お願いダーリン!

美希みなみ

文字の大きさ
上 下
5 / 6
お願い1

後輩はいつまで後輩ですか? 1

しおりを挟む
「おはようございます!」

「おはよう、小松さん」
事業部のみんなから挨拶をされ、結花は笑顔を向けながらデスクに向かった。

「主任、おはようございます」

「おはよう」
チラリと結花を見て答えた晃に、それだけで嬉しくなった。

「小松!!」
そんな時後ろから呼ばれて、結花は振り返った。
「あっ、武田さんおはようございます!」

「小松!ありがとな!助かった。昨日の依頼の件。無理言ってわるかったな」
武田の申し訳なさそうな態度に、結花も小さく微笑んで首を振ると、

「いいえ、大丈夫です。メール確認してもらえました?」

「ああ、ありがとう。完璧だった。商談もがんばるよ」
武田のほっとした笑顔を結花に向けた。

「お役に少しでも立てたならよかったです。頑張ってください!」

「おう!」

手をひらひらさせながら、戻る武田にホッと息を吐きだしたところで、

「おい、小松。ちょっと!」
少しいつもより低い晃の声に、結花はびくっとした。

「……主任?どうしました?」
晃のデスク前まで戻ると結花は、晃を伺うように小さく聞いた。

「お前さ。なんで武田からの依頼があること俺に言わなかったんだ?」
晃はデスクの上で両手を組み、少し睨むように下から結花を見た。

「なんでって……。主任の依頼も大切な案件でしたし……」

「バカか!」
いきなり怒鳴られ結花はギュッと目を瞑った。

「すみません……」

俯いた結花に、晃は大きくため息をついた。

「仕事を把握するのが上司の役割だ。今回みたいな仕事の仕方は二度とすな。いいな」
「はい……。申し訳ありません」

今にも涙が溢れそうな結花に、晃は表情を緩めると、
「昨日みたいにお前が倒れた方が困るだろ?……怒鳴って悪かったな。もう戻れ」

優しい顔で微笑んでいる晃を見て、結花は涙が落ちそうになるのを何とか止めると、ぺこりと頭を下げた。



それから気を取り直して、仕事に没頭していた結花は晃の声に顔を上げた。
「小松、午後からの打ち合わせ覚えてるか?スターブライダルの新規システムの件」

「はい。大丈夫です」


「じゃあ、昼食べて13時には出るから。資料準備しといて」

「わかりました」

(ブライダル会社か……私にとっても、主任にとっても今一番縁のないところだよね……)

結花は心の中で呟きながら、時計を確認すると目の前のキーボードに指を滑らせた。



スターブライダル本社に着くと、2人はたくさんのハートや花に出迎えられた。

「うわー!かわいい!」
結花はつい受付前に置いてあったウェルカムベアに目を奪われた。
白のタキシードを着た新郎のクマのぬいぐるみと、ウェディングドレスにティアラをした新婦のクマのぬいぐるみが手を繋いでいた。

「さすが、ウェディングの会社だな……」
晃もそう呟くと、珍しものを見るように周りを見た。

「本当ですね。夢がいっぱい」
嬉しそうに見つめる結花に、、
「女は好きだよな。こういうの」
晃の顔が少し寂しそうな顔をしたように見えた結花は、

「先輩!あっ、主任!主任もいつかできますよ!結婚!だから元気出してくださいね」

「こないだから、お前は……まったく」
そう言ってまた、ポンと結花の頭を軽く叩いた。

2人は受付のある2階に向かうため、エントランスを歩いていた。

「あっ、あそこにもウェルカムボード」

「浮かれていないできちんと仕事しろよ」

「わかってます。担当の方に会ったらちゃんと仕事します。でもつい見ちゃいますよね……」
そう言うと、またトルソーが着ている真っ白なウェディングドレスの前で結花は止まった。

「綺麗……」
呟くように言った結花の言葉に、
「本当だな」
同意してドレスを見つめる晃に、驚いて結花は晃を見た。

無事打ち合わせも終わり、帰りの車で結花は晃に話しかけた。

「主任、見ました?さっき話していた部屋にあったダイヤの指輪もありましたよね」
ブライダルの会社らしく、打ち合わせの部屋にも、透明のケースに入ったダイヤのティアラとダイヤの指輪が飾られていた。

「ああ、あったな。お前も欲しいの?ダイヤモンド」

「そりゃあそうですよ。ダイヤの指輪って女の永遠の憧れですよ」
少しムッとして結花は答えた。

「女って……。お前はまだ早いだろ?」

「早いって……。私だっていつ貰ってもおかしくない年齢ですよ?」

「お前が?」
苦笑した晃に、結花はムッとした表情を見せた。

「主任、私はもう初めて会った頃とは違いますよ?もう23です。友達は子供もいますよ」

「え?ああそうだな。どうも初めて会った時の、ショートカットで走り回ってたお前の印象が強いからな」
思い出したように笑った晃の言葉に、結花はやっぱりな……と心の中でため息をついた。

「先輩もいつかあげて下さいよ!きちんと誰かに……あっ」
しまった!と言う顔をした結花をチラッと見て、

「俺ってそんなに気持ちばれてた?」
晃はゆっくりと苦笑しながら聞いた。

「えっとそれは……。なんとなくというか……」

(私が主任を見ていたからとは言えないよ……どうしよう!)

「そっか。まあ、そういう事だから、しばらくは指輪を買う事は無いわ
答えを悩んでいた結花の事など気づいていないようで、晃は話を終わらせるように言い切った。

「すみません……。変な事言って」

「珍しいな。お前がそんな神妙な顔するなんて。気にするな。お前の笑顔で結構救われてるから」
深い意味なんてないんだろうが、結花はその言葉に心がギュッと音を立てた。

「本当ですか?じゃあ、もっと先輩を元気づけるために、私先輩に関わりますよ!!ダメって言われても」
ここぞとばかりに、ニコッと笑って言った結花に、

「お前にはホント参るよ……」
少し呆れたように、晃はそう口にして、いつものように結花の頭に軽く触れた。


しおりを挟む

処理中です...