127 / 437
第16章 死神
4.死神
しおりを挟む
抗争が始まって間もなく、ウルフが本当は『弱い』事が王にバレた。
というより、アリシアがアルフレッド王にばらしたらしい。
ブラディたちの腕は連日の闘技でかなり上がっていたが、ウルフだけは秘密裏に特訓しても全く強くならなかった。
組織間対立が顕著となった今、ウルフをこのまま戦地にやるのはアリシアとしてはためらわれたようだ。
出会った当初に比べれば、彼女も随分優しくなったように思う。
昔ならウルフが死のうが、生きようが気にも留めていなかったろう。
ここ数年の、平和な歳月が彼女を変えていったのかもしれない。
でも俺は、ウルフのこの件をとても理不尽だと感じていた。
弱ければ大人でも兵役を免除されるというのか。
子供であるリオンは『最前線』で戦っているというのに。
リオンがウルフぐらい弱ければ、きっと戦場に行くこともなかっただろう。
ただの子供のままで居られただろう。
俺はそうであって欲しかったのに。
弱いということがバレたウルフは別に首になるでもなく、親衛隊付きの雑務官に任命された。
今は当たり前のように、俺たちと共に働いている。
普通なら降格されてもおかしくないのに、アリシアの口添えもあってか一介の城詰め兵士よりもむしろ良い待遇だ。
俺はそれを生暖かい目で見ていた。
アリシア自身は色々な技能や情報処理能力を買われ、親衛隊からは抜けて王付きの特別秘書となっている。
俺は腕を認められて親衛隊長に昇格し、主にブラディやアッサム、数人の新入りと共に王城周辺を守っている。
俺や大人たちがそうやって命の危険の少ない仕事をこなしている一方、リオンはその戦闘力ゆえに最も落としにくい敵地を任され続けた。
こんな理不尽なことがあるだろうか?
そんなこんなでモヤモヤしていた頃、俺は王から暗殺隊の後詰を命じられた。
普段は違う部隊が後詰に入るのだが、やっかいな相手の時だけはそういう命令が下る。
はぁ、またか。
俺の心臓は持つのだろうか……。
後方でリオンの心配をしながら待つ時間は本当に長く、生きた心地がしない。
せめて一緒に戦えれば良かったのだが、リオンも王も、それを絶対に認めなかった。
今、俺とリオンは任地に向かうため目立たない馬車に乗っている。
最近俺たちは生活時間帯がずれていて、ゆっくりと二人で過ごせることは稀だ。
だから王が二人きりで過ごせるよう、気を利かせてくれたのかもしれない。
他のメンバーたちは、少しずつ時間をずらしながら同じような方法で今日の目的地に向かっている。
リオンは『暗殺隊の隊長』を任される前、王の居室で他の隊員たちを半殺しにした事がある。
そのためか、他の隊員たちとはかなり微妙な間柄らしい。
だからあいつらとではなく、俺と共に馬車に乗って任地に行けるのは相当嬉しいらしく、ずっと俺のほうを見てニコニコとしている。
ああ、こんな些細な事ですらそんなに嬉しいのか……なんて不憫な。
俺が不甲斐ないばかりに、リオンにはつらい思いばかりさせてしまう。
でも、こんなのはいくら王の命令だとておかしい。
いっそ、このまま二人で逃げてしまおうか?
リオンなら……俺さえ一緒なら、きっとついてきてくれる。
俺はもう15歳を過ぎた。
この地に縛られずとも、どこでだって生きていける。
でもこのままこの地を捨てれば『ガルーダ領域』は、エルシオン王国のように他組織に蹂躙されるだろう。
故国の城の皆や家族の無残な最後が頭をかすめた。
その姿は、俺の脳内で王やアリシアたちの姿へと変化した。
ダメだ。
見捨てていくには俺たちはもう、この組織に深入りしすぎた。
もし離れるのなら、リオンが人を殺すその前に決断しなくてはならなかったのだ。
しかし他の暗殺隊員たちの心の狭さには恐れ入る。
リオンは皆を守るために今、頑張っているのに。
こんなちっちゃい、かわゆい子の過失の1つや2つ、快く許し……せめて快適な環境を提供してやればいいのに。
なんて冷たいんだ。
あんな奴らは一生モテないまま寂しく老後を迎え、孤独死してしまえ。
バーカ、バーカ!!
