Blood Spare of Secret : The story of Creeds

千導 翼『ZERO2005』

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第一章 クルードフォーミア編

氷結の舞台

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5階 ホライゾンデッキ

 「襲ってきたのって、この人でいいんですよね?」

 「はい。間違いないです。でも...声も、顔つきも...喋り方も.....全然、違ってます。」

 先ほどまでに戦っていた女性の死の間際に放った言葉と表情に、私と光琳さんは深い違和感を覚えて、会話しながらもその場で固まっていた。襲われて、仕方なかったとはいえ殺してしまった。しかも、殺した相手が襲ってきたときの状態と様子があまりにも違い過ぎて、ちょっとした恐怖心を覚えたからだ。

 カタッ

 そんな様子の私たちの背後から足音が聞こえてくる。私と光琳さんは歯を食いしばって武器を取り出す。すると、背後から現れたのは、女性と同じような格好をした4人の男女と白い紳士服を着た男性だった。男性は私達の様子や周りの状況を見るなりこう言った。

 「おぉ...! 僕が来るまでもなく倒しちゃってるねぇ。来るのが遅すぎちゃったかな。ごめんね。」

 男性の言動と表情から、私は襲ってきた人と違って優しくて話が通じそうで尚且つ、何もされていないのに妙な寒気を感じて警戒心を解けない。

 「2人ともそんなに身構えなくても大丈夫だよ。僕は君らに危害を加えるつもりはないし、その必要性もない。」

 そんな私たちの事を察してか、安心させるようにゆっくりと話す。それに対し、光琳さんが明らかに警戒している声音で訊く。

 「味方ということですか?」

 「厳密には味方ではないね。でも、今は味方として見てくれて構わない。それに厳密には違うというだけで、別に敵でもないからね。中立の位置に立っていると考えてもらっていいよ。」

 訊かれた内容に男性は淡々と答え、付け加えるように現状の自身の立ち位置を話した。

 「中立?」

 「場合によっては敵にもなるし、味方にもなるって認識でいいよ。」

 「でそちらの方々は?」

 「この人たちは被害者、そして君たちが殺したその女の人は元々この人たちの仕事仲間だった人だよ。」

 「え...。」

 男性にそう言われた瞬間、私はまだ意識があったかもしれない人を間接的に殺したのだと再認識して、また言葉では形容しがたい気持ちなった。

 「僕が言うのもなんだけど....殺してしまったことに負い目を感じるのは仕方ないよ。でも、いつまでも...引きずってちゃダメなんだ。自分の意思で、前に進まなきゃ...自分のやったことを〝償う〟ことはできないよ。」

 その言葉を発した時の男性の声は妙に感情が乗っていて、後ろめたさを感じた。同時にその声を発した男性に、4人の男の人と女の人が意外そうな表情で男性の方を見た。

 「もう、敵は倒し終えたんでしょうか?」

 そんな空気を光琳さんが割り込むように質問していく。

 「うん、とりあえずの戦いは終わりかな。2対1で戦ってた二刀流の男性も敵から逃げながらも数少ない情報を頼りにこの一件を解決しようとしている女の人の方も一応は片付いているよ。」

 「おぉ~勝ったんですね。流石師匠...!!」

 「一応はというのはどういう意味なんですか?」

 男性の答えに光琳さんは少し安心していたけど、私は少し引っかかったところを即座に訊いた。

 「アカザサ...というのは、ある意味しぶとい男でね。まだ〝本体〟がやられていないんだよ。倒した敵から情報を聞き出さずに、別の場所に移動して...尚且つ今この場にいないということは...女の人の方に加勢に言ったのかな。実際、本体はもっと強いからねぇ。手の内や戦い方がある程度ばれてしまっている女の人一人じゃ勝てないと踏んだんだろうね。だから真っ向勝負できる彼が向かった。」

 「私たちの方は大丈夫だと思ったんですか?」

 「多分、気配で察知したんだろうね。君等が難を乗り越えたというのを...。」

 淡々と答えを述べる男性の姿に、光琳さんは信用して聞いているようだけど....私はいまいち信用できなかった。いつどこでこの暗闇の中でクリードさんやバンバさんの動きを見ていたのだろうと。なぜ、敵の事を知っているのだろうと、中立の立場だからこそ...敵につながっている可能性が高い。そして、味方なら、もうちょっと早く接触してきてもよかったんじゃないかと思ってしまって...。負けそうになったら、あっさりと敵に寝返りそうだ...。

 「でも、ここで2人の分身体がやられて、ちょうど女の人は少し依頼人と護衛対象から距離をとっている...。」

 「そろそろ動き出すよ。彼が...。」

3階 ラウンジ

 ガキン...!!

