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しおりを挟むどのぐらい考え込んでいたのか、髪を少し引かれる感覚に意識を戻す。
「何を考えているの?」
思ったよりも近くに、記憶より少し大人びた表情のランドルフ殿下がいた。ドキリとしたのは、誰かに似ているからなのか。
殿下の指が耳元をくすぐるように通る。
「ぼくのことだといいな」
心の内を覗かれているようで、とっさに顔を横に背ける。
ふふふ、と笑いながらランドルフ殿下の声が近づいてくる。今にも耳に息がかかりそうなほどの距離だ。
「”マリエッテ。私を見て”」
その声は、先ほどまで考えていた人の声で。
思わず正面に顔を戻せば、そこにはしてやったり顔のランドルフ王子がいた。好奇心旺盛な瞳を輝かせているところは、全く似ていない。
「どう?似てた?ドキッとした?」
「似てません。してません」
「えー。顔はそこそこ兄さんに似てるし、好みの範疇でしょ?何が足りないの?」
先ほどまでのむせ返るほどの妖しげな空気もどこかに飛んで、いつものお調子者に戻っている。
「ランドルフ殿下は、そもそも私のことを好きじゃないからですよ。そういう時はときめかないものなのです」
「大好きだよ!姉として。兄さんの前で、ぼくを選んでって言ったのは本当だし!」
ぷんぷんと膨れる様子が大変可愛らしい。
「だって腹立つでしょ。王族だからって、マリエッテに愛されて調子に乗ってるんだよ。あげくに悲しませてさ」
誰の事と言わなくても、誰のことを言っているのかわかってしまうことに苦笑いが出てしまう。
「もう昔のことですから」
「それだよ。マリエッテったら、後ろ向きに行動力があるんだから!どうせなら正面突破すればいいのにさー」
「お兄様、マリエッテお姉さまをいじめないで!」
「いじめてないさ!口説いてるんだよ」
「お、おやめください!」
ご機嫌だったエルシー様も、ランドルフ殿下には気安くなるようでまた二人で言い合いだ。すっかり騒がしくなってしまったが、少し離れたところで待機する護衛や侍女たちは和やかな空気だ。
「ぼくも”お姉様”が悲しんでるのはいやってこと。ね、じゃあ兄さんじゃなくて、ローマンにしておこうよ。いいやつだよ!」
「また、もう。ローマンもいい迷惑ですよ」
どうやらランドルフ殿下はローマンのことをいたく気に入っているらしい。そういえば、先日もローマンをおすすめしていた。
ローマンもいつまでも婚約者を決めないから、やり玉にあがるのだ。
いつものように流せば、ランドルフ殿下は呆れたように大げさに肩を落とした。
「はー、魔女の秘薬ってやつで惚れ薬でもあればいいのにな」
「お兄様ったら魔女をそんな風に使おうとするなんて!」
「エルシーの絵本では魔女は荷物を運んでいたじゃないか。御用聞きもやるんじゃないか」
「絵本は絵本ですっ!魔女を使おうとするなんて、罰当たりだわ」
エルシー様は魔女をモチーフにした絵本を気に入っているようで、何冊も所蔵している。
この国では、魔女は気まぐれな猫のように自由で、弱き者を助けるような存在として伝わっているのも、きっと絵本が一役買っているだろう。
もちろん架空の存在として、だ。
「あーあ。もし本当にいたら、王国相談役とかになってくれないかな」
「お兄さま、お隣の国では魔女は災いの元という言い伝えがあるのですよ。そんなことを言っていたら、助けに来てくれないかもしれないわ」
「うちの国にいる魔女はきっと気の利く魔女だって」
なんのかんのと言い合っている二人を仲裁するのに気を取られ、近くまで来ていたことに気付かなかった。
複数人が草を踏みしめる音、鎧が擦れる音、そして声が届き、ピタリと会話は止まる。
「───あら、いやだ。泥棒猫がこんなところで発情しているわ」
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