クズとカス

不来方久遠

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sectⅣ タタキ

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 公園のベンチ周辺に、食い散らかした弁当や缶ジュース類の詰め込まれたコンビニ
袋が散乱している。

 袋の一つには、サングラス・マスク・果物ナイフ・軍手等が入れてあった。
 残金の全てをコンビニで使い、その日の空腹を満たしたコージとメグミだった。

「くそォ。電話の回線、止めやがッたな」
 コージは、携帯電話のボタンを乱暴に押しまくった。

「家賃の次は、電話料金の滞納…サイテー」
 メグミが、UFOキャッチャーでゲットした、ミッフィーのぬいぐるみをいじりな
がら言った。

「るせ。どーせ、サラ金で飛んだ破産者名義の1ヶ月限定、トバシの使い捨て電話だ。
今度はメグミの分も買ッてやるよ」

 そう言って、コージは電話機をブン投げた。

 使い捨て電話とは闇のブローカーが破産者の名義を悪用して、架空の回線契約を結
んだものである。

 偽の契約である以上、電話料金の回収はできないので電話会社は回線を止めてしま
う。

 それまでは世界中に24時間かけまくっても、一銭もかからないのだ。

 ブローカーは、一件の契約に付き2万円の手数料を電話会社からもらうので、10
0件だと200万円の荒稼ぎになる。

 街の家電屋が1円で携帯電話を売っても、儲かるカラクリがこれである。

 例えタダであげても回線契約が成立すると、電話会社から報奨金として2万円がバ
ックマージンされるのだ。

 規制緩和により電話会社が乱立する現在、限られたパイをどれだけ早く多く獲るか
で将来が決まるので、採算無視の安値合戦が激化するのだ。

 電話回線は水道の蛇口に例えられる。
 いくらダムを作っても、各家庭に蛇口がないのでは料金の徴収が出来ない。

 携帯電話はまさにその蛇口なのだ。蛇口を多く獲得した会社が生き残るのである。

 ここにつけ込んだのが闇のブローカー達だ。

「ラッキー。ピッチでいーから、欲しかッたンだ」
 メグミの言う“ピッチ”とは、コギャル用語で“PHS”の事である。

「さて、稼ぎにいくか」
 コージは、立ち上がって言った。

「次は、何すンの?  コージ。もー、ツツモタセはヤだよ」
 さも嫌そうな顔をして、メグミが言った。

「ああ」
 コージが、サングラスや果物ナイフの入ったコンビニ袋を見ながら答えた。

 深夜のコンビニに、2人は1時間ほど前に買い物をした店を再び訪れた。
 今度はサングラスとマスクで面を隠し、指紋を残さないように軍手をはめてだ。

 前の時に、下見はしてあった。
 店員は学生風バイトの男一人だ。

 メグミに出入口の見張りをさせ、コージは果物ナイフで店内の電話線を切り、バイ
トを脅した。

 突然の事に動揺するバイトの喉元に、コージが刃先を深く突き付けた。

「た、助けてッ」
 コージは、消え入りそうな声を絞り出すバイトにレジを開けるように促した。

 “チン”と音がしてレジが開いた。
 バイトは、急いでビニール袋にジャラ銭を詰め込んでコージに差し出した。

 コージが、左手でレジの中蓋を引っくり返すしぐさをする。
 高額紙幣は中蓋の下に入れてあるのだ。

「は、はい」
 バイトは、数枚の壱万円と五千円札を取り出した。

 そこには、両替用の筒状の硬貨もあり、コージは無言でそれも要求した。
 コージは、カネの入った袋を受け取った。

 バイトは素直に従った。
 正義感を振りかざし、安い時給で命を賭けるのは馬鹿げていると考えていたからだ。

 それを見透かしたかのようにコージは、バイトを控室に案内させて、防犯ビデオの
録画テープを取り出し、中のテープを引き抜いてグチャグチャにした。

 控室には金庫もあったが、キーは店長が管理しているだろうし、売上金を置くほど
馬鹿ではあるまい。