 という金属がぶつかり合うような音が濃い煙の中で鳴り響く。

 「......。」

 「あ~あぁ...殺すには絶好の機会だったんだけどなぁ....まっさかぁ、盗聴器なんざ仕掛けてたとはなぁ...早業だなぁ...気づかなかったぜぇ...。でもまぁ、こうやって正面切って戦えそうで良かったぜぇ。そのなりじゃあ...まともなさしの勝負できねぇだろ...?」

 俺は、ご主人を背後からかんざしで刺し殺そうとする...依頼人、虎牙 八千代....いや、アカザサのかんざしを受け止めていた。

2分前

 ご主人の元に戻っている最中に盗聴器から微かに依頼人の苦しむ声とさっきから聞いていた男の声が聞こえた。

 「おやめなさい...。私は...主人を憎んでなど...おりません...!!」

 「いやぁ...恨んでいるはずだぁ...。なんせ....大事な大事な息子を殺したんだからなぁ....?」

 「...!!」

 「本当は知ってたんだろう? こいつが息子を殺したことを...。でも、信じたくなくて取り乱しちまったぁ....否定する言葉を吐いて欲しくてぇ...。だが、あいつは否定するどころか、遠回しに肯定したぁ。ひでぇよなぁ....どんな理由があれど...実の子ってのは...大事だよなぁ....。それを殺すなんてもっての外だよなぁ..? たとえ最愛の人だとしてもぉ......。」

 ―――〝憎い〟よなぁ?

 ―――会いたい...息子に...もう一度...。でも...!

 依頼人は男の声に心の底にあった鬱憤を吐露した。その瞬間、依頼人はアカザサに乗っ取られ、かんざしを抜き、ご主人を刺そうとしたところを止め、今に至る。

 「八千代...。」

 ご主人は現在の状況を飲み込めず、尻もちをついている。

 「ご主人!! 今のこの人はあなたの愛する妻じゃない!! 先ほどから命を狙っている。憑き人のアカザサだ!」

 「...。」

 ご主人は困惑しながらも、アカザサとなった依頼人に目を向ける。

 「いつ取り入った...?」

 「あぁ? いつもてめぇの奥さんに付き添ってたボディーガードを忘れたのかぁ?」

 「....。」

 「信頼を勝ち得た後のお前は騙しやすかったよぉ。なぁんせ、自分で取りに行けばいいものをわざわざ俺に投函された郵便物を取りに行かせてたんだからなぁ。そりゃあ手紙を書いて、投函して、さも届いた手紙のように差し出すのは簡単にできるぜぇ。」

 アカザサは依頼人の体で不気味な笑みを浮かべ、止めのように言葉を吐く。

 「実のところ、薄々勘付いてたんだろう? 自分の嫁が怪しいってなぁ。お互いの事は愛せても...心の底から信頼しあってはなかったんだなぁ....。」

 その言葉にご主人は歯を食いしばって、床を勢いよく殴る。

 「敵を目の前にして、よくもまぁそんな余裕綽々としていられるな。」

 「そりゃあ、体になじみまくってる状態でしかも、戦い方までわかってる相手に負ける気しねぇからなぁ...。2度も同じてつは踏まねえよ。」

 アカザサはそう言いながら、船内に響き渡らせるように口笛を鳴らす。

 「ん?」

 「アルベルトぉ...ぉ前ぇ...無事に生き延びたとしても、後が大変だよなぁ....?」

 そう言いながら、アカザサはご主人の方に目を向け、不気味な笑みを浮かべ、俺の方に視線を戻す。

 「客をみ~んな眠らせたのは結構....それで動かせなかったが...もう流石にここまで馴染んじまってるとあんま関係ないんだよなぁ...。」

 「......まさか...!」

 アカザサがそう言っていると、船内の空気が次第に重くなっていく。俺はアカザサから目を離さずに、下の階の様子を一瞬だけ確認する。

 「ちょっとした...パンデミックでも体験してみようぜぇ....まぁ...全員さっきの俺みたいなもんだがなぁ!!」

 さっき眠らせた出席者たちが一斉に起き上がり、この階を一度見た後に、不気味な笑みを浮かべながらこの階に向かってくる。

 「ほらぁ、全員殺せば...この一件のことを知ってるやつは少なくなり、事実を隠蔽しやすくなるぜぇ。」

 アカザサは不気味な笑みを浮かべながらも鋭い目で俺を見ている。

 「てめぇとお仲間の強さを考えても、この状況を突破できるのはさっき俺が連れてきたやつらと戦ってたやつ以外は厳しいだろうなぁ。お前は殺しの腕は高いが、単純な戦闘はさっきの俺より劣るようだからなぁ。更に、他2人の女は話にならねぇ。その男を護りながら戦うどころか、まともにこの状況を打開すらできないんじぇねえんのかぁ?」

