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隻眼のヒーロー
しおりを挟む僕の名前はカルロ。カルロ・オディルア・ヴェストラットと言います。サウザント国王であり僕の父であるディアの息子、第一王子です。年はまだ六歳で毎日勉強をしています。けれどもそんな勉強より気になるものがあるんです。
それは一週間ほど前のことでした。水の月水の日であるその日、父上は本来なら修行の旅の振り返りとして旅の途中のはずでした。けれども突然、父は城に魔法で帰ってきたのです。直接見たわけではないのですが、一人の怪我した子を連れていたと言います。その子は魔法科学研究所で治療を受けたそうです。病院ではなく魔法科学研究所なのは、どうもその子は手足を失っていた、と後で父上から聞きました。なんとか一命は取り留め、その子は少しの間車椅子で生活していたそうです。数日で一人でも動けるようになったと聞き、僕はその子に会うことにしました。その子の名前はグレイと言うそうです。名前を覚えていなかったらしく、父上が名前を付けたと言っていました。グレイ、一体どんな子なんだろう。僕は気になってその子の部屋に勇気を振り絞って行きましたが誰も居ませんでした。こうして城の中を歩き回っていると、裏庭の建物の影に見慣れない金髪の子が居たのです。その子は左目を怪我しているようで、血はもう出ていませんが傷口で目が塞がっているようでした。壁にもたれて静かに目を閉じ座ってるその子の近くに恐る恐る近づいてみました。なるべく驚かさないようにそーっとそーっと近づきました。そしてもう少しでその子のそばというところで目を開けてこちらを見たんです。その子の目はとても綺麗な青でした。まるで澄んだ水や海の中のような透き通る青に僕は一瞬心を奪われたのです。でも、次の瞬間その子は僕を警戒して立ち上がろうとしました。けれどもまだ義足に慣れていないのか、うまく立ち上がれないようで僕は慌てて脅かすつもりじゃなかったと言おうとしました。するとその子は僕の後ろに視線を向け、じっと見つめていました。振り返ると父上がこちらに向かって歩いて来たのです。父上は僕の隣に立つと、そっと僕の頭を撫でながらこう言ったのです。
「彼はまだ他人に慣れていない。でも大丈夫だ」
そう優しく僕に言った後、その子の方を向き
「グレイ、この子はカルロ。私の息子だ。君がいずれ働けるようになったら、私だけではなくこの子の助けにもなって欲しい」
と言いました。その子は父上の顔をしばらく見つめて、こくりと一度だけうなずきました。これが僕と彼との初めての出会いでした。
僕は決まった時間に彼がいることが分かってから、彼の元に向かいました。彼は一切言葉を言いません。
「えっと……。僕の名前はカルロってそれは父上が教えてくれたから覚えてるよね?」
彼は何も言わずじっと目を閉じて日陰で座っています。
「その、迷惑じゃなかったら、これからも君のところに来てもいいかな?」
彼は否定も肯定もしませんでした。でも拒絶の意思はないように見えました。
「あのっ、僕の話聞いてくれるかな。返事をしなくてもいいから。僕は城の外に出たことがなくて、同じ年くらいの子と話したことがないんだ。妹と弟はいるけど、妹とは話すこともあまりないし。弟はまだ小さいから。僕、君とお話がしたいんだ」
しばらく沈黙が続きましたが、彼はうっすら目を開けるとほんの少しだけうなずきました。その瞬間、僕の世界が広がったのです。籠の中の鳥だった僕に初めて年が近いお友達が出来たのです。それから毎日、僕は彼の元に向かいほぼ一方的だけど、いろんな話をしました。たまにうなずいたりしてくれますが、基本はだんまり聞いてるだけが多いです。それでも僕は嬉しかったんです。僕の話を聞いてくれる相手が出来たことが何よりも嬉しかったんです。そんなある日、ちょっとしたいえ僕にとってはとっても大きな事件が起きたんです。いつものように彼の前で話していた時、彼は小さなくしゃみをしました。その瞬間、彼の体がまるで二重になるようにぶれたんです。何が起こったかその時の僕は分かりませんでした。そして彼からもう一人の彼と同じ姿の人が現れたんです。でもその子の顔は女の子の顔でした。普段一言も発しなかった彼が
