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29話
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もちろんその信用できそうな人物とはルベン議長のことだった。彼の人となりはこれまで見てきてある程度分かっているつもりだ。
ちょっと愛娘に対して親バカなところはあるが、基本的にはきちんとした理念をもって町の運営に当たっているような人物だと俺は評価している。そしてその権力基盤も盤石なので、揉め事が起きたときの後ろ盾にもなってくれるだろう。
むしろ愛娘に対して親バカなことが信用に値するだろう。なぜなら俺はその愛娘が拉致されそうになっているところを助けているからだ。
目立ちたくない、ずっと気配を無くして認識されたくないと俺一人が願っても、それは大きな力が動けば脆くも崩れ沿ってしまうもの。後ろ盾を作ることは俺のハイディングライフにとってかなり重要なことだ。
というわけで彼に相談するのが一番良いだろう。
町に戻った俺は、鉱業ギルドには向かわずルベン議長の邸宅に来ていた。
門番はいつもの女兵士ミランダさんと男の兵士さんが丁度交代するところだった。
「こんにちはハイドさん。旦那様に用かい?」
「こんにちはミランダさん。ちょっとルベン議長にお話しがありまして、お取次ぎ願えませんでしょうか? そちらの方は?」
俺は初対面の人の名前は覚えることにしたからな。
「ああ、こいつはイワン。丁度今交代なのさ。ちょっと執事のアルフレドに取り次いでくるから、ここで待ってな。じゃあイワン、後は頼んだよ」
「……ああ。じゃあハイド、俺のことはイワンと呼んでくれ」
俺はイワンと握手をしたのだった。
それから待つこと数分、ルベン議長との面会できることになった。
「お忙しいところすみません、ちょっと相談がありまして……」
「丁度仕事が一区切りしたところだ。全然かまわないさ。どんな相談かな?」
「ちょっとこれを見ていただきたいのですが……」
そう言ってテーブルの上に先ほど掘ったCランクの鉱石を出そうとした瞬間、ちょっと何か嫌な感じがして、俺はとっさにDランクのメテオライト鉱石を出した。
「ガープ銀鉱山を掘っていたらこんなものが出まして……、もしかするとご存じないかと」
「ふむ、これはメテオライト鉱石ですな。マイナーの鉱石ドロップというスキルがあれば銀鉱脈を掘ることで、銀と同じDランクであるメテオライト鉱石が稀に落ちることがあります。ラッキーでしたな」
「なるほど、無知を晒すようですみませんでした。もしかすると新しい発見なのではないかと早とちりしてしまったようです。お騒がせいたしました……」
俺はそう言ってルベン議長の邸宅を後にした。
なぜルベン議長に秘密を打ち明けなかったのか。それは俺にも明確な答えがあるわけではない。
確かに自分がルベン議長にとって利益をもたらす存在だと打ち明けることで、俺は間違いなく取り立てられ、後ろ盾となってくれることだろう。もしかするとポンと屋敷を与えられ、色々な人にチヤホヤされ、豊かな暮らしが送れるようになる未来まで見えてくる。
でもルベン議長に打ち明けようとしたとき、決定的に何かが違うと俺の第六感が告げてきた。本当にゾワリと背筋が寒くなるような感じがした。俺が送りたいこの世界での生活はそういう類のものじゃないんだ。
神様が俺に完全気配遮断のスキルを与えてくれた意味。
俺自身がどんな人生を望んでいるのか。それをきちんと考えて行動しなければ、間違いなく後悔するだろう。
今ここでどんなに答えを探してもおそらく見つからない。走りながら考えるしかない。
だけどその答えが出るまで、軽々に目立つ行動は控えなければ。落とし穴はいつだってどこだってそこに口を開けて待っている。落ちたら二度と這い上がることはできない類のものだってこの世の中にはあるということを、俺はこれまでの人生経験の中で嫌というほど知っている。
俺は未だに自分のことを何もわかっちゃいないんだ。
