炎舞の双子と飛竜を駆る少女

純粋どくだみ茶

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04.よっつめ

17.エンドア平原のダンジョン(その17)

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「おいベリル、外の様子はどうだ。魔獣の鳴き声とか足音がしなくなったぞ。」

冒険者は、木の扉に耳を付けて扉の外様子を必死に伺っていた。

「しっ、静かにしろジョア。さっきから何かの足音がするんだ。」

「人の足音にも聴こえるが、ダンジョン中に魔獣が溢れているこの状況の中を、人が歩いている
とは思えんが…。」

冒険者達は、ダンジョンの所々にある通称避難部屋に逃げ込んでいた。
この避難部屋は、字の如く魔獣が湧く事も入る事ができない部屋で冒険者達は、ダンジョンでの
魔獣狩りの途中の休憩や食事、仮眠に利用していた。

そんな避難部屋に、命辛々逃げて来た冒険者数十人が避難していた。
決して広い部屋ではなかった。避難している冒険者全員が横になったらいっぱいになってしまう
ような部屋だ。

食料や水は、個々の冒険者が持ち込んだ物だけだった。
だから、他の冒険者に分け与える食べ物も水もなかった。

「なあ、俺達いつまでここに居るんだよ。」

「うるさい、静かにしろ。通路の音が聴こえないだろう。」

「なあ、腹減った。水も底をつくぞ。」

「そんな事は分かってる。とにかく魔獣さえいなくなればダンジョンの外まで死ぬ気で走って逃げるんだよ。」

「ベリル、それでどうだ。」

「だからこうやって扉に耳を付けて外の音を聴いてるんじゃないか。」

扉に耳を付けて外の音を聴いていた冒険者は、かすかにふたりの人らしき足音を聴き分けた。
冒険者は考えた。もし魔獣だったらこの部屋の中はパニックになる。

しかし、もし救援に駆け付けた兵士だったら助かるかもしれない。
どのみち、この部屋にはいつまでもいられない。ならば意を決して外の様子を見るしかない。

ベリルは、恐る恐る避難部屋の木の扉をゆっくりと開けた。そして扉の外に頭だけを出して辺りの様子を伺った。
扉の隙間から外の様子を伺った冒険者の目には、炎の体をした巨大な大蛇がぞろぞろとダンジョン
の奥に向かって蛇行していく光景が目に映っていた。

「ギャ、ギャ、ギャー。」

冒険者は、悲鳴を上げると木の扉を閉め、閂を嵌めて木の扉が開かないようにした。

「どっ、どうしたベリル。なに悲鳴を上げてるんだ。」

扉の戸の様子を見たベリルの顔が真っ青で今にも気を失うのでないかと思える顔をしていた。
冒険者の体は、ガタガタと震え、木の扉の前に座り込んだまま動けなくなっていた。

「まずい。まずい。まずい。あんな魔獣は見たことがない。」

「デカい。デカい。デカすぎる。通路いっぱいの大きさの炎でできた巨大な大蛇だ。」

「おいおいベリル、何を寝ぼけてるんだ。そんな魔獣、聞いた事がないぞ。」

「俺も知らん。だが目の前を通り過ぎていった。」

「言っておくが俺は酒は一滴も飲んでない。」

ベリルの慌てふためく様は、嘘を言っているようには見えなかった。
しかし、もうひとりの冒険者ジョアが木の扉に耳をつけて外の戸を聴いたが、木の扉の外の音は何も聴こえてはこなかった。

ジョアは、ベリルを木の扉の前からどかすと、閂を外して恐る恐る木の扉を少しだけ開けてみた。
すると、木の扉の向こうには、炎を纏った巨大な大蛇の顔があった。その巨大な大蛇の顔はジョアの顔をじっと覗いていた。

大蛇の巨大な口からは、チョロチョロと蛇の舌が見え隠れしていた。
ジョアは、何事もなかったように木の扉を閉めると、閂を嵌めて扉の前にへたり込んだ。

「ベリル悪かった。俺は、お前の言う事を疑っていた。でも扉の前に巨大な炎の蛇がいた。
こちらを見ていたよ。俺はやつと目線があっちまった。俺、死ぬのかな。」

「ジョア、俺達あの巨大な炎の蛇に食われるのか。」

「分からん。でも食われるときは一瞬だろ。きっと痛くないさ。」

「ははは。気休めでも痛くないと言ってくれてありがとよ。」

冒険者のベリルとジョアは、このダンジョンで死ぬのだと本気で悟った。



ディオネとレア、それと新しく仲間に加わった氷龍と小さいヒドラだった男の子。
4人は、ダンジョン内を入り口のある1層へと向かって歩いていた。
4人の後ろには、3体の炎蛇がぞろぞろと蛇行しながら歩いていた。

3体の炎蛇は、ダンジョンから魔素が吸収できなくなったため、体の大きさは徐々に小さくなり今では元の大きさまで戻っていた。とはいえ、体長は10mを越える程の大きさだった。

氷龍は、ディオネが事前に用意した女性用の冒険者の服を着込み皮の軽鎧を装備していた。
ディオネは、女神様から事前に氷龍の情報を入手していた。

しかし人化した際の背格好まで把握していた訳ではなかったが、女神様は、氷龍が人化した際の背格好まで把握し、それを元にディオネに服のサイズの指定までしていた。
変に細かい?、いや神経質な女神であった。

