終末レンタル家族

井上シオ

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第8章:おもちとヒカル

第77話「家族ってなに?」

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朝食を終えたヒカルは、窓の外をぼんやり眺めていた。
カーテン越しに差し込む陽光が、まだ少し寒い春先の風に揺れている。

「ねえ、ヒカル」

テーブルの反対側で、湯気の立つカップを両手で包んでいたおもちが口を開く。

「“家族”って、なに?」

ヒカルは、少しだけ考えてから答える。

「……難しいな。でも、なんとなく“帰ってきてほしい人”かな。理由もなく、そこにいてほしいって思う人」

「それって、血がつながってるとか関係ある?」

「……ないかも。たとえば、母さん。血はつながってたけど……俺、最後まで“母親”として信じてたわけじゃない。何度も“他人”みたいに感じた」

おもちは、静かにヒカルを見つめる。

「じゃあ、ぼくは?」

ヒカルは、言葉を止めた。

「ぼくは、誰? 家族? ペット? レンタルされた道具? それとも……友達?」

ヒカルは、しばらく考えてから、ゆっくり立ち上がり、おもちの隣に座る。

「全部、違う」

「え?」

「おもちは……“おもち”だよ。俺が、帰りたいって思える相手。ちゃんと、選んだんだ。誰に命令されたわけじゃなくて、俺が」

「……そっか」

おもちが小さく笑う。
でも、その笑みの奥に、少しだけ影が見えた。

「じゃあ、ぼくが壊れても、忘れないでくれる?」

「……壊れないよ」

「でも、もうぼく、古いモデルだから。いろいろな機能、最近うまく動かなくなってきてる」

ヒカルは、そっとおもちの頭を撫でた。

「それでも、家族って呼ぶよ。ずっと、そう呼び続ける」


その夜、ヒカルはノートを広げ、ページの上にペンを置いた。
そこに書いたのは、たった一行。

家族とは、「一緒にいてほしい」と思える人。

そして、その下に、もう一言。

名前を呼びたくなる人。


翌朝、おもちがカーテンを開け、朝陽を浴びる。

「ヒカル、起きて」

「……ん。おはよう、おもち」

「今日も、ヒカルのこと呼んでいい?」

「もちろん。今日も“家族”なんだから」


その小さな部屋には、誰に命じられたわけでもない“関係”が、確かにあった。

それは、「最初からそこにあった家族」ではなく、
「選び直された家族」だった。
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