天命を巡る異術師の怪奇譚

紅薔薇棘丸

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第1話「憑依された少年」

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 僕は残る三ヶ月の経過で中学二年生を終える。

 とにかく中学二年生は大変だった。何せ中学三年生を迎える一年前だから当然かも知れない。

 成績は並々を維持しながら部活動に徹する日々が凄く疲労を起こさせる。
 けど、僕が生き甲斐を感じる活動だと思えるところは特に文句ない。大きく自分が活躍して行ける場所があるだけで何となく人生を過ごせてしまう。

 人生は結論から言うと生きていることの実感が大事だ。それが感じられない生き方は凄い損だと思う他ない。だから、僕は全力を尽くして行こうと考えている。

 そんな僕の思考が大層だとは思わない。ある幼馴染みの存在が大きく感じてしまうことが劣等感を引き起こす理由になる。

「おはよう! 今日もお前は相変わらず眠そうだな!」
「ふわぁ~。平穏を生きるだけの身が発言すると俗に労いもないのね? 貴方は大して働いてもないことに自覚はないのかしら?」
「そ、それは言い過ぎでしょ……」

 彼女は疲れ切った表情が普段から目立つ。何故なら彼女が一任する役割は一般人にこなせない業務内容を課せられているからだ。

 彼女と言う存在を除外してしまえば世間は大きく被害を受けて衰退が見込まれる。それを防ぐための方針が一任される理由は【異術】と呼ばれる特殊な力を操作して怪異討伐に挑む家柄が大きく関係する。

「本来の使命から逃げられる貴方が言えることかしら? 異術師として生きた母を持つ貴方に宿らなかった力は見損なわれたのよ」

 彼女から厳しい現実を突き付けられる。今の一言は僕を否定する気持ちとしては十分だった。何故なら彼女は僕に期待していたはずが希望から外れた結果は心を歪めてしまうほどの衝撃だったのだ。彼女が態度を変えたのは差が生じた生活を送る中で自然に理解したことが原因だろう。だから、特に文句は言えなかった。

「貴方と背負うはずの使命は現実に存在しなかったわ。それが意味するのは役立たずと言う他に言いようがない『クズの出来損ない』ってだけよ」
「わ、分かってるけどぉ……」
「もう分かったなら行くからね? 貴方は早く教室に戻った方が良いんじゃないかしら?」
「は、はぁ……」

 何も言えなかった。何せ僕は出来損なった存在なんだ。何より彼女が持っている力は俺にも同じくないと駄目だった。それを持たなかった宿命は僕を打ちのめすかのような衝撃として心に加わる。

 悔しい。そんな気持ちが生じて内心を負の感情で染まる。

(何で僕は扱えないんだよぉ……。だから、嫌われるんだったら珠美と同じ力が欲しかった。けど、それを幾ら僻んでも|《ひがんでも》しょうがないだろ)

 現実を見たくないから部活動に励んで来た。それでも何一つ変わらない事実は何だったのか疑問に思う。悲しみを募らせた心はいつしか自然と収まる時が多いけど、蘇る度に悔しくて涙を堪える瞬間を迎えていた。

(もし、叶うなら……僕にも異術を与えてくれる神様が現れてくれないかな……?)

 望まない宿命が訪れたことに未練を感じる日々は最悪だった。最悪を背負う僕が悔やんで生きていたとしても彼女は知らないのだろう。でも、僕は決して彼女を恨まない。

 落ち込みながら教室を目指す。心が落ち着いて来ても僕が現状に満足することはない。劣等生活を送る者が何気ない満足で心を癒すなどは本来ならないはずだと考える。

 だから、とにかく今日を何となく過ごして行こうと思いながら教室のドアを開けて入る。
 入室と同時に挨拶して普段から変わらないスタートを切った。それが大層でもない事実を確かに自覚しながら椅子に座った。

 そして五時間目の授業が終わった頃。解散が合図された後で休み時間を迎える。残る一時間を過ごせば後は部活動が出来るはず。

 とにかく僕は次の授業を受ける教室が目指す場所になった。

 僕の名前は武藤英助と言う。幼馴染みは清原珠美と可愛らしい名前だった。
 裏は凄く厳しい性格だと思われる頑固者である。けど、自然と生活する中で珠美は僕が特に忘れられない事実を抱いてしまっていた。
 それは妖怪から僕を救ってくれた時に窺えた様子に惹かれる結果となった。

 もし、叶うのならば僕も珠美と共に仕事したい。その気持ちだけがいつも内心で抱かれる不満と悲壮感を起こす理由でもある。

 異術師になれなかった俺を批評する目付きが目立つ表情は可愛いとカッコ良いを兼ね合わせた存在だった。

 授業は次で終わる。放課後は部活動を頑張る理由として何となく出来れば良いと思考が回っていた瞬間だ。しかし、行くことは無駄じゃないと思いながら放課後練習をして来たのである。だから、六時間目を無事に終えるまで真剣に取り組みたいと思った。

 授業中は特に何事もなく進められた。別に何か変わった出来事が起きて欲しい訳でもない。何故なら平穏が一番なんだ。それが望まなくて人生は歩めない。

 とにかく将来は困らないだけの環境で生活したいと思って勉強に励む。幼馴染みと違った進路でも生きる意思を強く持たないと人生が無駄になって後悔する。それを辿らない道を選択しながら僕は時に流される。

(もし、内心を読んでしまうような人がいたなら凄いだろうな……。でも、心が読めると多少の醜いところを実際に見るなんて必然だから抵抗はある。けど、許されるなら少しだけ読んでみたいかもな)

 すると、後ろから廊下を走る足音が聞こえて来る。それは徐々に接近して来ていると分かる。

(ま、まさかな……? 声を掛けられるはずがない)

 けれど、少しだけ珠美の考え事を知りたいと思う気持ちは隅にある。本当に結ばれるチャンスがあったとしたならば、自分から掴んで行くしかないと判断して今を大事に過ごす以外は考えられないだろう。

 そう考えていた時に肩を軽く叩いて声が掛かった。

「あのう? すいませんけど、貴方が武藤先輩ですか?」
「え……?」
「どうも。私は鈴下瑞江と申します。実は珠美先輩の幼馴染みだと聞いて来たんですよ。もし良ければ放課後に生徒玄関の受付前で待ち合わせませんか?」
「え、えーと、何でかな? 僕は部活動で忙しくて生徒玄関で待ち合わせるとしたら最終下校時刻をギリギリかも知れないわ」

 後輩の女子と初めて会話した。瑞江は困った表情を浮かべながら俺を見つめる。それは助けて欲しいと訴えるような潤った瞳が向けられる。

 けど、実際に放課後は忙しい点は事実だから困る時間帯だと思った。放課後なら部活動が行われる時間帯はなるべく欠かしたくないのだが、後輩から頼まれたお願いを聞かないで断ると学校中に広まることも考えられる。
 つまり、後輩よりも部活動を優先することでマイナス要素を含んだ名が轟いてしまう可能性は捨て切れない。

(ど、どうすれば良いんだよぉ……⁉︎    初めて交わす会話が批評される噂を流す理由となってしまうことは今後の学校生活で特に致命傷とも言える。これだから女子と話したくなかったんだよなぁ……⁉︎)

 内心に起こった疑問が僕を惑わせる。せっかくの機会が自分を追い詰める原因となろうとしているが故の不運を密かに内心で責めた。

 困惑して返事する際の内容が思い浮かばなかった。

 多少の時間が過ぎると待ち侘びた瑞江から返事が来る前に提案を持ち掛ける。彼女が持ち出した提案は大して難しくもない内容だった。

「それじゃあ放課後を迎える前に珠美先輩がさっきの待ち合わせ場所に来て欲しいと伝えてくれませんか? それだけしてもらえれば良いので、よろしくお願いします!」
「わ、分かった。伝えれば良いんだな? それなら代わりに受けても良いよ」
「わぁ! ありがとうございます!」

 そうやって俺は瑞江から珠美を生徒玄関前の受付に呼び出して欲しいと言う頼み事を受けた。後で伝えるだけで良いなら容易いことだと思って了承したが、本当は少し面倒だったかも知れない。