「おい、勝手に出てくるな」
と一言言ったんです。すると彼から出てきた女の子は
「ご、ごめんなさい……。弾みで貴方の体から出てしまいました」
と言いました。僕が目を丸くしていると、女の子は僕の方に向き
「カルロ王子、驚かせてしまって申し訳ありません。私はグレイの分身、ずっと彼の中に居たもう一人の存在です」
と挨拶をしてくれました。僕は慌てて
「え、えっと。僕はそのっ。お兄ちゃんから急に人が出てきてびっくりしちゃって、あ……」
とっさに僕が内心彼のことをお兄ちゃんと呼んでいたことを言ってしまい、僕は口を押さえて顔を真っ赤にしてしまいました。すると女の子は優しく
「大丈夫ですよ。グレイは十歳ですからカルロ王子から見れば年上です。そう呼ばれても文句はないでしょう。ね、グレイ」
と僕を見た後、彼を見てそう言います。それを聞いた彼は
「俺の呼び方は何でも良い。好きに呼べ」
とちょっと愛想ない感じで言いましたが、僕が彼のことをお兄ちゃんと呼ぶことを許可してくれたのです。思わず
「じゃあ、もう一人の君はお姉ちゃんだね!」
と言いました。女の子は
「はい。カルロ王子がそれで良いなら、私は名前がないのでお好きに呼んでいただければと思います」
そう答えてくれたのです。こうして二人、時々三人で話すようになりました。まだ彼とは会話らしい会話が出来てませんが、そばに居られるだけでも本当に幸せでした。
あれから数年後、彼は十五歳になり僕は十歳になりました。彼の誕生日は不明なため、父上に助けられた日を誕生日として数えています。彼は父上の直属傭兵として働くための訓練を始めました。僕もまた五年後に来る修行について考えるようになりました。前のように訓練が終わったらいつもの場所にいるので色々話します。ある日、彼が訓練を終えていつもの場所にいたとき、僕は気付いてしまったんです。彼が左腕から血を流しているのに。僕は慌ててハンカチを取り出し、彼のそばに駆け寄り袖をまくり上げました。
「なっ、王子! 何をするっ!」
慌てた彼でしたが、僕はとっさに
「兄さん! 怪我してる! ちょっとじっとしてて、今傷口を押さえるから!」
とハンカチを結び止血しました。幸い少しの切り傷だったようですぐに血は止まりました。僕はまだ精霊契約をしていないので回復魔法などは使えません。だから、せめて傷口を護ろうとハンカチを使ったのです。彼はしばらくして礼こそ言いませんでしたが
「気を遣わせてしまったな。高級なハンカチも俺の汚い血で汚してしまった」
と言いました。この言葉で僕は僕が目指すものを見つけたのです。
「護られる側ではなく護る側になる。強く、誰をも護れる力が欲しい」
そう僕の中で目指す意思を持ったのです。それからは体を鍛えることを決めました。こうして僕は十五の修業先を無人島「ナトルイア島」で過ごす事に決めました。最初だけは父上の親衛隊数人が着いてきてくれましたが、ある程度安定して過ごせる様になってからは一人での無人島暮らしを続けます。
俺はカルロ・オディルア・ヴェストラット。サウザント王国の第一王子。兄貴と出会ってから俺は世界が変わった。兄貴に護られる人間にはなりたくない、お荷物にはなりたくない。そう意思を持つことで修行を続けてきた。そして俺は運命が変わる旅に巻き込まれることになった。そう全てが覆されるあの世界を救う旅に……。
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