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第6章 異変

1.異変

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 ここに来て、3ヶ月がたった。

 家事の腕も2人とも上がり、余裕の出来た今は畑も少々作っている。
 結局俺たちは国外には行かず、ココに居ついてしまった。

 里の人々には偽造した素性を話していたが、それには何の疑いも持たず俺たちを懐深く受け入れてくれている。
 どんな辺境であろうと、『善の結界』が無くなろうと――――――我が国の人々は相変わらず心優しかった。

 クロス神官を閉じ込める必要など、やはり無かったのだ。

 弟の白すぎる肌は少し焼けて、健康的な容貌に徐々に変化している。
 それもとても嬉しい。

 最初弟は、酷い人見知りだった。
 弟にとって『外の世界』はまだまだ未知なものが多く、誰かと仲良くしていくすべもほとんど知らない。

 だから、仕方がないのだろう。

 それでも人との触れ合いは、けっこうあった。
 里の人たちが、大人しい弟にも何かと話しかけてくれたからだ。

 そうするうちに、外に出ないと覚えられないような言葉も、ずいぶん覚えていった。

 ここでの生活は、王宮の俺の部屋に隠れ住まわせていた頃とは全く違う。
 あの頃は病的に手放せなかったぬいぐるみも、今ではそれほど執着をみせない。

 リオンは、毎日大きな声を立てて笑うようになった。

 俺が嫌がったので隠れてしていた『神官としての祈り』の回数も、段々と少なくなり、あと一年もすれば、幸せに育ったごく普通の子供と変わらなくなるだろう。

 俺はこの暮らしに、本当に満足していた。


 リオンと耕した畑で、作物が小さな芽を出したころ、異変は起こった。
 夜中だというのに、空がやけに赤い。

 空気取りの小窓から入ったと思われる外の風は、僅かに煙臭さを含んでいた。
 寝床を起きだして外に出てみると、町が、城が燃えている。
 もうもうと上がる煙が、こんなに離れたところまでたなびく勢いだ。

 俺たちがこの鄙びた場所にこもっている間に、何か恐ろしい出来事が起こっていたらしい。

 急いでリオンを連れ、すぐ近くの里に行った。
 もしかしたら、少しは情報が入っているかもしれない。

 しかし、そこには他国の兵士が大勢居た。

 俺は見たことがある。
 書物で目にした、特徴的な色のその鎧。

 あれは我が国とほぼ規模を同じくする、巨大帝国アレスの兵だ。

 装備が略式であることから正規兵ではなさそうだが、私欲に走ったアレス帝国の民兵達により、里でも奪略が始まっていた。

 兵士たちが、無抵抗に等しい里人たちを無残に切り殺していく。
 赤子を抱いた若い母親も、小さな妹を背にかばう幼い兄も、まとめて兵士は突き殺し、笑った。

 まるで獣のようだ。
 同じ人間とは到底思われない。

 戦を好むアレス帝国のうわさを聞いたことは、何度もあった。
 我が国が建国したころには、何度も戦った相手だ。

 しかしアレス帝国は、何度我が国に戦争を仕掛けても敗北し、最後にはウチの属国となって生き延びた。

 ここ50年ほどはエルシオンと相当の距離があるのを良いことに、勝手にうちの国から離反し、近隣国と戦争三昧して国を肥大化させていっていたが、それでも大国である我が国にだけは絶対に手を出さなかったのに……。

 呆然としている間にも、何人もの人たちが切られていく。
 全部合わせても千人と居ない小さな山里だ。このままでは全滅してしまう。
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