 そして六時間目が終わる。教室に戻る廊下を進んでいた時に珠美が通り掛かった。
 丁度良いと思った僕は声を掛ける。声が掛けられた珠美は急すぎて驚愕すると文句を垂らすように尋ねて来た。

「何かしら? 今から職員室に用事があって急いでるのよね。早く話があるなら言いなさいよ」
「ごめん。実は鈴下瑞江って言う後輩が依頼したいらしい。だから、放課後は生徒玄関受付で待ち合わせたいだってさ。お願い出来るか?」
「それならしょうがないわ。仕事は受けないと家業を放棄するようなものだからね? それと伝えてくれてありがとう。貴方も少しは役に立ったみたいで良かったかも知れない。偶に幼馴染みがいても良いんだって思える時があるのよね」
「う、うん。それじゃあ僕は行くわ」
「またね!」

 珠美は元気の良い挨拶を口から送る。そんな姿が見られて少し和んでしまう自分がいて焦った。素直に喜べない自分を認識して多少の羞恥心が溢れて来る。

「訳が分からないなぁ……」

 ため息と一緒に吐いた一言はどう考えても理解不能を意味している自覚はある。それを抱えながらも俺は本来の目的地でもある教室を目指した。

 そして部活動を終えて解散した頃になる。汗を掻いて疲れた身体を引きずりながら帰宅する。

「はぁ~。やっぱ疲れるよなぁ~。何だか本当は部活が必要かなんて分からなくなって来たわ」

 そんな感じで帰り道を歩きながら上に視線が向けられる。星空が綺麗だと思えた瞬間は非常に新鮮味があって良かった。けど、実際は俺に訪れる残酷な宿命と遭遇する不運が降り掛かる予兆でしかなった。

 ドカーン!

「んぅ? な、何だ……?」

 どこかで何かが爆発したような音が響き渡る。
 それは現在地から少し歩いて行けば辿り着ける小さい山が位置するところだった。そこで起きた爆発音が気になって立ち寄ってみることを決めた。

「確かこの辺だったはずだよな?」

 すると、暗い中で捉えたのは一部が消し飛んでしまっている小山だった。小山は謎に消し飛ばされた様子が窺えて即座に気付いた。

「やべっ⁉︎    早く逃げないとまずい⁉︎」
「おい? どこに逃げるんだよ。俺を無視するな」
「……え?」

 後ろを振り返った瞬間に服装と表情の窺える限りだと怪しげな男だと言える。それどころか人間だと認識することが難しいような人物だった。

「どうやら丁度良い器が見つかったよ。それじゃあ憑依させてもらう!」

 いきなり掌で触れて来た。触れた掌から熱い何かを流し込まれて身体中が不思議と侵食される感覚を味わう。

「な、何をしたんだよぉ……」
「生き延びるために呪術を使わせてもらう」
「ゔっ⁉︎    ぐぁぁぁあああ⁉︎」

 身体が急激に違和感を強制されて妙な感覚が襲い掛かる。全身を駆け巡る激痛と何かが通過する感じを覚える。

「ぐぅっ⁉︎    ぬ、ぬわぁぁぁあああ⁉︎」
「ふっ! やはり、一般人は容易いねぇ? 身体は貸してもらうことにするよ。目的が果たせるまで体内に留めてもらえると助かる」
「がぁっ⁉︎    がはっ⁉︎」

 身体の隅々が侵食されて感覚を失って行く。体内を通過する違和感がいずれ意識を閉ざすような感じが僕を理解させる前に全身が回り終える。

 意識は失われた。僕は乗っ取られて意識が失われる直前に死ぬんだと思った。それを思わせる他に余裕は与えられなかった。

 そして身体を得た妖怪が口を開く。そいつは歓喜しているように思える一言を吐いて笑う。

「憑依完了。そろそろ来る頃だろう」

 すると、いきなり黒い雷が一直線に放出されて来る。無意識に結界術を展開させて防ぐと例の巫女が追い掛けて来たみたいだ。

「まさか嘘だよね……? 何でこんな時に英助がいるのよぉ……!」
「英助と言うらしいじゃん。悪いけど、憑依した。それも、呪術が行使されているから簡単に追い出せないだろう。そこで交渉しないか? 俺は人間を惨殺して回りたい訳じゃない」

