滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
155 / 437
第20章 人の心

3.人の心

しおりを挟む
 それから更に半月がたった。
 リオンはまだ、戻ってこない。

 俺以外の者にとっては日々が平和に過ぎ、

『もうアレス帝国は侵攻を諦めたのでは?』

 と誰もが思い始めた頃、異変は起こった。

「大変です、エル様!! 湖に巨大な魔法陣が現れました!!」

 顔色を失って飛び込んできた見張りの兵士を落ち着かせ、よく話を聞いてみる。

 最初はヴァティールのいたずらかと思っていたが、そうではない。
 魔法陣から約400名のアレス帝国魔道士団が現れたのだ。

 アレス帝国は奪略国家だ。
 しかし300年前『エルシオン戦』で敗北して以来、他国と戦う時に『魔法』を使用したという話は、聞いたことがない。
 というか、今のアレス帝国に、そのようなものは存在しない。

 エルシオン王国に負け、アースラの持ちかけた『取引』を飲んで以来、あの国には一人の魔道士もいないはずなのだ。

 しかし……今やアレスこそが戦勝国。
 エルシオン王国に敗れたのは300年も前の話で、ここ数十年は他国を侵略することに勤しんでいた。

 他国には、力は弱いものの、まだまだ魔道士が居て……それらを抱え、研究することは可能だろう。

 それにアレス帝国は、かつて我が国と何度も戦った相手だ。
 大魔道士アースラとも凄まじい魔術戦を繰り広げてきたと伝承に残っている。

 我が国に、アースラの技を継承してきたリオンのような存在がいるように、あちらにもそういう存在が秘密裏に存在して、魔道士団を育成していてもおかしくはない。

 そういえば、正体不明の商人が非公式に魔剣や魔道具を買いあさっていたのは、噂で聞いていた。
 べらぼうな値段の魔剣等を苦もなく買い取れるなら……バックについていたのは『アレス帝国』だった可能性は高い。

 それにしても、まさかあんな大規模な魔道士団まで隠し持っていたとは……。

 まずい。

 ヴァティールだけならともかく、あちらにはタイミング悪くアルフレッド王がヴァティールと話すために訪れている。
 もちろん、ヴァティール付きの侍女であるアリシアと下働きのウルフも。

 手加減というものを知らないヴァティールが、魔道士団と交戦したらとんでもないことになるに違いない。
 俺は馬を駆って湖の別荘にかけつけた。


「よう、エル!! 血相変えてどうした?」

 別荘の入り口には、機嫌よさそうな顔のヴァティールが立っていた。
 その隣にはアルフレッド王が。そしてアリシアとウルフが。

 ぐるりと見わたすが、辺りに取り立て変異はない。

「……無事だったのか、良かった。
 さっき見張りの兵から『湖に巨大な魔法陣が現れた』と聞いたのだが……」

「ああ。現れたぞ?
 アレスの魔道士数百人が、そん中から現れやがった。
 おかげで魚釣りが台無しだ。
 ウザいんで、全員、石に変えて湖の底に沈めておいた。
 何だ、心配してくれたのか? それは嬉しい」

 ヴァティールは、機嫌よさそうに笑って応えた。

「いや、ヴァティール殿は本当にお強い。感心致しましたぞ」

 アルフレッド王が言う。

「本当に素敵ですわぁ。ヴァティール様。
 これほどのことが出来るのは、きっとこの世で貴方様だけです。
 お仕え出来て光栄ですわ!!」

 アリシアも昔と違って、本心からそう思っているようだ。

「ヴァティール様さえいらっしゃったら、わが国は安泰です!
 どうぞいつまでも、いつまでも……わが国にいらして下さい!!」

 いつもは控えめなウルフも、手放しでヴァティールを褒める。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

処理中です...