気が付いたら異世界で孤児だったけど、立派な宇宙海賊になってみせます~貧民惑星から始める転生成り上がり銀河無双~

渋谷千立

文字の大きさ
61 / 68

浸食の記録

しおりを挟む
デブリ帯宙域――
先ほどの培養槽跡を後にし、ドローンは旧帝国軍の仮拠点内部をさらに奥へ進んでいた。

「静かすぎるな……」
俺は短く呟き、ブリッジのモニターを睨む。暗い廊下、切れかけの照明、焦げ跡の残る壁面。戦闘の跡も感じられるが、今は死んだように静まり返っていた。

「ドローンを再展開します。残留している休眠体には十分注意してください」
アイカの声が冷静に響く。

「わかってる。無理はさせるな」
俺は呟き、手元の操作パネルを叩いた。

小型探査ドローンが静かに廊下へ送り込まれる。アームを軽く振り、壁面や端末に触れるたび、モニターには旧帝国の痕跡が徐々に映し出されていく。

「……なんだ、この端末群は」
リズが目を輝かせ、画面を食い入るように見つめる。

「古いデータ端末ね。記録が残っているかもしれない」
マリナは眉をひそめ、背後の薄暗さに目を配る。

「回収対象は旧帝国の実験記録及び関連資料。破損していなければ解析可能です」
アイカは淡々と指示を続ける。

沈黙が支配する廊下に、ドローンの微かな作動音だけが響いた。
誰もがわかっていた――ここに眠るものの全容が、決して安全ではないことを。



「壊れているな」

「一部はデータがとれそうです」

「よし。解析を開始しろ」

「了解。解析開始します」

「これは……実験データか」

「そのようです。浸食速度の実験のようですね」

映し出された映像には、金属生命体が機械を侵食する姿が映っている。あっという間に機械を覆いつくし、黒く染まっていく。

「……増殖過程の記録か。材料さえあれば、いくらでも大きくなるようだな」
リズが画面を凝視し、瞳をぎらりと光らせる。

「危険すぎる……」
マリナが渋い顔をする。

「制御下に置かれていなければ、群れで暴れたら手が付けられないじゃん」

「しかし、こうしてデータが残っている以上、特性の解析は可能です」
アイカが冷静に指摘する。

「休眠中の個体と併せて、侵食速度や成長条件の予測ができるでしょう」

「……でも、この記録を残した者がいたってことか」
俺は低く呟く。

「少なくとも、誰かが捕獲して、ここで育てた。旧帝国の誰かだろう」

「残念ながら、実験者の足取りは消されていますね」
アイカが画面を切り替えながら報告する。

「端末に残っているのは生体実験の結果と手法だけです」

「それでも十分だ」
俺は拳を握りしめる。
「少なくとも奴らの特性と危険性は把握できる。サンプルと合わせて、安全策を立てる材料になる」

リズは唇を尖らせつつも、目の奥で興奮を隠せない。
「面白いじゃないか……ただ、扱いは慎重にする必要がある」

ブリッジに、静かだが確実な緊張感が漂う。
旧帝国の痕跡――そして眠れる脅威。
俺たちはそれを慎重に、しかし確実に回収していくのだった。



ドローンは別の部屋へと向かう。

「ここにも端末があるな」

「ここでもデータがとれそうです」

ドローンが端末に近づく。

「っ!ドローンを下げろ!」

端末から金属生命体が染み出し、ドローンへ飛びついた。あっという間に黒く染まり、制御不能になる。

ドローンの映像が激しく乱れ、ブリッジに緊張が走る。

「通信が途絶えた!」
マリナが声を張り上げる。

「冷静に……状況を分析します」
アイカが迅速にコマンドを打ち込み、別のドローンの映像に切り替える。
黒光りする塊がドローンを覆い尽くす様子が映し出された。

「……まずい。今はデータ回収より安全確保が優先だ」
俺は即座に判断する。

「戦闘用ドローンで奴を排除しろ」

「了解。戦闘用ドローン、攻撃開始」
レーザーが飛び、黒い塊は床に沈む。

「……停止、確認」
アイカが報告する。
「熱源反応消失。活動停止しました」

「ふぅ……危なかった」
マリナが肩をすくめる。

「回収は無理だな。浸食されている」
俺は決断する。
「データは別の端末から取れる。破壊しろ」

ドローンが火炎放射器で端末を焼き尽くす。赤い光が室内を包んだ。

ブリッジに再び静けさが戻る。
だが、誰もが薄く背筋に寒気を覚えていた――この施設には、まだ眠れる脅威が潜んでいる。

「これで最後か?」

「ここが最後の部屋です。……待ってください。内部に熱源反応を確認。大きな熱源反応です」

「どうする?部屋ごと破壊するか?」

「ドローンで調査しましょう。一機程度でしたら、浸食されても誤差の範囲です」

「わかった。ドローンを突入させろ」

「了解。ドローン突入させます」

ドローンが部屋に入る。そこには、大きな黒い球体が静かに浮かんでいた。

「これは……」

「成長した金属生命体のようです。動きはありません」

「……休眠中か?」

アイカが分析を開始する。

「はい。熱源反応はありますが、運動パターンはほぼゼロです。活動は停止していると見てよいでしょう」

「でも、あれだけ大きいとなると……一度目覚めたら手に負えないぞ」
マリナが拳を握り、眉をひそめる。

「少なくとも今は危険ありません。サンプルとして回収できるチャンスです」

「回収できそうか?」

「可能です。回収しますか?」

「やってくれ」
俺は冷静に指示する。

ドローンが慎重に球体に接近する。光を反射する黒い表面は滑らかで、液体と金属の中間の質感を持っている。

「アームにセンサー装着。化学組成と構造を分析します」
アイカの声がブリッジに響く。

「異常なし。侵食の痕跡もありません。完全な休眠状態です」

「よし、回収しろ」
俺は短く命じる。

ドローンが球体を慎重に掴み、耐熱・耐圧仕様の収容容器へと移す。赤い警告灯が点滅し、三重ロックがかかる。

「……回収完了」
アイカの報告に、ブリッジにわずかな安堵が広がる。

「これで旧帝国の実験記録も、サンプルも揃ったな」
リズが画面を見つめながら呟く。

「だが、安心はできない。あの施設に眠るものはまだ多い」
俺は拳を軽く握り直した。

「これで今回の任務は完了だ。撤収する」
俺の言葉に、ブリッジのクルー全員が頷く。

ドローンたちは静かに撤収を開始し、仮拠点の奥に眠る脅威を後にした。
だが、心のどこかで、誰もが知っていた――この宇宙には、まだ眠れる脅威が確かに存在するのだと。
そして、我々が回収したものが、次の戦いの鍵となるかもしれない――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定。

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

処理中です...