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第三章 シルヴァマジア編
姉妹愛
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5年前
ゆっくりと目を瞑って、集中する。深く息を吸って長く吐く。それを何度も繰り返す。
「よし。」
あたしはそう呟いてスレイバーを振るう。そうして、伸びた刀身で回りの木々を切り裂く。
「流石だね。たった2年でマスターするとは、驚きだよ。」
「にしては、冷静だな。」
「そうだね。もうしっかりと驚ける年でもないんだよ。」
「そっか。」
その言葉を聞いて、もう婆さんとは対人での特訓はできないんだなと少し残念に思った。
「そう言えば今日は妹の誕生日じゃないかい? 何かプレゼントは用意したのかい?」
「もちろん。洒落た魔法瓶を買ってるさ。」
あたしがいつもの感じでそう言うと、婆さんは気のないを反応を返す。
「そうかい。ずっと修行しっぱなしだから家族のことを疎かにしてないか心配でね。」
「今更じゃね?」
「そうかね?」
「うん。もう婆さんに師事してもらってもう4年だぜ?」
「そんな経ったかね!? 時の流れは早いねぇ。」
驚いているようだが、やっぱり婆さんの元気がない。
「あたしももうそろそろ長くはないかもねぇ。」
「そんな事言うなまだ教えてもらってないことだってある。」
あたしがそう言うと、婆さんはジッと見てしばらく黙った後に言う。
「そうだね。そろそろ、あんたにはあんた自身に秘めたその力を使いこなしてもらう必要があるね。」
「ん? 教えてくれるんじゃないのか?」
「教えるのはあたしには無理だ。あたしがその力について知っているのは、力を制する為に強い精神を持つ事、力を振るうに相応しい肉体を持つ事。この2つできたならば、力を制し、振るう覚悟を持つ事が大事だという事のみ。だから、力の使い方はあんた自身で使いこなさなきゃならん。でもね花仙...使いこなせても。滅多なことじゃ使うんじゃないよ。本当に本当にどうしようもない時だけ。」
「...うん。わかった。」
婆さんの真剣な眼差しにあたしは唾を飲み込んで頷いた。
夜
あたしは婆さんも誘って母さんとあたしと婆さんで妹の誕生日ケーキを作って花奈を祝う。
「「花奈。誕生日おめでとう!!」」
「お姉ちゃん、お母さん毎年ありがとう。今日はお婆ちゃんも居てくれて百倍楽しいよ!」
そうして、母さんは新しい服を、婆さんは護符を、あたしは洒落た魔法瓶をプレゼントした。
「水色の魔法瓶...綺麗...。」
「その魔法瓶は『未来への祝福』っていう詠唱文が込められた魔法瓶。効果は使ってからのお楽しみな。」
「うん! ありがとうお姉ちゃん。大切に使うからね。」
妹の喜ぶ様子を見て、母さんも婆さんも自然と笑みが零れてる。
「お姉ちゃん...。私、絶対にお姉ちゃんの役に立てる魔法師になるからね!! それで、お姉ちゃんを護るからね!! それで姉妹でお兄ちゃん探しに行こうね!!」
「お兄ちゃん...?」
「緋愛お兄ちゃん!」
その名前を聞いてあたしは目を見開く。
「お姉ちゃん?」
「...いや、いいんだ。ありがとう花奈...。それまでお互い大怪我しないようにしないとな。」
「うん!」
あたしは久しぶりに聞いたその名前に少し懐かしさを覚えながら、花奈とゆびきりで約束をした。
現在 シルヴァマジア内 森林地帯
陽葉山さんとお婆さんにここの位置を聞いた私と光琳はお互いの顔を見合わせて冷や汗をかいた。
「クリードさんと師匠が私たちのような状態になっていない場合、この国に到着するまであと2時間はかかる...。」
「しかも、協力を求めようとしたジークっていう人は現在捕まってて、協力を求めたルーク市長は絶賛戦闘中の可能性大...。」
「「(よりにもよって何で頼りにならない私たちが来てしまったんだ...。)」」
私たちは一緒に歩いている陽葉山さんには聞こえないような声でそう言いあった。おぶっているお婆さんは完全に眠ってしまっていてしばらく起きる様子はない。
「とにかく、早く安静にできる場所に...。」
「うん...そうだね...。...?」
何か気配を感じる。上から何かものすごい速度で落ちてくるような...。いや...落ちてくる!
「物陰に隠れて!」
咄嗟にそう叫ぶ。すると、陽葉山さんはすぐにお婆さんに近づいて一緒に物陰に隠れるように手伝ってくれる。そうやって物陰に隠れた瞬間に私が感じた気配が落ちてくる。同時に上にも気配を感じる。落ちてきた気配よりも更に嫌な予感のする気配。
「(しかも...1人じゃない。4...人?) いや...3人と1匹?」
「っ~。いって~。いくら強いからってさぁ~。4対1って卑怯じゃない? いや、戦いに卑怯もくそもないね。」
落ちてきたのは金髪赤眼のショートヘアの女性。そして、上にいるのは大人の色気を放つ女性と子連れの男性にとんでもなく禍々しい大剣を持つ若い男性と鋭い牙を剝きだしている狼だ。
「急に不意打ちかましてきてもうほんと最悪。おかげでアリューとローザンの報告が雑になったじゃん。しかも、内の国民を落下でケガさせそうになったしさぁ~。ちょっと気を遣ってよ。」
「知ったことか。」
「だよね知ってる。」
大剣を強く握っている男性が眉間にしわを寄せた顔で吐き捨てるように言うと、女性が受け流すように対応した後私たちの方を見る。
「ごめんね。怪我は無い?」
「一応...大丈夫です。」
「そっか。でもここら辺りは危険だからさっさと逃げなよ。逃げてる間、私が食い止めとくからさ。」
「4対1だぞ?」
子連れの男性が女性の言葉に怪訝そうな表情を向けながらそう言った。それに対して女性がゆっくり立ち上がりながら笑みを浮かべて上にいる4人を見上げる。
「藍星の魔女、神川エリナ。首領と右翼が不在だから左翼張り切っちゃうもんね。何かあったら、私の名前を叫んでね。」
「はい。」
「じゃあ行ってらっしゃい。集団転移。」
エリナさんがそう言った瞬間に私たちは一斉に別の場所に移動させられた。
「無駄なことを。」
「ん? あの人達...狙ってるってこと?」
「ヴェスパー...。」
「まぁいいよ。周りに人がいない分。戦いやすくなったしね!」
かなり遠くで何かの衝突音が聞こえる。あの方向はついさっきまで私たちがいたところだ。
「とりあえずもう少し距離を取ろうか。」
「はい。」
私の言葉に陽葉山さんは返事をしながら建物が見える方向に誘導しながら歩いてくれる。
「おっと発見。」
背後から知らない男の声が聞こえた。知らない...はず...でも知ってる気がする声...。私たちは一斉に振り向く。
「白髪...紅い眼...黒い外套...。」
「薫?」
知らないはず...でもどこか既視感のある姿。
「!!」
「薫!?」
「どうしたんですか?」
急にとてつもない頭痛がする。その私の姿を見て、男がニヤリと笑っている。凄くの性格の悪い笑み、知っている...でも知らない。気持ち悪い。凄く気持ち悪い。
「ぐっううう...。」
視界が歪む。フラッシュバックする。そんな状態の私に聞かせるように男が指を鳴らして大声で言う。
「橘薫ちゃん。久しぶりだねぇ~。大事にしてくれたかな?」
「...は?」
「君のお父さんの血と肉と骨で作ったバッグ。」
その瞬間に忘れていた...いや消されてた記憶が急に頭の中に現れ、『あの日』の光景を思い出す。
回想
人が複数倒れている場所で夜中、私はお母さんに誕生日祝いをしてもらえるってことでお母さんの職場に向かった。
「え?」
でも向かったところにはお母さんの姿は無くて、沢山の人の惨殺遺体やバラバラに切り離された遺体、黒焦げの遺体や全裸の状態で倒れている遺体があった。そこの中心にあいつが立っていた。
「君が橘薫ちゃん...だっけ? これプレゼントだよ。」
「あっはい...。」
言われるがまま、あいつから不気味なバッグを受け取った。
「大事に使っておくれよ。これは君のお父さんの血と肉と骨で作ったバッグだから。」
「!!」
「ごめんねぇ~お母さんからのプレゼントはないんだ。喰っちゃったから。」
あいつは心底嬉しそうな顔で私を見た。私は驚きのあまり膝から崩れ落ちる、男は一転してつまらなそうな顔で頭を掴んで持ち上げる。
「止めてくれよ。もう壊れたらつまらないだろうが...。これに耐えられる年齢まで...この記憶は奪っておくか。代わりに適当な記憶をぶち込んどくか。じゃあね薫ちゃん。成熟した君を壊す日を楽しみにしとくわ。」
回想は終わり
思い出した。あの夢の内容を...。いや...こいつに記憶を戻された。そして、こいつの正体...たまに帰ってくるお母さんから聞かされてた名前。信頼していた仲間の名前。私達兄弟と同じくらい大事にわが子のように育てた仲間...。
「薫?」
「くっっっっっっ...!!! ラファス!!!」
「んふふふふふ...。いいねえ!! その表情!! 壊し甲斐がある表情...増幅した憎しみが相手に対する恐怖で埋め尽くされて、現実を目の当たりにし、絶望し壊れる様...俺が一番大好物な表情だ!!」
怒りと憎しみでいっぱいの私の状態に男は心の底から楽しそうに笑う。
「薫!?」
「光琳...陽葉山さんとお婆さんを連れてここから離れて!!」
「離れてって...。」
「こいつは...こいつだけは...私が殺す!!!」
私は光琳にそう言って、バタフライナイフを強く握って、ラファスに特攻する。
「薫!!」
「薫さん!!」
「お止め嬢ちゃん!」
「うああああああ!!!」
光琳、陽葉山さん、お婆さんの制止を無視して切りかかる。
「...!!」
「どうしたぁ? まだ一回しかナイフを振り下ろしてないぞ? 殺すんだったら首とか狙った方がいいんじゃねえの?」
「ふあ!! はっ!! へあっ!! でやああ!! クソォ!!!」
全部指先で受け止められて、体勢を崩された瞬間にお腹にめり込むほどの蹴りを入れられる。
「うぐあっ!!!」
「ごめん陽葉山さん! お婆さんを。」
「はい!」
そのまま飛ばされた私を光琳が受け止めてくれる。
「大丈夫、薫? 私も手伝うよ。」
「駄目だよ...。私の復讐に...光琳を...巻き込めないよ。」
私は吐血しながら光琳の手を退けて立ち上がる。
「...陽葉山さん...ごめんだけど、ここから先はお婆さんを連れて行って。」
「光琳さん...。」
「あの子を助けるのかい?」
「今の薫を1人にはできない。ごめんなさい。それに、いつ助けが来るかもわからない。」
お婆さんが頷いて陽葉山さんを説得する声が聞こえる。
「わかったよ。ごめんね花奈。もうあたしは大丈夫だよ。一緒にここを離れよう。」
「薫。巻き込めないって言ったけど。私が勝手に巻き込まれるから何も言わないでね。」
「光琳...ありがとう...。」
光琳の気遣いに私は少し落ち着きを取り戻して礼を言う。
「お綺麗な友情だな。壊し甲斐がある。」
「くっ...ラファス...!!」
「薫、落ち着いて。冷静じゃないと、いざって時に体が正常に動かない。」
「...。スゥゥゥゥゥ...ハァァァァァ...。」
光琳の言葉に私は深呼吸をして落ち着きをある程度取り戻す。
「いくよ薫。」
「うん、光琳!」
私と光琳は走ってラファスに向かっていく。
魔工車レグス
突如として車内から消えた薫と光琳について、俺達は恐らくシルヴァマジアに移動させられたと考えて走らせている。清雅が移動していないというところである一定以上の危険性を秘めている者は強制的に移動させられないと判断した。
「今回の出来事になぜそのラファス・ドゥイレルが関わっていると思ったんだ?」
「昔、1000ある計画書の内の1つに今と似たような状況があった。」
「どんな計画です?」
俺達との会話に清雅が前のめりになりながら訊いてきた。
「俺が昔、あいつに依頼されて暗殺者とは程遠い用心棒のような役目をしていた時、あいつの計画書の中の1つを盗み見た時。邪魔になったシャインティアウーブとシルヴァマジアを植民地化するというものだ。その方法として、それぞれのトップに近い権力や地位を持った人間を騙し、戦争開始を誘発させ国が混乱状態に陥ったところを強制的に別々の場所のテレポートさせて、安全な場所が1つもない状態にして、逃げ場もなくそこにいる戦力が分散して相手を優位に立たせないように時間を稼ぎながらトップを殺し、国の機能を停止させて...」
「植民地とする...か。」
「似たような別人の計画ってわけじゃないですよね。」
清雅が深刻な顔をして顎をさする。
「だが、相手はあのラファス。これだけで終わるはずがない。多分トップを殺した後は、子供か親を見せしめにして恐怖で従わせて擦り切れるまで使った後、ボロ雑巾のように捨てるか。物理的に道具に作り替えるかするだろう。それに...」
「それに?」
「いかにルーク・ギルデアやジーク・ヴィネアが強く厄介だろうと、仕掛けがわからなければあいつには勝てない。」
「俺でもか?」
「ああ万全のお前でも、青葉でも仕掛けを解かない限りあいつには勝てない。」
「そんなに...強いんですか?」
「ああ。強くて、狡猾で、何よりプライドがない。」
「それって...。」
「状況を最悪にされた挙句、負けに傾いたらあっさり逃走する。酷い置き土産をしてな。」
昔、あいつに手を貸していた時に見ていたあいつの言動や考え、昔の俺は何とも思わなかったが、今はあいつを見るだけで不快な気分になる。
「お前は勝てるのか?」
「いや、五分五分だな。勝つ可能性はある。俺はあいつが持つ能力を全部知ってるからな。だが、負ける可能性も十分にある。だから、負けた場合としてカメラをセットして戦う。お前にはその映像を見てあいつの戦い方を見極めてから戦ってほしい。初見であいつに勝てる奴など...俺は知らない。」
「初見では戦いにならないということか?」
「戦いにはなる。ただジリ貧になって負けるという線が高い。いきなりお前をぶつけるにはリスキーすぎるんだ。」
「...あとどれくらいでつきますか?」
「最短で2時間だな。」
「遠い。」
「だから間に合うかは、賭けだ。」
俺はそう言って、車の速度を更に上げる。
ゆっくりと目を瞑って、集中する。深く息を吸って長く吐く。それを何度も繰り返す。
「よし。」
あたしはそう呟いてスレイバーを振るう。そうして、伸びた刀身で回りの木々を切り裂く。
「流石だね。たった2年でマスターするとは、驚きだよ。」
「にしては、冷静だな。」
「そうだね。もうしっかりと驚ける年でもないんだよ。」
「そっか。」
その言葉を聞いて、もう婆さんとは対人での特訓はできないんだなと少し残念に思った。
「そう言えば今日は妹の誕生日じゃないかい? 何かプレゼントは用意したのかい?」
「もちろん。洒落た魔法瓶を買ってるさ。」
あたしがいつもの感じでそう言うと、婆さんは気のないを反応を返す。
「そうかい。ずっと修行しっぱなしだから家族のことを疎かにしてないか心配でね。」
「今更じゃね?」
「そうかね?」
「うん。もう婆さんに師事してもらってもう4年だぜ?」
「そんな経ったかね!? 時の流れは早いねぇ。」
驚いているようだが、やっぱり婆さんの元気がない。
「あたしももうそろそろ長くはないかもねぇ。」
「そんな事言うなまだ教えてもらってないことだってある。」
あたしがそう言うと、婆さんはジッと見てしばらく黙った後に言う。
「そうだね。そろそろ、あんたにはあんた自身に秘めたその力を使いこなしてもらう必要があるね。」
「ん? 教えてくれるんじゃないのか?」
「教えるのはあたしには無理だ。あたしがその力について知っているのは、力を制する為に強い精神を持つ事、力を振るうに相応しい肉体を持つ事。この2つできたならば、力を制し、振るう覚悟を持つ事が大事だという事のみ。だから、力の使い方はあんた自身で使いこなさなきゃならん。でもね花仙...使いこなせても。滅多なことじゃ使うんじゃないよ。本当に本当にどうしようもない時だけ。」
「...うん。わかった。」
婆さんの真剣な眼差しにあたしは唾を飲み込んで頷いた。
夜
あたしは婆さんも誘って母さんとあたしと婆さんで妹の誕生日ケーキを作って花奈を祝う。
「「花奈。誕生日おめでとう!!」」
「お姉ちゃん、お母さん毎年ありがとう。今日はお婆ちゃんも居てくれて百倍楽しいよ!」
そうして、母さんは新しい服を、婆さんは護符を、あたしは洒落た魔法瓶をプレゼントした。
「水色の魔法瓶...綺麗...。」
「その魔法瓶は『未来への祝福』っていう詠唱文が込められた魔法瓶。効果は使ってからのお楽しみな。」
「うん! ありがとうお姉ちゃん。大切に使うからね。」
妹の喜ぶ様子を見て、母さんも婆さんも自然と笑みが零れてる。
「お姉ちゃん...。私、絶対にお姉ちゃんの役に立てる魔法師になるからね!! それで、お姉ちゃんを護るからね!! それで姉妹でお兄ちゃん探しに行こうね!!」
「お兄ちゃん...?」
「緋愛お兄ちゃん!」
その名前を聞いてあたしは目を見開く。
「お姉ちゃん?」
「...いや、いいんだ。ありがとう花奈...。それまでお互い大怪我しないようにしないとな。」
「うん!」
あたしは久しぶりに聞いたその名前に少し懐かしさを覚えながら、花奈とゆびきりで約束をした。
現在 シルヴァマジア内 森林地帯
陽葉山さんとお婆さんにここの位置を聞いた私と光琳はお互いの顔を見合わせて冷や汗をかいた。
「クリードさんと師匠が私たちのような状態になっていない場合、この国に到着するまであと2時間はかかる...。」
「しかも、協力を求めようとしたジークっていう人は現在捕まってて、協力を求めたルーク市長は絶賛戦闘中の可能性大...。」
「「(よりにもよって何で頼りにならない私たちが来てしまったんだ...。)」」
私たちは一緒に歩いている陽葉山さんには聞こえないような声でそう言いあった。おぶっているお婆さんは完全に眠ってしまっていてしばらく起きる様子はない。
「とにかく、早く安静にできる場所に...。」
「うん...そうだね...。...?」
何か気配を感じる。上から何かものすごい速度で落ちてくるような...。いや...落ちてくる!
「物陰に隠れて!」
咄嗟にそう叫ぶ。すると、陽葉山さんはすぐにお婆さんに近づいて一緒に物陰に隠れるように手伝ってくれる。そうやって物陰に隠れた瞬間に私が感じた気配が落ちてくる。同時に上にも気配を感じる。落ちてきた気配よりも更に嫌な予感のする気配。
「(しかも...1人じゃない。4...人?) いや...3人と1匹?」
「っ~。いって~。いくら強いからってさぁ~。4対1って卑怯じゃない? いや、戦いに卑怯もくそもないね。」
落ちてきたのは金髪赤眼のショートヘアの女性。そして、上にいるのは大人の色気を放つ女性と子連れの男性にとんでもなく禍々しい大剣を持つ若い男性と鋭い牙を剝きだしている狼だ。
「急に不意打ちかましてきてもうほんと最悪。おかげでアリューとローザンの報告が雑になったじゃん。しかも、内の国民を落下でケガさせそうになったしさぁ~。ちょっと気を遣ってよ。」
「知ったことか。」
「だよね知ってる。」
大剣を強く握っている男性が眉間にしわを寄せた顔で吐き捨てるように言うと、女性が受け流すように対応した後私たちの方を見る。
「ごめんね。怪我は無い?」
「一応...大丈夫です。」
「そっか。でもここら辺りは危険だからさっさと逃げなよ。逃げてる間、私が食い止めとくからさ。」
「4対1だぞ?」
子連れの男性が女性の言葉に怪訝そうな表情を向けながらそう言った。それに対して女性がゆっくり立ち上がりながら笑みを浮かべて上にいる4人を見上げる。
「藍星の魔女、神川エリナ。首領と右翼が不在だから左翼張り切っちゃうもんね。何かあったら、私の名前を叫んでね。」
「はい。」
「じゃあ行ってらっしゃい。集団転移。」
エリナさんがそう言った瞬間に私たちは一斉に別の場所に移動させられた。
「無駄なことを。」
「ん? あの人達...狙ってるってこと?」
「ヴェスパー...。」
「まぁいいよ。周りに人がいない分。戦いやすくなったしね!」
かなり遠くで何かの衝突音が聞こえる。あの方向はついさっきまで私たちがいたところだ。
「とりあえずもう少し距離を取ろうか。」
「はい。」
私の言葉に陽葉山さんは返事をしながら建物が見える方向に誘導しながら歩いてくれる。
「おっと発見。」
背後から知らない男の声が聞こえた。知らない...はず...でも知ってる気がする声...。私たちは一斉に振り向く。
「白髪...紅い眼...黒い外套...。」
「薫?」
知らないはず...でもどこか既視感のある姿。
「!!」
「薫!?」
「どうしたんですか?」
急にとてつもない頭痛がする。その私の姿を見て、男がニヤリと笑っている。凄くの性格の悪い笑み、知っている...でも知らない。気持ち悪い。凄く気持ち悪い。
「ぐっううう...。」
視界が歪む。フラッシュバックする。そんな状態の私に聞かせるように男が指を鳴らして大声で言う。
「橘薫ちゃん。久しぶりだねぇ~。大事にしてくれたかな?」
「...は?」
「君のお父さんの血と肉と骨で作ったバッグ。」
その瞬間に忘れていた...いや消されてた記憶が急に頭の中に現れ、『あの日』の光景を思い出す。
回想
人が複数倒れている場所で夜中、私はお母さんに誕生日祝いをしてもらえるってことでお母さんの職場に向かった。
「え?」
でも向かったところにはお母さんの姿は無くて、沢山の人の惨殺遺体やバラバラに切り離された遺体、黒焦げの遺体や全裸の状態で倒れている遺体があった。そこの中心にあいつが立っていた。
「君が橘薫ちゃん...だっけ? これプレゼントだよ。」
「あっはい...。」
言われるがまま、あいつから不気味なバッグを受け取った。
「大事に使っておくれよ。これは君のお父さんの血と肉と骨で作ったバッグだから。」
「!!」
「ごめんねぇ~お母さんからのプレゼントはないんだ。喰っちゃったから。」
あいつは心底嬉しそうな顔で私を見た。私は驚きのあまり膝から崩れ落ちる、男は一転してつまらなそうな顔で頭を掴んで持ち上げる。
「止めてくれよ。もう壊れたらつまらないだろうが...。これに耐えられる年齢まで...この記憶は奪っておくか。代わりに適当な記憶をぶち込んどくか。じゃあね薫ちゃん。成熟した君を壊す日を楽しみにしとくわ。」
回想は終わり
思い出した。あの夢の内容を...。いや...こいつに記憶を戻された。そして、こいつの正体...たまに帰ってくるお母さんから聞かされてた名前。信頼していた仲間の名前。私達兄弟と同じくらい大事にわが子のように育てた仲間...。
「薫?」
「くっっっっっっ...!!! ラファス!!!」
「んふふふふふ...。いいねえ!! その表情!! 壊し甲斐がある表情...増幅した憎しみが相手に対する恐怖で埋め尽くされて、現実を目の当たりにし、絶望し壊れる様...俺が一番大好物な表情だ!!」
怒りと憎しみでいっぱいの私の状態に男は心の底から楽しそうに笑う。
「薫!?」
「光琳...陽葉山さんとお婆さんを連れてここから離れて!!」
「離れてって...。」
「こいつは...こいつだけは...私が殺す!!!」
私は光琳にそう言って、バタフライナイフを強く握って、ラファスに特攻する。
「薫!!」
「薫さん!!」
「お止め嬢ちゃん!」
「うああああああ!!!」
光琳、陽葉山さん、お婆さんの制止を無視して切りかかる。
「...!!」
「どうしたぁ? まだ一回しかナイフを振り下ろしてないぞ? 殺すんだったら首とか狙った方がいいんじゃねえの?」
「ふあ!! はっ!! へあっ!! でやああ!! クソォ!!!」
全部指先で受け止められて、体勢を崩された瞬間にお腹にめり込むほどの蹴りを入れられる。
「うぐあっ!!!」
「ごめん陽葉山さん! お婆さんを。」
「はい!」
そのまま飛ばされた私を光琳が受け止めてくれる。
「大丈夫、薫? 私も手伝うよ。」
「駄目だよ...。私の復讐に...光琳を...巻き込めないよ。」
私は吐血しながら光琳の手を退けて立ち上がる。
「...陽葉山さん...ごめんだけど、ここから先はお婆さんを連れて行って。」
「光琳さん...。」
