放課後、秘めやかに

はち

文字の大きさ
上 下
9 / 24

十月某日【ミニスカメイドとドーナツ】鴫野

しおりを挟む
 文化祭。年に一度、一日限りの学校あげての祭りに、校内は浮き足立っていた。
 俺も例に漏れずその中の一人だった。うちのクラスはお化け屋敷で、俺はこんにゃく係。写真部は作品展示だけ。部員はあちこちで写真を撮ったりしているらしいけど。
 先輩のクラスはメイドカフェをやるそうだ。空いてるうちに覗きに行こうと思っていた折り、先輩のクラスの教室近くで廊下で賑やかな紙切れを拾った。
 名刺くらいのサイズで、何やら手描きで賑やかな装飾がされた中央には『メイドと一日デート権』と書いてあった。
 裏返すと、蓮見と書いてある。
 蓮見、と聞いて思い当たるのは一人だけ。
 先輩と一日デート? まだ俺だってしたことねーのに?
「あ、鴫野」
 紙切れに集中していた俺は、声をかけられて、紙切れを咄嗟にポケットに捩じ込んだ。
「先輩」
 目の前にいたのはメイド姿の先輩だった。いわゆるミニスカメイド。頭にはフリルのついたカチューシャが付いている。パーティーグッズのコーナーにあるみたいな、安っぽいやつ。それがまたいい。マジか。犯罪的にかわいい。考えた奴誰? 天才か。
「お前、校内でデート権て書いた紙見つけたら速攻捨てろ。破って捨てろ。燃やせ。いいな?」
 先輩は目が据わっていた。声もいつもより低い。明らかに怒っている。これは逆らわない方が良さそうだった。
「わかりました」
「いい子だ。後でこいよ。サービスしてやる」
 先輩は笑うと手をひらひらと振って教室に戻っていった。笑顔はいつもの先輩だった。
「これのこと、だよな」
 やばい紙切れは、無くさないよう財布の一番奥にしまった。
 とりあえず、出直した方が良さそうなのでクラスに戻ろう。昼前の時間帯にお化け屋敷のこんにゃく係の仕事がある。この前先輩に言ったら、お前ぽいと言われた。まぁ、言いたいことはわかる気はする。

 昼過ぎ、こんにゃく係の務めを終えた俺は先輩のクラスのメイド喫茶に向かった。何組か客はいたが空席もあるくらいの混み具合だった。
 様子を見るために教室を覗いた途端、先輩に捕まった。
「お、よく来たな」
 そんな嬉しそうな声とともに腕をしっかり掴まれ、教室に引き摺り込まれた。
「こいつ、俺の客だから」
 先輩は他のメイドさん達に声をかけながら、俺の腕を掴んだまま一番奥の窓際の席に俺を連れて行く。他のメイドさんは女子なんすね。ってか、先輩だけメイド?
 よく見れば、他のメイドさんは正統派のメイドさんなのに対し、先輩だけミニスカメイド。マジか。
「お疲れ。お前、ドーナツ好き?」
「あ、はい」
 嘘をつく必要もないので俺は素直に答えた。甘いものは割と好きだった。
「じゃ、これ。俺の奢り」
 注文を聞かれないまま、差し出されたのはカフェオレとドーナツだった。先輩はドーナツを摘んで俺の前に差し出す。口を開けろ、ということらしい。嬉しいけど、ここで?
 人目を気にして躊躇っていると睨まれた。渋々口を開けると、無遠慮にドーナツがねじ込まれる。随分とガサツなメイドだけど、楽しそうだからまぁいいか。
「む、んまい、っす」
 柔らかくて口に入れると溶けそうな生地は、先輩の唇を思い出す。ドーナツは普通に美味しい。今度どこのやつか教えてもらお。
「だろ?」
 先輩が笑った。かわいい。美味しいドーナツが食えて、かわいい先輩が見られるの、やばいな。ここが天国か。
「ゆっくりしてけよ。もう少ししたら、俺も上がりだから」
 少しだけトーンを落とした声で先輩が言うから、心臓がギュッとなった。なにそれ。俺と先輩だけの秘密みたいで、鼓動が早まる。なんでそういうことすんの。すき。
 ドーナツを食べてカフェオレを飲んで十五分後。
「お、食い終わった?」
 制服姿に着替えた先輩が席にやってきて机に腰掛ける。手厚過ぎんか?
「はい、ごちそうさまでした」
「じゃ、行こうぜ」
 ごく普通のことのように言うから、俺の方が周りの目を気にしてしまう。先輩なんて絶対クラスのカースト上位にいるのに、あんた、こんな陰キャの俺と行くんすか? どこに?
「え」
 頭をフル回転させている俺のことなどどこ吹く風で、先輩は続けた。
「写真部の展示」
「え、行くんすか」
 まさかの展開だった。
 そりゃあ、一緒に見に行けたらいいなとは思ってたけど。