ムカムカしているうちに、いつの間にか目的地についた。
「兄さん、行ってまいります」
リオンの澄んだ瞳が俺を見上げる。
「気をつけるんだぞ……」
暖かい小さな体をぎゅっと1回抱きしめて、身を離した。
リオンは名残惜しそうに何度も何度も振り返りながら闇に消えていった。
弟に俺が今してやれることは、ただ無事を神に祈る事だけだった。
というより、アリシアがアルフレッド王にばらしたらしい。
ブラディたちの腕は連日の闘技でかなり上がっていたが、ウルフだけは秘密裏に特訓しても全く強くならなかった。
組織間対立が顕著となった今、ウルフをこのまま戦地にやるのはアリシアとしてはためらわれたようだ。
出会った当初に比べれば、彼女も随分優しくなったように思う。
昔ならウルフが死のうが、生きようが気にも留めていなかったろう。
ここ数年の、平和な歳月が彼女を変えていったのかもしれない。
でも俺は、ウルフのこの件をとても理不尽だと感じていた。
弱ければ大人でも兵役を免除されるというのか。
子供であるリオンは『最前線』で戦っているというのに。
リオンがウルフぐらい弱ければ、きっと戦場に行くこともなかっただろう。
ただの子供のままで居られただろう。
俺はそうであって欲しかったのに。
弱いということがバレたウルフは別に首になるでもなく、親衛隊付きの雑務官に任命された。
今は当たり前のように、俺たちと共に働いている。
普通なら降格されてもおかしくないのに、アリシアの口添えもあってか一介の城詰め兵士よりもむしろ良い待遇だ。
俺はそれを生暖かい目で見ていた。
アリシア自身は色々な技能や情報処理能力を買われ、親衛隊からは抜けて王付きの特別秘書となっている。
俺は腕を認められて親衛隊長に昇格し、主にブラディやアッサム、数人の新入りと共に王城周辺を守っている。
俺や大人たちがそうやって命の危険の少ない仕事をこなしている一方、リオンはその戦闘力ゆえに最も落としにくい敵地を任され続けた。
こんな理不尽なことがあるだろうか?
そんなこんなでモヤモヤしていた頃、俺は王から暗殺隊の後詰を命じられた。
普段は違う部隊が後詰に入るのだが、やっかいな相手の時だけはそういう命令が下る。
はぁ、またか。
俺の心臓は持つのだろうか……。
後方でリオンの心配をしながら待つ時間は本当に長く、生きた心地がしない。
せめて一緒に戦えれば良かったのだが、リオンも王も、それを絶対に認めなかった。
今、俺とリオンは任地に向かうため目立たない馬車に乗っている。
最近俺たちは生活時間帯がずれていて、ゆっくりと二人で過ごせることは稀だ。
だから王が二人きりで過ごせるよう、気を利かせてくれたのかもしれない。
他のメンバーたちは、少しずつ時間をずらしながら同じような方法で今日の目的地に向かっている。
リオンは『暗殺隊の隊長』を任される前、王の居室で他の隊員たちを半殺しにした事がある。
そのためか、他の隊員たちとはかなり微妙な間柄らしい。
だからあいつらとではなく、俺と共に馬車に乗って任地に行けるのは相当嬉しいらしく、ずっと俺のほうを見てニコニコとしている。
ああ、こんな些細な事ですらそんなに嬉しいのか……なんて不憫な。
俺が不甲斐ないばかりに、リオンにはつらい思いばかりさせてしまう。
でも、こんなのはいくら王の命令だとておかしい。
いっそ、このまま二人で逃げてしまおうか?
リオンなら……俺さえ一緒なら、きっとついてきてくれる。
俺はもう15歳を過ぎた。
この地に縛られずとも、どこでだって生きていける。
でもこのままこの地を捨てれば『ガルーダ領域』は、エルシオン王国のように他組織に蹂躙されるだろう。
故国の城の皆や家族の無残な最後が頭をかすめた。
その姿は、俺の脳内で王やアリシアたちの姿へと変化した。
ダメだ。
見捨てていくには俺たちはもう、この組織に深入りしすぎた。
もし離れるのなら、リオンが人を殺すその前に決断しなくてはならなかったのだ。
しかし他の暗殺隊員たちの心の狭さには恐れ入る。
リオンは皆を守るために今、頑張っているのに。
こんなちっちゃい、かわゆい子の過失の1つや2つ、快く許し……せめて快適な環境を提供してやればいいのに。
なんて冷たいんだ。
あんな奴らは一生モテないまま寂しく老後を迎え、孤独死してしまえ。
バーカ、バーカ!!
ムカムカしているうちに、いつの間にか目的地についた。
「兄さん、行ってまいります」
リオンの澄んだ瞳が俺を見上げる。
「気をつけるんだぞ……」
暖かい小さな体をぎゅっと1回抱きしめて、身を離した。
リオンは名残惜しそうに何度も何度も振り返りながら闇に消えていった。
弟に俺が今してやれることは、ただ無事を神に祈る事だけだった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる