イレンディア・オデッセイ

サイキ ハヤト

文字の大きさ
111 / 125
第五章 正義の在処

半牛半人

しおりを挟む
 サファールの入口は、とても広い広場になっている。滝の音を背後に感じながら、ヒートヘイズ一行は進む。広場の奥には、ウォータークロッドが生息していた。

 ウォータークロッドは、水の魔法を得意とする怪物だ。クロッドは概ねどれも同じだが、体内の『核』を中心に、その外側がそれぞれの特性によって構成されている。この核を破壊することで退治できるのだが、クロッドたちは当然、わざわざ弱点を晒すことはしない。
 水の魔法で攻撃してくるウォータークロッドは、マーシャとバラルが炎の魔法をぶつけてその魔法を無効化した。氷のようになる腕は、炎熱剣を振るうスネイルが、あっという間に切り落とす。ウォータークロッドは、腕を再生しようとするが、ジャシードはその隙を与えなかった。長剣のままのディバイダーは、風切り音を立てながらウォータークロッドの核を捉えると、桶の水をぶちまけるように弾け飛んで消えていった。

「よし、ひとまず、飯だ。滝の裏では狭くて落ち着かなかったからな」
「はーい!」
「アァ!」
 バラルの言に続いて、マーシャとピックが良い返事をした。

◆◆

 軽食を済ませた一行は、更に奥へと進んでいく。

「なんで明かりがあんの?」
 先頭を行くスネイルは、比較的明るい洞窟に気が付いた。

 洞窟の壁には所々に光るものがあり、洞窟の中をぼんやり照らしていた。その光は壁の窪みに設置された小さな石から発せられており、明るいとは言えないものの、洞窟の構造がぼんやりとはわかる明るさであった。

「高度な知能を持った奴がいる、と言うことだな。罠があるらしい、と言う段階でもわしらは分かってはいたが、人間の言葉を喋るというのもあながち間違ってはいないようだ」
 バラルは、光を放つ石を慎重に眺めながら言った。

「僕はもう少し明るい方が好きなんだけどな」
「いいぞ、照らしてくれ。ただし明るすぎないようにな」
「よしきた!」
 ガンドは光る玉を作り出し、洞窟の天井すれすれに配置した。

 サファールが明るく照らされる。サファールは概ね五メートルほどの幅がある通路が続いていた。高さも三メートルほどはありそうだ。所々、高くなったり、低くなったりしながら奥へと続いている。壁は岩の部分や、土の部分があり、過去のいつの時代か、何者かの手によって掘られたものであると分かる。

「罠もあるかも知れないが、通路そのものも迷路のようになっていると思った方が良さそうだな」
 バラルは、この先の様子を確認して言った。何者かの手によって掘られたのであれば、その者の都合の良いように掘られたと考えるのが妥当だ。

「気をつけて進もう」
 ジャシードはスネイルの肩に手を当てる。

「がってん、アニキ!」
 恐らく消える事がないであろう、強い憧れと尊敬の念を持っているジャシードに激励されて、スネイルは気分が上がるのを感じた。

 一行はスネイルを先頭に、ジャシード、バラル、マーシャ、ガンドが殿《しんがり》をつとめ、サファールの奥へと進み始める。

「いきなり三叉路だけど」
 スネイルは目の前に現れた三叉路に、仲間の方を振り返る。

「正直、テキトウに進むしか無いと思うわ。こんな事なら、レグラントさんに地図でも描いてもらえば良かったわね」
「がってん、アネキ!」
 スネイルは感覚の赴くままに、右側の道を選択した。

 少し進むと、通路の奥からドタドタと何かが走ってくる音が聞こえた。

「何か来た!」
 スネイルは、揺らめく短剣を鞘から引き抜いて構える。

「あれは、ミノタウロスだな」
 バラルは目を細め、通路の奥から走ってくるものを見つめた。

「ミノタウロス?」
「ああ、半牛半人だ。二足歩行で顔は牛、牛の筋力を備えている。油断するなよ」
「がってん、おっちゃん!」
 スネイルは手近な岩に身を隠し、その気配を感づかれないように隠した。

「サファールの怪物たちがどれほどの強さなのか、体験してみるとしようか!」
 ジャシードはディバイダーを抜き放った。

「アァ!」
 ピックはマーシャが杖を持ち、身構えたのを見てひと鳴きした。

「あら、応援してくれるの?」
「アァ!」
「ま。嬉しいわね」
 マーシャがひと鳴きしたピックの頭を撫でると、ピックはマーシャの耳たぶを甘噛みした。

 ドタドタと走ってくる怪物は、バラルの見立て通りミノタウロスだった。ミノタウロスは二体。立派な両角を持つ方は巨大な斧を持ち、片側の角が折れている方は弓を持っている。

 走り込んでくるミノタウロスたち。弓を番える片角のミノタウロスを後ろに置いて、両角のミノタウロスは巨大な斧を真横に引いた。

「後ろは任せて!」
 マーシャは、弓を番えているミノタウロスに向かって、炎の玉を放った。
 片角のミノタウロスに寄って放たれた矢は、炎の玉に包まれて燃え落ち、炎の玉はそのまま片角のミノタウロスを燃え上がらせた。