 俺は先輩と連れ立って、写真部の展示をしている特別教室棟に向かった。文化祭デートみたいなことになってて、意味がわからない。手こそ繋がないが、先輩は肩が触れ合う距離で俺の隣にいる。
 特別教室棟の廊下には、写真部のコンクール入選作品が飾られている。
「お、貸し切りじゃん」
 先輩が嬉しそうな声を上げた。静かな廊下に先輩の声が反響する。先輩の言う通り、長い廊下を見回しても、他に誰もいない。
 廊下に差し込む陽射しは夕方に近付いてうっすらと金色に色付いていた。先輩の横顔が照らされる。綺麗だなと思う。
 ゆっくりと歩く先輩が足を止めたのは、俺の写真の前だった。これがなければ、俺は永遠に先輩には会えなかった。
 そういえば、あれ以来あの写真の話はしていない。ちょっとしたトラウマみたいなもんだと思っていたから、先輩がこの展示を見たいと言い出したときは信じられなかった。
 真剣そうな横顔が、俺のどうしようもない妄想と対面しているのが、なんだかすごく変な感じだった。
「なあ、鴫野」
 先輩の声で俺の意識が現実に引き戻される。先輩の目はまだ写真に向いたままで、俺はその綺麗な横顔を眺める。
「はい」
「俺の思い出の上書き、してくれよ」
 ぽつりと言った先輩の声は独り言のように頼りない。こっちがせつなくなるから、そんな声、出さないでほしい。
 あんたが望むなら、上書きだって別名保存だって、なんだってやりますよ。
「そんなの、いくらでもしますよ」
 俺が言うと先輩は俺の前まで歩いてきて、襟を掴んで引き寄せて、唇を重ねた。
 あったかくて溶けそうな唇が、触れて、離れるだけのキス。
「ぜったい、な」
 唇が離れたところで、先輩が言った。先輩の温度を帯びた吐息が唇をくすぐる。笑った先輩の唇から目が離せない。
「先輩、それって」
「またあとで、な」
 俺の言葉を遮るみたいに先輩は襟から手を離すと、踵を返して行ってしまった。
 廊下に取り残された俺は、ぼんやりと先輩の後ろ姿を見送った。
 まだ唇には、あのとろけるような感覚が鮮明に残っていた。

 片付けが終わった時間に、先輩からメッセージが届いた。
『終わった。迎えに来い』
 時刻は午後五時。続々と生徒が帰っていくなか、先輩のクラスの前まで迎えにきた。
「お、おつかれ」
 先輩はもう教室の前にいて、俺に気がつくとこちらに歩いてきた。
「おつかれ様です」
 先輩は心なしか機嫌が良さそうだった。そういえば、デート券のことを忘れていた。慌てて財布から出して見せる。
「先輩、これ」
「お前……」
 デート券と俺の顔を交互に見た。
「拾ったんですけど、もったいなくて」
 先輩は俺の手から期限切れのデート券を取り上げると、破って近くにあったゴミ箱に捨てた。
「ご褒美、何がいい」
「は」
「助かった」
 ぽそりと先輩が言う。照れてるときの声だ。
「あれ、クラスのやつが勝手に作ったやつ。出回る前にお前が拾ってくれてよかった」
 ちらりと俺を見た。
「ご褒美、考えとけよ。デートでも、なんでもしてやるよ」
「メイド、やってください」
 即答だった。食い気味に答えてしまって引かれてそうだけど、こんなの、このチャンスを逃したら絶対見られない。俺は必死だった。
「は?」
「俺のために、メイドやってください」
 大事なんで何回でも言います。
「はは、いいよ、変態」
 きょとんとしていた先輩は、俺を誘うみたいな不敵な笑みを浮かべた。
 もう、ほんと、すき。

