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06 虚構から生まれる精神的な強化
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その日、私は現実世界の職場で先輩社員に何度も叱責を受けていた。どうしても仕事に身が入らない。製品である部品を床へ幾度も落としてしまうなど、失敗続きのありさま。すみません、と謝るしかなかった。
しかし、それもそのはずである。例の特大イベントが目前に控えていた。今日は、それに至るための重要なお膳立ての日。コウキとって、私にとっても、肝心要な気を抜けない前夜祭となっているのだ。
この瞬間のために書き進めてきたといっても過言ではない。抑圧されてきたすべての欲望を解き放ち、自由になる時は来た。今晩の執筆でコウキが空を飛ぶ決意を固め、ついに明日、待ちに待った初飛行の執筆に取りかかる予定となっているのだ。
私は、ストレスによる執筆意欲の低下を防ぐため、秘技「シンポーカーフェイス」を編み出していた。半泣き顔で必死に謝罪をするが、心では真顔だ。感情は冷めて、冷め切っている。同じ失敗を繰り返さないための学習はするが、反省などしていない。その場を凌ぎ、収め、取り繕えさえすればいいのだ。
退社後、私は自宅に戻ると、すぐに夕飯を済ませ、風呂に入り身を清めた。肉体が重く疲弊していても、机の椅子に座ると不思議と癒やされる。身も心も軽くなる。
ノートパソコンを開き、電源ボタンを押す。キーボードに指を這わせると、瞬く間にコウキの世界へと突入し、思考と魂が転移する。私は現実から遠く離れ、彼の物語に没頭した。
実店舗のスーパーマケットへの買い出し作戦を成功させ、食料の補充をしたコウキであったが、今後も続く現状を悲観し、極度に塞ぎ込んでしまう。
しかしふと、子供の頃に好きだった、とあるアニメのキャラクターを思い出す。空賊妖怪と財宝の争奪戦を繰り広げた、飛行能力を持つ主人公の妖怪である。
コウキはその妖怪と自分を重ね合わせた。自分も彼のように、あの大空を飛べるだろうかと。
私は彼の背中を押した。コウキはこの瞬間のために、空を飛ぶために生まれてきたのだ。そして私も、コウキを空へ飛ばすために生まれてきたのだ。
コウキは覚悟を決めた。分身である私もうなずき、運命を共にする決心をした。
私は誓った。コウキの物語シリーズを残りの生涯をかけて執筆し続けると。他キャラを主人公にした別作品は書かない。絶対に浮気はしない。まさに、初恋の相手と一生を添い遂げる覚悟だった。
このまま初飛行の章の冒頭を書き進めたい気分でもあるが、明日の仕事のために、予定通り今日はここまでとする。
後ろ髪を引かれる思いで、そっとノートパソコンを閉じる。興奮を冷ますための二度目の風呂、歯磨き、すべての身支度を済ませ、ベッドに入った。
それでも、頭の中の私はノートパソコンを閉じることもなく、執筆を続けている。現実の私を出し抜いて、もうひとりの私が初飛行の冒頭を書き始めていた。
羨望と嫉妬が混ざり合い、憎しみさえ抱いてしまう。
ダメだ。目が冴えまくっている。今夜は眠れそうにない。
しかし、それもそのはずである。例の特大イベントが目前に控えていた。今日は、それに至るための重要なお膳立ての日。コウキとって、私にとっても、肝心要な気を抜けない前夜祭となっているのだ。
この瞬間のために書き進めてきたといっても過言ではない。抑圧されてきたすべての欲望を解き放ち、自由になる時は来た。今晩の執筆でコウキが空を飛ぶ決意を固め、ついに明日、待ちに待った初飛行の執筆に取りかかる予定となっているのだ。
私は、ストレスによる執筆意欲の低下を防ぐため、秘技「シンポーカーフェイス」を編み出していた。半泣き顔で必死に謝罪をするが、心では真顔だ。感情は冷めて、冷め切っている。同じ失敗を繰り返さないための学習はするが、反省などしていない。その場を凌ぎ、収め、取り繕えさえすればいいのだ。
退社後、私は自宅に戻ると、すぐに夕飯を済ませ、風呂に入り身を清めた。肉体が重く疲弊していても、机の椅子に座ると不思議と癒やされる。身も心も軽くなる。
ノートパソコンを開き、電源ボタンを押す。キーボードに指を這わせると、瞬く間にコウキの世界へと突入し、思考と魂が転移する。私は現実から遠く離れ、彼の物語に没頭した。
実店舗のスーパーマケットへの買い出し作戦を成功させ、食料の補充をしたコウキであったが、今後も続く現状を悲観し、極度に塞ぎ込んでしまう。
しかしふと、子供の頃に好きだった、とあるアニメのキャラクターを思い出す。空賊妖怪と財宝の争奪戦を繰り広げた、飛行能力を持つ主人公の妖怪である。
コウキはその妖怪と自分を重ね合わせた。自分も彼のように、あの大空を飛べるだろうかと。
私は彼の背中を押した。コウキはこの瞬間のために、空を飛ぶために生まれてきたのだ。そして私も、コウキを空へ飛ばすために生まれてきたのだ。
コウキは覚悟を決めた。分身である私もうなずき、運命を共にする決心をした。
私は誓った。コウキの物語シリーズを残りの生涯をかけて執筆し続けると。他キャラを主人公にした別作品は書かない。絶対に浮気はしない。まさに、初恋の相手と一生を添い遂げる覚悟だった。
このまま初飛行の章の冒頭を書き進めたい気分でもあるが、明日の仕事のために、予定通り今日はここまでとする。
後ろ髪を引かれる思いで、そっとノートパソコンを閉じる。興奮を冷ますための二度目の風呂、歯磨き、すべての身支度を済ませ、ベッドに入った。
それでも、頭の中の私はノートパソコンを閉じることもなく、執筆を続けている。現実の私を出し抜いて、もうひとりの私が初飛行の冒頭を書き始めていた。
羨望と嫉妬が混ざり合い、憎しみさえ抱いてしまう。
ダメだ。目が冴えまくっている。今夜は眠れそうにない。
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