神様を育てることになりました

菻莅❝りんり❞

文字の大きさ
55 / 55

50 神の選定

しおりを挟む
東の国プロヴィゾーリシュに入国し、廃教会の改築と、既に教会が無い所や元々無かった所に小さな礼拝堂を作りながら、一夏で一国を回り、秋には西の国イムシに行き、同じように秋の間にイムシを渡り歩いた。

そして冬。1年ぶりにアケルに戻ってきた。

一度、イムシ国からテンティヴ国の国境に入ってから、アケルに転移した。でなければまた不法入国になってしまい、セドリックさんに迷惑をかけてしまうからだ。

「ただいま戻りました。セドリックさん」

アケルの門で手続きをしている間に誰かがセドリックさんに知らせに走ったのだろう。
セドリックさん邸の門の前に勢揃いでお出迎えをしてくれていた。

「おかえり、ヨミ。また連れが増えたんだな。紹介してくれるか?」

「あなた、それは部屋でゆっくりでいいでしょう?ヨミ、おかえりなさい。さぁ、入って入って」

「「ヨミ、おかえりなさい」」

「「「「おかえりなさいませ」」」」

アルフレッド君とアリアちゃんに手を引かれながら俺は邸宅に入っていった。俺は呆気に取られているアスランに慌てて声をかけた。

「アスラン!ついてきて!」

ラグ達は動物の姿で、バッグの中に仲良く入っていて、ドゥーマはアスランが抱っこしてる。

小さくてもドラゴンのドゥーマに、使用人の人達は少し腰が引けていた。

アルフレッド君達に連れられて、いつものサロンに入ると、俺とアスランが横並びで座り、俺達の前にセドリックさん、右にリアさんで左側にアルフレッド君とアリアちゃんが座った。

メイドがお茶の準備をした後、早速アルフレッド君とアリアちゃんから催促されてアスランとドゥーマの紹介とこの1年の話をした。

そして、テンティヴ国も回り、廃教会の改築や礼拝堂の設置をしていこうと思っていることを伝えた。

「また行っちゃうの?やっと帰ってきたと思ったのに」

俺の話を聞いたアリアちゃんが、悲しいそうにそう言った。今にも泣きそうなアリアちゃんに慌てた俺は、アリアちゃんの側に行き

「泣かないで、アリアちゃん。冬の間はここ、アケルにいるよ。春になったらテンティヴ国を旅するけどそれが終われば、、、そうだな。アリアちゃんが結婚するまで、アケルを拠点に冒険者として活動しようかな?」

(そのくらいの時間があれば、俺もラグ達も1人前になれるだろう)

セドリックさん達大人は、俺の言葉を正しく理解したみたいな顔をしていた。

暫くはゆっくりと体を休めて、人化したラグ達とアスランやドラゴン姿のドゥーマも一緒に、アルフレッド君とアリアちゃん、たまに孤児院の子供達と遊んだ。

だけど、遊んでばかりだけじゃない。
セドリックさんにお願いされ、アケルに新しく教会を建てるので、上下水の設置をお願い出来ないかと言われた。その際、礼拝堂の内部は自分達にさせてほしいと、ラグ達が言ったので、セドリックさんは快く快諾した。

ついでにセドリックさんの許可の元、アケルの街全体に上下水を張り巡らせ、一冬の間にセドリックさん邸を始め、アケルの街の家やお店を上下水仕様に作り替えた。

そして、春。

ドゥーマも人化を習得し、ラグ達も人化して全員、人としてテンティヴを回ることにした。
しかしなぜか、ラグ達は10歳、ドゥーマは5歳位の子供の姿で

「なぁ見た目変えられるなら、せめて15歳の成人の姿になってくれないか?」

アスランも俺の意見に頷いた。しかし

「僕達はこれでいいの」

というラグの言葉に、レティ達全員が頷いた。
俺とアスランは顔を見合わせ、一つため息を吐いた。







テンティヴ国も全て回り、夏になる少し前にアケルに戻った。その後は宣言通り、アケルを拠点に活動をした。

そして、数十年後。

すっかり美人な大人になったアリアちゃんの結婚式の日。

「結婚おめでとう、アリアちゃん。あんなに小さくても、泣き虫だったアリアちゃんが大きくなったね」

俺はアリアちゃんに祝福の言葉を言うと、しみじみと過去を振り返った。

「もう、ヨミおじさんみたい。ヨミ達は全然変わらないね」

おじさん、、、うん。聞かなかったことにしよう!