 「所詮、俺に一度負けた男だ。何を言おうと、負け犬の遠吠えにしかならんぞ。」

 俺はアカザサの挑発に馬鹿にしたような口調で返しながら、アカザサの集団から逃げる算段を考える。

 「逆に煽り返して、その隙に逃げようってかぁ? できると思ってんのかぁ? 俺はさっきとは違って油断もしてねぇし、てめぇに対してめてもいねぇ。それに...今の俺よかよえぇと言っても、それなりの強さを持った俺の集団がアルベルトに向かって押し寄せる。見捨てりゃわからねぇが、護りながらじゃあ...な?」

 アカザサはそう言いながら、迫りくる集団の足音と共にこちらに向かってゆっくりと歩きだす。それに対し、俺が武器を構えた瞬間、たった一歩で距離を詰めてくる。次の瞬間、勢いよく殴りかかってきた拳と俺とアカザサの間に割って入ってきたバンバの剣によって防がれた。

 「おぉ? 来たかぁ。」

 「大丈夫か?」

 「遅かったな。」

 「素直に感謝したらどうだ?」

 バンバはそう言いながらアカザサの方を見て、2本の剣を強く握る。

 「クリード。スターリースカイの時と一緒だ。俺がこいつを倒し、お前があのうじゃうじゃした連中を頼む。他のやつらの情報収集はすっ飛ばしてきてるから。新しい情報には期待するなよ。」

 「わかった。だが、バンバ....今のあいつの体は依頼人の体だ。だから殺すのは最終手段だ。俺もあの連中をすぐに殺す気はない。」

 「了解。」

 バンバの指示に俺は従って、ご主人を連れてその場から離れる。

 「さて...疲れてるから早めに決着をつけさせてもらう。」

 「早めってぇ、殺さずに俺を倒せるとでも?」

 そんな会話を交わした後に、アカザサの拳とバンバの剣がぶつかり合う。

4階

 「やっぱり。」

 4階に着いた途端に、男性がそう呟く。

 「僕もそろそろ働かないといけないのかな?」

 その後に、顔つきが少し真剣になり、声色も少し低くなる。そうして、私達を一瞥した後にどこからともなく厚手のコートを取り出して、私と光琳さんに着せて、少し安そうなコートを他の4人に着せる。

 「ごめんね。体感呼応化が高いコートは2着しかなくてね。でもまぁ、多少とはいえ薄手のコートを二十歳以下の二人に着せるぐらいなら大人のあなた方4人が着るのが当然でしょう?」

 「もちろんだ。厚手のコートと薄手のコートがあるなら、自分より若い子に厚手のコートを着せるなんて当たり前だ。」

 白服の男性の言葉に、1人の男性がそう返す。すると、白服の男性は少し嬉しそうに微笑んで、自分の手のひらをしばらく見た後に、その手をぎゅっと握る。

 「今から二刀流の男性が倒した女性の元に向かって、彼の代わりに情報を聞き出しに行く。」

 「え?」

 「何でそんなことをするのかの詮索は止めてね。単に僕も訊きたいことがあるだけだから...。」

 男性の言葉に疑問を持った私に言う様に男性は答えた。そして、

 「だから捕まって、ここから一気に女性の元に向かって攫ったに後に別の階で話を訊くから。」

 と言って、私たちの手を握る。すると、その瞬間に光琳さんはガタガタと体を寒そうに震えだして、そこに近づいていた4人の男性と女性は更に寒そうにしていた。その為、当然私も寒かったのだが、それ以上に握った男性の手が異常なほどに冷たかったのが気になって仕方がなかった。

  「じゃ、行くよ。」

 男性はそう言って、高く飛び上がった後にそのまま3階のまで降りて、クラブのようなに入る。するとそこには、縄で縛りつけられている女性とそれを見張っているバンバさんの鷹がいた。そして、鷹は私たちの存在に気づいたのか、私と光琳さん以外の人にわかりやすく威嚇する。それを見た光琳さんが

