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第三章 シルヴァマジア編
合流
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10年前
あたしが欠伸をしながら起きる。今は夏休み中、少し遅く起きても良いのだ。何て思いながら寝間着のままでダイニングに行くと、仕事に行く準備をした母さんが新聞を読みながら深刻そうな顔をしていた。
「どうしたの?」
「あ、いや最近、白像病が多いなって思ってね。」
「白像病?」
「年単位から日単位で体が白くなっていって、最終的には白い石像のようになって絶命する病。治療法はまだ見つかってない。まず何が原因なのかもよくわかってなくてね。」
「やべえじゃん。」
あたしが適当にそう返事をする。この時はあたしにはほとんど関係ない話だと思ったから。
「花仙...その口調止めてくれる?」
「母さん朝御飯は~?」
「はぁ~。私は諦めないわよ。用意するからちょっと待ってなさい。」
「オーケーでーす。」
口調の事を少し嫌そうな顔で母さんにいつも通り言われた。そして、あたしもいつも通りに話を強引に逸らして席に座って、耳塞ぐと母さんはため息を吐きながら作っていた料理を皿に移して持ってきてくれる。
「おお、ハムエッグサンド! いただきま~す。」
あたしは口いっぱいにハムエッグサンドを頬張ると半熟のハムエッグで中のトロトロの黄身が溢れだしてきて口いっぱいに広がる。
「うめぇ~。流石母さん焼き加減ばっちりだね。」
「どういたしまして。あと、今日は帰り遅くなるから花奈と晩御飯はお願いね。」
「りょ~か~い。」
あたしがそう言うと、母さんは家から出て仕事に向かった。その直後くらいに、まだ眠そうな花奈が起きてくる。
「お姉ちゃん...おはよう...。」
「おはよ。朝飯のハムエッグサンドがあるぞ。っとその前に顔洗うか。いくぞ妹ぉ。」
あたしはそう言いながら、水場で妹と一緒に顔を洗って、髪を整える。そうして、妹にハムエッグサンドを出して食べさせる。その間に、あたしは普段着に着替えて、出掛ける準備をした。
「お姉ちゃんどこかに行くの?」
「ちょっとな...。花奈も行く?」
「...うん!!」
あたしが誘ってみると、花奈は少し考えた後に、嬉しそうに頷いた。それを見た、あたしは花奈がハムエッグサンドを食べ終わる時間と着替える時間を考えて、風呂で体を洗うことにした。
「準備できたよお姉ちゃん!」
「よ~しギリギリ間に合ったぜ。」
それで少し遅れる形で髪を乾かすのも間に合って、花奈と一緒に家を出て鍵をしてモールに行く。
「るん♪るん♪らん♪らん♪」
花奈はあまりは聴いたのない音楽を言いながらあたしの手をしっかりと握って歩く。そうして、しばらく一緒に歩いていると、森の近くにあるストリートバスケットコートでは白と緋色のツートンの髪の緋愛と見知らぬ女子がいるところが見えた。
「ん?」
あたしは無意識に気になって立ち止まってその方向をじっと見つめる。すると、見知らぬ女子が緋愛に何かを渡した。その様子を見ると、かなり勇気を振り絞ったように見える。それを緋愛は受け取りながら、いつもよく見る優しそうな顔で謝った。
「...。」
すると、見知らぬ女子は泣きそうな顔だけど、必死に笑顔を作って、渡したものはそのままで一礼してその場から去り、あたしの横を通っていった。その時には流石に涙を流していたが...。あたしはそのまま黙ったまま緋愛の方に目をやると、緋愛は渡されたものをじっと見つめたまま立ち尽くしていた。それに対してあたしはいつも通りの感じで話しかける。
「よぉ緋愛! 恋する乙女を振ったかな?」
「花仙! まさか見てたのか?」