アルフレッド君も数年前に結婚して、奥さんは今妊娠中。だから、結婚式はアケルの教会で行っている。

因みにアリアちゃん(18)の相手は、コリーナ辺境伯の息子さんのグルーシスさん(20)。
結婚式の後、2日程セドリックさん邸でゆっくりしてからビルナに移動するらしい。

新しく作った教会の礼拝堂でアリアちゃんとグルーシスさんが誓いの言葉を紡いだけど、礼拝堂にあるべきモノ、神像は無かった。

いや、神像はあるにはある。ラグ達が造った神像が。でも、正式にはまだこの世界に神は居ない。だからこの世界の人達には神像が見えないのだ。
セドリックさん達、主催者側にはその事を伝えている。だから神像が無くても気にせずに進行しているのだ。

結婚式も無事終わり2日後、アリアちゃんがビルナに向けて旅立つ時が来た。

「お父様、お母様。今まで育ててくれてありがとうございました。お兄様、お義姉様。元気な赤ちゃんが産まれる事をお祈りしてます。そして、使用人の皆さん。これからもお父様とお母様、お兄様にお義姉様を宜しくお願いね」

アリアちゃんは涙を流しながらも、それでも貴族令嬢としての矜持でしゃんと背筋を伸ばし

「長い間、お世話になりました。行ってきます」

「義父上、義母上、義兄上。皆様の大切なアリアを私の全身全霊をかけて守り、慈しみます」

アリアちゃんの背中を支えながら、グルーシスさんはそう言って一礼して、アリアちゃんを馬車までエスコートした。

アリアちゃんを見送り、俺は別れを惜しんでいるセドリックさん達に向き直った。

「こんな時にあれですが、俺もそろそろ行こうと思います。セドリックさん、そして皆さん。今までお世話になりました。皆さんの優しさは忘れません。今までありがとうございました」

俺を始め、アスランやラグ達も深々とお辞儀した。そして、セドリックさんが何かを言おうとした時、あの鐘がなった。

ゴーン ゴーン

鐘の後、色とりどりの花畑が広がった。

「ヨミよ、大義であった。これをもって育成を完了とする。立派に神を育てたな」

神様は俺にそう言うと、アスランに目線を移した。

「バカ息子よ。これからはヨミの元、しっかりと務めよ」

「はい。父上、申し訳ありませんでした。そして、こんな私を待っていてくれてありがとうございました。これからはヨミの部下として、しっかり務めていきます」

神様は一つ頷くと、また俺に目線を戻して

「実はこの世界、大陸はあの一つだけなのじゃ。星はかなり大きいのにな。最初の一つでしくじってしまったのじゃ。さぁ、ヨミよ。誰がこの世界の主神になるのじゃ?」

俺はラグ達を見た。ラグ達が造った神像は俺達全員がモデルだった。

俺の視線を受けたラグは、一歩前に出て

「僕達で話し合った結果、なんだかんだで皆、ヨミの事が好きなんです。離れたくないのです。だから、この世界を平等に八等分して、それぞれの世界を創ろうと思っています。だけど、足りない部分を補う為にそれぞれの世界だけど、教会に立てる神像は僕達全員が立ちます。いいでしょうか」

ラグはそう聞いているけど、既に神像は立てている。俺はとっくに神様の了承を得ているものだと思っていたので、ビックリしてラグを見た。当の神様は

「ハハハハ、これはまた面白い事を思いついたものだな!一人の神で治めるのではなく、全員でか!アハハハ、これは面白い!ラグよ、そして皆よ。お前達の思うようにしてみよ!この世界はお前達もものじゃて」

神様はひと笑いした後、

「はぁ、こんなに笑ったのは何千年ぶりかのう。では、わしはもう自分の世界に戻る。後は良きようにせよ。、、、、達者でな」

そう言って神様は居なくなった。でも今までのように現世には戻らず、俺達は花畑に居たままだった。

「さぁ、ヨミ。行こう!」

そう言って、ラグは歩き出し、その後にレティ達も続いた。アスランに背中を押され、俺も歩き出した。

「まずは現存する世界の主神を誰にして、どう世界を等分するかだね」

「あら、今の世界の主神はドゥーマとアスランでしょう?ワタシはヴァイオレットに幸せにする為の世界を創るって約束したもの」

「ボクもアルフに約束したから、新しい世界がいいな」

「レティに賛成なの。私達より前にこの世界の神候補だったなの」

「俺も異議なし」

「まぁ、妥当な所でしょう」

ラグ達の決めつけのような会話に、ドゥーマはよくわかってないような顔をしていて、アスランは口元を引きつらせていた。

「ヨミって選択肢はないんですか?あの世界の人達と一番親しかったのはヨミなのですから」

アスランの言葉に

「いやいやいや、多数決でドゥーマとアスランに決定ー!」

元々俺は神候補じゃ無くて、その育成者だし。って俺は関係無いって思っていたけど、ふと、ラグの言葉を思い出した。

❝世界を平等に八等分❞

八等分?ラグと、レティと、ジェム。ルルと、ネオと、ベティ。ドゥーマ&アスランで七。
あと一つは、、、、もしかして俺?

そういえば、神像にも俺、入ってたね。しかも真ん中に、、、

「ヨミー、大陸は全部僕達で埋まっちゃったから、空と海底にヨミの世界を創ってね」

「は?はあー?ちょっと待て!何で勝手に話進めてんだよ!何処が平等だよ!」

「ヨミがボケッとしてる方が悪いよ。ちゃんと声かけたもんね。ねぇ?」

「ええ、ワタシ達が声をかけても返事をしなかったヨミが悪いのよ」

こうして、わちゃわちゃとしながら、あーでもない、こーでもないと話し合いながらもそれぞれの世界を創っていった。

同じ星の中にありながら、海を隔てただけで異世界に行ける。そんな不思議な世界が出来上がった。

八つの異世界の主神達は、なんだかんだと全員でそれぞれの世界を見守っている。空にある世界の主神の元に集まって







          完
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

処理中です...