「グモオオオ!」
 片角のミノタウロスは、悶絶しながらのたうち回った。その間も魔法の炎は、無慈悲にミノタウロスを焼いていく。

 両角のミノタウロスは、振りかぶった斧をジャシードに向かって振るった。その斧は、空気を切り裂き轟音を立てながらジャシードに迫る。

「よっ!」
 ジャシードは左手に力場を作り出し、ミノタウロスの斧を受け止めようとする。しかしミノタウロスのチカラに押され、ジャシードは地面の擦れる音を立てつつ、数十センチほど身体を持って行かれた。

「グモアアア!」
 両角のミノタウロスは、筋肉をプルプルさせながらジャシードが止めている斧を振り抜こうとしている。

「アグアアアア!!」
 ジャシードへ斧を押し込む事に集中していたミノタウロスが、急に身体を弓なりにして苦しみだした。

「うりうりうりうり!」
 いつの間にか、ミノタウロスの背中に取り付いたスネイルは、霧氷剣と炎熱剣をミノタウロスの背中に深々と刺し込んでいた。そして深く刺し込んだ二本の剣を、刺したり抜いたりを繰り返している。

 ミノタウロスはたまらず身体を捩《よじ》る。そうすると、当然ジャシードを押していたチカラが弱まり、ジャシードは斧から手を離す事ができるようになった。

「スネイル、ナイスフォロー!」
 ジャシードはディバイダーを握り直し、両角ミノタウロスの首へ向かって剣を振り上げた。ミノタウロスの首はジャシードによって切断され、地面にごろりと転がり、逞しい身体が砂煙を上げながら地面に倒れ込む。

「やった」
 スネイルは、片角ミノタウロスが焼け焦げて死んでいるのを確認した。

「なんて事無いわね」
 マーシャは自分の杖を片手にペチペチ打ち付けて、物足りないと言わんばかりだ。

「なんかさ……」
 突然、ガンドが声を上げた。

「ん?」
「どうしたの、ガンド」
 ジャシードとマーシャはほぼ同時に返事をする。

「いや……」
「もったいぶり」
 なかなか言葉にしないガンドに、早くもスネイルが痺れを切らした。

「ミノタウロス……さ、なんて言うか……」
 三度ガンドが口籠もる。

「なに?」
「なによ?」
「なんだよう」
 三人とも、焦れったくなって少し大きな声を上げた。

「ミノタウロス……焼くと美味そうな匂いがするな……って」
 ガンドが恥ずかしそうに言った。

「すっごい……すっごいどうでもいい!」
 マーシャはガンドを指さしながら言う。

「さ、行こう」
「うん、行こう」
 ジャシードとスネイルは、洞窟を歩き始め、マーシャも無言でついていった。

「無視しないで!」
 ガンドは慌てて、二人を追いかける。

「まったく、何かと思えば……ま、匂いに関しては、否定はせんがな。半牛半人だ、仕方あるまい」
 黙って聞いていたバラルは、浅い溜息をついて若者達の後を追いかけた。

◆◆

 燃えるような赤い目の男は、西レンドール地方からウェリント地方へ街道を繋ぐウェーリド橋に辿り着いた。
 時折すれ違う者たちは、その男が発する異様な雰囲気を敏感に察知し、誰一人として近づこうとはしなかった。

 その男はゆったりと、そして悠々とウェーリド橋を渡っていく。

「おい! お前! そこのお前だ! お前!」
 ウェーリド橋を越えた辺り、ウェリント側には、それほど大きくない砦がある。宿泊施設すらない、衛兵が狭苦しく数人過ごせる程度の砦だ。
 その砦で見張りをしている衛兵が、かの男の異様な雰囲気を感じ取り、大きな声を上げて呼び止めようとしている。

「聞いてんのか、お前!」
 衛兵は、仲間と三人でかの男を取り囲む。

「どこから来た!?」
「見るからに怪しい奴だな」
「フードを取れよ!」
 衛兵の一人が、かの男のフードをまくり上げる。

「お、お前、人間じゃねえな!!」
「こいつ、怪物だ!」
 衛兵たちは、次々と武器を構えて距離を取った。

「休んでる三人も呼んでこい!」
「分かった!」
 衛兵の一人が武器を構えたまま、じりじりと後退し、小振りの砦に走って行った。

「人間に化けやがって、バレないとでも思っているのか!?」

 二人の衛兵は、少しずつ距離を縮めていく。前後挟み撃ちできる状態になっていたが、異様な雰囲気に圧されて身動きが取れずにいた。
 しかし手練れであればあるほど、下手に踏み込めば、やられる未来が見えていた。それだけに、迂闊に攻撃を仕掛けられない。

 そうして二人の衛兵たちが時間稼ぎをしているうちに、休んでいた三人を連れて、仲間が戻ってきた。

「さあ、観念しろ。六対一で勝てると思うなよ!」

 衛兵たちは、四人で距離を詰めていく。残りの二人は魔法使いゆえに、少し離れた場所に陣取り、魔法を練り始めた。

 魔法使いの一人が、鎧の戦士を召喚した。鎧の戦士は、剣を構え、かの男に向かっていく。
 鎧の戦士に合わせ、四人の衛兵たちが、かの男に躍りかかった。
 もう一人の魔法使いは、仲間たち全員に対して魔法の防護壁を作り出し、攻撃に耐えられるように備えた。

 衛兵たちは次々と武器の攻撃を繰り出す。かの男は完全に取り囲まれ、逃げることも避けることもできなくなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...