「そりゃもうバッチリ。」
あたしは悪そうに笑いながら緋愛の方を見る。すると、緋愛はさっきの感傷的な感じから一変して頭を抱えるような感じになる。
「はぁ~。なぜよりにもよって君と会うんだよ。ん?」
緋愛がギリギリ聞こえるくらいの声量で愚痴ると、花奈に気づいたのか、花奈の前で屈む。
「花奈ちゃんとは久しぶりだね。今は小学1年生なんだっけ?」
「そうだよ。今日はお姉ちゃんと一緒にモールでお買い物するんだ。」
「...そっか。僕もついていって良いかな。」
「は?」
「人数多いと楽しいだろ?」
「うん行こう!」
「え?」
「じゃあ行こう!」
「即断即決即実行が過ぎる。」
あたしはそう言いながら、首を横に振ってさっきの事は忘れて、花奈と緋愛と一緒にモールに向かった。そこで、あたしは高校受験のための資料を緋愛と一緒に買って、花奈が迷子にならないように交代交代で見張っていたりした。その後は、一緒にバスケをやったり、卓球をやったりして目一杯遊んだ。
「結局お前と遊ぶ日とおんなじことしたな。」
「ほんと、僕らが出会うといつもやることが変わらないね。」
「お兄ちゃんたちいつもこんな楽しいことしてるの? ズルいよ花奈も誘ってよ。」
「いやいや、あたしらがやってること花奈がやるには時間が勿体ないよ。今日はあんたがいるから、ちょっと有意義だったってだけで。」
わがままを言おうとする花奈にあたしは言い聞かせるように断る。すると、緋愛が時計をじっと見ているのが目に入った。が、何か雰囲気がいつもと違って話しかける気にならず、そのまま花奈と話続けようとすると
「花仙。」
と名前を呼ばれて、あたしは首を傾げながら緋愛の顔に目を向ける。すると、やけに優しそうな顔であたしの事を見ていた。
「今度夏祭りがあるんだよ。」
「うん。」
「いつも通りでいいからさ、2人で行かない?」
緋愛はいつもの調子だけどどこか寂しげな感じであたしを祭りに誘ってきた。その様子にあたしは何かただならない雰囲気を感じ取ったけど、訊くのが怖くていつもの調子で返事をする。
「わかった。2人で行こう。」
「...ありがとう...花仙。」
その後、さっきまで話していた花奈の方に目をやると、あたしらの光景をポカンとした顔で見ていた。
「2人とも怪しい。」
「どこがだよ。」
「大丈夫大丈夫。怪しい関係になんてなれないよ。」
緋愛の言い方が引っ掛かったけどあたしはまた訊かなかった。訊いちゃいけないような気がしたからだ。それから、しばらくあたしと緋愛は夏祭りの日まで会うことはなかった。
シルヴァマジア世界樹頂上
クレイとエリナは監獄塔付近の生存者を、僕は中央北側地区周辺の生存者をそれぞれ保護し、そこから被害を受けていない地区の人たちを比較的安全な場所まで避難させ、犠牲となった被害者達はそのご家族の元に赴いて、助けられなかったことへの謝罪を済ませ、世界樹の頂上で3人で集まった。
「いやぁ油断してたな。まさかここまで動きが早いとは流石に思ってなかった。」
「そうだね。ちょっと思慮が足りなかった。」
クレイが疲れたような声でそう吐露すると、それにエリナも同意して壁に寄りかかっている。
「確かに、僕らの思慮が足りていなかったのもあるけど、今回は相手側も予想してなかった動きだと思う。理由としては、彼らに協力してくるかたちじゃなく、わざわざ一度撤退を選んだからって言うのだけだけど。」
「まぁ確かに、脱走した直後だもんな。それに、すぐに救援に来るでもなく、戦闘が終わった瞬間だもんな。勝手に暴れられて、急いで回収したって考える方がまぁ自然か...。」
僕の考えに、クレイが呟くように同意すると、エリナが少し小さい声で僕らの方を見ながら言う。
「ジーク、クレイ...。」
「「?」」
