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sectⅨ 狙撃
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ペントハウスのハイビジョンTVに、ワイドショーが映っている。
“…ペルー人質事件に起きた、犯人と人質が心理的に共鳴する、リマ・シンドローム
という現象で……”
なんでも評論家が、お気楽なコメントを語っていた。
「いいぞ。もッと後ろに下がり、クルマを守りながらTVに映るンだ」
小田は、ワイドショーを見ながら呟いた。
「新曲のプロモーションとして、タイアップできる」
敏腕プロデューサーの血が騒ぐのを、感じていたのだ。
TV画面には、映画の1シーンのような映像が映し出されていた。
「やッぱ、あのコとアタシとは、住む世界が違うッてカンジ」
メグミは、警察に保護される奈美を見ながら言った。
「スター性ッてやつだよ。カメラが回ッてると活き活きしてる」
コージは、エンジンを吹かして周囲に爆音を轟かせた。
「気を付けろッ! 暴走するぞ」
警官が、注意を喚起した。
向かいの雑居ビルの屋上に、陣取っていた警察の狙撃手の構えるライフルの赤外線
スコープにロータスが映っていた。
地下鉄サリンテロ以降、その存在が明らかになったSAT(SpeciAl Assault Team)
と呼称される警察の特殊急襲部隊がその時を待っていた。
1977年に起きた日本の過激派によるダッカ・ハイジャック事件に端を発し、フ
ランスの特殊部隊“ジェイジェン”を参考にして秘密裏に創設された組織であった。
“発砲許可、出ました”
無線機がそう伝えた。
狙撃手の指がライフルの引き金にかかった。
煙幕の切れ目から向かいのビルの屋上にキラリと光る物をメグミが感じた。
「コージ」
叫びながら、メグミがコージの前に出た。
「うッ」
その瞬間、メグミが呻いてそこにうずくまった。
「メグミ!」
コージは、メグミを抱きかかえながらその場に伏せた。
「逃げてッ」
メグミが、コージの腕を振り払うように言った。
「傷は浅い。大丈夫だ」
ドクドクと、メグミの身体から血が流れ出た。
「もォ、疲れたよ……」
「何言ッてンだ…さッ」
コージが、メグミを抱き起こした。
「オバサンになる前に、死ンどきたい………」
機動隊が、ジュラルミンの楯に隠れながら迫って来た。
「くそッ」
コージは、逡巡した。
「独りになるくらいなら、ここであたしを殺して…」
「バカ言ッてンじゃねー」
メグミは、自分がコージの足手まといになるくらいなら、いっそ死んだほうがいい
と本気で考えていた。
「このままじゃ、2人とも殺られるな…」
コージは、アクセルにつっかえ棒をして、メグミを車外に出した。
「待ッてろ。必ず、助けに行くから!」
「ホント…に……」
メグミは、息も絶え絶えに聞いた。
「メグミが俺にウソをつかねー限り、裏切るコトはしねェ」
「……約束…よ…」
「ああ、誓うよ」
コージは、そう言ってロータスのサイドブレーキを戻した。
「ポリどもッ! メグミを殺すンじゃねーぞ」
無人のロータスが警官隊に突っ込んでくる。
ロータスに無数の銃弾が浴びせられた。そのまま警察の装甲バスに衝突して、爆発
炎上した。
騒ぎの中、マンホールの蓋が閉められた。
ペントハウスで無残なスクラップと化した愛車の映像を見て、小田が泡を吹いて気
絶していた頃、コージは赤外線ゴーグルを付けてモバイルパソコンのナビゲーション
を見ながら暗い迷路のような下水道を走っていた。
救急車が、パトカーに先導されて警察病院に入った。
慌ただしくストレッチャーが降ろされ、手術室に運び込まれた。
クランケは、酸素吸入器を付けられた重体のメグミだった。
アクアライン(東京湾横断道路)の中間にある海ほたると呼ばれる中継地上空を、
ヘリがなめるようにして飛行して行く。
ヘリの真下には、先導する白バイと車列に護衛されたリムジンが走行していた。
リムジンは千葉マリンスタジアムに向かっていた。
スタジアムに到着すると、降りて来た河原奈美をプロデューサー小田が、両手を広
げて迎えた。
奈美は、無言のまま小田を右フックでブン殴った。
その後、特設ステージで奈美は超満員の観客を前に、何事もなかったかのようにラ
イヴを始めた。
“…ペルー人質事件に起きた、犯人と人質が心理的に共鳴する、リマ・シンドローム
という現象で……”
なんでも評論家が、お気楽なコメントを語っていた。
「いいぞ。もッと後ろに下がり、クルマを守りながらTVに映るンだ」
小田は、ワイドショーを見ながら呟いた。
「新曲のプロモーションとして、タイアップできる」
敏腕プロデューサーの血が騒ぐのを、感じていたのだ。
TV画面には、映画の1シーンのような映像が映し出されていた。
「やッぱ、あのコとアタシとは、住む世界が違うッてカンジ」
メグミは、警察に保護される奈美を見ながら言った。
「スター性ッてやつだよ。カメラが回ッてると活き活きしてる」
コージは、エンジンを吹かして周囲に爆音を轟かせた。
「気を付けろッ! 暴走するぞ」
警官が、注意を喚起した。
向かいの雑居ビルの屋上に、陣取っていた警察の狙撃手の構えるライフルの赤外線
スコープにロータスが映っていた。
地下鉄サリンテロ以降、その存在が明らかになったSAT(SpeciAl Assault Team)
と呼称される警察の特殊急襲部隊がその時を待っていた。
1977年に起きた日本の過激派によるダッカ・ハイジャック事件に端を発し、フ
ランスの特殊部隊“ジェイジェン”を参考にして秘密裏に創設された組織であった。
“発砲許可、出ました”
無線機がそう伝えた。
狙撃手の指がライフルの引き金にかかった。
煙幕の切れ目から向かいのビルの屋上にキラリと光る物をメグミが感じた。
「コージ」
叫びながら、メグミがコージの前に出た。
「うッ」
その瞬間、メグミが呻いてそこにうずくまった。
「メグミ!」
コージは、メグミを抱きかかえながらその場に伏せた。
「逃げてッ」
メグミが、コージの腕を振り払うように言った。
「傷は浅い。大丈夫だ」
ドクドクと、メグミの身体から血が流れ出た。
「もォ、疲れたよ……」
「何言ッてンだ…さッ」
コージが、メグミを抱き起こした。
「オバサンになる前に、死ンどきたい………」
機動隊が、ジュラルミンの楯に隠れながら迫って来た。
「くそッ」
コージは、逡巡した。
「独りになるくらいなら、ここであたしを殺して…」
「バカ言ッてンじゃねー」
メグミは、自分がコージの足手まといになるくらいなら、いっそ死んだほうがいい
と本気で考えていた。
「このままじゃ、2人とも殺られるな…」
コージは、アクセルにつっかえ棒をして、メグミを車外に出した。
「待ッてろ。必ず、助けに行くから!」
「ホント…に……」
メグミは、息も絶え絶えに聞いた。
「メグミが俺にウソをつかねー限り、裏切るコトはしねェ」
「……約束…よ…」
「ああ、誓うよ」
コージは、そう言ってロータスのサイドブレーキを戻した。
「ポリどもッ! メグミを殺すンじゃねーぞ」
無人のロータスが警官隊に突っ込んでくる。
ロータスに無数の銃弾が浴びせられた。そのまま警察の装甲バスに衝突して、爆発
炎上した。
騒ぎの中、マンホールの蓋が閉められた。
ペントハウスで無残なスクラップと化した愛車の映像を見て、小田が泡を吹いて気
絶していた頃、コージは赤外線ゴーグルを付けてモバイルパソコンのナビゲーション
を見ながら暗い迷路のような下水道を走っていた。
救急車が、パトカーに先導されて警察病院に入った。
慌ただしくストレッチャーが降ろされ、手術室に運び込まれた。
クランケは、酸素吸入器を付けられた重体のメグミだった。
アクアライン(東京湾横断道路)の中間にある海ほたると呼ばれる中継地上空を、
ヘリがなめるようにして飛行して行く。
ヘリの真下には、先導する白バイと車列に護衛されたリムジンが走行していた。
リムジンは千葉マリンスタジアムに向かっていた。
スタジアムに到着すると、降りて来た河原奈美をプロデューサー小田が、両手を広
げて迎えた。
奈美は、無言のまま小田を右フックでブン殴った。
その後、特設ステージで奈美は超満員の観客を前に、何事もなかったかのようにラ
イヴを始めた。
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👍️