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第5章 外の世界

2.外の世界

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 今は深夜。

 無人のはずのその場所に、明かりがともっていた。
 窓からそっと覗くと、ジェーンおばさんが何かを作っている。

 小さい頃から馴染んでいる、ジェーンおばさんならきっと大丈夫。
 俺は思い切って、リオンを連れて中に入った。
 今日を逃せば、また計画を練り直さなくてはならなくなるからだ。

 脱出が遅くなればなるほど、俺もリオンも命の危険が増してくる。
 簡単には仕切りなおせない。

 おばさんはドアの開く音を聞いて、ぎょっとしたように振り向いた。

「ど、どうなさいました王子様? こんな遅くに……」

「え? うん。何か寝られなくて散歩してたら、ちょっとお腹すいちゃって。明かりがついてたから、来てみたんだ」

 嘘をつくのは心苦しかったが、仕方ない。
 俺とリオンが生き残れるかどうかの瀬戸際なのだから。

「まあ、そうなのですか? 相変わらずですね、王子は。
 でもこんな時間におやつを差し上げたことがばれたら、私が王妃様にしかられますよ」

 おばさんは、いつものような優しい口調で言った。

「ところで王子、その女の子は?」

 おばさんがリオンに視線を向ける。
 あ、やっぱり駄目だったか。髪も短く切ったし、何とか男の子に見えると思ったんだけどなぁ。

「……うん、昨日来た遊戯団の見習いの子なんだけど、国元が恋しいって泣いてたから、一緒に連れてきたんだ」

 俺は心を落ち着けながら、適当な事を言った。

「そういえば、以前にもそういう事がありましたねぇ。
 はい、お嬢ちゃん、お菓子をどうぞ」

 ジェーンおばさんは、戸棚から菓子を出して、リオンに渡した。
 リオンはそれを手に持ったまま、首をかしげている。

「ええ~!! 俺には駄目なのに、リオンにはいいのかよ」

「あたりまえです。
 この子にあげても、私は別に怒られませんから。
 あなた、リオンちゃんっていうの?
 まぁぁ、可愛いわねえ。色白で目が大きくて、お人形さんみたい。
 ほんとにここの王家の方々は、面食いなんだから」

 何? ジェーンおばさん。
 そういう風にじと目で見るのはやめて。
 本当は、リオンは弟なんだってば。

「ね、おばさん。おばさんの方こそ、こんな時間にどうしたの?」

 そう聞くと、おばさんは少し口ごもった。

「……その、私は料理人だからね。昼夜を問わず、研究しなくちゃならないのさ」

 そう言いつつ、すぐ後ろにある銀のトレーを隠すように立つ。
 見覚えのあるそのトレーは、俺が毎朝リオンのかわりに受け取っていたものだ。
 どうやら、地下の秘密部屋に食事を吊り下げていたのは、ジェーンおばさんだったようだ。

「王子、ウロウロするのも社会勉強だと思うけど、世の中にはウロウロしたくても出来ない子供もいるんだよ。
 お菓子を食べられない子供もね。
 さ、こんなところで油売ってないで、部屋に帰った帰った!!」

 おばさんは、俺を追い返そうとする。

 いや、帰れないんだって!!
 俺たち、これから家出するんだって!!

 どうしたものかと思っていると、突然厨房のドアが勢いよく開け放たれた。
 やってきたのは、よく顔を知っている下級兵士だった。

「王子様!! どうしてこんなところへ!!」

 兵士は、驚いたように叫んだ。
 ……しまった。何か不測の事態が起こったようだ。

 もしかして……バレた?

「……おまえこそ、こんな夜中に厨房に飛び込んでくるなんて、どうしたんだ? 
 腹でもへったのか?」

 動揺を悟られないよう兵士に聞くと、彼は敬礼しながら事情を報告し始めた。

「王子様、実は城内に、魔道を使う他国の少年神官が侵入したようです。今、王命により、その賊を探しているところです」

 げ。
 やっぱり、バレている。
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