「あの子達、殺したよね? 国民を...。」
「「...。」」
今からエリナが言うことを僕らは察して、アイコンタクトをしてエリナの方を見る。
「もう子供だから生かして捕まえるとか言ってらんないよ。」
「もちろん。立場的にもここであっちの命を優先してる場合じゃないしな。」
「わかってるよ。もう容赦はしない。それに、救援は呼んだしね。条件付きだけど。」
「救援? 誰か来んの?」
クレイが眠そうな顔で僕の方を見上げながら訊く。
「うん。ローザン君とアリュー君が北部と南部から来てくれるよ。」
「え? あの2人が来てくれんの? 大丈夫?」
「片や魔導のプロ、片や魔術のプロだろ? まぁ妥当っちゃ妥当だろ。」
「でも条件付きなんだよね? 恐らく元老院のジジババ共が出した。」
「うん。アリュー君は亜人の力は使えなくて、ローザン君は杖と剣を分けて戦ってもらうって。」
「「はぁ!?」」
僕の言葉に2人は正気を疑うような顔で驚く。
「何で、普通にやったら俺らとタメはるあいつらを何でわざわざ弱体化させるんだよ。元老院の連中はあいつら殺したいのかよ。」
「どうせそこまで本気で戦ったら、国民の不安を煽るから余力残して倒せってんでしょ?」
「うん全くその通りだよ。」
「古いんだよ。それで貴重な戦力が不慮の事故で死んじまったらどう責任とるんだよ。」
「ほんと、考えがいつまでも凝り固まってるよ。しかも言うだけ言って現場来ないしね。」
「「はぁ~。」」
2人は元老院の人たちへの不満を言ったあと、深くため息を吐いた。
「だから、とりあえず戦力は最低限揃う。でも、次またいつ襲ってくるかわからない。だから、明日の正午にはローザン君もアリュー君も来るみたいだから、それまでに僕とエリナは体力を万全に戻すことに注力して、クレイは今から明日丸一日休んで体を万全に整えてほしい。」
「いなくて大丈夫か?」
「いてほしいけど、今のままいても戦力としては期待できない。」
「ふ...そうだな。わかった。じゃあ今から明後日の朝までたっぷりと休ませてもらう。」
「じゃあお休みクレイ。」
「うんお休み。」
クレイは僕の指示を素直に聞いて世界樹を後にした。
「じゃああたしも行くよ。お休み。」
「うん。お休み。」
それに続くようにエリナもその場を後にした。
「僕も早めに眠っておこう。いつ敵がまたやって来るか予測できない。」
僕はそう言って、自分の家まで箒に乗って移動し、夕食を食べ、風呂に入り、歯を磨き、倒れ込むようにベッドに横たわりそのまま眠る。
シルヴァマジア国外 ラファスのアジト
あたしが天海と黒崎を抱えてここに来て、ちょっとしか時間は経っていないが、ラファス以外の人間の印象は大分変わった。
「お姉ちゃん。」
「ん?」
まずは坂本三葉。あんな男についていっているから一体どんな奴かと思ったが、普通に無邪気であたしに対して特に恐怖心を覚えることなく普通に接してくれる。黒崎や天海にも同様にだ。まぁ天海はあたしと同じ様に邪険にはしないが、困っており、黒崎はわかりやすく鬱陶しそうにしている。
「まだ寝ないの? 私はもう寝るから...。」
「うん。まだやることがあるからな。」
「そっか。じゃあまた明日ね! お休み!」
「ああ。お休み。」
あたしに手を振って三葉は寝床に行った。そして、あたしはその三葉の父親の方に目を向ける。坂本将五はあまり第一印象は変わっていないが、思いの外優しいと思った。
「どうした?」
「いや、さっきラファスとは何を話したのかと思って。」
「いや...釘を刺されただけだ。気にすることじゃない。」
「釘を刺された?」
「それに関しては深掘りしないでくれ。」
「...わかった。」
あたしは言われたとおりに将五にそれ以上は訊かないことにした。
「あれ? 三葉ちゃんもう寝ちゃった?」
「将五さんも寝たらどうです?」
「一番の年上が先に寝るわけにもいかんだろう。」
「そうですか...。黒崎君と天海君起きてる?」
その場を立ち去ろうとするあたしに浅永巴が何やら服を持って話しかけてきた。正直この人の印象が一番変わった。最初はただの痴女かと思ったが、実際はかなりの世話焼きでよくわからないあたしの世話や黒崎や天海の怪我の治療も率先してやってくれた。
「起きてるけど...何?」
「何って、服仕立ててきたんだよ。あなただっていつまでもボロボロな服じゃ嫌でしょ。ほらほらついてきて、2人にも渡すから。」
巴はそう言って、あたしの手を引いて、黒崎と天海のもとに行く。着くと、怪我が治りかけている2人が雑談していた。そこに、巴は仕立てた服を手渡して、
「さっ、着替えて私に姿を見せてね。」
と言い残してその場から離れる。
「着替えようか。」
「いらねえ。」
「必要ない。」
あたし達は口々にそう言いながら、渡された服に着替える。そして、3人で巴に姿を見せる。
「うん。似合ってるね。3人ともバッチリ。」
あたしの服は青いイヤリングを片耳に、ノースリーブのワンピースの上に内側が青く外側が純白のロングコートを着ており、下半身にはニーハイソックスに黒いショートブーツを履いている。黒崎は赤いピアス片耳に、首が隠れる黒いニットの上に黒いミリタリージャケットを着ており、下半身には黒いカーゴパンツとスニーカーを履いている。天海は緑色の耳飾りを片耳に、白いワイシャツの上に黒いスーツジャケットを着ており、黒いスラックスと革靴を履いている。
「服のデザイン力はバッチリだね。」
「何自画自賛してるんだよ。」
「いいでしょ。褒めてくれる人いないんだし。」
2人はどう思ってるかはわからないが、私はとても気に入っている。そうして時間を無駄にしている内に、そろそろ眠りについた方がいい時間になり、あたしと黒崎、天海は同じ部屋で眠りについた。
あたしが欠伸をしながら起きる。今は夏休み中、少し遅く起きても良いのだ。何て思いながら寝間着のままでダイニングに行くと、仕事に行く準備をした母さんが新聞を読みながら深刻そうな顔をしていた。
「どうしたの?」
「あ、いや最近、白像病が多いなって思ってね。」
「白像病?」
「年単位から日単位で体が白くなっていって、最終的には白い石像のようになって絶命する病。治療法はまだ見つかってない。まず何が原因なのかもよくわかってなくてね。」
「やべえじゃん。」
あたしが適当にそう返事をする。この時はあたしにはほとんど関係ない話だと思ったから。
「花仙...その口調止めてくれる?」
「母さん朝御飯は~?」
「はぁ~。私は諦めないわよ。用意するからちょっと待ってなさい。」
「オーケーでーす。」
口調の事を少し嫌そうな顔で母さんにいつも通り言われた。そして、あたしもいつも通りに話を強引に逸らして席に座って、耳塞ぐと母さんはため息を吐きながら作っていた料理を皿に移して持ってきてくれる。
「おお、ハムエッグサンド! いただきま~す。」
あたしは口いっぱいにハムエッグサンドを頬張ると半熟のハムエッグで中のトロトロの黄身が溢れだしてきて口いっぱいに広がる。
「うめぇ~。流石母さん焼き加減ばっちりだね。」
「どういたしまして。あと、今日は帰り遅くなるから花奈と晩御飯はお願いね。」
「りょ~か~い。」
あたしがそう言うと、母さんは家から出て仕事に向かった。その直後くらいに、まだ眠そうな花奈が起きてくる。
「お姉ちゃん...おはよう...。」
「おはよ。朝飯のハムエッグサンドがあるぞ。っとその前に顔洗うか。いくぞ妹ぉ。」
あたしはそう言いながら、水場で妹と一緒に顔を洗って、髪を整える。そうして、妹にハムエッグサンドを出して食べさせる。その間に、あたしは普段着に着替えて、出掛ける準備をした。
「お姉ちゃんどこかに行くの?」
「ちょっとな...。花奈も行く?」
「...うん!!」
あたしが誘ってみると、花奈は少し考えた後に、嬉しそうに頷いた。それを見た、あたしは花奈がハムエッグサンドを食べ終わる時間と着替える時間を考えて、風呂で体を洗うことにした。
「準備できたよお姉ちゃん!」
「よ~しギリギリ間に合ったぜ。」
それで少し遅れる形で髪を乾かすのも間に合って、花奈と一緒に家を出て鍵をしてモールに行く。
「るん♪るん♪らん♪らん♪」
花奈はあまりは聴いたのない音楽を言いながらあたしの手をしっかりと握って歩く。そうして、しばらく一緒に歩いていると、森の近くにあるストリートバスケットコートでは白と緋色のツートンの髪の緋愛と見知らぬ女子がいるところが見えた。
「ん?」
あたしは無意識に気になって立ち止まってその方向をじっと見つめる。すると、見知らぬ女子が緋愛に何かを渡した。その様子を見ると、かなり勇気を振り絞ったように見える。それを緋愛は受け取りながら、いつもよく見る優しそうな顔で謝った。
「...。」
すると、見知らぬ女子は泣きそうな顔だけど、必死に笑顔を作って、渡したものはそのままで一礼してその場から去り、あたしの横を通っていった。その時には流石に涙を流していたが...。あたしはそのまま黙ったまま緋愛の方に目をやると、緋愛は渡されたものをじっと見つめたまま立ち尽くしていた。それに対してあたしはいつも通りの感じで話しかける。
「よぉ緋愛! 恋する乙女を振ったかな?」
「花仙! まさか見てたのか?」
「そりゃもうバッチリ。」
あたしは悪そうに笑いながら緋愛の方を見る。すると、緋愛はさっきの感傷的な感じから一変して頭を抱えるような感じになる。
「はぁ~。なぜよりにもよって君と会うんだよ。ん?」
緋愛がギリギリ聞こえるくらいの声量で愚痴ると、花奈に気づいたのか、花奈の前で屈む。
「花奈ちゃんとは久しぶりだね。今は小学1年生なんだっけ?」
「そうだよ。今日はお姉ちゃんと一緒にモールでお買い物するんだ。」
「...そっか。僕もついていって良いかな。」
「は?」
「人数多いと楽しいだろ?」
「うん行こう!」
「え?」
「じゃあ行こう!」
「即断即決即実行が過ぎる。」
あたしはそう言いながら、首を横に振ってさっきの事は忘れて、花奈と緋愛と一緒にモールに向かった。そこで、あたしは高校受験のための資料を緋愛と一緒に買って、花奈が迷子にならないように交代交代で見張っていたりした。その後は、一緒にバスケをやったり、卓球をやったりして目一杯遊んだ。
「結局お前と遊ぶ日とおんなじことしたな。」
「ほんと、僕らが出会うといつもやることが変わらないね。」
「お兄ちゃんたちいつもこんな楽しいことしてるの? ズルいよ花奈も誘ってよ。」
「いやいや、あたしらがやってること花奈がやるには時間が勿体ないよ。今日はあんたがいるから、ちょっと有意義だったってだけで。」
わがままを言おうとする花奈にあたしは言い聞かせるように断る。すると、緋愛が時計をじっと見ているのが目に入った。が、何か雰囲気がいつもと違って話しかける気にならず、そのまま花奈と話続けようとすると
「花仙。」
と名前を呼ばれて、あたしは首を傾げながら緋愛の顔に目を向ける。すると、やけに優しそうな顔であたしの事を見ていた。
「今度夏祭りがあるんだよ。」
「うん。」
「いつも通りでいいからさ、2人で行かない?」
緋愛はいつもの調子だけどどこか寂しげな感じであたしを祭りに誘ってきた。その様子にあたしは何かただならない雰囲気を感じ取ったけど、訊くのが怖くていつもの調子で返事をする。
「わかった。2人で行こう。」
「...ありがとう...花仙。」
その後、さっきまで話していた花奈の方に目をやると、あたしらの光景をポカンとした顔で見ていた。
「2人とも怪しい。」
「どこがだよ。」
「大丈夫大丈夫。怪しい関係になんてなれないよ。」
緋愛の言い方が引っ掛かったけどあたしはまた訊かなかった。訊いちゃいけないような気がしたからだ。それから、しばらくあたしと緋愛は夏祭りの日まで会うことはなかった。
シルヴァマジア世界樹頂上
クレイとエリナは監獄塔付近の生存者を、僕は中央北側地区周辺の生存者をそれぞれ保護し、そこから被害を受けていない地区の人たちを比較的安全な場所まで避難させ、犠牲となった被害者達はそのご家族の元に赴いて、助けられなかったことへの謝罪を済ませ、世界樹の頂上で3人で集まった。
「いやぁ油断してたな。まさかここまで動きが早いとは流石に思ってなかった。」
「そうだね。ちょっと思慮が足りなかった。」
クレイが疲れたような声でそう吐露すると、それにエリナも同意して壁に寄りかかっている。
「確かに、僕らの思慮が足りていなかったのもあるけど、今回は相手側も予想してなかった動きだと思う。理由としては、彼らに協力してくるかたちじゃなく、わざわざ一度撤退を選んだからって言うのだけだけど。」
「まぁ確かに、脱走した直後だもんな。それに、すぐに救援に来るでもなく、戦闘が終わった瞬間だもんな。勝手に暴れられて、急いで回収したって考える方がまぁ自然か...。」
僕の考えに、クレイが呟くように同意すると、エリナが少し小さい声で僕らの方を見ながら言う。
「ジーク、クレイ...。」
「「?」」
「あの子達、殺したよね? 国民を...。」
「「...。」」
今からエリナが言うことを僕らは察して、アイコンタクトをしてエリナの方を見る。
「もう子供だから生かして捕まえるとか言ってらんないよ。」
「もちろん。立場的にもここであっちの命を優先してる場合じゃないしな。」
「わかってるよ。もう容赦はしない。それに、救援は呼んだしね。条件付きだけど。」
「救援? 誰か来んの?」
クレイが眠そうな顔で僕の方を見上げながら訊く。
「うん。ローザン君とアリュー君が北部と南部から来てくれるよ。」
「え? あの2人が来てくれんの? 大丈夫?」
「片や魔導のプロ、片や魔術のプロだろ? まぁ妥当っちゃ妥当だろ。」
「でも条件付きなんだよね? 恐らく元老院のジジババ共が出した。」
「うん。アリュー君は亜人の力は使えなくて、ローザン君は杖と剣を分けて戦ってもらうって。」
「「はぁ!?」」
僕の言葉に2人は正気を疑うような顔で驚く。
「何で、普通にやったら俺らとタメはるあいつらを何でわざわざ弱体化させるんだよ。元老院の連中はあいつら殺したいのかよ。」
「どうせそこまで本気で戦ったら、国民の不安を煽るから余力残して倒せってんでしょ?」
「うん全くその通りだよ。」
「古いんだよ。それで貴重な戦力が不慮の事故で死んじまったらどう責任とるんだよ。」
「ほんと、考えがいつまでも凝り固まってるよ。しかも言うだけ言って現場来ないしね。」
「「はぁ~。」」
2人は元老院の人たちへの不満を言ったあと、深くため息を吐いた。
「だから、とりあえず戦力は最低限揃う。でも、次またいつ襲ってくるかわからない。だから、明日の正午にはローザン君もアリュー君も来るみたいだから、それまでに僕とエリナは体力を万全に戻すことに注力して、クレイは今から明日丸一日休んで体を万全に整えてほしい。」
「いなくて大丈夫か?」
「いてほしいけど、今のままいても戦力としては期待できない。」
「ふ...そうだな。わかった。じゃあ今から明後日の朝までたっぷりと休ませてもらう。」
「じゃあお休みクレイ。」
「うんお休み。」
クレイは僕の指示を素直に聞いて世界樹を後にした。
「じゃああたしも行くよ。お休み。」
「うん。お休み。」
それに続くようにエリナもその場を後にした。
「僕も早めに眠っておこう。いつ敵がまたやって来るか予測できない。」
僕はそう言って、自分の家まで箒に乗って移動し、夕食を食べ、風呂に入り、歯を磨き、倒れ込むようにベッドに横たわりそのまま眠る。
シルヴァマジア国外 ラファスのアジト
あたしが天海と黒崎を抱えてここに来て、ちょっとしか時間は経っていないが、ラファス以外の人間の印象は大分変わった。
「お姉ちゃん。」
「ん?」
まずは坂本三葉。あんな男についていっているから一体どんな奴かと思ったが、普通に無邪気であたしに対して特に恐怖心を覚えることなく普通に接してくれる。黒崎や天海にも同様にだ。まぁ天海はあたしと同じ様に邪険にはしないが、困っており、黒崎はわかりやすく鬱陶しそうにしている。
「まだ寝ないの? 私はもう寝るから...。」
「うん。まだやることがあるからな。」
「そっか。じゃあまた明日ね! お休み!」
「ああ。お休み。」
あたしに手を振って三葉は寝床に行った。そして、あたしはその三葉の父親の方に目を向ける。坂本将五はあまり第一印象は変わっていないが、思いの外優しいと思った。
「どうした?」
「いや、さっきラファスとは何を話したのかと思って。」
「いや...釘を刺されただけだ。気にすることじゃない。」
「釘を刺された?」
「それに関しては深掘りしないでくれ。」
「...わかった。」
あたしは言われたとおりに将五にそれ以上は訊かないことにした。
「あれ? 三葉ちゃんもう寝ちゃった?」
「将五さんも寝たらどうです?」
「一番の年上が先に寝るわけにもいかんだろう。」
「そうですか...。黒崎君と天海君起きてる?」
その場を立ち去ろうとするあたしに浅永巴が何やら服を持って話しかけてきた。正直この人の印象が一番変わった。最初はただの痴女かと思ったが、実際はかなりの世話焼きでよくわからないあたしの世話や黒崎や天海の怪我の治療も率先してやってくれた。
「起きてるけど...何?」
「何って、服仕立ててきたんだよ。あなただっていつまでもボロボロな服じゃ嫌でしょ。ほらほらついてきて、2人にも渡すから。」
巴はそう言って、あたしの手を引いて、黒崎と天海のもとに行く。着くと、怪我が治りかけている2人が雑談していた。そこに、巴は仕立てた服を手渡して、
「さっ、着替えて私に姿を見せてね。」
と言い残してその場から離れる。
「着替えようか。」
「いらねえ。」
「必要ない。」
あたし達は口々にそう言いながら、渡された服に着替える。そして、3人で巴に姿を見せる。
「うん。似合ってるね。3人ともバッチリ。」
あたしの服は青いイヤリングを片耳に、ノースリーブのワンピースの上に内側が青く外側が純白のロングコートを着ており、下半身にはニーハイソックスに黒いショートブーツを履いている。黒崎は赤いピアス片耳に、首が隠れる黒いニットの上に黒いミリタリージャケットを着ており、下半身には黒いカーゴパンツとスニーカーを履いている。天海は緑色の耳飾りを片耳に、白いワイシャツの上に黒いスーツジャケットを着ており、黒いスラックスと革靴を履いている。
「服のデザイン力はバッチリだね。」
「何自画自賛してるんだよ。」
「いいでしょ。褒めてくれる人いないんだし。」
2人はどう思ってるかはわからないが、私はとても気に入っている。そうして時間を無駄にしている内に、そろそろ眠りについた方がいい時間になり、あたしと黒崎、天海は同じ部屋で眠りについた。
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