唯一無二のアーティファクター

るっち

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第1章 始まりの街

第16話 衰弱と清適

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「……あ、あ……神よ、どうか……」

 漸く絞り出した言葉も神様には届かない。
 女神官の目前には、大口を開けながら迫る魔物がいた。そう、いたのだ。

「ビーム!」

 一筋の光線が大口を開けた魔物の顳顬を貫通し、魔物はその場に倒れた。

『!?』

 何が起きたのか、事態が呑み込めていない3人。

「あたしも行くよ! ゆけ、火箭!」

 24、30、36……と、前以上に火箭の本数は増えていく。
 計48本の火箭が魔物の群れに向けて放たれると、植物系の魔物には効果は抜群のようで、魔物の群れの殆どが燃え尽き倒された模様。
 50匹以上はいた魔物も今では12匹しかおらず、ズーモ級の魔物もいないようなので助かったと言えるだろう。

「これでもう魔力はスッカラカン!」

「俺も、俺も撃っていいか!?」

「絶対ダメです。勿体無いので」

「な、なんで!?」

 ブリは俺の冷やかな対応にショックを受けたようで、ヤケになって魔物達に襲い掛かる。とんだ八つ当たりだ。
 そして追うようにブラも魔物達を倒しに向かった模様。
 一方で俺は、今のうちに襲われていた3人の元へ駆け寄ることにする。

「大丈夫ですか?」

「た、助かった……の……?」

「ええ、なので安心して下さい」

「……もしかして、運命の人ですか?」

「さ、さぁ、違うと思いますが……」

 優しく微笑みながら声を掛けたことが裏目に出たのか、女魔導士の瞳にハートマークが浮かび上がっているように見え、突然の展開に動揺を隠せずにいた。
 好意を寄せられること自体はとても嬉しいのだが、今はそんな状況ではない。

(だって、あとの2人も気掛かりだし……)

 こうして魔導士を避けるようにしつつ、弓士と神官の様子も確認することに。

「助かった…そうか、助かったのか……」

「シャーペンノ神よ、使徒を遣わされたのですね? お救い下さり、ありがとうございました……」

(し、使徒って……まぁ、別にいいけど……)

 徐々に事態を呑み込めてきた弓士は良いとして、俺達にではなく神に感謝する神官に対しては少々腑に落ちないが、無事であればそれで良いと思うことにした。


「……そうだ! ブロード、ブロードが!」

 何かを思い出したかのように突然声を上げた弓士。きっと大事な何かを思い出したのだろう。
 弓士から話を聞くと、どうやら仲間の1人が魔物に丸呑みされたらしい。丸呑みということは恐らく即死ではないはずだ。
 そのことを急いでブリとブラにも伝えたようとしたその時、ブリが大声を上げる。

「うわっ! なんだコレ!?」

 ブリは何かを発見した様子。
 ブリが発見したものは琥珀色の粘液に包まれた何か。
 ブリが慌てて俺を呼ぶので、速やかにブリの元へ向かい出す。

 ブリの元へ向かう途中、消し炭になった多数の魔物を見掛けた。きっとブラの火箭によるものだろう。

(これでは加工も買取もできそうにはないな……)

 少し残念に思いながらもブリの元へ到着。

「コレ、見てみろよ……」

 落ち込んだ様子のブリ。
 一体、何を目撃したのだろう? そう思いながらブリの言っていたコレを見る。

「……!? コレは……」

 俺達が見たものとは、琥珀色の粘液に包まれた1人の男であった。
 しかもその男はとても窶れているうえに衰弱しきっている。顔色に至っては真っ青だ。
 何かを察したのか、仲間の3人とブラまで駆け付けてくる始末。

「ウソ……コレって、ブロード……なの?」

(やっぱり、この男性がブロードさんだったか……)

 どうやら魔導士はこの事実を認めたくないようで、ブロードから目をそらす。
 認めたくない気持ちは分かる。だがコレが現実なのは変わらない。
 それが嫌なら認めたくなるような現実に変えれば良いのだ。
 そう思い立ち、粘液のみをストレージへ収納してブロードの胸部に左手を乗せた。

(やっぱり衰弱してる……心臓の鼓動が弱々しい感じだ……)