 「大丈夫大丈夫、今は多分味方だから。」

 と言って諫めると、鷹は光琳さんの肩に乗って、男性を見る。同じように光琳さんも男性の方を見てうなずく。それを確認すると、男性は外に向かって何か合図をするように指を二回鳴らした後に、眠っている女性を起こす。

 「これまた派手にやられたねぇ。これじゃ、バラガラの右腕の名が泣くよ?」

 起きたばかりの女性に男性がそう軽口を叩くと、女性は深くため息を吐いた後にこう返す。

 「仕方ねぇだろうが、武器が洋剣と和刀しかねぇんだから、本当はもうちょっと武装してるし、相手に対しての情報が足りなかった。」

 「言い訳かい?」

 「そうだよ。慢心して情報が少ないのに...勝てるだろって、踏んだあたしのミスだよ。でも認めたくねぇから苦し紛れの言い訳してんだよ。あと、その2人と行動してるのは何のつもりだ? まさか裏切るってんじゃねえだろうなぁ?」

 男性の感想に、女性は鬱陶うっとうしそうに返しながらも、疑問に思ったことを訊く。

 「裏切るって....君等の代わりにつれてきたとは思わないのかい?」

 「思わねえよ。そいつらはお前とは無関係だ。自分に関係ないやつを巻き込みたくないってやつが、取引相手だからって簡単にその考えを曲げるかよ。」

 「そうだね。でも、裏切るつもりはないよ。ちゃんと交渉はさせてもらうさ。テューフェルとね。」

 「はいはい、わかりましたよ...。」

 女性の疑問に、男性は声のトーンを一切変えずに、私達と話すときと同じように返していった。

 「まぁ質問してきたから、こちらにも質問する権利はあるよね?」

 「...?」

 「深天極地を生贄にして何をするつもりなんだい?」

 「...。」

 「答えられない...かい?」

 男性の質問に女性は沈黙で返した後に、自分の置かれている状況を再度確認し、男性の目を見る。

 「ま、これくらい話してもいいかぁ。話しちゃいけねぇ計画でもねえしな。」

 「....?」

 「まず、深天極地ってのは、この世界にいた科学者が数万回にも及ぶ実験の中で生み出した、世界のバグのようなものだ。本来存在するはずのなかった力。だから、血統で継承されることはないし、まるで伝染病のようにランダムで混血だったり純血だったりが生まれる。だが、その力を確実にものにする方法が1つだけある。」

 「それが殺すことだと?」

 「そう、殺した奴がその血を全て飲むことによって、元々の血が深天極地の血に変化し、その力を継承することができる。そしてのその力は元々素質があったり、その力を使うに値する体ができていれば、完璧に力を行使することができる。その力を使って、バラガラの目的を完全なものにする。まぁ、教えられるのはこれまでだな。」

 「ちょっと...。」

 女性の答えに、光琳さんが質問しようとすると男性が手で制止させて

 「これ以上は訊いても無駄だと思う。強引に訊こうものなら、僕の取引を解消されかねないからね。それなりの情報が手に入ったというところでそれだけは許してほしい。」

 と作ったような笑顔で言う。その後に、女性の縄を切って自由にさせる。

 「さぁ避難してね。君のためのコートは流石にない。」

 「はいはい。まぁ一応感謝しとくわ、命拾いしたしな。」

 「いいよいいよ。取引相手として信用できるところを見せようとしてるだけだから。」

 女性の言葉に男性はそう返して、女性が船内から姿を消すのを見届けた。

 「さっきの情報はしっかりと君等の上司に報告してね。」

 「何でここまでしてくれるんですか?」

 私がそう訊くと、男性は優しそうな笑みを浮かべて

 「僕が船内にいたのに、無関係の人が亡くなってしまったこと、そしてまた多くの人々が死ぬかもしれない状況になっている事、君等の味方になれないことへの、〝つぐない〟...かな。」

 と言った。そしてまた先ほどと同じような表情と声質で言う。

 「さて、これ以上の犠牲は出させないようにしないとね。」

 そうして、ゆっくりと男性は歩き出す。すると、上の階まで一直線に登ってくるさっき光琳さんと一緒に倒した人と同じような雰囲気を感じる人の集団が現れる。

 「僕はあなたの味方じゃない。だから、自由気ままに始めるよ。氷結の舞台をね。」

 そう言った瞬間、息が凍るほど寒くなり、男性の周りが凍り付き始めていた。
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