放課後、秘めやかに

はち

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九月某日【或る夜の話】蓮見

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 芯の減ったシャープペンシルを静かに机に置いた。今日の分の勉強は終わり。今日もよく頑張った。ノートとテキストを閉じて背伸びをひとつする。デスクライトを消すと部屋は落ち着いた明るさになった。
 ずっと伏せておいてあったスマートフォンの時計はもうすぐ日付が変わるところだった。
 チャットアプリを立ち上げる。連絡先を交換したばかりの鴫野のアカウントはすぐに見つかった。
『もう寝た?』
 メッセージを送信すると、すぐに既読がついて返事が来た。
『まだ起きてます』
 それだけ返ってきた。
 別に何か話したいわけじゃなかった。ただなんとなく、反応が見たくてメッセージを送ってみただけだった。
『そっか、おやすみ』
 早く寝ろよ。そう思いながらメッセージを送る。
『おやすみなさい』
 律儀に返事が返ってきた。満足してアプリを閉じる。
 勢いでやった後輩、鴫野とセフレになった。単純に、体の相性がいい気がしたからだ。
 別に顔は悪くないし、体も俺好みだった。何より、好意的で献身的だった。
 セフレでいいと思っていたけど、鴫野は彼氏になるつもりらしい。
 まあ、悪くない。悪くないと思う。
 鴫野に不満があるわけじゃない。
 俺の気持ちの問題だ。
 絶対ハマる。そうなる自信しかない。だから、ちゃんと向き合うのが怖かった。
 入れ込んで、離れたくなくなって、振られるのはもう嫌だった。
 それでも、始まったばかりのやりとりを思い出して頬が緩む。少なからず、鴫野のことは気に入っていた。
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