 医療に明るくない俺でも分かるほどに、ブロードの心臓の鼓動は弱々しくなっている。
 一刻も早くブロードを救うために再生を発動した。

「再生!」

 白く淡い光がブロードを包み込む。
 外傷はほぼ無傷なので問題は無いが、窶れと衰弱が気になる。
 果たして再生でどうにかできるのか、ただその一点だけが気掛かりなのだ。


 少し経つと窶れは変わらないが顔色が良くなってきたように見える。なのでこのまま再生を続けることに。

 魔物がまだ数匹残っているようなので、ブリとブラは再び魔物達を倒しに行く。
 俺は再生を続けながらも他の3人と会話することにして、先ずは自己紹介から始めた。


「えーと、確か……」

 先程聞いた3人の名前を確認してみる。
 確か、弓士がネルで、魔導士がポロ、そして神官がリネンだったハズ。


「……ん?」

(ブロードも含めて4人の名前って、まさか……)

 パンツァーの4人と同じ感覚に見舞われてしまい、名前に関しては極力触れないようにした。

 自己紹介が終わった辺りでブリとブラが戻ってきた。どうやら魔物達を全滅させたようで、2人とも満足した表情をしている。
 だがそんな2人に頼み事を。それは消し炭になっていない魔物達を1箇所に集めて貰うことだ。
 あとでストレージへ収納する際の時間と手間を省く為ためである。
 てっきり断られるかと思っていたのだが、2人は快く引き受けてくれた。きっと魔物を倒したことでストレス発散になったのだろう。


(どれどれ……うん、大丈夫そうだ。再生が効いてくれて良かった……)

 再びブロードの容態を確認すると顔色はすっかり良くなり、窶れも心臓の鼓動もかなり良くなってきたようだ。
 安堵しながらも、更に良くするために再生を継続。


「コホンッ、じゃあ、始めますか!」

 なんの前触れもなく「驚いた表情を覗いてみよう!」を開催することにした。
 要は3人の驚いた顔を眺めるというだけの話である。
 早速だが3人の表情を覗いてみると、案の定3人とも驚いているようだ。
 特に神官のリネンに至っては見てはイケない顔をしている。折角の整った顔が、まさかのモザイク案件とは……

(うわぁ……あんな表情をされちゃうと、流石にドヤ顔はできないよな……)

 リネンの表情に若干引いていると、丁度ブリとブラが戻ってきた。
 そしてブロードの容態も元に戻ってきたようで、最早発見時とは雲泥の差だ。

(ここまで回復したなら、もう大丈夫だろう)

 ブロードへの治療を終了して顔を覗いてみると、安らかな表情で眠っている。
 それを確認するなり立ち上がり、魔物達をストレージへ収納するために動き出す。


 魔物を全てストレージへ収納したあとは、この場で休憩を取ることにした。
 折角の魔物がいない空間なので、気兼ねなく休憩が取れると踏んだのだ。

 ブリとブラが休憩の準備をしている間に魔導具を製作しようと思う。というかする。
 市販にも類似品があるとは思うが、休憩中に襲われても平気なよう結界を張ろうかと思っているのだ。
 注意点として結界は付与容量を多く占めるはずなので、星の低い素材だと制限が設けられてしまうだろう。

 その点を踏まえ魔導具の製作を開始。
 硬い結界を張るという願掛けとして、金剛石を使うことにした。
 少量しかないのであまり大きなものにはできず、結界の有効範囲も狭くはなるが、星3の素材にした分、より硬い結界が張れるハズ。

 そうと決まれば早速、金剛石をストレージから取り出しアンクレットに加工。
 付与は無論、結界である。しかし既にこの世界には結界という概念があるため、創造ではその名前は使えない。
 そこで「バリア」という創造魔法を付与することにする。
 言葉の意味は結界と全く同じだが、性能は段違いだろう。
 何しろ、チートスキルで付与したのだから。

 イメージを込めて金剛石製のアンクレットにバリアを付与。成否は勿論、成功である。
 あとはこの魔導具の名称だが……名称は「清適の足輪」と命名した。
 理由として、所持者の無事と健康を祈って製作したからだ。それ以上の理由はない。間違っても「性的」と勘違いしないように。

「この魔導具は沢山の人に使ってほしいな……」

 清適の足輪を今後はもっと沢山の人達に使ってもらえればと、真に願うのであった……
 
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