 最後にバイトに軽くスタンガンを浴びせて逃走時間を稼ぎ、行きがけの駄賃として
ロングサイズの缶コーラとガムテープを盗んで2人は店から出た。 

 公衆電話の受話器が外され、110番通報の赤ボタンがミッフィーの手で押された。

 ─はい、警視庁です─
「コンビニ強盗です!」

 ─場所は、どこですか?─
「上池袋3丁目。明治通り沿いのセブン・マート」
  メグミが、メモを見ながらたどたどしく説明した。

 ─ケガ人は、いますか?─
「店員が倒れているので、通報しました」

 ─すでに、パトカーが出動しているので、現場で事情を─
 会話の途中で横からコージがガチャリと電話を切り、ストップウオッチをスタート
させた。

 通りをパトカーが通過していった。
 2人は、路地に潜んでこれを見ていた。

「9分32秒」
 メグミが、ストップウオッチを止めて言った。

「10分かからねーな」
 考えるように、コージが呟いた。

  警察によってコンビニ強盗の現場検証が行なわれていた頃、コージとメグミは奪っ
たカネでブランチをとった。

 それから、無人運転システムの臨海新交通電車“ゆりかもめ”でお台場近くの巨大
なカー用品ショップに行った。

 駐車場には日本車に混じってフェラーリ、ポルシェ、ランボルギーニ等、よりどり
みどりにズラリと並んでいた。

 車内にカーナビが設置されていたのは、リアウイングの付いたランボルギーニ・カ
ウンタックLP500Sだった。

 1973年に発表されて、スイングトップ式ドアに象徴されたLP400に始まる
ランボルギーニ・カウンタックはスーパーカーブームの教祖的な存在であった。

 二年後にはオーバーフェンダーを前後に装着した最高出力375psのLP400
Sにパワーアップされた。

 さらに、そのミッドシップV型12気筒エンジンを4754ccに拡大した戦闘的
スタイルのLP500Sへとバージョンアップするのであった。

 カウンタックはその後、5000QV(クワトロバルボーレ)、そして、1988
年のアニバーサリーで最終進化を遂げた名車である。

 マークしたカウンタックのオーナーである一人の男性客を、メグミは監視していた。
 コージは、カウンタックのドア・ウインドウにガムテープを貼っていた。

 そして、ウインドウガラスを缶コーラで叩き割った。
 テーピングしたガラスは消音されるため、派手な音をさせずに壊す事ができた。

 防犯装置が一瞬鳴ったが、素早く解除した。
 シートの横にある、エンジンルームカバーの開閉ノブを引く。

 バッテリーのプラグをいじった後、ダッシュボードの配線を直結させてスパークさ
せた。

 V12気筒エンジンが唸り出す。

 カウンタックのドライバーが、オイル交換を申込むためにレジの前に立った時、メ
グミは新たに闇で買ったトバシのPHSをかけた。

 コージが、上着の内ポケットに震えを感じた。
 ブルブルと、携帯電話がバイブレータコールしたのだ。

『49』
‘至急’と、液晶画面に表示されている。

 コージは、駆けて来たメグミを拾ってカウンタックを急発進させた。

 盗難車としてすぐにアシが付かないように、路上駐車している適当な何台かのクル
マのナンバープレートをローテーションして取り替えた。

 2シーターで車体の後ろ半分がエンジンに占有されてトランクの無いカウンタック
には、ボンネットにスペアタイヤを収納していた。

 ボンネット内のスペアタイヤを捨て、荷物置き場を確保した。
 パンクしたらどの道、アウトだ。

 タイヤ同様、2人の行き先もスペアを考える余裕などはなから無かった。

  西川口のモーテルで朝を待ち、街道沿いのディスカウント屋で錬金術の仕込みネタ
を買い揃えた。

 カウンタックのカーナビを駆使しながら、逃走ルートのための一方通行や抜け道コ
ースを入念にチェックした。

 小滝橋通りで、コージは路上にハザートを点滅させてカウンタックを停車させた。
 エンジンは止めていない。