 部屋に着くなり、先輩は着替えを始めて、あっという間に安っぽいメイド服に着替えを終えた。もちろんカチューシャ付きだ。俺はというと、ベッドに座って先輩の生着替えを眺めていた。
「鴫野、これ、洗濯するから、汚していいぞ」
 スカートの裾を摘んで、先輩が不敵に笑う。
 それがどういう意味かわからない訳がなくて、俺は思わず生唾を飲んだ。
 先輩はそんな俺の膝の上に跨る。スカートだから、太腿の上に、先輩の引き締まった尻が乗っているのがわかる。
 いい匂いがする。俺のちんこはもう、臨戦体勢でガチガチだった。
 柔らかくて薄っぺらい生地のせいで、先輩の乳首の場所までわかってしまう。この距離で見えるの、ほんとやばい。
「先輩、こんなエロい格好で接客してたんすか」
 そっと乳首を撫でると、指先に弾力のある肉粒が触れる。同時に先輩の肩が揺れた。可愛らしい乳首は、布越しでも熱く震えているのがわかる。
「絆創膏貼ってたんだよ」
 責められていると思ったのか、先輩は俯いて唇を尖らせた。
「は、なにそれ。エロ……」
 乳首に絆創膏とか、現実にやる人が目の前にいたことに感動した。先輩、自分がエロい自覚あります? ほんと困ります。
「っ、あんま、触んな」
 押し潰して摘んでを繰り返していると先輩が震える声で言うけど、説得力がない。
「こんな勃ってるの、普通触るでしょ」
「……お前が相手だからだろ、バカ」
 先輩は吐き捨てるように言った。
「あんた、どんだけ煽ったら気が済むんすか」
「お前が変態なだけだろ」
 先輩は悪態をつく。まあそうなんすけど。
 でも、俺のせいで乳首勃ってますって言われて、平常心でいられるやつなんている? 俺は知らない。
 ふと下を見ればヒラヒラしたスカートがうっすら持ち上がっている。サテンぽい生地をめくると、ボクサーパンツが押し上げられて、先端の辺りの色が暗くなっている。
「先輩、準備、しましょうか」
「いい、してある、から」
「は」
「ケツ、準備してあるから、はやく」
 耳を疑った。先輩、片付けしてたんすよね?
 いや、家でしてきたのかもしれない。早起きして。それか昨日の夜。いずれにせよ、今日先輩はやる気でいた、ということになる。まじか。
「いつしたんすか」
「後片付けサボって、部室棟の、シャワールームで」
 ついさっきだ。しかも、サボって。
「は、あんた、ほんと、そういうとこ」
 もう限界だった。この人、かわいすぎ。
「好き。先輩。好き」
 先輩をベッドに押し付ける。少し雑になってしまって申し訳ないと思いながらも、止められない。
 縫製の雑な薄い布が引っ張られて、張り詰めた胸の部分に先輩の乳首が浮く。布越しに舐めて吸うと、先輩は声を震わせた。
「っう、しぎ、の」
 黒だから透けないけど、乳首があるのは丸わかりだった。唾液で濡れた安っぽい生地が妖しい艶を放ち、いやらしさを助長している。
 顔を逸らしている先輩は耳まで真っ赤だった。
 かわいい。
 ずっと乳首を舐めて吸ってを繰り返していると、思い切り肩を叩かれた。
 やりすぎたかと思って先輩の顔を見ると、顔は真っ赤で、目は潤んでいる。
「はやく、入れろよ……っ」
 唇が震えている。呼吸も荒くて、先輩の指先がテントを張った俺の股間を撫でる。
 それだけで、俺のはスラックスの中であからさまに反応した。
「……ッス」
 先輩のご要望とあれば、俺はそれに応えるだけだった。制服を脱いで、先輩のボクサーパンツを脱がせる。折角なのでメイド服は着たままにした。
 先輩のちんこは天を仰いで震えて、可愛らしい窄まりはひくついて、ローションでてらてらといやらしく光っていた。
 ああ、エロい。なんなの。
 ゴムをつけてローションを垂らして、手を添えて亀頭を押し付けると、ぷちゅ、と音がした。先輩にはつけない。メイド服に射精するのが見たいから。
 そのまま押し込むと、たいした抵抗なく飲み込まれていく。雁首を飲み込んだ先輩の中は熱くて、溶けそうなくらい柔らかい。もういきそうなのを奥歯を噛んでなんとか堪える。
 ゆっくり奥へと押し込んでいくと、肉壁越しにこりこりしたものが触れる。
 前立腺だ。
 亀頭で前立腺を押し込むと、先輩の体が跳ねて中がしがみつくみたいに締まる。それが嬉しくて、先輩のそこを何度も往復させる。弾力のあるしこりを段差で弾くと、先輩の身体は大袈裟に跳ねた。
 反応がかわいいからと前立腺ばかり苛めていると睨まれた。
「お前……」
「あ、さーせん、かわいくて」
 しこりをいじめるのはそれくらいにして行き当たりの窄まりまで腰を進めると、先輩はうっすらと口を開けて甘ったるい声を漏らした。
「先輩、きもちい?」
 先輩の腰をつかんで、ゆっくりと腰を振る。
 俺の動きに合わせて、先輩は言葉の体をなさない声で甘く啼く。とろんとした目で俺を見上げて、時々ふらりと笑う。
 胸がざわつく。このままガツガツ突き上げたいのをなんとか堪えて、できるだけ優しく中を掻き回す。
 奥の窄まりに亀頭が当たる。いつかここをこじ開けたい。まだ全部収まってないから、きっと入ってしまう。
 そんなことを考えながら、先輩の腰を掴んで腰を振る。とんとんと優しく奥を小突くと、奥は物欲しそうに吸い付いてきて、先輩は可愛らしい声を漏らした。
「っあ、しぎ、の」
 だらしなく脚を拡げて、深々と俺のを飲み込んで、先輩の中はきゅんきゅんと締まって喜んでいるみたいだった。
 スカートは捲れて、俺の突き上げに合わせて先輩のちんこがゆらゆらと揺れる。
「先輩、もう、いっていい?」
「ん」
 頷いてみせた先輩の腰を掴み直して、俺のペースで腰を振る。本能に任せたストロークに、ベッドが苦しげに軋む。
 力任せに奥を突いて、快感を貪る。突くたびに奥は甘えてきて、もう限界だった。
 熱いものが上がってくる感覚に、奥歯を噛み締めた。
「いく、っあ、先輩、いく……」
「んう、おれ、も」
 先輩の中で何度も脈打って、熱いものを吐き出す。馬鹿みたいに長い吐精だった。
 俺をきつく締め付けて先輩もいった。黒いサテン生地に散った白濁が疎らにシミを作った。
 ベッドの軋みは止み、静かになった部屋には二人分の荒い呼吸が響く。
 全身に汗が滲んで、心臓は全力疾走の後みたいに煩く喚いていた。
 吐精が落ち着いたところで、先輩からちんこを抜く。先輩にはゴムをつけなかったので、メイド服には精液が派手に散っていた。
 ティッシュで拭いて、ゴムを片付ける。
 スカートはカウパーと精液で濡れてドロドロで、胸の辺りは汗と涎でぴったり張り付いていた。
「脱ぎましょうか」
 とろんとした表情の先輩からメイド服を脱がせた。メイド服は破れこそしなかったが、結局ぐちゃぐちゃになって、ベッドの下に落とされた。
 先輩の身体は熱かった。脱がせた身体を抱きしめると、あったかくて気持ちよかった。
「先輩、あったかい」
「しぎの」
 先輩は嬉しそうに擦り寄ってきた。しがみついてくる先輩がかわいくて、最終的には裸で抱き合うのが気持ちよくて、衣装なんてどうでも良くなってしまった。

 文化祭で疲れていたからか、先輩は一回で満足したみたいで、俺は気絶を免れた。
 おかげでなんとかピロートークみたいなことができている。横になった俺の腕の中にはくったりとシーツの上に横たわる先輩がいる。
「先輩、あんたの、彼氏じゃだめなんすか」
 なんとなく聞いておきたかった。好きとは言ってくれるけど、結局セフレなのか恋人になれたのか曖昧なままだった。
「お前は、いいのかよ」
 先輩は目を逸らして唇を尖らせた。心なしか顔が赤い。おれ、ずっと彼氏にしてって言ってるはずなんすけど。
「おれ、絶対別れてやんねーぞ」
「ふ、そんな好きになってくれたんすか」
 それならそれで嬉しいんですけど。
「俺は、重いんだよ」
 ちゃんと受け止めるから、そんなこと気にしなくていいのに。
「知ってます」
 そんなの、百も承知です。
「……いいよ。鴫野。俺の、彼氏になって」
 寝そべったまま、そっぽを向いたまま、先輩は言った。見えたのは、赤く染まった耳だけだった。
「よろしくお願いします」
 嬉しくて抱きしめる腕に力を込めると、先輩は笑った気配がした。
「……なあ、来月、俺、推薦入試あるから、しばらくあんま会えねーと思う」
 そうだよな、と思う。三年だし。てか、推薦て、先輩めちゃくちゃ頭いい?
「わかりました」
「終わるまで、いい子で待ってろよ」
 この人にいい子って言われるの、なんか堪んないんだよな。
「はい」
 待ちますとも。あんたの、彼氏ですから。
しおりを挟む

処理中です...