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外伝 ヴァティールの独り言

外伝 ヴァティールの独り言10

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 そうしてワタシは娘を失った。

 だからワタシは今でも……エリスには娘の過去の姿を投影し、アリシアには見ることの出来なかった娘の成長した姿を見てしまう。

 アースラに封じられてからもう300年。

 現在のクロス神官であるリオンが死んだことでいったんは魔縛が解け、よみがえることができた。
 だが、その頃には当然、娘はこの世の人ではない。

 あのアースラでさえ、記憶体のみを残し寿命を終えている。

 もうすっかり『昔』の事となってしまっていたのだ。

 それでも、娘が愛しいという気持ちはかわらない。
 失ってしまったことへの深い悲しみも。

 娘はあれから、どうなったのだろうか?
 アースラはワタシから娘を引き離すとき、『妻』にすると言ってた。
 ワタシはその先を知らない。

 あのロリコンめ。
 アッシャの前ではやけに優しいと思っていたら、元からそういう魂胆だったのだな。

 ワタシは術によってアッシャの前で『アースラの悪口』を言う事は禁じられていた。
 娘はアースラの正体を知らない。

 アースラは顔の良い男だった。
 屑のくせに、顔だけは本当に良かった。

 おそらく娘はアースラの、芝居がかった優しさと嘘の状況説明を信じ込み、たぶらかされてしまったのではないだろうか?

 ああ…………思い出しただけで怒りが……。
 体中の血が逆流する。

 ワタシはあの子をゴミの嫁にするために育てたわけじゃない。
 幸せな未来のためだ。

 せめてエルやアルフレッド王ぐらい善良な奴が相手なら、ワタシだって多分……多分だが、祝福してやった。

 でもアースラなんかに獲られて、抵抗も出来ないなんて。

 かなわないのを承知でワタシは暴れ続けた。
 アッシャを助けたい一心だった。

 人間の女ほどの力しかない、魔力を封じられたワタシが暴れたところでどうにもならないのは承知の上。

 アースラの呪縛を振り切るように体を動かすうちに、手も足も折れて砕けた。
 美しかった憑依体の顔も体もどんどん崩れ、激痛が襲う。
 それでもワタシは抵抗をやめなかった。

『親』であるワタシがアッシャを助けてやらねば。
 あの子を救えるのはワタシだけ。

 でも、ワタシの望みはとうとう叶わなかった。 

 暴れ続けるワタシは、駆けつけたアースラに封印され、以後記憶がない。
 最後に見たのは、アースラの恐ろしく冷たい瞳。

 満足そうに、酷薄に笑っていやがった。

 ワタシは、あいつだけは許さない。
 一生呪ってやる。

 
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