を倒せば、色んな部品が取れそうだしね。それに、もっと冒険もしてみたいし」
「アニキ、冒険しよう! したい!」
スネイルが、冒険の言葉だけに反応して前のめりになった。
「まだ早いよ。僕は十五歳になるまでは、しっかりここで訓練したいんだ」
「ジャッシュが十五だと、あと四年くらいかな」
「そうだね。レムリスでは、レムランド開拓記念日にみんなの年齢が上がるから、その時はレムリスに帰るよ」
「ええ、アニキ……帰るの……」
スネイルは、一瞬にしてシュンとしてしまった。
「スネイルも行こうよ。ガンドも一緒だったら嬉しいな」
「もちろんさ!」
「アニキ! やった!」
「ガンドは、お父さんとお母さんの許可が要るんじゃない?」
「五年後なら、僕は十八だよ。許可なんて要らないさ」
「そっか。じゃあ、記念日の前日に着くように、みんなで行こう!」
「楽しみだね、アニキのふるさと!」
「それまでしっかり、ここで訓練しないとね」
ジャシードは、スネイルの頭に手を置いた。
「頑張るよ!」
「スネイルは素直でいいね」
「そ、そうかな!」
「スネイルが照れてるよ」
ガンドはそう指摘しながら、スネイルを指差した。
「う、るさい、つるつるのぷよぷよ!」
「なあにい!」
「ちょっと二人ともやめて」
三人は子供らしく、とても楽しそうにしていた。
◆◆
「実験の進捗はどうだ?」
全身を甲冑で覆っている男が、灰色のローブを纏っている者に言った。
「幾つかの成果は出せました。フグードと言う名の者を使役し、一つは半死半生からも復帰できる、自己再生能力を付与できました。完全切断にはまだ対応できませんが、現段階では十分な結果と考えます。
もう一つですが、多数の同士に知性を与え、街を襲撃させました。このどちらも、『赤の目』に付与した魔法で達成しております。魔法力を集めるのが大変な事ではありますが、赤の目を複数作り出す事ができれば、良い部下を組織することもできましょう」
灰色のローブに、蝋燭の炎が作り出す光が差し込み、鱗で覆われている顔の一部が露わになった。
「なかなかの成果だ。続けて励め」
「はっ……必ずや、しぶとい人間共を根絶やしに……」
◆◆
スネイルは、ジャシードとガンドが買い出しに行っている間、机に向かっていた。八歳の儀式をするためだ。
少し前までは、こんなことをする気にもならなかった。
ずっと、ずっと一人だった。
孤児院でも、その性格のおかげで孤立した。一度孤立すると、なかなかそこからの挽回は難しい。特に子供はそうだ。スネイルは、まさにその流れに乗ってしまった。もう挽回できなかった。
だから、スネイルは、ずっと一人でいた。一人で、オモチャの短剣を振り回した。
「んん……少年、一人なのかね?」
スネイルが驚いて見上げると、オンテミオンが見下ろしていた。
「んん……。すまん、脅かしたな」
オンテミオンはしゃがみ込んで視線を合わせた。
「なかなかの腕前だな……その短剣だ」
スネイルは、急な出来事に対処できずにいた。とりあえず首を振る。
「んん……。いつも一人でやっているのか?」
「うん」
「お父さんにお母さんはどうしている?」
「いない」
「親はいないのか。今は……孤児院か」
「そう」
「君は強くなりたいか?」
「うん」
「ならば、わしの所に来るつもりはないか? 強くなれるかも知れんぞ」
「行く」
スネイルは、今の状態を抜け出したかった。逃げないとおかしくなりそうだった。そんな時に声をかけてきたオンテミオンは、救いの神のように見えた。
「んん。よし、孤児院には、わしが話を付けてやる。二週間後、迎えを寄越すから、その指示に従うんだ。いいね」
「わかった」
二週間後、バラルが迎えに来て、その後はジャシードと同じだ。スネイルにとって違ったのは、ジャシードやスネイルが、幸せな家庭で育ったのが滲み出ていたところだ。
スネイルのような境遇の子供がいる場所では無かった。スネイルは羨ましさの余り、ツンケンした態度を取ってしまった。また、同じ流れになろうとしていた。
それでも、ジャシードはスネイルを見捨てなかった。彼はずっとスネイルの良いところを探していたし、ずっと気に掛けてくれていた。それどころか、命を張って助けにも来てくれた。
スネイルは、本当に、心の底から嬉しかった。今それを思い出しても、何だか涙ぐんでしまうほど、スネイルには嬉しい出来事だった。
「アニキは、すごいや……いいのかな、こんなのが弟で……いいのかな……」
スネイルは独り言ちて、紙に文字を書き始めた。
◆
「ただいま!」
しばらくして、ジャシードとガンドが元気よく帰ってきた。
「おかえり、アニキ!」
「ただいま、スネイル」
「僕には?」
「おかえり、ぴっかりん!」
「この、また!」
「あはは! おかえり、ガンド!」
「おう! ただいま!」
三人は、とっても、仲良しだ。
「んん、騒がしいぞ。買い物はちゃんと済ませたのか? 随分長く掛かったじゃあないか」
「僕たち、ほら、ちょっと有名になったじゃない? 街の買い物にも、呼び止められたりして、時間が掛かるって言うか」
ガンドは言い訳した。
「んん……。ならば、その頬に付いている食べかすをどう説明するんだ、ガンドよ」
「え!? あ……あー……。えーと……」
「ガンド、バレてるよ。もう無理。ごめんなさい寄り道してオヤツ食べました!」
ジャシードは素直に白状した。ガンドも観念してペコリと頭を下げた。
「遅れたのは良い。だが、スネイルを差し置いて二人だけでオヤツを食って来るとは、けしからん奴等だ!」
「けしからんやつらだ!」
オンテミオンとスネイルは、おかんむりだ。
「オンテミオンさん、そこは、大丈夫なんだ。……はい、スネイル。おみやげだよ」
ジャシードは、クッキーが入っている袋をスネイルに差し出した。
「わあ! アニキはやっぱりすごいや!」
「やっぱりって何?」
「いいの! ありがとうアニキ!」
スネイルは階段を駆け上っていった。
スネイルは、彼らが帰ってくる前に、紙を土に埋めていた。その紙にはこう書いてあった。
『アニキみたいに、だれかを、しあわせにできる人になりたい』
少年は、憧れの背中を追いかけていく。
その背を見てまた、憧れる少年を従えて。
第二章「若き冒険者たち」 完
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