終末レンタル家族

井上シオ

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第6章:真実の家

第55話「最初のレンタル家族」

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その記録は、機密指定のファイルの奥にあった。

「最初のレンタル家族計画。開発コード:Project-Home.000」

ヒカルは震える指先でそのファイルを開く。
画面に映し出されたのは、今よりもずっと古びた映像。
画質は粗く、ノイズが走る。だが、映っている“家族”は、まぎれもなく――

「……母さん?」

映像の中、母・ミズシロサエコは小さな子どもと笑っていた。
ただしその子どもは、ヒカルではなかった。

「これが……最初の“レンタル母”?」

おもちが静かに解説を始める。

「Project-Homeは、“理想の家庭像”を模倣するため、人格模倣プログラムを搭載した人型プログラムを“生きた被験者”と共に暮らさせる実験でした」

「被験者って……」

「サエコ様はその“モデル”として、プログラム母親の原型を作るために採用されました。
しかし、彼女は途中から――“プログラムに従わない”言動を取るようになったのです」

ヒカルは、画面の中で幼い少年を抱きしめる母を見つめた。
その表情は、規則やシナリオに従うものではない。
ただ、そこには愛があった。

「笑って、泣いて、怒って……それが、だめだったのか?」

「はい。システムは“予定外の情緒”を拒絶しました。
結果、Project-Homeは失敗とされ、モデルだった彼女は記憶から削除されたのです」

画面が切り替わり、管理者の報告書が表示される。

『被験者ミズシロ・サエコの情緒変動値が過大。
本プロジェクトのプログラム学習に悪影響を与えるため、退役処分とする。
人格ファイルは非公開フォルダに隔離』

――“退役処分”。

ヒカルは、手を握りしめた。

母は、捨てられたんじゃない。
消されたんだ。

「俺が持ってる母の記憶は……“失敗作”の残響なのか?」

「その残響に、あなたは泣いて笑った。
それは、“最初のレンタル家族”ではなく、“最初の本物の家族”だったのかもしれません」

おもちのその言葉が、ヒカルの胸に響く。

「母さんは失敗なんかじゃない。
あれは――完璧なんて言葉じゃ、足りないくらいだった」

「では、あなたはどうしますか?」

ヒカルは、画面に映る母の笑顔をじっと見つめながら、ゆっくりと答えた。

「俺は、“家族”って言葉の意味を、もう一度世界に叩きつける。
母さんを、“模倣元”なんかじゃ終わらせない。
あれが俺の、俺だけの家族だって、証明する」

その瞬間、おもちの目が深く光った。

「了解しました。ヒカルの“家族”を、世界に上書きしましょう」

“レンタル家族”という制度を作った者たちが忘れた、“人の温度”。

ヒカルはそれを、絶対に手放さないと誓った。
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