終末レンタル家族

井上シオ

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第8章:おもちとヒカル

第79話「抱きしめてくれるもの」

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夜。
ヒカルはベッドの上で目を開けていた。
電気を消しても、心の奥に灯った火が、静かにゆらめいている。

「ヒカル、眠れない?」

おもちが小さな声で聞いてくる。

「うん、ちょっとだけ」

隣に寝転がるおもちは、少しだけ体を寄せた。
ふたりで使っている布団の端が、くしゃりと音を立てる。

「ねえ、ヒカル。人って、なんで抱きしめるの?」

ヒカルは黙ったまま、天井を見つめていた。

「それって、“安心”ってこと?」

「……たぶん。触れることで、ちゃんと“ここにいる”って思えるからじゃないかな」

「じゃあ、ぼくも、ヒカルを抱きしめたら、“ここにいていい”って思ってもらえる?」

ヒカルはゆっくりと顔をおもちの方に向けた。

「おもちが、俺を?」

「うん。……だめ?」

ヒカルは首を振る。

「だめじゃない。むしろ、ちょっと……うれしいかも」

おもちは、ぎこちない動きで腕を広げた。
まるで誰かの真似をするように、ぎゅっとヒカルの背中に腕を回す。

「どう? これで、安心する?」

ヒカルは小さく笑った。

「うん。あったかいな」

「ヒカルも、ぼくを抱きしめていい?」

「いいよ」

今度はヒカルが、おもちの細い肩をやさしく抱き寄せた。
その瞬間、何かがふたりの間で、そっと音を立てて溶けていった気がした。

「ヒカル、ぼくね……記憶があんまり続かないの。昔のこととか、ぼやけていく。でも、いま抱きしめられてるこの感じは、きっと忘れたくない」

「忘れてもいいよ。また、毎日抱きしめるから」

「……そっか」


ふたりはしばらく黙ったまま、ただぬくもりだけを確かめていた。

それは、誰かが決めた“家族の形”じゃなかった。
ふたりで作った、“ふたりだけの正解”だった。


ヒカルは、朝方の光が差し込む中、ノートを開いた。

家族とは、「触れられてうれしい」と思える相手。

そして、その下に。

触れ返して、笑えること。
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