「あの子を助けるのかい?」
「今の薫を1人にはできない。ごめんなさい。それに、いつ助けが来るかもわからない。」
お婆さんが頷いて陽葉山さんを説得する声が聞こえる。
「わかったよ。ごめんね花奈。もうあたしは大丈夫だよ。一緒にここを離れよう。」
「薫。巻き込めないって言ったけど。私が勝手に巻き込まれるから何も言わないでね。」
「光琳...ありがとう...。」
光琳の気遣いに私は少し落ち着きを取り戻して礼を言う。
「お綺麗な友情だな。壊し甲斐がある。」
「くっ...ラファス...!!」
「薫、落ち着いて。冷静じゃないと、いざって時に体が正常に動かない。」
「...。スゥゥゥゥゥ...ハァァァァァ...。」
光琳の言葉に私は深呼吸をして落ち着きをある程度取り戻す。
「いくよ薫。」
「うん、光琳!」
私と光琳は走ってラファスに向かっていく。
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突如として車内から消えた薫と光琳について、俺達は恐らくシルヴァマジアに移動させられたと考えて走らせている。清雅が移動していないというところである一定以上の危険性を秘めている者は強制的に移動させられないと判断した。
「今回の出来事になぜそのラファス・ドゥイレルが関わっていると思ったんだ?」
「昔、1000ある計画書の内の1つに今と似たような状況があった。」
「どんな計画です?」
俺達との会話に清雅が前のめりになりながら訊いてきた。
「俺が昔、あいつに依頼されて暗殺者とは程遠い用心棒のような役目をしていた時、あいつの計画書の中の1つを盗み見た時。邪魔になったシャインティアウーブとシルヴァマジアを植民地化するというものだ。その方法として、それぞれのトップに近い権力や地位を持った人間を騙し、戦争開始を誘発させ国が混乱状態に陥ったところを強制的に別々の場所のテレポートさせて、安全な場所が1つもない状態にして、逃げ場もなくそこにいる戦力が分散して相手を優位に立たせないように時間を稼ぎながらトップを殺し、国の機能を停止させて...」
「植民地とする...か。」
「似たような別人の計画ってわけじゃないですよね。」
清雅が深刻な顔をして顎をさする。
「だが、相手はあのラファス。これだけで終わるはずがない。多分トップを殺した後は、子供か親を見せしめにして恐怖で従わせて擦り切れるまで使った後、ボロ雑巾のように捨てるか。物理的に道具に作り替えるかするだろう。それに...」
「それに?」
「いかにルーク・ギルデアやジーク・ヴィネアが強く厄介だろうと、仕掛けがわからなければあいつには勝てない。」
「俺でもか?」
「ああ万全のお前でも、青葉でも仕掛けを解かない限りあいつには勝てない。」
「そんなに...強いんですか?」
「ああ。強くて、狡猾で、何よりプライドがない。」
「それって...。」
「状況を最悪にされた挙句、負けに傾いたらあっさり逃走する。酷い置き土産をしてな。」
昔、あいつに手を貸していた時に見ていたあいつの言動や考え、昔の俺は何とも思わなかったが、今はあいつを見るだけで不快な気分になる。
「お前は勝てるのか?」
「いや、五分五分だな。勝つ可能性はある。俺はあいつが持つ能力を全部知ってるからな。だが、負ける可能性も十分にある。だから、負けた場合としてカメラをセットして戦う。お前にはその映像を見てあいつの戦い方を見極めてから戦ってほしい。初見であいつに勝てる奴など...俺は知らない。」
「初見では戦いにならないということか?」
「戦いにはなる。ただジリ貧になって負けるという線が高い。いきなりお前をぶつけるにはリスキーすぎるんだ。」
「...あとどれくらいでつきますか?」
「最短で2時間だな。」
「遠い。」
「だから間に合うかは、賭けだ。」
俺はそう言って、車の速度を更に上げる。
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