373 / 437
アリシア外伝2 掴む手
アリシア外伝2 掴む手 9
しおりを挟む
そうやって、平和に時が過ぎ去っていった。
戦争による被害は甚大だったけれど、アレス帝国も、ヴァティール様に魔道兵団を叩き潰されて以来おとなしい。
復興も、諸外国の手を借りながらではあるが急ピッチで進んでいた。
一方ヴァティール様は、今も幽閉同然の扱いだ。
城の中やその付近をこっそりうろつくことは出来ても、勝手に遠出することは出来ない。
けれどそんな生活にも慣れ、私たちはそれなりに幸せだった。
「おいでアリシア」
穏やかな声に呼ばれてみれば、窓から見える、一面の夕焼け。
貴賓室は最上階にあるので、眺めは夕刻でなくとも、とても良い。
しかし夕刻はまた格別で、晴れている日は、二人で夕日を眺めることが多かった。
「綺麗ですね」
それは、飽きることの無い素晴らしい景色。
新しく植林された木々も、城壁も、遠くにかすむ家々さえ優しい赤に染まって美しい。
まるで、ヴァティール様の瞳の色のように。
小さい頃は、夕刻は宿のお手伝いをしていた。
一番忙しい時間帯なのだ。
夕日が出ているかどうかぐらいはもちろんわかったけれど、ゆっくりと眺めたことなど無い。
奴隷時代はなおさらだ。
城に来てからだって忙しくて、こんな風に穏やかにただ夕日を見るなんて、ヴァティール様の侍女になってからではないだろうか?
美しい景色に、目を細めるヴァティール様。
本当に見せてあげたかった相手は、私ではなくアッシャちゃんだったかもしれないけれど。
でもヴァティール様は、私とアッシャちゃんを比べるようなことはなさらなかった。
そもそも、比べようも無いのだろうか?
ヴァティール様は魔物。人間ではない。
そして、アッシャちゃんのことにはあまり触れられたくないようで、多くは語らない。
だからアッシャちゃんがどんな子だったのか、私にはわからない。
でもヴァティール様の子供なのだから、きっと優しく陽気な子供だったのに違いない。
魔物であるヴァティール様は、時々、人間には出来ないとっぴな行動もなさる。
なので、エルは相変わらずとても心配していた。
けれどヴァティール様のそれは、私にとって不快な行動ではなかった。
その全てに、理由も優しさもあったからだ。
真夜中に、私の私室にいきなり転移していらしたこともあった。
とてもビックリしたけれど、それは、私が過去の夢――――奴隷時時代の悪夢にうなされていたからのようだっだ。
「一人で泣くな。ワタシがそばに居る。
オマエの悲しみは、ワタシが全て引き受ける」
眠っている間に何かを口走ったのか、ヴァティール様は、私の悪行をすべてご存知だった。
でも、私を責めたりはなさらない。
「苦労したなァ……悲しい思いをしたなァ…………」
そう言って、ヴァティール様は、いつまでも泣きじゃくる私を抱きしめ、髪をなでて下さるのだ。
戦争による被害は甚大だったけれど、アレス帝国も、ヴァティール様に魔道兵団を叩き潰されて以来おとなしい。
復興も、諸外国の手を借りながらではあるが急ピッチで進んでいた。
一方ヴァティール様は、今も幽閉同然の扱いだ。
城の中やその付近をこっそりうろつくことは出来ても、勝手に遠出することは出来ない。
けれどそんな生活にも慣れ、私たちはそれなりに幸せだった。
「おいでアリシア」
穏やかな声に呼ばれてみれば、窓から見える、一面の夕焼け。
貴賓室は最上階にあるので、眺めは夕刻でなくとも、とても良い。
しかし夕刻はまた格別で、晴れている日は、二人で夕日を眺めることが多かった。
「綺麗ですね」
それは、飽きることの無い素晴らしい景色。
新しく植林された木々も、城壁も、遠くにかすむ家々さえ優しい赤に染まって美しい。
まるで、ヴァティール様の瞳の色のように。
小さい頃は、夕刻は宿のお手伝いをしていた。
一番忙しい時間帯なのだ。
夕日が出ているかどうかぐらいはもちろんわかったけれど、ゆっくりと眺めたことなど無い。
奴隷時代はなおさらだ。
城に来てからだって忙しくて、こんな風に穏やかにただ夕日を見るなんて、ヴァティール様の侍女になってからではないだろうか?
美しい景色に、目を細めるヴァティール様。
本当に見せてあげたかった相手は、私ではなくアッシャちゃんだったかもしれないけれど。
でもヴァティール様は、私とアッシャちゃんを比べるようなことはなさらなかった。
そもそも、比べようも無いのだろうか?
ヴァティール様は魔物。人間ではない。
そして、アッシャちゃんのことにはあまり触れられたくないようで、多くは語らない。
だからアッシャちゃんがどんな子だったのか、私にはわからない。
でもヴァティール様の子供なのだから、きっと優しく陽気な子供だったのに違いない。
魔物であるヴァティール様は、時々、人間には出来ないとっぴな行動もなさる。
なので、エルは相変わらずとても心配していた。
けれどヴァティール様のそれは、私にとって不快な行動ではなかった。
その全てに、理由も優しさもあったからだ。
真夜中に、私の私室にいきなり転移していらしたこともあった。
とてもビックリしたけれど、それは、私が過去の夢――――奴隷時時代の悪夢にうなされていたからのようだっだ。
「一人で泣くな。ワタシがそばに居る。
オマエの悲しみは、ワタシが全て引き受ける」
眠っている間に何かを口走ったのか、ヴァティール様は、私の悪行をすべてご存知だった。
でも、私を責めたりはなさらない。
「苦労したなァ……悲しい思いをしたなァ…………」
そう言って、ヴァティール様は、いつまでも泣きじゃくる私を抱きしめ、髪をなでて下さるのだ。
0
あなたにおすすめの小説
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
届かない「ただいま」
AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。
「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。
これは「優しさが奪った日常」の物語。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる