神様を育てることになりました

菻莅❝りんり❞

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8 トラブル=厄介事

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ビルナを後にした俺達は今ピンチに陥っている。

先を急ぐ形でビルナを出たけれど、この世界の地理は全くなので、ゆっくりのんびり歩いて次の街に向かっていた。

神からの貰った能力で、この世界は大きな縦長の一つの大陸であること、まだ神が存在していた時は20数ヵ国あったけど、神がいなくなった後、戦争に次ぐ戦争で4つの大国になったこと、その4ヵ国は奇しくも禁入エリアと言われる、神聖獣の住みかの入り口を守る樹林を有する国であること。

と基本的な知識はある。ちなみに俺の落とされた場所は南の最南端の街だ。
神聖獣の住みかの樹林は、東西南北の最端ある。

とまあ、知識はあっても実際の場所を俺は知らない。転移で移動できるにしても、知らない場所にいきなり転移しても、ビルナの二の舞だ。

なので、逸る気持ちを押さえてのんびりとテクテク歩いている。
辻合馬車?なにそれおいしいの?・・あんなにすし詰め状態の馬車には乗りたくない!

そんなことを思いだして、げんなりしつつ歩いていると、前方に車輪が破損して立ち往生している幌つきの辻馬車を発見した。
そのまま無視して行くのもどうかと思い、何が出来るか分からないけど近寄って馭者の人に話しかけた。

「大丈夫そうですか」

と、お節介を出したのが運のつきだった。辻馬車からワラワラと人相の悪い、そして身汚い装いの男達が俺を囲んだのだ。

「兄ちゃん、荷物を全部置いていきな!そうすれば命までは取らない」

「一人でこの人数を相手に出来ないだろ。ひょろっこいしな」

まぁ、俺の見た目はどこにでもいる普通の人だからな。強そうには見えないよな、軽装だからパッと見、冒険者にも見えないだろうしね。

『ヨミ、馬車の中にまだ人がいる。多分こいつらに捕まった人たちだと思う』

ラグがそう念話で話しかけてきた。

『見張りは居そうか?』

『うーん、良く分かんない。怯えている声がいっぱい聞こえるだけだから』

もしまだこいつらの仲間が中にいるとなると厄介だな。
俺がどうするかと考えていると

『ヨミ、僕の魔法を使ってみて。人間が扱える魔法じゃなくて、神が使う魔法なら悪いやつだけを攻撃出来るよ。眷属共有で使えるようにしたよ』

なんかスゴいことを言い出した。神が使う魔法?そんなのが使えるのか?

頭の中がまだ混乱しているけど、現状は待ってはくれない。しびれを切らしたごろつき達が俺に襲いかかってきた。

「あーもー、やけくそだ!蔦よ」

俺の周りに居た者はもちろん、やはり馬車の中にも仲間が居たようで、蔦に縛られた状態で外に引きずり出されて、ごろつき達は全員一纏めにされた。

「何人居るんだよ。良くこの人数があの馬車に入ってたな」

俺はひとまずごろつき達をそのままにして、馬車の中を確認するために移動した。

幌つきの辻馬車の中を見てみると、若い女の人と、幼い子供が十数人居た。皆端の方に固まって、怯えたようにこちらを見ていた。

まずは恐怖を取るために俺は胸ポケットからラグを取り出し、馬車の中に置いた。

俺が動く度にビクビクと震えていたけど、ラグを見たとたん、子供達が興味を示した。でも、大人の女の人達に抱えられているため、近寄ることは出来ないようだった。

「俺は怪しい者ではありません。こう見えてもAランクの冒険者でヨミと言います。そして相棒のラグレット。訳あってここの土地勘がないので、貴方達を保護する変わりに、道を教えてもらえないだろうが」

我ながら情けない事を言っている自覚はある。だからそんな目で見るな、ラグ。

女の人達は一瞬ポカンとして、次には笑いだした。

「ハハハ、なんとも情けない人に助けてもらったものだ。いいよ、道案内をしよう。と言っても、ほぼ一本道だから迷うことはないよ。しかし、小さい子供もいるし、私達は戦う術を持ってはいない。歩いていくとなるとかなり危険だよ」

