シャーデンフロイデ(Schadenfreude)

餡乃雲

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第1話

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 俺の名前は馬場巨人(ばば つよし)。16歳高2。

 かろうじて学校には通っているが、ゲームアニメ漫画大好き、帰宅部の超インドア派、スクールカースト底辺。

 学校は普通、成績も普通、見た目も運動神経も普通、普通普通のオンパレードであることは自覚できるくらいの男子高校生だ。

 巨人はジャイアントとも読めるので、英語の授業でアイアムジャイアント馬場と自己紹介するのが鉄板の自虐ネタだった。

 両親は強く逞しく育ってほしくて「つよし」と名付けたそうだ。

 小さい頃からあまりにもジャイアント馬場といじられるので、英語を覚えて以降クラスの自己紹介では必ず自虐ネタを披露することにしていた。

 こうすれば変に名前をイジられてイジメられることもなくなるからな。

 人は他人の不幸を密の味と思うらしく、たしかシャーデンフロイデとか言ったっけ。自分を思いっきり落としてピエロになって笑いをとるのだ。

 一旦笑いにしてしまえば、イジメられることはなくなる。

 はいそこ、哀れみの目で見ないでくれ。これもスクールカースト底辺住民の立派な処世術なのさ。

 そんな俺の勇姿を見た両親は、名前の通り強くなったと喜んでくれた。

 なので俺は自分の名前に思い入れがあるし、名付けてくれた両親のことは割と好きだ。

 うちの家族は、夜中にカップ麺すすりながらゲームやアニメを見てると、「ツヨシしっかりしなさい! あんたも何か言ってやりな!」と俺を叱り父ちゃんにまで矛先を向ける肝っ玉母ちゃん。

 「ツヨシ……まあほどほどにな……」と哀しげな目を向けるちょっと情けない気弱な父ちゃん。

 あとは「私の部屋に入らないで!」が口グセの思春期に突入したばかりの妹という、どこにでもありそうな平凡な四人家族だ。

 そんなどこにでもいる普通の高校生の俺は、勉強もろくにせず家でゲームをしたり、漫画やアニメをみて過ごす毎日だった。

 それでも俺は本当に充実した生活を送っていて、一生このまま暮らしたいとすら思っていた。

 世の中には戦争だ飢えだと言われているようなところがある中で、毎日平穏無事に暮らせるだけ神様に感謝しないといけないってもんだ。

 とまあ、そんな俺にも厨二病「だった」時期がありました。

 アニメに憧れて、自分も世界を変えるような何か特別な存在になれるんじゃないか、みたいな。

 当然そんな漫画やアニメのような展開が高校生になる俺に訪れるわけもなく、このまま高校を卒業して、親のスネをかじりながら適当なFラン大学にでも言って、ショボイ会社に勤めるかフリーターにでもなって、冴えない生涯を終えるというゴールが完全に見えている。


 でも不満はないのさ。


 お馴染みのあの作品もこの作品も物語として読む分には面白いが、いざ自分が主人公になったら誰だって勘弁してほしいと思うはずだ。

 トラックにひき殺されて誰も知らない場所で転生したり、少年探偵が毎度のように殺人事件に巻き込まれたり、例をあげれば枚挙にいとまがない。

 だから俺はこのままおじいちゃんになるまで、適当に部屋でカフェラテでも飲みながら、漫画やラノベでも読みながら過ごさせてもらう。

 厨二病の時期を脱し高校生になった俺は、そんなふうにどこか世の中を冷めた目で見ていた。



 ……だが真夏のある日のことだった。

 俺は学校帰りにいつものコンビニに立ち寄り、ガリガリ君を買って水分を補給しつつ、絶賛ハマっているゲームの攻略法を考えながら下校していた。

 昨日のほとんど徹夜だったゲームプレイのおかげで疲れていたのだろう。下を向いて歩いていた俺は、こちらに突っ込んでくるトラックに気づかなかった。そして俺の背後から女の子の悲鳴があがる。

 思わず視線を上げると突っ込んでくるトラックが見えた。次の瞬間俺は無我夢中に悲鳴をあげる女の子を歩道脇の草むらに突き飛ばす。直後ヘビー級の衝撃が体を襲い、空中を舞う。

 視界がスローモーションに流れる中、最期に見たのはあの老舗下着メーカーのロゴが入ったトラックの荷台だった。ああ、このトラックにはセクシーな下着が積まれているのかなあ……などとアホな考え頭をよぎり、これはきっと走馬灯なんだろうなと思ったところでアドレナリンで思考が超加速した俺の脳はその機能を停止したのだった。


 ……


 そして気がつけば、俺は見知らぬ世界にいた。やけに空気が澄んでいて、インドア派の高校生に似つかわしくない澱みきった俺の心が浄化されそうなほどだ。

「どこだここは」

 テンプレ通りのセリフを吐く俺の目の前に、突然グラサン、カラフルなアフロと長いヒゲに左手にキャンディーステッキという出で立ちの、ポップでファンキーなジジイが現れた。

「誰だあんた」

 怪しさ満点のジジイに当然の疑問をぶつける俺。

「ずいぶんじゃのう? 覚えておらんかもしれんが、お主はトラックから女の子を庇って交通事故で死んだのじゃ。そして死の間際徳を積んだお前には、望みを叶える権利があるのじゃ。あとワシは神様なのでそこのところヨロシク!」

 杖をもっていない方の右手でチェケラポーズをする自称神様。だがまあ、あの状況なら死んだってのは間違いなさそうだし、死んだあとに会ったのが神様ってんなら、まあ信じてもいいのかもな。

「確かにあの時女の子を突き飛ばしてたな。てことはあの子は無事だったってことか」

「むろんじゃ。それはさておき何になりたいとか、望みを言うのじゃ。人間はもちろん動物にだって転生できるぞい」

 転生ねえ……。ここは一発ボケるか。俺はクラスでピンチのときは自分を落とすような自虐ネタで笑いをとって生き残ってきた。ここはスクールカースト底辺住民の処世術を活かすときだ! 何かネタはないか?

 その瞬間、俺の脳裏に死の間際に見たトラックにプリントされたちょっとえっちな下着がフラッシュバックしたのだった。

「それじゃあ、パンツに転生させてもらえますか?」

 ……なんてな。

 神様はどんなツッコミをするのかと楽しみにしていたら、どうやら様子がおかしい。ウケるどころか真面目な表情の神様は長いヒゲをさすりながら。

「なるほど意思ある成長する魔道具というわけじゃな……面白そうじゃ……。ではあのスキルとこのスキルもつけて……。【魔道具創造】!! ぬううん!!」

 と独り言をぶつぶつ言っていたかと思うと、おもむろに青白い光を左手にもつキャンディーステッキから発射。

「じょ、冗談ですよ!! やっぱなし!!」
「なぬ!? もう転生魔法を使ってしもうたから後戻りはできぬぞ!?」

 青白い光が俺の胸部にヒットし体全体を包み込んだ。

「パンツになりたいわけねー(だろーーー!!!!)」

 俺は神様から叩きつけられた青白い光に、ものすごい速度で分解されていった。


 そして叫びの途中で俺の喉が分解されてしまったため、俺は最後を言葉を発することができずに消滅した。
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