 ※    ※    ※

 人間に憑依することで本体の精神を抑えて身体は俺が支配した。これで好きに動けると偶然にも通り掛かった男に感謝したいと思うぐらいだ。

 取り敢えず目的を果たすために交渉を持ち掛けてみたが、聞いてもらえるかまでは分からない。ここは様子を窺って行くことにした。

 すると、交渉に対する不信感を抱いた女は怒鳴り散らす。それは完全に気持ちが乱れて判断を迷っている様子が分かった。

「はぁ? それをどうやって信じろって言うのよ! 貴方は英助が歩む人生を台無しにしたんだからねぇ‼︎」

 彼女は怒鳴り散らしてから凄まじい霊力が感じられる。先ほどよりも出力があることから本気を出すつもりだと予測できる。けど、俺は真っ向から戦って殺したい訳じゃなかった。それと交渉は深く提示された訳でもないことから希望を捨てる理由にならないと判断して攻撃を中止させる一言を放つ。

「どうする? まさか乗っ取られた男と一緒に纏めて殺すのか?」
「くっ……! う、うるさいのよぉ‼︎」

 彼女から涙が溢れる。それは自分が追い込まれている状況下に対する素直な気持ちだと言える。
 倒す目的を遂行する必要性、それを妨げる最悪な結果が招かれた現状に彼女は置かれている。幼馴染みが討伐目標に憑依されて殺せなくなったことで彼女を究極の選択肢が迫る。

(涙が出るぐらい大事だと思っている人物みたいだな? これなら人間と混ざって生きられる。それに狩られることもない)

「こいつは殺さないで置く。その代わりに俺を生かせ。もちろん人間に手を出さないと約束する。目的を持って出て来たんだけど、少し行きづらい環境に変わってしまったらしくて困ってんだ。了承してもらえないかな?」
「人間に紛れて生きたいのかしら? 変わってるじゃないのよ」

 こいつは俺が憑依している男を殺さないなら条件は呑むはずだと踏んで要求した。それを彼女は迷って考え込んでいる。
 とにかくしばらく待って見ると回答が返って来た。答えは俺の好都合が通った。

「分かったわ。けど、例え憑依された人が幼馴染みでも貴方を窺って危害を加えると判断した時は殺すからね?」
「了解。交渉成立だな?」

 取り敢えず巫女と交渉が出来た。俺が成し遂げたい目的は本来なら果てしなく険しい道のりだと考えられる。
 標的は今でもどこかで聞いた息を潜めている。そいつらを殺したいなんて妖怪の持つ目的としては可笑しいと思える。けど、それは事情があって掲げた目標なんだ。

 すると、交渉成立を成し遂げたことで浮かれていた俺に質問が来る。彼女としても今後は調整が加わるかも知れない話だから聞いて置く必要性は高いと判断したのだろう。
 一人で先を見通すための方針を事前に聞いて企てるところは驚愕した。それだけを成し遂げる者は何かしら踏まえて行うことが多かったからだ。
 中でも彼女は憑依から解放されるかも分からない幼馴染みを思って行動するなんて健気だった。そこまで昔から知る者のピンチは救いたくなるのな疑問である。

 ※    ※    ※

 それから交戦は無事に終わる。交戦して残った被害の跡は国に申請することで工事は任せられる。

 それよりも実は今回の様子を陰ながら窺っていた人物が微笑む。謎に包まれた存在は憑依した妖怪が行動する理由にもなっていた。

「面白くなって来たよ。まさか生存保証を得た先が非常に微笑ましい。さて、今後はどうなるかな?」

 今回の行動は監視していた者が大きく影響する。そこに起きる影響が英助を希望していたが叶わなかった道を辿らせてくれる。

 これから英助が参戦する。幾度の交戦を迎えて掻い潜って行く中で大きく成長と理解を得る。それがもたらす未来は英助からどんな気持ちを起こされるのだろうか?
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