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アースラ編・花園の神(アースラ視点番外編)
アースラ編・花園の神(アースラ視点番外編) 6
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「アースラ様、ヴァーティは?」
目の前の、まだ幼さを残した美しい少女が私に問う。この娘は、赤子の頃よりヴァティールに与え、育てさせていた少女だ。
以前は様々な形に結いあげられていた金の髪は流したままで、それはヴァティールがいなくなったせいなのだろう。
奴は、この娘を目の中に入れても痛くないほど可愛がっていた。
少女の元々の実親は、潜在的魔力値が高かった我が妹とシヴァだ。
この二人から取り上げた。
クロス神官たちに施した不死の術は全て失敗した。
だから次は、魔力値の高い、この娘を使って実験する。
シヴァも承知の上だ。
大して素質も無い、魔力値の低い者大勢の犠牲より、成功率の高いわが子を差し出すほうを選んだのだ。
昔は馬鹿だったシヴァも、今では大人となり、私無しでは国の平和が成り立たないことを知っている。
800万の民を守る事と引き換えに、震える声で、双子の娘のうち一人を差し出すことを了承したのだ。
「アースラ様、ヴァーティが帰って来ないのです……お外の用事を済ませたら、すぐに帰って来るって言っていたのに。
私、どうしたら……」
在りし日の妹に生き写しの、この少女が涙を溜める。
ヴァティールがペットのように甘やかして育てた心弱い娘。
奪うのなんて簡単だ。
アッシャは私がヴァティールを憎んでいることは知らない。
術の強制力により、あの妖魔はこの少女に『私に関すること一切』を吹き込むことが出来ない。
「よくお聞き、アッシャ。
ヴァティールは外の世界でお仕事をしているのだよ。
少し長くかかるが、その間は私が様子を見に来るから心配することは無い」
私の言葉を聞いた少女は、ため息を一つついて呟いた。
「そう……オシゴトなのですね。今度はいつもより、もっともっと長いのですね」
ヴァティールが自分の愛だけを注いで育てたガラス細工のような少女。
素直で、愚かで、哀れな子供。
彼女は疑うことを知らない。
外に出られないこの娘が少しでも幸せであるよう、ヴァティールは優しさしか与えなかった。
まるで寿命の短い籠の鳥を慈しむように。
一年がたち、アッシャは甘い言葉を囁く私を一番に信じ、愛するようになった。
彼女の周りには人格を持たない使い魔が、ヴァティールの代わりの世話係としているだけだから、それも当然だろう。
非公式にではあったが、秘められた神殿の中では私は彼女を妻とした。
わが国では神官が妻を娶ることは禁じられている。でもそれは『家族を持つと人体実験に使う時邪魔』なため、私が制定しただけのものだった。
そんな理由だから私が妻を密かに持ったとしても結界には何の影響も出ない。
この国に、本当の神などいない。
あるのは置物としてしか価値を持たぬ『神』の偶像だけだ。
私には禁忌などない。
奪ってやる。ヴァティールから何もかも全て。
奇跡を起こす強大な力も、アッシャの愛すらも。
私が10歳だった頃、、多くの命が戦で奪われた。
幼かった私に出来たのは、この身を捧げて神に祈る事だけだった。
でも『神』は助けてはくれなかった。
ヴァティールも助けてはくれなかった。
あいつらはその『強さ』ゆえに奪われるつらさを知らないのだ。
ならばこの私が教えてやる。与えてやる。
どんなに願っても祈っても奪われていくそのつらさを。
最後の仕上げは奴が溺愛したアッシャの命。
私は別にこの少女を愛しているわけではない。
妹と同じ顔の娘を抱くつもりなど元からなかったし、ただ復讐の一手として妻としただけだ。
その方がヴァティールの絶望が深いから。
奴が大切にしていたから『婚姻』という形で奪いたかっただけだ。
アッシャを妖魔であるヴァティールに育てさせた理由は二つ。
この娘は元々、国の繁栄のための実験体として身を捧げる事が決まっていた。
しかしながら、シヴァの手元に置いたなら、いざ実験に必要となっても、情が移って捨てきることはきっと出来ない。
生まれたとき、すぐに引き離したのはこのためだ。
次にヴァティール。
子供に優しいあいつは術による強制など無くともアッシャを可愛がり、たった一つの拠りどころとすると予想がついた。
そのときに奪ってやろうと決めていた。
さぁ今、私の復讐が完了する。そして私が作り上げたエルシオン王国はこの世の楽園となるのだ。
目の前の、まだ幼さを残した美しい少女が私に問う。この娘は、赤子の頃よりヴァティールに与え、育てさせていた少女だ。
以前は様々な形に結いあげられていた金の髪は流したままで、それはヴァティールがいなくなったせいなのだろう。
奴は、この娘を目の中に入れても痛くないほど可愛がっていた。
少女の元々の実親は、潜在的魔力値が高かった我が妹とシヴァだ。
この二人から取り上げた。
クロス神官たちに施した不死の術は全て失敗した。
だから次は、魔力値の高い、この娘を使って実験する。
シヴァも承知の上だ。
大して素質も無い、魔力値の低い者大勢の犠牲より、成功率の高いわが子を差し出すほうを選んだのだ。
昔は馬鹿だったシヴァも、今では大人となり、私無しでは国の平和が成り立たないことを知っている。
800万の民を守る事と引き換えに、震える声で、双子の娘のうち一人を差し出すことを了承したのだ。
「アースラ様、ヴァーティが帰って来ないのです……お外の用事を済ませたら、すぐに帰って来るって言っていたのに。
私、どうしたら……」
在りし日の妹に生き写しの、この少女が涙を溜める。
ヴァティールがペットのように甘やかして育てた心弱い娘。
奪うのなんて簡単だ。
アッシャは私がヴァティールを憎んでいることは知らない。
術の強制力により、あの妖魔はこの少女に『私に関すること一切』を吹き込むことが出来ない。
「よくお聞き、アッシャ。
ヴァティールは外の世界でお仕事をしているのだよ。
少し長くかかるが、その間は私が様子を見に来るから心配することは無い」
私の言葉を聞いた少女は、ため息を一つついて呟いた。
「そう……オシゴトなのですね。今度はいつもより、もっともっと長いのですね」
ヴァティールが自分の愛だけを注いで育てたガラス細工のような少女。
素直で、愚かで、哀れな子供。
彼女は疑うことを知らない。
外に出られないこの娘が少しでも幸せであるよう、ヴァティールは優しさしか与えなかった。
まるで寿命の短い籠の鳥を慈しむように。
一年がたち、アッシャは甘い言葉を囁く私を一番に信じ、愛するようになった。
彼女の周りには人格を持たない使い魔が、ヴァティールの代わりの世話係としているだけだから、それも当然だろう。
非公式にではあったが、秘められた神殿の中では私は彼女を妻とした。
わが国では神官が妻を娶ることは禁じられている。でもそれは『家族を持つと人体実験に使う時邪魔』なため、私が制定しただけのものだった。
そんな理由だから私が妻を密かに持ったとしても結界には何の影響も出ない。
この国に、本当の神などいない。
あるのは置物としてしか価値を持たぬ『神』の偶像だけだ。
私には禁忌などない。
奪ってやる。ヴァティールから何もかも全て。
奇跡を起こす強大な力も、アッシャの愛すらも。
私が10歳だった頃、、多くの命が戦で奪われた。
幼かった私に出来たのは、この身を捧げて神に祈る事だけだった。
でも『神』は助けてはくれなかった。
ヴァティールも助けてはくれなかった。
あいつらはその『強さ』ゆえに奪われるつらさを知らないのだ。
ならばこの私が教えてやる。与えてやる。
どんなに願っても祈っても奪われていくそのつらさを。
最後の仕上げは奴が溺愛したアッシャの命。
私は別にこの少女を愛しているわけではない。
妹と同じ顔の娘を抱くつもりなど元からなかったし、ただ復讐の一手として妻としただけだ。
その方がヴァティールの絶望が深いから。
奴が大切にしていたから『婚姻』という形で奪いたかっただけだ。
アッシャを妖魔であるヴァティールに育てさせた理由は二つ。
この娘は元々、国の繁栄のための実験体として身を捧げる事が決まっていた。
しかしながら、シヴァの手元に置いたなら、いざ実験に必要となっても、情が移って捨てきることはきっと出来ない。
生まれたとき、すぐに引き離したのはこのためだ。
次にヴァティール。
子供に優しいあいつは術による強制など無くともアッシャを可愛がり、たった一つの拠りどころとすると予想がついた。
そのときに奪ってやろうと決めていた。
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