坂の上から見る夕暮れの街並みが綺麗だった。うすらぼんやりと顔を出す蒼月が家路につく俺を静かに見下ろしていた。
ちょっと愛娘に対して親バカなところはあるが、基本的にはきちんとした理念をもって町の運営に当たっているような人物だと俺は評価している。そしてその権力基盤も盤石なので、揉め事が起きたときの後ろ盾にもなってくれるだろう。
むしろ愛娘に対して親バカなことが信用に値するだろう。なぜなら俺はその愛娘が拉致されそうになっているところを助けているからだ。
目立ちたくない、ずっと気配を無くして認識されたくないと俺一人が願っても、それは大きな力が動けば脆くも崩れ沿ってしまうもの。後ろ盾を作ることは俺のハイディングライフにとってかなり重要なことだ。
というわけで彼に相談するのが一番良いだろう。
町に戻った俺は、鉱業ギルドには向かわずルベン議長の邸宅に来ていた。
門番はいつもの女兵士ミランダさんと男の兵士さんが丁度交代するところだった。
「こんにちはハイドさん。旦那様に用かい?」
「こんにちはミランダさん。ちょっとルベン議長にお話しがありまして、お取次ぎ願えませんでしょうか? そちらの方は?」
俺は初対面の人の名前は覚えることにしたからな。
「ああ、こいつはイワン。丁度今交代なのさ。ちょっと執事のアルフレドに取り次いでくるから、ここで待ってな。じゃあイワン、後は頼んだよ」
「……ああ。じゃあハイド、俺のことはイワンと呼んでくれ」
俺はイワンと握手をしたのだった。
それから待つこと数分、ルベン議長との面会できることになった。
「お忙しいところすみません、ちょっと相談がありまして……」
「丁度仕事が一区切りしたところだ。全然かまわないさ。どんな相談かな?」
「ちょっとこれを見ていただきたいのですが……」
そう言ってテーブルの上に先ほど掘ったCランクの鉱石を出そうとした瞬間、ちょっと何か嫌な感じがして、俺はとっさにDランクのメテオライト鉱石を出した。
「ガープ銀鉱山を掘っていたらこんなものが出まして……、もしかするとご存じないかと」
「ふむ、これはメテオライト鉱石ですな。マイナーの鉱石ドロップというスキルがあれば銀鉱脈を掘ることで、銀と同じDランクであるメテオライト鉱石が稀に落ちることがあります。ラッキーでしたな」
「なるほど、無知を晒すようですみませんでした。もしかすると新しい発見なのではないかと早とちりしてしまったようです。お騒がせいたしました……」
俺はそう言ってルベン議長の邸宅を後にした。
なぜルベン議長に秘密を打ち明けなかったのか。それは俺にも明確な答えがあるわけではない。
確かに自分がルベン議長にとって利益をもたらす存在だと打ち明けることで、俺は間違いなく取り立てられ、後ろ盾となってくれることだろう。もしかするとポンと屋敷を与えられ、色々な人にチヤホヤされ、豊かな暮らしが送れるようになる未来まで見えてくる。
でもルベン議長に打ち明けようとしたとき、決定的に何かが違うと俺の第六感が告げてきた。本当にゾワリと背筋が寒くなるような感じがした。俺が送りたいこの世界での生活はそういう類のものじゃないんだ。
神様が俺に完全気配遮断のスキルを与えてくれた意味。
俺自身がどんな人生を望んでいるのか。それをきちんと考えて行動しなければ、間違いなく後悔するだろう。
今ここでどんなに答えを探してもおそらく見つからない。走りながら考えるしかない。
だけどその答えが出るまで、軽々に目立つ行動は控えなければ。落とし穴はいつだってどこだってそこに口を開けて待っている。落ちたら二度と這い上がることはできない類のものだってこの世の中にはあるということを、俺はこれまでの人生経験の中で嫌というほど知っている。
俺は未だに自分のことを何もわかっちゃいないんだ。
坂の上から見る夕暮れの街並みが綺麗だった。うすらぼんやりと顔を出す蒼月が家路につく俺を静かに見下ろしていた。
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