教授の内腿に刻むタトゥー

マリ・シンジュ

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帰宅後の静かな確認

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新城がマンションの鍵を回し、午後の残光が涼しげに差し込む室内へ足を踏み入れると──リビングのソファに、羽生の穏やかな姿が視界に入った。

​羽生は帰宅後すぐに私服を丁寧に畳み、新城が用意した紺の、足首まで届く滑らかなシルクのローブへ着替えていた。シルクは肌との摩擦が極めて少なく、施術部位の刺激を最小限に抑える。下着はつけず、ローブの下は何も着用していないが、足元はグレーの柔らかいソックスを履いている。体温が上がりやすい施術後であるため、ソファには清潔なタオルを敷き、無理のない角度で身体を休めている。

新城:「……ただいま」

羽生はタブレットを閉じ、首だけそっと傾けて微笑んだ。その目に宿る落ち着きだけで、きちんと自己管理できていたことが伝わってくる。けれど、わずかに目が細まり、唇の端にかすかな挑発めいたニュアンスを乗せて新城を迎えた。

新城はコートを脱ぐより先に羽生の側へ。視線で体勢を確認する。

新城:「いい姿勢だな。余計な負担はかかってなさそうだ」

羽生:「うん。言われた通り休んでたよ……でも、先生、そんなに真剣な顔で見てると、僕、ちょっとドキドキするんだけど」

声に混ざる遊び心に、新城は一瞬、眉を寄せながらも無言で深く息をつく。

「確認して?」と羽生が静かに言うと、新城は洗面所から医療用手袋を持って戻り、羽生のすぐそばに膝をつく。

ローブの滑らかな裾をそっとずらすと、薄いフィルム越しに赤みを帯びた肌が現れた。その肌には、秘められた場所に、斜めに走る黒いラインが露わになる。シルクの光沢をまとったその肌は、まだ新鮮な熱をほんのり放っている。

​新城は恋人として一瞬だけ心が揺れたが、それを表に出さず、羽生の紺色のシルクローブの隙間へと視線を淡々と滑らせるふりをした。

​傷の様子を確認しているだけのはずなのに、柔らかなグレーのアンクルソックスに包まれた足元から、長く滑らかな素足が露わになり、視線はそのラインの終点、下腹へ続く細い線へと吸い寄せられてしまう。

初秋の午後の穏やかな室内で、その証(あかし)と、フィルム越しに刻まれた黒いインクを、誰にも触れさせるつもりのない、抑え込んだ独占的な目でそっと焼き付けていた。
数秒の沈黙のあと──

新城:「よし、いい状態だ。腫れも想定範囲。フィルムも問題なし」

新城はフィルムを直接触ることは避けるが、手袋の指先でフィルムが貼られていないギリギリの皮膚を、まるでそこにタトゥーが刻まれているかのように、ゆっくりと撫で下ろす。

羽生:「ふふ、やっぱり褒めた……でも、先生、手がすごく近いから、僕、ちょっと落ち着かなくなるな。ねぇ、先生。僕、このガウンの下、何もつけてないんだよ」

新城の肩が一瞬、カッと硬くなった。医師としての冷静なチェックという体裁は、羽生の甘すぎる挑発であっけなく崩れ去る。

羽生はさらに声をひそめ、新城の耳元にこっそりと囁きかけた。

羽生:「ねぇ、先生。まさか、また僕の体を見てムラムラしてないよね? アトリエみたいに、ここで理性が飛んだりしないでしょう?」

新城の動きが、完全にフリーズした。彼は羽生が「勃起の秘密」を突いてきたことを瞬時に理解し、顔つきをわずかに引きつらせる。理性を保とうと抑え込んでいるはずの呼吸が、小さく、だが確かに荒くなっているのを羽生は感じ取った。

新城は羽生の顔から視線を強引にそらし、医療用手袋を嵌めた指先で、羽生の首筋をグッと強く、でも壊さないように優しく掴んだ。

新城:「……バカなこと言うな。お前の体を、チェックしてるだけだ」

声は低く、威嚇するように響いたが、その指先がわずかに震えていることは、彼が理性の限界に立たされている証拠だった。

新城は軽く息をつき、薄手のブランケットをかけてやる。

新城:「昼食、温めてくる。……そのまま横になってろ」

羽生は目を細め、ブランケットの温度と新城の声に身を委ねる。ほんの少し小首を傾げ、内心で「触れられそうで触れない距離……知ってるくせにね」とわずかに意識を揺らす。

※※※

夜が深まり照明が柔らかい色に変わった頃、羽生は再びソファで身体を休めていた。痛みというより、皮膚の奥で静かに脈打つ“新しい印”の感覚があり、軽く胸が高鳴る。

新城は寝室のベッドに清潔なシーツを整え、その隣の床に自分の布団を敷いた。

新城:「移動するぞ。ゆっくりと、体に負担をかけないように動くんだ」

羽生は少し身体を起こし、新城の補助を最小限だけ借りながらベッドへ移った。

新城:「痛むか?」

羽生は新城の手を取り、頬にふわりと添えた。

羽生:「問題ないよ……でも、先生の手、こうやって触れてくると、つい意識しちゃうね」

その言葉に、新城の肩から自然と力が抜ける。

羽生:「ねぇ、そんな床でガチガチに構えてたら、先生、寝不足になるんじゃない? 僕の看病のために、先生が倒れたら本末転倒じゃない?」

新城:「うるさい。別に気にしない。……ここにいたいだけだ」

ぶっきらぼうなのに温度のある声。新城の理性を突き破った本心からの独占欲に、羽生は小さく笑みを漏らし、胸の奥でちょっとドキッとする感覚を覚えながら、首をわずかにすくめる。

新城はタトゥーには触れず、首筋や肩だけを指先でなぞり、羽生が呼吸を深めていくのを見守った。

新城:「おやすみ、羽生。ちゃんと眠れるな。明日は朝一番でケアをする」

夜更け──部屋が静寂に包まれた頃。羽生が深く眠りに落ちてからしばらく、新城はまだ目を閉じられずにいた。隣で穏やかな寝息を立てる羽生の気配を感じながら、静かに上半身を起こす。

新城:(……念のため、な)

新城は布団から手を伸ばし、羽生が眠ったまま動じないよう、ローブの裾をそっとずらす。触れない距離で、フィルムの状態、赤みの出方、呼吸と体温のリズムを軽く観察する。指先に意識が向き、少し心臓が速くなるのを感じる。

光は弱い。でも、それでも十分わかる──傷は落ち着いている。

新城はローブがずれたことで露わになった下腹部の輪郭を、数秒見つめていた。その皮膚から放たれる熱は治癒の熱だけでなく、愛を刻んだ興奮の余韻でもあり、新城の呼吸がわずかに荒くなる。

新城:「……よし」

声はかすかで、羽生には届かない。

ローブを元に戻し、今度は迷わず自分の布団に横たわる。先ほどより素直に、安心が胸に広がった。

新城が落ち着いた気配を隣で感じ取ったのか、羽生は夢の中でふわりと表情を緩めた。身体の奥に残る温かい余韻と、新城の確かな存在感に包まれ、少し心臓が高鳴る感覚とともに深い眠りへ沈んでいく。

二人の呼吸がゆっくりと重なり、静かな夜が優しく流れていった。



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