 助手席ではメグミが袖抜きの早着替えでOLスーツを身にまとって、ルームミラー
を覗きながらルージュをひいていた。

「まるで、イメクラのコスプレショーだな」
 ビジネススーツ姿のコージが、ムースで髪を撫でつけながら言った。

「うふ🖤 コーフンする?  今度は、ナースの白衣でも着てあげよッかー」
「そこまで、オヤジ入ッてねーよ」

「ダンナぁ、遠慮すンなッての。それとも、スッチーの制服が趣味かなァ」
 メグミが、コージをからかった。

 ダッシュボードに、スタンガンとロシア製拳銃トカレフが置かれている。
 当時、日本国内で犯罪に使われる拳銃ではトカレフがポピュラーだった。

 銃の出所はヤクザが共産圏から密輸したモノが多かった。

 トカレフはロシアからライセンス契約を取得した中国や北朝鮮によって生産された
モノが軍関係者から横流しされている。

 また、周辺貧国の寒村では村をあげて、マニファクチュア的に模造銃の組み立てで
生計を立てる地域も存在する。

 彼らに取って他に仕事が無い以上、それは生きていく為の手段であり犯罪に手を染
めているとは思ってもいない。

 銃のコピーの代わりに、麻薬を精製している村もあるくらいだ。
 そして、ヤクザがこれを二束三文で買い叩いていく。

 日本政府のODA(政府開発援助)による資金はその国の政治家や企業にのみ及び、
一般市民が直接その恩恵に授かる事は少ない。

 市民に投資しても一銭にもならないからだ。
 日本国内の大手企業の生産施設を建設する事に主眼が置かれている。

 日本政府は例えマルコス政権下のフィリピンのように、援助金がイメルダ夫人の3
000足の高級靴に化けたとしても構わないのだ。

 ODAは新たな市場開拓をスムーズにするためのワイロ性の要素が否めないからだ。

 安い土地と労働力を使い、生産コストを下げて価格戦争に勝とうとすれば、産業の
空洞化は起こるべくして起こってしまう。

 かつて、欧米先進国でも同じ道を歩み、深刻な雇用不安を生じていた。
 この背景下、麻薬や銃にも価格破壊が起こっていた。

 需要と供給の市場バランスが崩れて供給過多なのだ。

 国内でも上野や新大久保に行けば、不法入国の外国人から大麻程度なら高校生でも
簡単に買えた。

 暴力団に使われている彼らと何回か取引きして常連にになれば、銃さえ入手可能な
状況であった。

 犯罪の国際化・ボーダーレス化は今や周知の事実だ。

「これ、モノホン?」
 メグミが、トカレフを手に取って聞いた。

 トカレフを取り返して、コージは半透明の薄い手袋をはめた手で指紋をムースで拭
き取った。

「オモチャだ。タマは飛ばないが、音と煙は出る。チョット見には、見分けがつかね
ーはずだ」

「マジで、やンの?」
 メグミが、両手を包帯で巻きながら前を見て言った。

 フロントガラスには都市銀行が見えている。

「俺は今19で、ギリギリ未成年だ。パクられても、刑は軽い。人さえ殺らなきゃ、
保護観察で執行猶予扱いだ」

「でも、未成年のあたしとHしたよ。インコーなンとか罪もプラスされて、ポイント
高くない?」
「今ンとこ、東京と長野は、淫行OKなンだよ」

「ホーリツとかくわしいじゃン。年少とか入ッてた?」
「OBッてトコかな。メグミは、どーなンだ」

「S、ラリッて、鑑別所」
「あー」
 コージは、声変えスプレーを吸い込んで言った。

「変な声」
 手渡されたスプレーを、メグミも試した。

「あいうえオー、変わッた」
 コージが、扇形に広げた数枚の壱万円札の端に、赤マジックで印を付けた。

 腕時計を見る。
 ─2時58分。

 カウンタックからシャネルのトラベルバックを抱え、サングラスをかけたキャリア
ウーマン風のメグミ一人が降りた。

 メグミはそのまま銀行に入り、指紋隠しの包帯を巻いた指で両替機を操作しながら
店内の状況をうかがった。
 客はメグミの他に数人いた。
 赤線で印の入った壱万円紙幣が両替機に吸い込まれていく。

 時計が3時を回った。
 店内のシャッターが閉まり始めた。

 千円札が両替されて出てきた。
 メグミはこれを見て、PHSの短縮ボタンを押した。

 外で待機していたコージは、『09』‘OK’というサインを、ケータイで受信し
た。

 コージが、ホッケー用のマスクをつけて閉じかけたシャッターの隙間をかいくぐる
ようにして行内に乱入した。

 メグミは、カウンターに駆け上がりムースを防犯カメラに吹き付ける。

「全員、そのまま動くな!」
 コージは、スプレーでボイスチェンジさせた声色でフロアーの中央からトカレフを
構えて叫んだ。

 メグミは、カウンターにいた女行員の首にスタンガンを突き付けた。
 青ざめながら女行員は奥にいる支店長に指示を仰いだ。

 支店長は、冷静さを装って頷いた。
 女行員が、近くの札をかき集めて差し出した。

「チョー、足ンないよ。アウト・オブ・ガンチュー→(カナリ死語)」
 メグミは、差し出された札束で女行員の頬を叩きながら吼えた。
「両替用ATMのカネだ」

〝パン! パン!〟
 コージは、天井に向けて威嚇発砲しながら叫んだ。

「キャーッッッ」
 女性客の悲鳴が上がった。

「早くしろーッ」
 コージは、ストップウオッチでタイムを計りながらわめいた。

 行員達もうろたえた。

 支店長が静かに立ち上がり、ATMに向かいながら警察への緊急通報ボタンを足で
踏んだ。

 支店長はATMの後部を開けて、ケースを取り出した。
 コージが中の札束を弾くように検品する。

 流通の激しいATMの札はナンバーを控えていない場合が多いのだ。
 コージは、それを確認するために印を付けてメグミに仕込ませたのだった。

「まだ、あンだろ」
 支店長が、別のケースを差し出した。

 札束の中に、赤マジックの紙幣が見えた。
 コージは、メグミからバックを受け取って札束を詰め込んだ。

「ズラカるぞ」
 コージが、メグミに言った。

 2人は、エンジンをかけたまま停車させてあったカウンタックに急いで乗り込んだ。
 コージは、ハザートを消し右ウインカーを出してゼロヨン加速した。

「チョロいモンだ」
 コージは、下見で逃走ルートをインプットしておいたカーナビのモニターを見なが
ら運転した。

「あたし、チョーエキサイトしたよ」
 メグミは、OLスーツを脱いで、下着の上にMA―1のフライトジャケットを直に
着て金髪のカツラをかぶった。

 コージが、盗聴無線機のスイッチを入れた時だった。

〝236(強盗事件)発生!  マルヒ(容疑者)は、中野から青梅街道を環七方面に、
車両で逃走中。男女2人組で、拳銃を所持している模様。防弾チョッキ着用の上、警
戒されたし。車種は赤いランボルギーニ。ナンバーは品川33  ひ・54××〟
 警察無線が飛び込んできたと同時に突然、サイレンが鳴り、脇道からパトカーが現
れた。

「やべッ。パーカーだ」
 コージは、アクセルを踏み込んだ。

「早いよォ」
 メグミは振り返って、後ろに迫るパトカーを見ながらすねるように言った。

 銀行の支店長が、早めに緊急用のボタンを押したので、付近の巡回中のパトカーが
偶然にも現場に出くわしたのだった。

 カウンタックの右ドアが斜めに跳ね上がり、ぬいぐるみを乗せたベビーカーが路上
に置かれた。

 ベビーカーに驚いたパトカーの警官が、急ブレーキを踏んだ。
 パトカーに前を塞がれた後続車が、次々に玉突き衝突をした。

 流しのパトカーさえクリアすれば、後は完璧だった。

 コージは、住宅街や一方通行の路地を抜けてコインパーキングにカウンタックを駐
車した。

 ボンネットを開けて荷物を取り出し、革ジャンに着替えた。

 別の場所で盗んでナンバープレートを付け替えて、ここに準備しておいたイグニッ
ション部分に壊した跡のあるハーレーに乗り換えた。

「どッひゃー。チョベリバ→(ゼッタイ死語)」
 メグミは、シャネルのトラベルバックを開けて叫んだ。

 札束が、変色していたのだ。

「どしたッ」
 コージが、札束を掻き回した。

 全部ではないが、ほとんどの色が変わっていた。

 ATMが無理にこじ開けられた場合、紙幣に特殊なインクがスプレーされ、数時間
後に染みとなって浮き出てくる仕掛けだった。

「盗難用のインク札だ。あの銀行、ハメやがッた」
 コージは、腹いせにカウンタックのボディを思い切り蹴って左のフェンダーをへこ
ませた。

 大金を強奪されて、それが元で潰れた銀行など存在しない。

 損害の責任は負うが、銀行自体はイギリスのロイズなどに再保険契約をしているの
で、損失は補填される仕組みになっている。

 強盗や大震災などの損害保険金は、日本の銀行や保険会社が立て替えた後、ロイズ
の出資元であるネームと呼ばれる資産家が最終債務者となる。

 ネームは損害金全ての弁済義務を負う事になり、状況次第では丸裸にされて路頭に
迷う事態のリスクを背負っているが、ハイリスク・ハイリターン通りその分配当も高
いのだ。

 よって、銀行は損金を出さずに済むが、損害を出した責任者である支店長は永久に
出世街道から外れる。

 だから、支店長は必死でインクが塗付される装置を作動させたのだ。

「クソーッッッ」
 コージは、悔しい気持ちのままインク札の混じった札束をクルマのトランクに詰め
てロックさせた。

「早くにげないと、うざッたいポリが来るよ」
 メグミは、故アイルトン・セナ仕様のレーシングヘルメットをかぶって言った。

 コージは、プラグを直結させてハーレーのエンジンを吹かした。
 メグミを後ろに乗せて、タンデム走行で路上に出た。

 20分も走った頃に、池袋に着いた。

「もー、半チャンだな」
 コージが、呟いた。

「何か、言ッたァ?」
 ハーレーの爆音で、聞こえない。

 コージが、通りの闇金融の看板を指差した。
 そして、雑居ビルの前にハーレーを停めた。

 エンジンは、かけたままだ。

「十一の利子で貸す、ヤミ金だ。裏ガネだから、盗まれても警察には届けない」
 コージが、説明した。

 十一(といち)の利子とは10日間で10%の利子率の事である。仮に、20万円
借りて3ヶ月も放っておけば、支払総額は倍以上になってしまうという暴利だ。

 無論、法的には認められない利率だが、今日中にカネを用意しないと飛んでしまう
というギャンブル稼業や資金繰りのキビしい自転車操業の零細企業等がそれを承知で
借りに来るのだ。

「ヤクザが経営してるトコじゃン。ヤバくない?」
 メグミが、心配げに聞いた。

「このままだと、インク札つかまされたバカな銀行強盗と、ワイドショーのネタにさ
れるだけだ」

「でも、100万くらいは、使えンでしょ。いーじゃン、たまッた家賃払ッて2人で
暮らそ」
 メグミが、コージの革ジャンの袖を引っ張りながら言った。

「四畳半フォークソングの世界は、ゴメンだね。デカいヤマを踏めば、ペントハウス
に住めるンだ」

「もー疲れたァ。明日にしない?」
「今日だ」

「なンでェ」
「俺の誕生日に、リーチがかかッてンだ」

「うッそー」
「ホントだ。明日で、はたちのオジンになるのサ。負け続けるJ2降格チームのよー
な人生ゲームには、今日でVゴールを決めてやる」
 コージは、手袋をはめて内ポケットからトカレフを取り出した。

 そして、ハーレーのエンジン部分のグリースをその拳銃に塗りたぐった。

 モデルガンと勘づかれないように、らしく見せるためだ。
 相手は本職のヤクザだ。

 発砲音で驚くトーシロとはわけが違う。

「一言も喋るな。ロープーの中国系ジンガイのタタキを演じるから」
 メグミは、バックとスタンガンを手にして頷いた。

 2人は、フルフェイスのヘルメット姿で闇金屋に押し入った。

「マネーッ」
 トカレフを構えて、コージが叫んだ。

 メグミは、ソープ嬢上がりの中年の受付係にスタンガンをかざしている。

「どこの鉄砲玉か知らねーが、テメェ、チャカ向けて、タダで済むと思ッてンのかッ
!」
 スーツを着た経済ヤクザが、すごんだ。

 受付係の中年女が、メグミに鋭いメンチを切った。

 ヤンキーのレディース時代に、ヤクザ者と知り合い、ソープに売り飛ばされた過去
を持つ女が睨みをきかせた。

 メグミは相手になめられまいと、その女にスタンガンを放電させた。

「ウぎゃッ」
 女が、ヒキガエルを踏み潰したような醜い悲鳴を上げて、その場にもんどりうった。

「マネーッ」
 コージは、銃口をヤクザに向けて、引き金にかけた指に力をかけるしぐさをした。

「よせ。安全装置も付いてねー、荒れ弾のトカレフだろ、それ」
 さすがに本職だ。

 命中精度の良くない銃の特性には精通している。
 ヤクザは、金庫から三千万円分の札束を出した。

 コージが、バックを投げた。ヤクザが、それに札束を詰める。
 メグミが、コージの背後に付いてスタンガンを手渡した。

「なめやがッて!」
 ヤクザは、バックを渡す瞬間、コージにつかみかかった。

 コージは、ヤクザの頭にスタンガンをハイパワーにして放電させた。

「ぐああああああ!」
 ヤクザは、失禁しながら気を失った。

 コージとメグミは、その場を離れた。
 夕暮れ時、コージは雑居ビル内の長期使用が可能な私設ロッカーにバックを入れた。

 偽名と偽住所で借りておいたロッカーだった。
 料金は一ヶ月ごとに匿名口座から自動で引き落とされる仕組みだ。

 コージは、そのロッカーのキーを別の私設私書箱に預けた。
 二重のガードを施してアシがつかないようにしたのだ。

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