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みちのく・王子綺譚③ 一弾の夢
プロローグ
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官庁などが御用納めとなり、新型インフルエンザが猛威を振るう年末の早朝だ
った。
暴れん坊将軍で名をはせた徳川吉宗により、桜の名所として江戸庶民のために
開かれたという都内城北地区に位置する飛鳥山公園を、白いマスク姿の近隣住民
が、犬を連れて日課の散歩をしていた。
広場内において、ゆったりとした動作で太極拳をいつものようにやっている同
じくマスク着用の中高年集団の横を通り過ぎた。
樹木に四方を覆われた園内にある瀟洒な建物に近付くと、犬が急に激しく吠え
出した。
普段は閉じられているはずの外門を抜けて駆け出す犬に引っ張られるように、
飼い主が建物に近付いて行った。
【晩香廬(ばんこうろ)】
国の指定重要文化財で、日本における資本主義の礎を築いたと謳われる渋沢栄
一が晩年使用した洋風茶室と、建物の前の説明板に書かれている。
観覧時間以外は開放される事はなく、無人の時は警備会社によって遠隔監視の
セキュリティ・システムが作動していた。
誰も居るはずの無い茶室の窓越しから、人がうつ伏せで倒れているのが見えた。
心配した飼い主は、室内に入ろうとしたが電子ロックがされていたので、やむ
なく携帯電話で救急車を呼んだ。
飛鳥山を回り込んだ車道を、都電荒川線がゆっくりと登坂してきた。
サイレンを鳴らしながら救急車が路面電車を追い抜いていく。
晩香廬に到着した救急隊員は、ロックのかかった建物の構造から警察に連絡し、
警察は警備会社を通じて、ようやく解錠した。
赤色灯が晩香廬の窓ガラスに乱反射する頃には、騒動を聞き付けた野次馬で現
場は溢れていた。
本郷通りに停められたパトカーの前で、目元から下部分をマスクで覆った体育
会系のガッシリとした体躯の制服警官が、見物渋滞をさばくための交通誘導をし
ている。
警視庁仕様の立入禁止の黄色いテープが建物周辺に張られ、物々しい雰囲気と
なっていた。
検死官が男の死体の様子をうかがっている側には、マスクが落ちていた。
鑑識課員が室内外に残された痕跡を調べていた。
「死因は?」
持ち回りの夜勤明けだった滝野川警察署の刑事が、検死官に聞いた。
現場にいる署員全員が、インフルエンザ対策の支給品マスクを着用していた。
「解剖しなくちゃ詳しくは分からんが、頸髄離断によるもんだろうな。この机の
端の形と、ホトケさんの首にあるアザが一致する。死後硬直が始まってないから、
死んでからまだ半日以内だろう」
検死官は、部屋の中央に置かれた年代物の大きなテーブルの角と死体の首筋を
指差しながら説明した。
「殺った奴もインフルエンザには注意してたか」
刑事は、物証として透明なビニール袋に詰めたマスクを見ながら皮肉交じりに
呟いた。
迅速な初動捜査の結果、変死者は広域指定暴力団傘下の組の構成員と判明した。
たまたまの夜勤当番で召集されたが、その刑事の所属は組織暴力対策課だった
ので、相手がヤクザという事情からこの事件を担当する事になった。
った。
暴れん坊将軍で名をはせた徳川吉宗により、桜の名所として江戸庶民のために
開かれたという都内城北地区に位置する飛鳥山公園を、白いマスク姿の近隣住民
が、犬を連れて日課の散歩をしていた。
広場内において、ゆったりとした動作で太極拳をいつものようにやっている同
じくマスク着用の中高年集団の横を通り過ぎた。
樹木に四方を覆われた園内にある瀟洒な建物に近付くと、犬が急に激しく吠え
出した。
普段は閉じられているはずの外門を抜けて駆け出す犬に引っ張られるように、
飼い主が建物に近付いて行った。
【晩香廬(ばんこうろ)】
国の指定重要文化財で、日本における資本主義の礎を築いたと謳われる渋沢栄
一が晩年使用した洋風茶室と、建物の前の説明板に書かれている。
観覧時間以外は開放される事はなく、無人の時は警備会社によって遠隔監視の
セキュリティ・システムが作動していた。
誰も居るはずの無い茶室の窓越しから、人がうつ伏せで倒れているのが見えた。
心配した飼い主は、室内に入ろうとしたが電子ロックがされていたので、やむ
なく携帯電話で救急車を呼んだ。
飛鳥山を回り込んだ車道を、都電荒川線がゆっくりと登坂してきた。
サイレンを鳴らしながら救急車が路面電車を追い抜いていく。
晩香廬に到着した救急隊員は、ロックのかかった建物の構造から警察に連絡し、
警察は警備会社を通じて、ようやく解錠した。
赤色灯が晩香廬の窓ガラスに乱反射する頃には、騒動を聞き付けた野次馬で現
場は溢れていた。
本郷通りに停められたパトカーの前で、目元から下部分をマスクで覆った体育
会系のガッシリとした体躯の制服警官が、見物渋滞をさばくための交通誘導をし
ている。
警視庁仕様の立入禁止の黄色いテープが建物周辺に張られ、物々しい雰囲気と
なっていた。
検死官が男の死体の様子をうかがっている側には、マスクが落ちていた。
鑑識課員が室内外に残された痕跡を調べていた。
「死因は?」
持ち回りの夜勤明けだった滝野川警察署の刑事が、検死官に聞いた。
現場にいる署員全員が、インフルエンザ対策の支給品マスクを着用していた。
「解剖しなくちゃ詳しくは分からんが、頸髄離断によるもんだろうな。この机の
端の形と、ホトケさんの首にあるアザが一致する。死後硬直が始まってないから、
死んでからまだ半日以内だろう」
検死官は、部屋の中央に置かれた年代物の大きなテーブルの角と死体の首筋を
指差しながら説明した。
「殺った奴もインフルエンザには注意してたか」
刑事は、物証として透明なビニール袋に詰めたマスクを見ながら皮肉交じりに
呟いた。
迅速な初動捜査の結果、変死者は広域指定暴力団傘下の組の構成員と判明した。
たまたまの夜勤当番で召集されたが、その刑事の所属は組織暴力対策課だった
ので、相手がヤクザという事情からこの事件を担当する事になった。
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