完全気配遮断男の異世界ハイディングライフ

餡乃雲

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68話

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 翌日も俺とオリビアさんはルベン議長、鉱業ギルド、レイモンドさんのカフェ、兵士団のみなさんなど知り合いに結婚の報告をして回ることにした。

 今から10日後に出立日と決め、その前日に教会での儀式と結婚パーティをすることにした。結婚パーティはレイモンドさんのカフェを小金貨1枚で貸し切り予約。お酒や料理も特別にオードブル形式で出してくれるそうなので、それも報告と併せて案内した。

 俺はこちらの世界に来た当初宿でお世話になったカーミラさんにも報告することにした。オリビアさんに半ば強制的に宿を変更させられたが、カーミラさんは俺の酷い陰キャを見兼ね「まずは名前を憶えろ」と言ってくれた。その甲斐あってか、今こうしてオリビアさんと結婚できるまでに成長することができた。

 色々あるのかもしれないけど、何も言わずに町を去るのは違うと思うからな。オリビアさんもわかってくれた。

 カーミラさんは相変わらずあのしみったれた宿屋のカウンターで、暇そうに咥えタバコをしながら新聞を読んでいた。

「カーミラさん、お久しぶりです」
「ああ、あんたかい。今更何の用だい?」
 チラリとオリビアさんに視線をやるカーミラさん。
「俺、この人と結婚することにしました。あの時カーミラさんが名前を憶えろって言ってくれたおかげで俺にも嫁さんができました。本当にありがとうございました!」

 俺は45度の綺麗なお辞儀をした。

「お熱いことで、しっしっ。というかね、私には今ダンディな彼がいるんだよ。あたしにとっちゃ、あんたは過去の男さ。気にせずよろしくやるんだね!」

 カーミラさんはウザそうにそう言った。
 するとちょうど宿屋の入口からガタイの良いB系ギャランドゥー彼氏が入ってきた。

「あら~、あんたお帰り~」
 ぶちゅ~。カーミラさんはこれ見よがしに彼氏と熱いキッスをして俺に見せつけてきた。

「9日後結婚パーティをレイモンドさんのカフェでやることになったので、良かったら来てください。酒代はこっちで出しますので」
「あいよ。タダ酒が飲めるってんなら、行ってもいいさね。ねえダーリン?」

 ということで、カーミラさんたちも俺たちの結婚パーティに来てくれることになった。これで何も思い残すことなくこの町を出立できそうだ。


 ……


 そこからは大忙しだった。出立すると決めてしまった後に、あれもやっておきたいこれもやっておきたいということが出てくる。

 結婚パーティに向けた余興の練習をオリビアさんとオリーブ畑に出向きアコギ片手にやったり。完全気配遮断の効果が及ばないオリビアさんをどうやって守るか頭を悩ませてみたり。

 特に俺は旅立つ前の装備整える準備として、オリビアさんの防御力を高めることを頑張った。


 そこで俺が考案したのが 【ファランクス・システム】だ。ミスリルシールドとミスリルの骨組みで作ったシェルター。オリビアさんは商人のジョブなので戦闘には不向きなので、とちあえず戦闘になったらそのシェルターに入ってもらって、マメのハイディング弾丸発射で守らせるというシステムを考案してみた。

 作っていてこれが中々面白くて、移動できるようにしたり、中から射撃できたりしたら面白いかも! と次々にアイデアが沸いてきてクリエイターモードになる俺。こうなると途端に俺は自分の世界に入り込む。


 ついついオリビアさんそっちの気で【ファランクス・システム】に夢中になっていると、「わたしのことなんかどうでもいいんでしょ!」とそっぽを向いてしまったので、「そんなことないよ~、オリビアさん大好きだよ~」となだめつつ、レイモンドさんのカフェで一番高いパフェをご馳走するハメになってしまった。


 ――女心と秋の空。


 幸せそうにパフェのアイスクリームをスプーンですくう彼女の顔を見ていて、ふとそんな言葉が浮かんだ。

 秋の天気のようにすぐに移ろう女心を男が理解するのは難しい。

 これは主に恋心を示すときに使う言葉だが、夫婦となった後だって女性は男性の感情の機微には敏感なのだということが良くわかった。

 俺にはこれまで恋人がいたことはあるが、結婚はしたことがない。未踏破の地図を目の前にしているようで、次にどんな知らない経験が待っているのか。

 俺はそれが楽しみで仕方がなかった。
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