小さなヒドラが人化した男の子はというと。
たまたまディオネのわがままで生かしておいたヒドラである。

仲間になる予定などなかったので服の用意はなかった。
仕方なく、レアの予備の服を貸し与えた。

だが、10歳の男の子が着る服を6歳の男の子が着るのだ。
服もズボンもぶかぶかで、裾を引きずりながら歩くはめになった。
仕方なくレアがズボンの裾を折り、服の袖を折って身なりを整えた。まるでお兄さんが弟の世話を
しているかのよだった。

ディオネは、さっそく小さな男の子に荷物持ちの仕事を与えた。
ディオネが背負っていた大きな鞄を小さな男の子が背負った。当然の様に鞄の底は地面につき、小さな男の子が歩くたびに大きな鞄は、ズルズルと地面の上を引きずられることになった。

「そういえば氷龍さん。あなたのお名前を聞いてなかったわね。お名前はなんていうのかしら。」

ディオネは、いまさらだが仲間になった氷龍の名前を確認した。

「私は氷龍です。人族のように名前を付ける習慣はありません。」

氷龍からは、以外と素っ気ない返事が返ってきた。

「うーん。人族の世界では、名前がないといろいろ面倒なのよね。」

「それじゃ、私が氷龍さんの名前を決めてもいい。」

「私は、ディオネ様に負けた身です。お名前を付けるのも勝者の権利だと思います。」

氷龍という魔獣がそうなのか、目の前にいる氷龍だけがそうなのか、それとも戦いに敗れたため
なのかは分からないが、態度の言動も素っ気なさ過ぎた。
ディオネは、そんな氷龍の態度や言動が名前にも反映できないかと思案した。

「氷龍さん。あなた少し身持ちが固いわね。固い?固いのよね。」

「そうね、氷龍さんは、氷の龍だし少し固いところがあるから"アイス"さんと命名します。」

ディオネが氷龍に付けた名前が余りにも安直だったので、レアが不平を漏らした。

「姉さん、名前の付け方が安直すぎない。」

「そお、わかり易くていいと思うけど。」

「姉さんがそれでいいと言うなら、僕もそれでいいけど。」

「なら決定。氷龍さんの名前は"アイス"さんね。」

「だったらヒドラちゃんにも名前を付けようかしら。」

「そうだね。人族の世界でヒドラなんて呼んでたら、皆怯えるよね。」

「そうね。なら"ラディ"くんでどう。」

「うーん。姉さんがそれでいいと言うなら。」

「なら決定。小さいヒドラちゃんは"ラディ"くんね。」

しかし、名前をもらった当の本人は不満顔だった。

「ふん、僕はヒドラだ。"ラディ"なんて名前じゃないやい。」

「あら、随分と反抗的ね。戦って負けたくせに、そんな態度を取るということは私に勝ったつもりでいるのかしら。」

男の子は、立ち止まりディオネの顔を睨み付けた。しかしいくらディオネの顔を睨み付けても、ディオネは何とも感じてはいなかった。
ディオネもレアもラディを置いてどんどんダンジョンの通路を進んで行った。

「ラディ、早くいらっしゃい。すぐ後ろにあなたの大好きな炎蛇がいるのよ。のろのろしている
と炎蛇に食べられるわよ。」

「ひっ。」

ラディが振り向くと、すぐ後ろには炎蛇が口から蛇の舌をチョロチョロ出して、今にもラディ
を食べようと機会を伺っていた。

「わーん。蛇が僕を食べようとしている。管理者様、怖いです。」

ラディは、走り出すと通路の先を歩いていたアイスの体にしがみついた。

「ラディ、私はもうこのダンジョンの管理者ではありません。その管理者と呼ぶ事は許しませんよ。分かりましたね。」

「はい。」

ラディはアイスの言葉に素直に従った。

「よろしいです。」

通路を歩きながらディオネとレアは、ふたりの会話を聞いていて、ある事に気が付いた。
元々、アイスの魔素で作り出された魔獣がヒドラのラディなのだ。
ということは。

「アイスさん、ラディのお母さんみたい。」

「そうよね、アイスさんの魔素で作られたのがラディなら、アイスさんはお母さんも同然よね。」

そんなディオネとレアの会話を聞いたアイスは、少しも疑問に思わずに答えた。

「そうなのですか。私はラディの母親なのですね。」

「例えよ。例え。」

ディオネとレアは、アイスとのぎこちない会話に少し慣れが必要だと感じた。



「そういえば、この辺りが冒険者の悲鳴が聞こえた場所かな。」

レアは、ダンジョンの奥へ向かう時に、途中で悲鳴らしき声を聴いていた。その事を思い出して冒険者がどこかに隠れていないか、大声を出して返答を待った。

「誰か。誰かいませんか。これからダンジョンの外に向かいます。ダンジョンから出たい人は直に声をかけてください。」

「黙っていたら置いて行きますよ。もうすぐ魔獣が復活するかもしれませんよ。」

しかし、ダンジョン内から冒険者の声は聞こえてはこなかった。
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