一応、俺を信じてもらえたのか子供達はラグと遊びだし、俺と話している女の人以外は子供達を見守っている。

「いいえ。車輪を直すのでこの馬車で行きます。そして、あれも衛兵につき出さないとですしね」

といって、ごろつき達を風魔法で引き寄せた。

「この蔦はちょっとやそっとじゃ切れないので安心して下さい。こいつらはこの端に縛り付けときますので、子供達が近づかないようにしてくださいね」

そう言って、また風魔法でごろつき達を浮かせ、馬車の中に入れ、逃げ出さないように固定した。

そして壊れた車輪を蔦で補強し、馬に水を与えた。俺は優しく馬を撫で、声をかけた。

「ちょっと負担をかけるかもしれないが、頑張ってくれよ」

「「ヒヒン」」

まるで俺の言葉が分かったかのように二頭の馬は返事をした。俺はよろしくの意味を込めてポンポンと二頭の叩いた。

俺はまた後ろに行きラグを回収した。子供達には泣かれたが、ラグからのSOSがあったので可哀想だがラグは俺の胸ポケットにおさまった。

俺は馭者席に座ると馬達に

「馭者は初めだから暴走だけはやめてくれよ」

「「ヒン」」

馬の言葉は分からないが、なぜか呆れられたような気がした。

俺は軽く手綱をしならせた。馬達はそれだけで分かってくれて、ゆっくりと走り出した。馬って賢いんだなとありがたく思った。

しばらく走らせていると、馭者席の後ろの小窓からさっきの女性が顔を出し、

「そろそろ休憩所がある。今日はそこで一晩を過ごそう。そこを左に寄りな」

俺が操作するまでもなく、馬達は女性の言葉通りに左に寄った。

すると先客がいた。

「あの、先客がいるみたいですけど、ここでいいの?」

女性は呆れた顔をして

「あんた、Aランクの冒険者なのにそんなことも知らないのかい?今までどうやってきたんだい」

「ハハ、諸事情で新人なのにAに一気にランクアップしたので、旅は今回が初めてなんです。はい」

「はぁ、私達は運が良かったのか悪かったのか。先客がいても収容範囲内だった停められるんだよ。ほら、そこが空いてるだろう。ちゃんと間隔を開けて停められるようになってるだよ」

良く見ると、確かに白線が等間隔で引いてあった。そして、空いている場所に馬を停めた。

馬を停め、ごろつき以外の人達を降ろしていると、

「リア!!」

先客の男性の一人が叫んだ。火を囲んでこちらを警戒していた男達も全員立ち上がった。

リアと呼ばれ、振り返ったのは案内役の女性だった。そして、その腕に抱かれて今まさに馬車から降ろそうとしていた女の子が

「おとうさま!おかあさま、おとうさまよ、おとうさま~」

といってかけていった。

「お父様って、貴女達は貴族なんですか?」

俺がリアさんに問うと

「ええ、まぁ。こちらも訳アリね」

そう言って、親子の再開を見守っていた。その他にも、何人かそれぞれで再開を果たしていた。

「行かれないのですか。戸惑っているみたいですけど」

俺は、リアさんの旦那さんがこちらに来ようかどうか迷っているのを見て、リアさんに言った。

「訳アリって言ったでしょ?」

リアさんは行きたいけど、行けないって感じで困ったように言った。

俺はどうしたもんかと、二人を交互に見た。

「おかあさま。ほらおとうさま、おかあさまのところへいこう?」

幼い娘に背中を押されて、旦那さんはこちらへ歩いてくる。俺は邪魔にならないように、その場を移動した。

チラッとリアさん達を見ると娘さんを挟むように抱き合って泣いていた。娘さんはそんな母親の頭を撫でていた。

それぞれで再開をしている人達以外の男の人達の所へ俺は足を向けた。向こうも気づいてこちらへ向かってきた。
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