イレンディア・オデッセイ

サイキ ハヤト

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第五章 正義の在処

発射台を破壊せよ!

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 ヒートヘイズたちは、魔法の仕掛け扉を超えた先へと進んでいた。先ほどまでは微かに聞こえていた、ネヴィエル滝の流れ落ちる音も聞こえなくなり、洞窟の奥から聞こえてくる怪物たちのうなり声が大きくなった。

「サファールは、どれくらいの広さがあるんだろうねぇ?」
 ガンドは、洞窟を照らす光を調節し、なるべく遠くに光が届くようにした。

 ガンドの光は、遠くの方にある、広がりのありそうな空間を照らし出す。

「うわあ、いるよ、ミノタウロス」
「そりゃあ、いるわよね」
 ガンドが上げた声に、マーシャが反応した。

「こっち見てる」
 スネイルが囁く。

「見てるのに来ないの? 変ねぇ?」
「うん、変だ。多分、こっちに来られない。アネキ、みんなも、おいらから前に出ないで。罠があるかも」
 スネイルは片手を水平に広げて、皆が自分の前に来ないように制しながら、腰を低くして少しずつ前に進んでいく。
 洞窟の奥の方から反響してくる、怪物たちのうなり声以外聞こえない通路に、スネイルが歩を進める毎に砂が擦れる微かな音が響く。

 スネイルは、今まで見たこともないような、真剣な表情で一歩一歩進んでいく。彼はアサシンやレンジャーと呼ばれる者たちが持っている、研ぎ澄まされた感覚に全力を注いでいた。

「……見つけた。下がって」
 スネイルは姿勢を元に戻すと、仲間たちを押し戻しながら数歩後ろに下がった。そしておもむろにそこらの石を掴むと、狙いを定めて放り投げる。

「あれ、ちょっと遠いかな」
 石はスネイルが狙ったところよりも、少しだけ遠くに落ちたようだった。しかしその瞬間に轟音が響き、通路の左右の壁と床と天井から、凄まじい炎が噴出した。投げ入れた石が、高熱で割れて弾け飛んだであろう、バチンと言う音が響いた。

「うわわ!」
「ァァーア!」
 思わずガンドとピックが驚きの声を上げ、ピックは羽ばたいてマーシャの肩に避難した。

「こりゃあ、無防備なら丸焦げだ」
 バラルは顎に手を当てつつ言う。

「うん。あの炎は、業火の魔法と似てる。威力も近いと思うわ」
「そうだな……ここの主は、魔法に精通しておるのは確定的だ」
「レグラントさんは、こう言った罠も突破したのか……」
 ジャシードは、考え事をしながら独り言ちた。レグラントは、何か底知れぬ強さを持っているように思える。それは、ネルニードにも似た何かだ。普段は牙を剥くことはないが、いざとなればいつ何時《なんどき》でも、その実力を発揮することができるはずだ。
 そのレグラントがああまでして備えている仮想敵国は、一体どのような者たちで、どのような規模だと思っているのか……。ジャシードはそこまで考えて、続きを考えるのをやめた。

「仕掛けなくなった」
 スネイルが周囲を再度念入りに調べ、安全になったことを確認した。

「でも、ミノタウロスたちは来ないわね。まだ罠があるのかしら?」
「調べながら進む」
「うん。よろしくね、スネイル」
「まかせて」
 そう言って、再び背を低くして前を向いたスネイルの背中を見て、マーシャは微笑む。スネイルはあまり背が大きくならず、小さな背中のままだが、とても頼りがいのある弟であり仲間だ。

「明かりも移動させないといけないな」
「ううん、いい。見つけるコツが分かった気がする」
「コツ?」
「うん」
「そっか。必要になったら、いつでも言ってよ」
「ありがと」
 スネイルは再び体勢を低くして、ソロリソロリと進み出した。どんなコツが分かったのかは、スネイル以外には分からない。
 実際はというと、スネイルには知覚の拡張能力が備わっている。それはレンジャーやアサシンと呼ばれる者たちが持つ、力場や魔法と同じような特殊能力の一つだ。
 その知覚がどのように変化すると罠の可能性があるのかを、スネイルは先ほどの発見で学び取った。視覚の違和感と感覚の違和感が紐付けられ、視覚が必要なくなったのだ。

 四人と一羽は、前方にいるミノタウロスたちにも気を配りながら、スネイルの後ろから続く。
 ミノタウロスたちは、依然としてヒートヘイズたちを監視しているようだが、今居る広場から出る気は無いようだ。

 ふと、ジャシードはミノタウロスたちの微妙な動きに気がついた。ミノタウロスたちの向こうに、うすぼんやりと照らされている反対側の壁が見えた。

「スネイル、気を付けろ! ミノタウロスが何かやる気だ!」
 ジャシードが声を上げた瞬間、ミノタウロスたちが空けた空間の向こうから、何かが発射された。
 殆ど反射的に、ジャシードは走り込んでスネイルを横に押しのけ、力場を発動させた。

 ジャシードが発射されたものをよく見ると、大きな槍だと言うことがわかった。発射されたのは一本ではなく、何本かが連続して放たれている。

「これを当てるために、おれたちを引き寄せていたんだな!」
 ジャシードはディバイダーを引き抜き、間に合うものは剣で壁側へと打ち、間に合わないものは力場で受け止めた。

「こんなに大きい槍を、私たちに当てようとするなんて!」
 マーシャは、叩き落とされた槍を見て驚いている。

「何かがある前に……っと」
 ガンドは魔法の鎧を作り出し、全員に纏わせた。

 魔法の鎧は、効果のある間は、攻撃が当たりづらくなる。非常に簡易的な、力場のようなものだ。
 ただし、力場のように鉄壁ではない。『あと少しで避けられた』攻撃は、魔法の鎧で避けることができるし、攻撃が直撃した場合でも傷がやや浅くなる。
 ガンドはこのような、仲間の支援を行う魔法の習得にもチカラを入れている。間接的にでも、自分の存在が役に立つようにする、彼なりの工夫だ。

 そして……ジャシードが槍に対応している間に、雄叫びを上げながらミノタウロスたちが突撃してきた。

「ミノタウロスが来たぞ!」
 飛んできた槍と、更に放たれた矢を叩き落としながら、ジャシードが声を上げる。

「よし、僕も行くぞ!」
 ガンドは背負っていたハンマーを取り上げると、ミノタウロスへと向かっていった。

 先にミノタウロスと遭遇したジャシードは、ディバイダーを二本に分けると、先鋒のミノタウロスが振るった斧を右に大きく跳んで躱した。
 更に地を蹴って前方へ飛び込みつつ、身体をクルリと回転させながら手前のミノタウロスを斬り、その奥へやってきたミノタウロスの脚に斬りかかる。その動きは、剣を二本使った舞踏のようだ。
 ジャシードは攻撃の最中、奥の広場にいるミノタウロスたちが、何かをしているのがふと目に入った。

「バラルさん、マーシャ! 奥の部屋に、槍の発射ができる物があると思うんだけど、魔法で壊せない!?」
 ジャシードは、ミノタウロス二体の斧と剣を躱しながら剣を振るっている。

「うむ、やってみよう」
 バラルは風の魔法で少し上に身体を持ち上げた。ジャシードの言うとおり、奥の広場に発射台のようなものが見える。

「ドゴールの城壁の上にあるような奴があるな。マーシャ、炎の魔法をわしの前辺りを狙って放て。風で送って焼き払う」
「私が直接やれば良いんじゃない?」
「わしに抱き抱えられる状態になってもか?」
「炎、撃ちまーす!」
「くっ、即答か……」
 バラルは大して期待していないにもかかわらず、妙に気分が落ちるのを感じた。
「それに、魔法使いが二人いるのだから、負担は分けておいた方が良い」
「はい先生!」
 マーシャは早速、炎の玉を作り始めた。

「ジャッシュは、そんなに激しく動いているのに、何でそんなものが見えるんだろうね!」
 ガンドは両手に握ったハンマーで、ミノタウロスの膝を強かに打った。筋肉隆々のミノタウロスだが、関節は筋肉で覆われていないから、攻撃にはうってつけの場所だ。もっとも、ミノタウロスは三メートルほどの身長ゆえに、簡単に上半身や頭に攻撃を当てることはできない。

『グモアア!』
 ミノタウロスが思わず膝を押さえ、上半身が下がってくる。

「待ってましたあ!」
 ガンドは、ジャシードの身のこなしを見て覚えた、跳び上がりながらのハンマーの振り上げを放つ。
 ハンマーは見事にミノタウロスの顔面を捉え、ミノタウロスは派手に鼻血を飛び散らせながらひっくり返った。

「とっどめぇ!」
 倒れたミノタウロスの首筋に、スネイルの炎熱剣が閃き、更に大量の血液が噴き出す。
 スネイルは、すぐに次のミノタウロスへと跳びかかった。ミノタウロスは、スネイルの動きについて行けず、あらぬ方向へ武器を振るっている。

「ナイス、スネイル!」
 ガンドは、次に迫り来るミノタウロスへと走り込む。

 肉弾戦の三人が大暴れし、多くいたはずのミノタウロスは、マーシャやバラルの居る場所に辿り着くともなく、半数ほどが倒された。

「マーシャ、早くせい。次の槍が来るぞ!」
「できるだけ威力を強めているのよ。威力が弱いと、途中で消えちゃうでしょ……よし行くわよ!」
 炎の魔法が仕上がったマーシャは、バラルの前辺りを狙って、まるで糸のように練られた細い炎の繋がりを放った。

「これは……凄まじい密度だ!」
 バラルは、マーシャの魔法を見て驚いた。マーシャの炎の魔法は、もしかすると自分を超えているかも知れないと、バラルはそう感じた。

「わしも、負けてはおれんわい!」
 バラルが杖を振り回すと、杖の先に強い空気の渦が発生し、風切り音を立て始めた。

「ほれっ!」
 バラルはマーシャの細い炎を風で巻き取るように、魔法で圧縮した風を放つ。

 圧縮した風は、糸のような炎を渦に展開させ、横方向に伸びる炎の竜巻となった。凄まじい勢いの炎の竜巻に恐怖したミノタウロスたちは、次々に頭を引っ込め、炎の竜巻は彼らの頭をその熱で焦がしながら越えていった。

「ちと上すぎるな……おい、ジャシードたち! 炎に気を付けてくれ!」
 バラルは風に強弱を加えて、炎の竜巻が揺らめくように工夫すると、炎の竜巻が踊るようになった。

「あつあつ! おっちゃん危ない何すんの!」
 スネイルが文句を言っている。炎はスネイルよりも随分上を通過しているが、マーシャが作り出した炎の威力が半端ではない。

「だから気を付けろと言っただろう」
「気を付けてても熱い!」
「スネイルの髪の毛が燃えて、ぴっかりんになったら、僕が治してあげても良いよ!」
「ぴっかりん! そんなの嫌だ!」
 スネイルは、ガンドの声を聞いて絶叫した。

 そんなやり取りの間も炎の竜巻はぐんぐん伸びていき、遂に槍の発射台の周囲にいたミノタウロスたちもろとも焼き尽くした。

「よし、発射台の破壊を確認したぞ!」
「ありがとう、バラルさん、マーシャ。少し休んでて! よし、あとは残りのミノタウロスたちを倒すだけだ!」
「おう!」
「よゆう!」
 三人は、ミノタウロスたちを更に攻撃する。

 ミノタウロスたちは、圧倒的なチカラの差を見せつけられ、勢いが弱まっていた。そんなミノタウロスたちが全滅するのは、もはや時間の問題だった。
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